理子「このままじゃあ、終われないッ!」
というわけで、どうも。ふぁもにかです。前回はどうにか機内戦闘回もとい『りこりんちゃんと戦えたね! 良かったね!』回もとい地の文過多回が無事に終了したので、今回はその反動ゆえに会話文多めです。でもって、もうしばらくは笑い要素の存在しないシリアス展開が続きます。さらに、今回の話は文字数の関係上非常にキリの悪い所で一話が終了しています。もしかしたら次話の更新を待ってから後で一気読みした方がいいかもしれません。
閑話休題。皆さんは今私が執筆している原作1巻クライマックス(あと8話くらいは続く気がする)を連載し終えたらさっさと原作2巻の話に飛んでいってほしいですか? それとも何話か外伝話を挟んでほしいですか? 実を言うと、今の時点で外伝の話が枠組みだけなら5話ほど溜まっているんですけど……これ、どうしたものでしょうね?
「峰理子リュパン四世」
「貴女を殺人未遂容疑の現行犯で逮捕します。大人しく捕まって裁きを受けなさい」
ANA600便。二階のとある客室にて。キンジは小太刀を、アリアはガバメントをそれぞれ理子の体に突きつける。二人に武器を向けられたキャビンアテンダント姿の理子は「はぅ!?」という裏返った声とともにビクッと体を震わせると、すぐさま両手を頭上に上げて降参の意を示した。もはや条件反射の領域である。大方、自身の金髪を自在に動かす力が未だ健在とはいえ、手持ちの武器を全て失い尻餅をついた今の万事休すな状態ではどう足掻いた所で勝算がないと判断したのだろう。
「アリア。首の怪我、大丈夫か?」
「平気です。この程度、何ともありません。かすり傷です」
「どこがかすり傷だよ。思いっきり血ぃ出てるじゃねえか」
「こんなの見た目だけですよ。実際はそこらの軽い切り傷と大差ありません。本当に何ともありませんから、あまり気にしないでください」
理子の動きを封じたことでようやくアリアの方に意識を向けることのできたキンジが隣のアリアに心配そうに目を向けて尋ねると、アリアは平然と答える。どこからか取り出したタオルをもう片方の手で持ち、斬られた首筋を強く押さえつけて傷口を圧迫しながら、普段と何ら変わらない声色で言葉を返す。タオルに描かれていた、いかにも女の子受けしそうな可愛らしいキャラクターたるレオぽん(白)が徐々に血色に染まっていく姿は何ともいたたまれない。心なしか、レオぽんのチャームポイントの一つ:キリッとした漆黒の双眸がわずかに垂れ下がっているような気がする。
まぁ、それはともかく。先ほど理子に首を斬られたというのに、あくまでアリアは通常運行だ。少し肩を上下させて荒い呼吸を繰り返してはいるが、特に顔色が悪かったり焦点が定まってなかったりといった症状は見られない。おそらくアリアの息切れはあくまで先までの激しい戦闘によるものだろう。どうやらアリアが言っている通り、一口に首を斬られたといっても血に塗れた見た目よりかは酷い怪我ではないようだ。少なくとも一刻も早く病院に駆け込まないとアリアの命が危ういレベルの怪我じゃないことにキンジはホッと安堵した。
「ね、ねねねえ。オ、オリュメスさん。ボクと取引しようよ?」
「「……取引(ですか)?」」
「う、うん。オリュメスさん。ボクと一緒にイ・ウーに来ない? 歓迎するよ?」
「は?」
「え?」
アリアが対
「……正直言って、貴女が何を言っているのか理解に苦しみますね、峰さん。私のお母さんは峰さんを始めとしたイ・ウーのメンバーに重い罪を着せられました。よって、私のイ・ウーへの憎しみは雲仙普賢岳よりも高く地中海よりも深いと自覚しています。その私がそのようなふざけた取引に応じるとでも思っているのですか? イ・ウーへの招待を受けるとでも思っているのですか? 自分が逃げおおせるためだけの苦し紛れの提案は醜いだけですよ。寝言は寝てから言ってください。今言っても洒落になりませんよ」
「そ、それはどうかな、オリュメスさん。オリュメスさんがイ・ウーに入って実力を示せばオリュメスさんはイ・ウーの皆と仲良くなれる。友達になれる。上手くいけば、オリュメスさんと親密になった人がオリュメスさんの事情に同情してオリュメスさんのママの無実を証言してくれるかもしれないよ? イ・ウーの人たちって全員とは言わないけど結構いい人もいるしね」
「「ッ!?」」
アリアは呆れたような視線を惜しみなく理子に注ぎつつ、掃いて捨てるように理子の勧誘を一蹴した。だが。理子はそこで引かなかった。理子にしては珍しい、不敵な笑みとともに続けて放たれた言葉によってアリアの真紅の瞳はこれでもかと大きく見開かれた。この時。場の流れが大きく変わったのをキンジは肌で感じた。
「それに。そんな人の良心を利用するような方法じゃなくてもオリュメスさんの実力ならオリュメスさんのママに濡れ衣着せた犯罪者、もれなく全員一網打尽にできるかもしれないよ?」
「……ッ」
「今ここでボクを捕まえて100年程度オリュメスさんのママの刑期を縮めるか。ボクの招待でイ・ウーに入って、オリュメスさんのママに罪を着せた人全員を捕まえてオリュメスさんのママの冤罪を完全に晴らすか。確かもう時間がないんだよね? だったらどっちを選んだ方がいいか、稀代の名探偵の血を継ぐオリュメスさんならわかるんじゃないかな? まだイ・ウーの本拠地もわかってないみたいだし」
「……」
理子はキンジの向ける小太刀をスッとさりげなく横にずらしておもむろに立ち上がると、いつになく饒舌に言葉を重ねる。ここぞとばかりにアリアの意思をぐらつかせる言葉を被せてくる。どうやらアリアに揺さぶりを掛けることで自身の方に傾いてくれた流れを手元に引き寄せようと必死のようだ。
理子が言葉を畳みかけるにつれて、今まで言葉を詰まらせていたアリアはおもむろにガバメントを下ろす。マズい。今のアリアは理子の誘惑に乗せられている。心が完全に揺さぶられている。アリアの気持ちが理子の提案を受け入れる方向に傾いている。理子との取引に応じる方向に向かっている。このままだとアリアが理子側についてしまう。そうなれば俺は状況次第で理子とアリアの二人を相手取らないといけなくなるだろう。アリアはまがりなきにもSランク武偵の実力者だ。アリアが敵に回ったら、いくら首を斬られているといっても、厄介極まりないことに変わりはない。
――キンジと言ったか? 私の愛娘は難儀な性格をしていてな。色々と誤解することもあるだろうが、まぁなんだ。テキトーに付き合ってやってくれ。
と、その時。キンジの脳裏に神崎かなえの残したメッセージがよぎった。もう二度と自身が外の世界に解放されなくなるかもしれないという絶望的な状況下において、純粋にアリアの明るい未来を望む一人の母親の言葉が蘇った。
ダメだ。アリアをイ・ウーに行かせるわけにはいかない。かなえさんに頼まれたんだ。いや、かなえさんに頼まれるまでもない。アリアは俺のパートナーだ。将来的に世界最強の武偵のパートナーになる奴だ。そのアリアに、俺の大切なパートナーに、俺の目の前でむざむざ犯罪者の道を歩ませてたまるものか!
「わ、わたし、は――」
「アリアッ!」
アリアが声を上げる。詰まったような声を上げる。普段のはっきりとしたですます口調からは程遠い、いつになく弱々しい声を上げる。心なしか声色が震えているような気がする。そして。アリアはおもむろに目を閉じる。キンジはアリアの言葉を遮ろうと制止の声を上げるも当のアリアには全く届いていないようだ。いや、目を瞑ることでキンジの声を始めとするあらゆるものを拒絶しようとしているようにキンジには見えた。
声が届かないのならすぐさまアリアの両肩を掴んで前後にガンガン揺らしでもしてアリアの意識を自身に向けたい所だ。しかし。アリアが理子にガバメントを向けて牽制していない今、キンジまでもが理子に突きつけている小太刀を手放すワケにはいかなかった。理子の動きを封じるために、キンジが理子に意識を裂かないワケにはいかなかった。理子を牽制したままでうかつに動けないキンジの隣で、アリアは一度口を閉じて深く呼吸をした後、理子の提案に返答するために言葉を紡いだ。
「――峰さん。貴女の取引には応じません」
「え?」
「……へ?」
アリアは真紅の瞳をしっかりと開けると、確かな声音で、簡潔な言葉で、イ・ウーに入らないことを宣言した。てっきりアリアが武偵の身分を投げ捨てて
「確かに。私がイ・ウーに行けば峰さんの言う通り、お母さんに濡れ衣を着せて今ものうのうと生きている犯罪者共を一網打尽にできるかもしれません。そうすれば手遅れになる前にお母さんの無罪を証明できるかもしれません。でも。お母さんは私にこう言いました」
――アリア。私のことは気にしなくていい。例えアリアの証拠集めが間に合わなかったとしても自分を責める必要はない。私がアリアを恨んでるんじゃないかとか考える必要もない。
――そうだな。もしも判決が下って、もう二度と会えなくなったとしたら……そん時は来世でまた会えばいいだけの話だ。何も問題ない。
――アリア。私のこともいいが、あまり自分の幸せを疎かにするなよ。高校生なんてあっという間に終わっちまうんだ。今のうちに思い出をたくさん作っておけ。その一つ一つが後のアリアの力になってくれる。大切なことは一見無駄に思えるようなことの中にあるって相場が決まってんだからさ、な?
「確かに峰さんの提案は私にとって魅力的です。少なくともこの状況下で取引と称するに足るだけの価値はあります。でも。イ・ウーに入るということは私が他でもない自分の意思で犯罪を犯すということを意味します。……本音を言ってしまえば、私は一秒でも早くお母さんを助けたいです。どんな手を使ってでもお母さんの無実を証明したいです。ですが、同時に私はお母さんを悲しませるような真似はしたくありません。罪悪感を抱えたまま、後ろめたい気持ちを抱えたまま、お母さんと会いたくはありません。抱きつきたくはありません。例えどれだけ時間がかかったとしても、公判までに間に合わなかったとしても、私は武偵らしく一人ずつ確実にイ・ウーの連中を捕まえることにします。焦らず堅実に前に進むことにします。早く走る人は概して転ぶものですからね。それに。何より、今の私には頼れるパートナーもいますしね」
「あ、あぁ」
アリアから満面の笑みを向けられたキンジはふと抱いたこそばゆい思いから逃れるようにアリアから視線をそらす。小学生と遜色ない童顔でありながらどこか妖艶に笑みを浮かべるアリアを直視できずに曖昧な返事とともに視線を虚空に向ける。
おかしいな。俺は年上の純情系のお姉さんタイプが好みのはず。少なくともアリアはそのカテゴリーには入らない。だというのに、どうして俺はアリアから顔を逸らしてるんだ? これじゃあまるで俺がアリアをそういう対象として意識している真正のロリコンみたいじゃないか。いくら中身が高2だからといっても見た目は小学生そのものなアリアを好きになってしまうなんてことになればさすがに言い訳できないぞ。
「それが、オリュメスさんの答えなの?」
「はい。というわけですので……取引は不成立です。大人しく捕まりなさい、峰さん」
先までキンジに花が咲いたような華やかな笑顔を浮かべてキンジを見上げていたアリアはおずおずと言った風にアリアに尋ねてくる理子に淡々と言葉を綴る。そして。真紅の瞳をキッときつくして理子を見やるのであった。
キンジ→原作ほどじゃないけどアリアを意識し始めた熱血キャラ。
アリア→母親の言葉をしっかりと心に留めている子。
理子→アリアを揺さぶって自分の味方につけようと必死な子。
というわけで、今回かなえさんの名言がようやく活用されました。これからも何度か活用すると思います。そのための名言製造キャラ:かなえさんですし。それにしても最近、上記の原作キャラの改変箇所を記すコーナーに書きこむ内容が乏しくなってきましたね。いっそのこと、これからは不定期開催にでもしましょうかねぇ。
~おまけ(その1 NGシーン)~
理子「今ここでボクを捕まえて100年程度オリュメスさんのママの刑期を縮めるか。ボクの招待でイ・ウーに入って、オリュメスさんのママに罪を着せた人全員を捕まえてオリュメスさんのママの冤罪を完全に晴らすか。どっちを選んだ方がいいか、名探偵の血を継ぐオリュメスさんならわかるんじゃないかな?」
アリア「わ、わたし、は――」
キンジ「アリアッ!」
アリア「――峰さん。貴女の取引には応じま――」
理子「あ、言い忘れてたけど、今イ・ウーに入ったら先着100名様にもれなく松本屋のももまん一年分のチケットをプレゼントするって教授(プロフェシオン)さんがキャンペーンを打ち出し――」
アリア「――取引成立です。これからよろしくお願いします、理子(キリッ)」
理子「うん! よろしくね、オリュメスさん!(ニッコリ)」
キンジ「おいッ!?(心変わり早ッ!?)」
アリア「峰さん。これから私たちは同じ組織の一員となるのですからオルメスなんて他人行儀な呼び方は止めて、これからはアリアと呼んでくれませんか?」
理子「ふぇ!? で、でででも、いいの?」
アリア「はい。私も今からは理子と呼ばせてもらいますので」
理子「う、うん。わかった。えと……ア、アリアさん」
アリア「別にさん付けじゃなくてもいいんですけどね。まぁ今はそれでいいでしょう。では早速理想郷(イ・ウー)への案内をよろしくお願いします、理子」
理子「うん! ボクに任せて!(←胸に手をあてつつ)」
キンジ「(しかも凄く仲良くなってるッ!?)」
~おまけ(その2 NGシーン)~
アリア「確かに。私がイ・ウーに行けば峰さんの言う通り、お母さんに濡れ衣を着せて今ものうのうと生きている犯罪者共を一網打尽にできるかもしれません。でも。お母さんは私にこう言いました」
かなえ『アリア。金魚すくいってのはなぁ、店選びが物を言うんだ。ここを怠るかどうかで勝敗が決まる(←ニィッとアリアに笑いかけつつ)』
かなえ『参ったな。私の知り合いがもれなく全員きのこ派の連中に侵食されてしまった。どうにかしてたけのこ派の戦力を結集して対抗しないと――(ブツブツ)』
かなえ『アリア。私のようなTSUT●YAのDVDを期限までに返し忘れて延滞料金を支払うような女にはなるなよ(←ポンとアリアの頭に手を置きつつ)』
キンジ&アリア&理子「……(気まずい沈黙)」
アリア「た、確かに峰さんの提案は私にとって魅力的です。少なくともこの状況下で取引と称するに足るだけの価値は――」
理子「(あ、話進めようとしてる)」
キンジ「(アリアの奴、かなえさんの名言が全然思いつかなかったの、なかったことにする気だな)」