【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。ふと思い至ったのですが、この番外編って何気に群像劇ですよね? 様々なキャラクターが各々の目的を抱えて勝手に暴れ回り、神の視点(読者の視点)でしか物語の全体像を掴めないといった感じになってますしね? お、おおおおおおおおおお! 群像劇! 群像劇か! いやぁ、群像劇って何気に憧れだったんですよねぇ(*^▽^*)



EX9.ワクワクドキドキ☆寮取り合戦(9)

 

 ――13:55

 

 

 時は少々さかのぼる。

 

 

「ふふふッ、ふふふん♪」

 

 平賀文は超絶ご機嫌だった。自分が秘密基地から解き放った鳥人型ロボットがきちんと目に映る武偵たちをなぎ倒し、潜伏中の武偵をセンサーで目ざとく見つけ出して気絶させ、着実に撃破ポイントを稼いでいることが、自らの携帯に届く撃破通達から存分に確認できるからだ。クオリティの高い寮を確保し、秘密基地2号を作る。その平賀的に壮大な計画が順風満帆なことが、平賀にはただただ嬉しくて仕方なかった。

 

 

「……ま、私の動きを察知した武藤くんが皇帝ペンギン型ロボットで対抗しているみたいだけど、数の利は私の方にあるからそこまで問題じゃない。それに、こういうこともあろうかと、私には秘密兵器があるからね、なのだ」

 

 そんな平賀はレキとビスマルクの2名を眠り状態にするという方法で撃破した地点である、プレハブ小屋でカモフラージュした秘密基地1号の眼前へと舞い戻っていた。そして、平賀がポケットから取り出したテレビのリモコンのようなものをポチポチといくつか操作すると、プレハブ小屋の正面のコンクリート床に縦に一本線が引かれ、ゴゴゴゴゴッという重厚な音とともに床が真っ二つに開かれた。

 

 パックリと開け放たれた床から這い出るようにして顔を覗かせてきたのは、真っ白な球体の装甲に『( ^o^)』という、いかにも男同士の同性愛に飢えていそうな顔をした巨大ロボ。平賀はその巨大ロボの口に潜り込む形で巨大ロボの操縦席に座ると、赤色の大きく目立った丸いスイッチを勢いよくボチッと押す。すると、ビョイーンという珍妙な効果音を引き連れる形で、巨大ロボが上空へと跳び上がった。

 

 

「ふふふ、行くぜ! 生き残りの武偵も、武藤くんの小さいロボット軍団も、全部一掃してやる! パワーこそ最強なのだ!」

 

 迫る地面を前に、平賀は巨大ロボを操作して、球体の装甲から蜘蛛の足のような、細く、しかし頑丈さに定評のある4本脚を射出し、コンクリート壁を足先で軽く突き刺しつつ、地上に巨大ロボを着地させる。かくして、平賀は己が登場している、全長30メートル強の『┌(┌ ^o^)┐ホモォ』型の巨大ロボットで人口浮島を暴れ回ろうとするのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――13:58

 

 

「来たか、最悪の事態」

 

 若白髪の目立つ黒い短髪が特徴的な武偵こと市橋晃平は、車輌科のドッジに武藤が事前に設置してくれていた監視モニターの画面越しに、細く鋭い四本足に白い饅頭のような中心部が酷く目立つ全長30メートルほどの巨大ロボットが地上に現れるという迫力満点なシーンを前に、「ほぅ」と息を吐きながら一人呟く。

 

 

「シミュレーターのスコアアタックでは結局カンストを逃してしまったが、操作方法は割と熟知した。それじゃあ、平賀製のアレの暴走を食い止めて、武藤の期待に応えるとしよう」

 

 市橋はちゃっちゃと車輌科のドッグにこれまた武藤が設置していた皇帝ペンギン型の巨大ロボットの足の部分のハッチを開いて中へと乗り込む。そして、操縦席までたどり着いた市橋はドッグの入り口がガガガガッと自動的に開かれたのを機に、ドッグから飛び出した。

 

 全長30メートル強の皇帝ペンギン型の巨大ロボットに搭乗した市橋が見たものは、四本足を動かし敢えてドシンドシンと地面を揺らす足音を鳴らすことで潜伏中の武偵を炙り出そうとしている『┌(┌ ^o^)┐ホモォ』型の巨大ロボットの姿。

 

 

「さて、まずはテキトーに威嚇して奴にわしのことを気づかせないとな。えーと、十字キーでアピールっと」

『ペェェエエエエエエエエエエエエエエングィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!』

「ちょっ、アピールの音量デカすぎやしないか!?」

 

 市橋がアピールのコマンドを入力すると、皇帝ペンギン型の巨大ロボットがその巨大なくちばしをガバッと開き、まるでカラオケボックスでシャウト系の歌を歌うかのような叫び声を轟かせる。

 

 そのあまりのうるささに空気がビビビッと振動する中。思わず市橋が両耳を両手で塞いでいると、市橋の存在に気づいた『┌(┌ ^o^)┐ホモォ』型の巨大ロボットがグルンと体を回転させて顔を市橋の方へ向けると、『ホモォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』と、とんでもない声量の咆哮を返してきた。

 

 

「上等、やってやるか。……有り余る才能を持て余し、暴走している後輩に、わしが少し灸を据えてやる」

 

 ロボット的な合理的判断に基づいたものとは思えない、特に意味のない咆哮返し。それをわざわざ行ってきたという事実から、市橋は『┌(┌ ^o^)┐ホモォ』型の巨大ロボットを平賀が直接操作しているとの確信を抱く。この時、市橋の心中のやる気スイッチがONに切り替わる感覚を当の本人は知覚しつつ、市橋はニィと挑戦的な笑みを浮かべた。

 

 かくして。『┌(┌ ^o^)┐ホモォ』型の巨大ロボットと皇帝ペンギン型の巨大ロボットとの前代未聞なギガントロボット大戦が勃発したのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――14:05

 

 

 所変わって、地下倉庫(ジャンクション)にて。ジャンヌが武偵攫いとして白雪に目をつけた件にて、白雪の放った『緋緋星伽神(ひひのほととぎがみ)』により地下7階から地下3階までがもれなく破壊された地下倉庫跡地には、今現在、地上の人口浮島の様子を映し出す無数と言っていいほどのモニターが縦に積まれ横に並べられたモニター室と、仮設治療施設が設けられていた。

 

 仮設治療施設には生徒会メンバーや教務科の人々が撃破されてしまった武偵たちを運び込んでおり、それらの大勢の武偵たちの簡易治療は救護科の女性教諭たる矢常呂イリンが一手に担っている。気絶者は際限なく回収されてくるのにも関わらず、誰の力も借りず一人でたくさんの武偵の応急処置をドンドン終えていく辺り、矢常呂イリンの傑物っぷりがうかがえるというものだ。

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 一方。モニター室にて、撃破者回収のために外に出払っている生徒会メンバー以外の残り全員がモニター画面を見つめていた。生徒会メンバーはそろって閉口していた。無理もない、闇組織の暴走に始まり、全長3メートル程度のロボットの大群が跋扈し、ついには全長30メートル超えの巨大ロボットが2体もほぼ同時に爆誕してきたのだ。モニターを挟んでもなお、まるで収集のつきそうにない地上の混沌とした戦況っぷりに言葉をなくすのは至極自然な反応だろう。

 

 

「……これは酷いですね。地獄絵図ってこういう光景のことを言うのでしょうね」

「わ、私さ、寮取り合戦に生徒会メンバーが参加できないのがまるで仲間外れにされているみたいで正直嫌だったんだけど……これを見るとさ、うん」

 

 モニターに映る色んな意味で凄惨な光景に、生徒会メンバー(※何気に全員女子で構成されている)はそれぞれ率直な感想を口にする。「わ、私、寮取り合戦に不参加でいられて本当に良かったですぅ!」という1年の女子武偵のガクブルしながらの発言に残りの生徒会メンバーが同調するようにそろって首を縦に振る辺り、それが総意なのだろう。

 

 

「……どうしますか、生徒会長? これはもう『ワクワクドキドキ☆寮取り合戦』を中止した方がいいのではないでしょうか? このままでは死者が出るのも時間の問題かと思いますが――」

「いや、最後まで見届けよう。東京武偵高の生徒は皆、根っからの悪人じゃないからね。きっと、悪い結末にはならないよ」

 

 東京武偵高の生徒の身を案じた上での副生徒会長からの提案に、ただいま副生徒会長の膝の上をMyポジションとしてちょこんと占拠している白雪は首をフルフルと軽く左右に振りつつ却下する。どうやら白雪は何も杞憂していないようだ。

 

 

「でも、念のために保険は打っておこうか。万が一にも犠牲者が出ちゃったら、今頑張って武偵の印象を上げてくれてるアーちゃんに申し訳ないもんね。てことで……いるよね、こばちゃん」

「あぁ、もちろんSA☆」

「「「「ッ!?」」」」

 

 白雪は自らの背後に向けて言葉を投げかけと、背後から中性的な男の声が帰ってくる。そのことに白雪以外の生徒会メンバーに動揺が走った。当然だ、何せ生徒会メンバーしかいないはずのモニター室にいつの間にやら侵入者の存在を許していたのだから。

 

 

「さすがはユッキー。僕の超能力『見えざる変態』をナチュラルに見破ってくるなんて……全く、これだからユッキーは最高だぜぇー♪」

「えへへぇー、どういたしましてだぜぇー♪」

「だ、誰だッ!?」

「んー? こばちゃんはこばちゃんだよ?」

「うん、俺は小早川透過だ。ユッキーとは同じ専攻のよしみって所かな、よろしく」

 

 副生徒会長が膝の上の白雪の両脇にスッと手を差し込み丁重に膝の上から床へと下ろした後に、他の生徒会メンバーを代表して侵入者の正体を問い質すと、小早川透過と名乗った男は縁アリ眼鏡をクイッと中指で位置を調整しながら短めに自己紹介をする。デザートイーグルと黒刀二本を腰に差し、首からはカメラをぶら下げた小早川の姿は、ただ者ではないような雰囲気を纏っているように白雪以外の生徒会メンバーの目には映った。

 

 

「お前、何が目的だ?」

「え、ユッキーに会うことだけど? ちょうど会いたい気分だったし」

「な、どうしてここがわかった!? 生徒会長がここにいるという情報は生徒会と教務科以外は知り得ない情報なはずなのに――」

「――いやいや、普通に特定できるでしょ? 少し頭の回る武偵なら、ここ地下倉庫跡地が意外と死角になっていて、絶好の隠れ場所だってことはすぐ頭に思い浮かぶと思うよ。ここに実際にユッキーがいるかどうかはさて置き、ね」

 

 小早川への警戒心ゆえに小早川に突っかかる副生徒会長に小早川は「やれやれ」と言わんばかりの表情を浮かべつつ、軽く副生徒会長に言葉を返す。そして、副生徒会長がさらなる追求をするより前に小早川は「ところでユッキー、用事は何かな?」と話題を振った。

 

 

「もちろん、今の状況はわかってるよね? ということで、こばちゃんにはもし今の事態が収拾つかなかった際の対処をお願いしたいな」

「……俺はこういう面倒事の中の面倒事には積極的に関わらないスタイルなんだけどな」

「まぁまぁそう言わずに。お願い☆」

「やれやれ、まぁいいさ。俺の『見えざる変態』の名に賭けて、頑張らせてもらうか」

「やった、よろしくねー」

 

 存分にだらけつつもそれでも女の子らしい口調で小早川に頼み込む白雪を前に、小早川は簡単に頼みを引き受ける。実は『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員ナンバー009だったりする小早川が、ユッキー様直々のお願いを無下にできるはずがないのである。

 

 そうして。「ふッ、これもまた男の性か……」などと独り言を口にしながらモニター室を後にしようとする小早川。しかし、ここで何かを思いついたらしい小早川がグルンと首だけを後ろに回しつつ「あ、そうそう。副生徒会長さん」と呼びかけた。

 

 

「とりあえず、今からは地下倉庫の警備を厳重にしておくことをオススメするよ」

「どういうことだ?」

「ここモニター室も絶対的な安全地帯じゃないってこと。ついさっき、ユッキー狙いの闇組織の過激派がこの場所を特定して襲撃をかけようとしていたみたいだぜ。俺がここへたどり着く道中、偶然目撃したからちゃっちゃと撃退しといたけど……ユッキー襲撃隊の第二波が編成されないとは限らないからさぁ」

 

 小早川は己の懸念を語り、地下倉庫に白雪への害意を多分に胸の内に秘めた侵入者がやってこれないような措置の行使を副生徒会長に依頼する。そして、小早川は携帯に自身の撃破記録を表示し「はい」と生徒会メンバーに見せた。

 

 

【超能力捜査研究科Dランク:小早川透過(2年)が超能力捜査研究科Bランク:育育(いくすけ)(そだち)(3年)を撃破しました。小早川透過に22ポイント付加されます】

【超能力捜査研究科Dランク:小早川透過(2年)が強襲科Bランク:初初(ういはつ)(はじめ)(1年)を撃破しました。小早川透過に25ポイント付加されます】

【超能力捜査研究科Dランク:小早川透過(2年)が装備科Cランク:的的(てきまと)(あきら)(3年)を撃破しました。小早川透過に13ポイント付加されます】

【超能力捜査研究科Dランク:小早川透過(2年)が車輌科Cランク:晶晶(せいしょう)晶晶(まさよし)(1年)を撃破しました。小早川透過に10ポイント付加されます】

【超能力捜査研究科Dランク:小早川透過(2年)が諜報科Cランク:草草(かやくさ)草草(そうしげ)(3年)を撃破しました。小早川透過に16ポイント付加されます】

【超能力捜査研究科Dランク:小早川透過(2年)が特殊捜査研究科Bランク:理理(よしり)(ことわり)(2年)を撃破しました。小早川透過に19ポイント付加されます】

 

 

「こ、こんなにいたのか!?」

「おー、いっぱいいるねぇ」

「言ったよね? 少し頭の回る武偵ならここのことが思い浮かぶって。そーゆーことだからユッキーのこと、よろしく」

 

 副生徒会長を始めとした生徒会メンバーが白雪の居場所を特定した過激派一派の意外な数の多さに目を見開く中。小早川は白雪の身の安全を生徒会メンバーに託し、あっさりとモニター室を去っていくのだった。

 

 

「――んじゃ、また明日とか」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――14:20

 

 

 一方その頃。女子テニス部の後輩武偵たちを引き連れつつ快進撃を続けているジャンヌの進軍はまだまだ続いていた。ジャンヌは武偵がいそうな場所として体育館を襲撃し、体育館を潜伏場所としてこれまで上手いこと隠れていた、防弾制服をホスト風に改造していた謎の武偵たちを一人残らずきっちり撃破していた。

 

 

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が衛生科Dランク:KEN(1年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に14ポイント付加されます】

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が情報科Cランク:TAKA(2年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に8ポイント付加されます】

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が尋問科Eランク:HIRO(2年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に9ポイント付加されます】

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が探偵科Bランク:TSUBASA(2年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に16ポイント付加されます】

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が鑑識科Cランク:HIDE(3年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に11ポイント付加されます】

【情報科Aランク:ジャンヌ・ダルク30世(2年)が超能力捜査研究科Eランク:TOMO(1年)を撃破しました。ジャンヌ・ダルク30世に13ポイント付加されます】

 

 

「……ふぅ、こんなものか」

(それにしても、今の相手は総じて雑魚だったな。相手が女だとわかるやあざとい言動で口説き落とそうとするばかりで武器を向けてこなかったし、超能力を使うまでもなかった。……全く、連中は何もわかっていない。紳士であることは確かに大事だが、ここの女子生徒は女である前に武偵だ。その武偵をまるで非力であるように扱うことは侮辱にしかならんというのに……)

 

 エセホスト軍団を軽く撃破したジャンヌはデュランダルを鞘の中にカチャンと仕舞う。その流麗な所作に背後のジャンヌの取り巻き武偵たちが黄色い声を存分に上げる中。ジャンヌは内心にて、紳士としての心の在り方を間違えている節の見られるエセホスト軍団に対してため息を吐いた。

 

 と、この瞬間。体育館に異変が起きた。突如、体育館の入り口から勢いのつけられた荷押し車がジャンヌの元へと迫ってきたのだ。その荷押し車をジャンヌ様が手を下すまでもないと言わんばかりに取り巻きの後輩女子武偵の一人が拳銃で荷押し車の車輪をパンクさせて横転させると、荷台に載っていたらしい、人一人は入れそうなサイズの木箱が転がり出てきた。

 

 

(何だ、この木箱――)

「なぁッ!?」

 

 そう、ジャンヌが疑問に思った時。木箱が爆ぜた。文字通り木箱がドガァァァンと爆発し、木箱を中心に四方八方へと激しい火花を引き連れた幾重もの炎をまき散らし始めたのだ。それと同時に、木箱の中には数多くの発煙筒も仕掛けられていたらしく、噴出された白い煙があっという間にジャンヌたちを呑み込み、動きを制限していった。だが、この時。ジャンヌのオッドアイな両眼は捉えた。木箱の中で激しい炎を打ち出す、その正体を。

 

 

(あれは確か、市販のロケット花火じゃないか!? どうしてこんなタイミングでそんな場違いなものが出てくるんだ!?)

 

 発煙筒はまだしも、まず実戦向きじゃない市販の花火を大量に使用してくる形で今回の襲撃に使われたという事実にジャンヌは軽い混乱に陥ってしまう。だが、その一瞬が致命的だった。襲撃者はそのジャンヌの隙を逃すことなく、的確に攻撃を開始した。

 

 

「キャアアアアアア!?」

「ジャンヌ様、助け――!?」

「ふみゅ!?」

「ふにゃん!?」

「にゃーん!?」

「プリン!?」

「モンブラン!?」

「スイーツァ!?」

 

 発煙筒の白い煙で十二分に制限されてしまった視界の中。後輩女子武偵たちの悲鳴が次々とジャンヌの元まで届いてくる。その断末魔に近い悲鳴にハッと我に返ったジャンヌは「幻焔昇臥(げんえんしょうが)!」と、ジャンヌを起点に円状に炎を放ち、発煙筒の煙をあらかた撒き払った。

 

 ジャンヌが視界をクリアにした時。広がっていたのは、死屍累々な後輩女子武偵たち。そして。未だ煙の晴れきっていない一地点の中に佇む人影だった。

 

 

「……そこにいるな。貴様は誰だ?」

 

 ジャンヌは声に怒気を孕ませながら問いかける。無理もない。今しがた眼前の存在により撃破されてしまったのは、ジャンヌに心から好意を寄せていた後輩たち。甘えた鳴き声を出しながら露骨にすり寄ってくる子猫が可愛く思えて仕方ないように、ジャンヌもまたそんな後輩たちに確かな愛着を持っていたのだから。

 

 段々と謎の人物を覆い隠す煙のヴェールが薄くなっていく中。ジャンヌがイ・ウーの構成員らしい睨みを利かせる中。煙の中から徐々に姿を現したのは、銀色の耐熱服に全身をスッポリ包み込んだ人物であった。耐熱服のことを知らなければ宇宙人だと勘違いしかねない服装をした武偵は『よぉジャンヌ。随分と派手なことやるじゃねぇか』と、耐熱服のせいでぐぐもった声を漏らした。

 

 

「待て!? 本当に誰だ、貴様は!?」

 

 目の前の耐熱服の男は自分のことを知っているような雰囲気を醸し出している。だが、当の自分は目の前の人物に全然心当たりがない。そのことにジャンヌが焦りを伴った問いを飛ばすと、耐熱服の男は『ま、これじゃさすがにわからねぇか』と頭を掻くジェスチャーをすると、パパッと耐熱服を脱ぐ。この時。ジャンヌは驚愕した。己の目を疑った。なぜなら。耐熱服の男の正体が、このタイミングでは絶対に出会いたくなかった人物だったのだから。

 

 

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が特殊捜査研究科Cランク:水水(みずたいら)(みな)(1年)を撃破しました。不知火亮に15ポイント付加されます】

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が車輌科Aランク:門問(もんもん)聞悶(もんもん)(1年)を撃破しました。不知火亮に16ポイント付加されます】

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が諜報科Bランク:白白(はくしら)(つぐも)(1年)を撃破しました。不知火亮に20ポイント付加されます】

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が強襲科Eランク:(みなみ)美波(みなみ)(1年)を撃破しました。不知火亮に16ポイント付加されます】

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が特殊捜査研究科Dランク:金佳(かなか)菜加奈(なかな)(1年)を撃破しました。不知火亮に12ポイント付加されます】

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が救護科Cランク:結結(ゆかた)(ゆい)(1年)を撃破しました。不知火亮に7ポイント付加されます】

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が狙撃科Cランク:(さくら)咲良(さくら)(1年)を撃破しました。不知火亮に19ポイント付加されます】

【強襲科Aランク:不知火亮(2年)が特殊捜査研究科Aランク:子子(すさね)子子(みこ)(1年)を撃破しました。不知火亮に21ポイント付加されます】

 

 

「あ、あああああああ『制限なき破壊者(アンリミテッド・デストロイヤー)』!?」

「よ、ジャンヌ。撃破通達見たぜ。結構たくさん撃破ポイント稼いでるじゃねぇか。テメェ、結構強かったんだな。あの時ナンパ野郎を撃退できなかったって印象があったからそんなに強いとは思ってなかったぜ」

 

 耐熱服の男、もとい不知火亮は裏返った声で自身の二つ名を叫んでくるジャンヌのことを特に気に留めずに平然と話しかける。そして、「で、だ。ジャンヌ」とそのまま次の話を持ち込んでくる。どうやら不知火はここの所ジャンヌと会っていなかったがために話しておきたいことが少々たまっていたようだ。

 

 

「峰の奴から話を聞いたんだが、テメェ、『銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)』って呼ばれたいんだってか? 俺、今までテメェのことをジャンヌって普通に名前呼びしてたけど、俺も二つ名呼びに変えた方がいいか?」

「い、いや! 別に今のままでいいぞ!」

「え、けど『銀氷の魔女』が真名だって――」

「……あ、『制限なき破壊者』には、その、普通に名前で呼んでほしいんだ。それでは、ダメか?」

 

 不知火からの青天の霹靂チックな提案にジャンヌはブンブンと首を左右に振り、どうにか不知火が自分のことを真名で呼んでくるという事態を避けようとする。だが、それに素直に応じてくれない不知火を前にジャンヌは顔がカァァと熱く紅潮する感覚を感じつつも心奥の本音を曝け出し、不知火の真名呼び回避に全力で走る。一方、原作のキンジみたく朴念仁の気質を受け継いでいる節のある不知火は、そんなジャンヌのいかにも恋する乙女的な反応に気づかないまま、「まぁジャンヌがいいならそれでいいか」と妥協した。

 

 と、ここで。第三者から見たら思いっきりラブコメな空気を醸造していたジャンヌはハッと我に返る。この目の前の男が紛れもなく自分の愛しい後輩女子武偵たちを打ちのめした犯人であることを思い出したからだ。

 

 

「な、なぜだ? なぜ、こんなことをした! 『制限なき破壊者』!?」

「んぁ? 寮取り合戦なんだから、ポイント目的で敵対するのは当然だろ? そして、より確実に撃破ポイントを手に入れるために、一見したら非道とも思える手段を時には利用するのもまた当然だ」

「そうではない! ……調べたぞ。『制限なき破壊者』は確かに近隣の不良連中が名前を聞いただけで恐れおののく恐怖の権化のごとき存在だ。だが、『制限なき破壊者』には秩序があった! どこまでも正々堂々で決して卑怯な戦い方はしない! あくまで自分に歯向かってきた奴だけを全力でボコ殴りにするだけで、必要以上の暴力を振りかざさない! そんなダークヒーロー的な側面が、確固たる信条があったはずだ! なのに、今の貴様はこんな不意打ちで、弱い者を率先して撃破して回って、こんなの『制限なき破壊者』らしくないじゃないかッ!?」

 

 ジャンヌはビシッと不知火を指差し、思いの丈をぶちまける。ジャンヌ本人に自覚はないが、ジャンヌには不知火への一方的な恋心がある。そのため、ジャンヌは衝動のままに不知火の『制限なき破壊者』としての実績を調査したことがあり、その時、実は不知火の『制限なき破壊者』としての在り方に憧れていたのだ。

 

 それだけに、今のジャンヌの怒りは大きい。まるで人気キャラクターの着ぐるみの中から中年のおっさんが顔を出すシーンを目撃してしまった子供が抱くのと似た失望を、あたかも特撮ヒーローの主人公役を担っていた俳優が違法薬物に手を出して逮捕されたとのニュースを知ってしまった子供が抱くのと似たショックを憤りへと変換し、激情のままに不知火へとぶつけていく。対する不知火は、ため息をついた。ジャンヌの主張を遮ることなく、きちんと一言一句逃さずにジャンヌの発言を聞き終えた不知火は、深く深くため息を吐いた。

 

 その不知火の反応にジャンヌは「しまった!?」と言いたげに顔を青ざめる。当然だ、今のジャンヌは不知火から見れば過大な期待を勝手に抱き、勝手に失望し、勝手に怒っているだけのヒステリー女にしか見えないのだから。だが、ジャンヌの心配とは裏腹に不知火は「確かにそうだな、ジャンヌの言う通りだ」と苦笑しつつジャンヌに同意するのみだった。不知火はその程度でジャンヌと縁を切るほど小さい男ではないのである。

 

 

「ならば、なぜ……?」

「……悪いが、今回ばかりは己の心情を貫いてる場合じゃねぇからな。要は気にくわねぇーんだよ、今の状況がさぁ」

「何、だと?」

「武偵って奴は総じて何本かネジのぶっ飛んだ常識外れが多いのが普通だ。それ自体はそれでいいと思ってる。俺もその常識外れのキチガイの一人だからな。……だが、今回ばかりはやり過ぎだ。寮取り合戦に乗じて行われている闇組織の抗争は、寮取り合戦の趣旨と大きく乖離している。寮取り合戦は寮のメンバーだけの最大4人チームしか組めないのが前提のはずだ。それなのに、闇組織の構成員が勝手に結束して暴れ回ってるせいで、真面目にルールを守って寮取り合戦に参加している武偵が割を喰ってやがる。それが、気にくわねぇ。すっげぇイライラすんだよ」

「……」

「今の闇組織の連中は正直、武偵の面汚しだ。だから、俺が矯正する。ボコって、それで頭を冷やしてもらう。目には目を、理不尽な暴力には理不尽な暴力だ。ま、要するに。徒党を組むことしかできない連中にはここらで退場してもらおうってわけだ。てなわけで。――まずはテメェからだ、ジャンヌッ!」

「ッ!?」

 

 不知火は防弾制服の懐からスッと銃を出し、ジャンヌへと銃口を定めつつ、吠える。己の心中にて沸々と煮えたぎる現状への不快感を爆発的な激怒へと転換し、ジャンヌという一対象に漏れなく注ぎ込む。怒髪天を突く状態な今の不知火は、まさに『制限なき破壊者』の名に相応しい様相を呈していた。

 

 

(な、なぜだ!? なぜ、なぜ、よりによって『制限なき破壊者』と戦わなければならないのだぁぁあああああああああああああ!?)

 

 ジャンヌは苦悶する。このような事態を回避できなかったことを全力で後悔する。不知火との実力差を考えれば勝つのは自分である。しかし、ジャンヌの不知火への一方的な想いがジャンヌの本来の力の解放を封印している&不知火が本気で戦おうとしている現状、ジャンヌは不知火相手に100パーセント勝てるとは言い難く、むしろ精神的な余裕のなさからジャンヌの敗北が導かれる可能性の方がはるかに高かったりするのだ。

 

 不知火との戦闘からエスケープしたい。だが、それを許してくれるほど今の不知火は生易しくない。かくして。ジャンヌは自分が全く望まない戦闘を強いられつつあるのだった。

 

 




白雪→いかにも性善説とか信じていそうな怠惰巫女。生徒会で集まっている時は副生徒会長の膝の上がいつものポジションとなっている。小早川とは割と仲が良く、カメラ関係のモノが欲しい時は小早川の意見を仰いだりしている。
不知火→寮取り合戦の前提を壊して暴れ回っている闇組織連中に対して怒っている不良。不良設定のはずなのに正義漢に見えてしまう不具合がただいま発生している所である。
ジャンヌ→不知火への一方的な乙女的な想い(※無自覚)から戦闘を避けたいのに、それが叶わなそうな状況に追い込まれている感の否めない厨二少女。銀髪の子、かわいそう。
平賀→『┌(┌ ^o^)┐ホモォ』型の巨大ロボットというとてつもなく恐ろしい存在を世に解き放った禁忌な天才少女。70話のおまけにて同性愛を題材にした同人誌を描き上げている辺り、腐女子への素養はあった模様。

■『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラ
⑨市橋晃平→読者のアイディアから参戦したキャラ。装備科Bランク、3年・男。身長は170センチ程度、体重は60キロくらいのちょいとぽっちゃりに片足突っ込んでる感じがしないでもない感じな系。若白髪の目立つ黒い短髪が特徴的。武藤製の皇帝ペンギン型の巨大ロボットの操縦者として、打倒『┌(┌ ^o^)┐ホモォ』型の巨大ロボットへの熱意を抱いている。

④小早川透過→読者のアイディアから参戦したキャラ。超能力捜査研究科Dランク、2年・男(?)。一人称は『俺』。実は偽名。メガネが本体であり、メガネがないと死ぬ(※実証済み)。身長171センチ、体重不明。武器はデザートイーグルと黒刀二本。事なかれ主義であり、傍観者ポジションを好む『やれやれ』系の人間……を装う謎多き人物である。『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員ナンバー009であり、『クロメーテル護新教』の大司教(創設者)でもある。二つ名は『キング』で、能力は『見えざる変態』。名前の通り、相手に認識されにくくなる『不可視』と、物体(壁とか)をすり抜ける『透過』を駆使して武偵高内の様々なスキャンダルを暴く、盗撮王の一面も持っている。強力な能力なのだが、存在感のなさ故にランクは低め。甘いモノ全般が好きだが、ももまんとは相容れない。モフモフな動物全般を好んでいる。何気に神崎千秋くんの親友ポジションでもある。

■その他のオリキャラ(モブ)たち
副生徒会長→若干、かませ犬臭がしないでもない真面目な子。
生徒会メンバー→今回の寮取り合戦の惨状に対するリアクション担当。

○テキトーな名前のオリキャラ作ったったシリーズ
育育(いくすけ)(そだち)
初初(ういはつ)(はじめ)
的的(てきまと)(あきら)
晶晶(せいしょう)晶晶(まさよし)
草草(かやくさ)草草(そうしげ)
理理(よしり)(ことわり)
KEN→エセホスト軍団その1
TAKA→エセホスト軍団その2
HIRO→エセホスト軍団その3
TSUBASA→エセホスト軍団その4
HIDE→エセホスト軍団その5
TOMO→エセホスト軍団その6
水水(みずたいら)(みな)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー001
門問(もんもん)聞悶(もんもん)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー002
白白(はくしら)(つぐも)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー003
(みなみ)美波(みなみ)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー004
金佳(かなか)菜加奈(なかな)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー005
結結(ゆかた)(ゆい)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー006
(さくら)咲良(さくら)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー007
子子(すさね)子子(みこ)→『氷帝ジャンヌ一派』ナンバー008

 というわけで、EX9は終了です。この番外編、書いてて何が楽しいって、原作沿いの本編じゃまずあり得なさそうなマッチングでの戦闘を組めるのが本当に楽しいんですよねぇ。尤も、次回ではまだ不知火 VS.ジャンヌのバトルは始まりませんけどね、ええ。

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