【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は一話丸々りこりんメインのお話です。文字数は1万文字超えで、しかもおまけまで拡充してあります。よかったですね、ビビりこりん紳士の方々。そして、りこりん以外を信仰している方々へ。今回、私は割と本気で君たちをりこりん派へと鞍替えさせてやるぜと気合を入れてこのEX6を執筆したので、その辺は覚悟しておいてくださいませ。



EX6.ワクワクドキドキ☆寮取り合戦(6)

 

 ――13:10

 

 

 救護科棟にてホラー度の凄まじい謎の怪奇現象に襲われた理子は全力疾走していた。ボロボロ涙をあふれさせながら、少しでも救護科棟から離れようとただひたすらに風のように走っていた。が、理子の体力は無限ではない。案の定、息切れを起こした理子は、街路樹に手をつき、下を向いてゼェゼェと荒い呼吸を繰り返す。ちなみに。8月17日という真夏の真っ昼間に走りまくったことにより、今の理子は汗だくであり、しっかり見ればピッタリと理子の体に貼りついたブラウス越しに下着が透けて見える状態だったりする。

 

 と、ここで。理子の眼前に複数の人影が現れる。今の疲れ果てた状態で敵とエンカウントしてしまったのかと理子の顔から血の気が引かんとしていた時、理子は気づいた。理子の姿を発見するや否やすぐさま理子の元へと駆け寄ってきた、全身赤タイツに覆面をした男と、全身青タイツに覆面をした男と、全身黄タイツに覆面をした男の3名が己の知り合いだと。

 

 

「おお! ニジグリーン! ニジグリーンじゃないか! やっと見つけたぞ!」

「ニ、ニジレッドさん!?」

 

 理子の元へとダッシュでやってきた3名を代表して、全身赤タイツに覆面をした男もといニジレッドが理子に語りかける。ちなみに。ニジレッドは異性よりも正義に興味を持つ男なので、現状、理子の下着がブラウス越しに透けて見えていることなどまるで気になっていないようだ。

 

 彼らの正体は『虹色戦隊ニジレンジャー』。正義の味方としてヒーロー活動をすることを目的とした団体である。虹色戦隊という名前から察せられる通り、この戦隊は7名そろって初めて完成となるのだが、残念ながらリーダーのニジレッドの友達が少ないために、ニジレンジャーの理念に惹かれて集まったのはニジブルーとニジイエローの2名のみ。そう。純粋にニジレンジャーの活動を頑張っているのはニジレッド、ニジブルー、ニジイエローの3名だけなのだ。

 

 それゆえに。ニジレッドはいくら募集をかけても中々集まらないメンバーを集めて『虹色戦隊ニジレンジャー』をどうにか完成させるため、ニジレンジャーの名声を求めて遠山キンジを倒そうとしたり、押しの強い勧誘や金銭を払うなどの手段で強引にメンバーを増やしたりと、およそヒーローとは思えないようなゲスい活動をこれまで行ってきた。結果。理子も何気にその押しの強い勧誘の被害に遭い、現在進行形でニジグリーンという立場をもらっていたりするのだ。ちなみにジャンヌはニジパープルである(※詳しくは32話と91話のおまけを参照)。

 

 

「今、オレたちは寮の垣根を超えて虹色戦隊ニジレンジャーとしてこの寮取り合戦を戦い抜いている所なのだ! どうだ、ニジグリーンもオレたちと正義の炎を燃やさないか!?」

「え、あ、いや、で、でででも、ボク、隠れてないと……」

「そうか、ニジグリーンは潜伏組に振り分けられているのか! だが、確か君のルームメイトは2人ともSランクという話だったはずだ。あの2人が出撃組なら心配ないのではないか!? 念には念をと潜んでいる必要はないのではないか!?」

「や、そ、それはそうなんだけど、でもキンジくんは倒されちゃったし……」

「そういえば遠山キンジは撃破されたのだったな! ならば、なおさらニジグリーンが頑張るべきじゃないのか!?」

「あ、あぅ……」

「お互いがお互いの足りない所を補い合う、それがチームというものだ! だからこそ、ニジグリーンも今日はオレたちとともにニジレンジャーの一員として正義を全うすべきなんだ! 違うか、ニジグリーン!?」

「……う、うん。そうだね! そうだよね、ニジレッドさん!」

 

 

 現在進行形で開催中の寮取り合戦をニジレンジャー全員で結託して行動したいニジレッドは勢いに物を言わせた説得を理子に仕掛けていく。当初、理子はニジレッドの申し出を断っていたのだが、最終的にニジレッドの熱意に負け、結局ニジレッドの提案に理子はうなずいた。何というちょろさだろうか。ちなみに。ニジブルーとニジイエローが第三者視点で見たニジレッドと理子とのやり取りは、まるでしつこい悪徳業者とその悪徳業者の提案にどうにもNOを突きつけられず最終的に悪徳業者の話術に騙された弱気な客の構図のようだったとか。

 

 

「よし。そうと決まれば後はニジパープルだ、ニジパープルさえ見つかれば全員がそろう!」

「あ、あれ? そうなの? でもニジオレンジさんとニジグンジョウさんも見当たらないよ?」

「ニジオレンジとニジグンジョウはオレたちと別行動でニジグリーンとニジパープルを捜しているのだ。ニジレンジャーが一か所に纏まって捜すよりは二手に分かれた方が効率が良かったからな。ところで、ニジグリーン。ニジグリーンはニジパープルの居場所に覚えはないか? 君たちは確か盟友――つまり、ソウルフレンドという奴なのだろう?」

「え、えと。ご、ごめんね、ニジレッドさん。ボク、ジャンヌちゃんが今どこにいるか、わからないんだ」

「そ、そうか。それなら仕方ない、ならば自力で探し出すまでだ。とりあえず、ニジグリーンの分の全身タイツは用意しているからニジグリーンは今すぐ着替えるといい」

「わ、わかったよ!」

 

 クリーニング袋で包装された緑色のタイツをニジレッドから受け取った理子は元気よく返事をする。が、その後。ニジレッドの言葉を改めて反芻した理子は、すぐに我に返ったかのように「……え、ここで?」と呟いた。

 

 

「やれやれ、これでようやく6人までニジレンジャーを集められたな。寮の枠組みを超えてニジレンジャーを収集し、寮取り合戦を切り抜けると立志してからここまでの道のりがどれほど長かったことか……」

「ちょっと待って、ニジレッドさん!? ここで!? ここで着替えなきゃいけないの!?」

「ニジブルーはニジオレンジとニジグンジョウに連絡を取ってくれ! 合流するぞ! なに、もう連絡済みだと!? さすがはニジブルーだ、気が利いてるな!」

「待って、待ってよ!? ここ外だよ!? 思いっきり屋外だよ!? 絶対誰かに見られちゃうよ!? 恥ずかしくてボク死んじゃうよぉ!?」

「さぁ、皆! オレたちニジレンジャーが大々的に活躍し、歴史の1ページに名を刻み込むまでもう一歩だ! 皆、頑張るぞ! おー!」

「ニ、ニジレッドさん! 皆を鼓舞するのもいいけど、ボクの話を聞いてよ! む、無視はやめてほし――い?」

 

 理子にその場での即着替えを要求してきたニジレッドに対して理子は頑張って抗議しようとするも、肝心のニジレッドはニジレンジャーを6名集められたことにしみじみと感傷に浸ったりニジブルー&ニジイエローのやる気をさらに高めたりと忙しく、理子の言葉は届かない。

 

 だからといって、いくら押しに弱いからといって、ニジレッドたちにやましい気持ちなど欠片もないからといって、どこで誰が見てるかわからない屋外で緑の全身タイツに着替えることを認めるわけにはいかないと理子は全力で声を張り上げるも、理子による渾身の抗議声明が最後まで理子の口から発信されることはなかった。なぜなら。突如ニジレンジャーたちの背後から姿を現した何者かが上空からの唸る拳でニジブルーとニジイエローを殴り潰したからだ。

 

 

「あべしッ!?」

「ひでぶッ!?」

「ブルゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウ!? イエロォォォォオオオオオオオオオオオオ!?」

 

 ニジブルーとニジイエローのいかにも自分たちはやられ役だと言わんばかりの断末魔を上げ、ニジレッドがまさかのニジレンジャー2名の同時撃破という状況に驚愕の声を高らかに響かせる中。理子はニジブルーとニジイエローを撃破に追いやった元凶を見上げた。それは、全長3メートルは裕に超越していそうなほどの巨体を誇る何かだった。それは、横幅も2メートルはあり、全身を鋼鉄の鎧に包まれたロボットだった。胸元を境目に、鶏のごとき頭部とプロレスラー級のムキムキの体とを兼ね備え、タキシードを着こなした、『鳥人』型のロボットだった。

 

 

【装備科Aランク:平賀文(・・・)(2年)が強襲科Dランク:青木貞夫(2年)を撃破しました。平賀文に18ポイント付加されます】

【装備科Aランク:平賀文(2年)が強襲科Eランク:黄菊正雄(2年)を撃破しました。平賀文に16ポイント付加されます】

 

 

「な、何ということだ! 青木貞夫と黄菊正雄がぁ!? ……じゃなかった。ニジブルーとニジイエローがやられてしまった……! これでは虹色戦隊ニジレンジャーを全員そろえて決めポーズをできないじゃなぎゃあああああああああああああああ!?」

「ニ、ニジレッドさん!?」

 

 理子が突如現れた鳥人型ロボットに思わず思考停止している一方、ニジレッドはニジブルーとニジイエローが撃破されてしまったことを嘆き悲しむ。本日の寮取り合戦において、ニジレンジャーを全員そろえることがニジレッドの悲願だっただけに、その悲しみは深い。しかし、深い悲しみに苛まれる人間の気持ちを推し量れるロボットではない。そのため、その場にorz状態となったニジレッドに対してもゴシャア!と容赦なく拳が振るわれた。哀れ、ニジレッド。

 

 

【装備科Aランク:平賀文(2年)が強襲科Bランク:赤松秀夫(2年)を撃破しました。平賀文に25ポイント付加されます】

 

 

「に、ににに、にににににに逃げないと……!」

 

 目の前で知り合い3人の惨状をまざまざと見せつけられる形となった理子は軽く恐慌状態に陥り、一目散に鳥人型ロボットに背を向けて逃走を図ろうとする。しかし、その理子の前方からも別の鳥人型ロボットが計4体近づいてくる。どうやら理子はいつの間にやら背後にも鳥人型ロボットに回り込まれていたようだ。

 

 

『私は鳥人だよ』

『人間の体に鳥の頭がついてるだろう?』

『友達になろう』

『友達の証にこのタキシードの胸元を開いて、人間の体と鳥の頭とのちょうど境目を見せてあげよう』

『私はフライングマン。貴女の力になる。そのために生まれてきた』

「あ、あぁ……!」

 

 理子は絶望する。成人男性を元にしたらしい機械音声でよくわからない文言を口に出しながら理子を取り囲み、じりじりと距離を詰めてくる鳥人型ロボット計5体を前に理子は震えることしかできない。どうして今日に限ってこんなにも怖い思いをしないといけないのか。今日は厄日だったりするのか。そんなことを考えつつ、理子はギュッと目を瞑り、すぐさま繰り出されるであろう鳥人型ロボットの拳に備える。しかし。ここで理子に救済の手が差し伸べられた。

 

 

「ミチハミズカラノテデキリヒラクモノ、ネー!」

 

 全身オレンジタイツに覆面をした男がまだ慣れていない日本語を片言で叫びながら、鳥人型ロボットの一体を殴り飛ばしたのだ。結果、鳥人型ロボットは鋼鉄の胴体をボコォと凹ませながら、遥か遠方へと吹っ飛ばされていく。その後、鳥人型ロボットは『峰理子の血と肉。勇敢なフライングマン戦士、ここに眠る』とだけ言い残して、爆滅した。

 

 

「ニ、ニジオレンジさん!?」

「ニジグンジョウ! ココハ、ミーガヒキウケタ! ニジグンジョウハ、ニジグリーンヲ『ハイエース』スルデスネー!」

 

 ニジレッドたちとは別行動を取っていたらしい全身オレンジタイツに覆面をした男、もといニジオレンジの乱入に理子が目を見開く中、ニジオレンジはグッとファイティングポーズを取りながらもう一人の仲間に指示を下す。直後、「ニ、ニジグリーン! こっち! 逃げるよ!」と理子の手を掴み、鳥人型ロボットの包囲網から連れ出す全身群青タイツに覆面をした男が現れた。

 

 

「ニ、ニジグンジョウさん!?」

「だ、大丈夫。心配ない。……ぼく、ハイエースとか別にする気、ないし。面倒だし」

「? ハイエース?」

「知らない、んだ。なら別にいい。そっちのが……好都合」

「??」

 

 全身群青タイツに覆面をした男、もといニジグンジョウはニジオレンジが時間を稼いでいる内に少しでも鳥人型ロボットから距離を取ろうと理子を引き連れてひた走る。その際、ニジグンジョウは理子を安心させるために、自分がニジオレンジの言っていたように、理子をハイエースする気がないことをたどたどしい口調ながら伝えるも、当の理子が『ハイエースする』という言葉の意味を知らない様子だったがために、ニジグンジョウは内心でホッと胸を撫で下ろした。

 

 

【装備科Aランク:平賀文(2年)が強襲科Cランク:橙島(とうしま)エルゴ(2年)を撃破しました。平賀文に21ポイント付加されます】

 

 そうこうしている内にニジオレンジが撃破されたという通知が生き残っている全武偵に知らされる。さすがに鳥人型ロボットを素手でボコることのできるニジオレンジでも、複数の鳥人型ロボットに囲まれてはどうしようもなかったようだ。

 

 

「そ、そんな!? ニ、ニジオレンジさん、ニジオレンジさんがぁ!?」

「気持ちは、わかる。けど、ここで引き返すのは……ダメ。ニジオレンジの分まで生き残る、これがぼくたちの責務だ。じゃないと、ぼくたちまで平賀が作ったっぽい、ロボットにやられて、ニジオレンジの頑張りが、無駄になるし」

 

 ニジオレンジ撃破の通達を携帯で受け取った理子が急いでニジオレンジの元へと戻ろうとするも、ニジグンジョウはそれを許さない。ここで感情に任せて鳥人型ロボットの元へと舞い戻ることがいかに愚策かをわかっているからだ。もちろん、そのことを理性では理解している理子はただ、「う、うぅぅぅ」とニジオレンジの撃破を悲しみつつも、その足を止めることなくただ逃げ続けることしかできなかった。

 

 が、しかし。ここで、逃走を続けるニジグンジョウと理子の前に一人の男が立ち塞がる。あたかも『もやっとボール』をそのまま頭に装着したかのようなツンツンな髪型をした、緑髪の大男はニジグンジョウと理子の逃げ道を塞ぐように立つと、理子を指差し「そこの女を寄越せ」とドスの利いた声でニジグンジョウに命令した。

 

 

「ひッ……」

「……ニ、ニジグリーンは渡さ、ない」

 

 眼前の大男から容赦ない害意を向けられた理子がブルリと恐怖に震える中、ニジグンジョウは理子まで大男の視線が届かないようにするために一歩踏み出す。そして、おどおどな口振りながらも、明確に理子を守る宣言を行った。

 

 

「あ? お前、何言っちゃってんの? もやしみてぇにひょろっちいお前にこの強襲科Aランクの羅刹(らせつ)暴吾(ぼうご)様を倒せるとでも思ってんのか?」

「倒せる倒せない、じゃない。ニジレンジャーは、正義の味方。仲間を売ったりしない。ぼくは、絶対……暴力なんかに負けやしない! う、うぉおおおおおおおおおお!」

「うぜぇ! 邪魔なんだよぉぉおおおおおお!!」

「マカロンッ!?」

 

 ニジグンジョウはなけなしの勇気を振り絞ると、タイツの中から取り出したトンファーを装備し、もやっとボール頭の男、もとい羅刹暴吾を撃退しようと接敵する。しかし、羅刹暴吾はひゅんとニジグンジョウが振るったトンファーの軌跡を目で見てから余裕そうに避けると、カウンターパンチをニジグンジョウの鼻っ柱にお見舞いした。結果、ニジグンジョウは暴風のように理子の真横を吹っ飛んでいく形で、至極あっさりと撃破されてしまった。

 

 

【強襲科Aランク:羅刹暴吾(3年)が情報科Cランク:群青直哉(2年)を撃破しました。羅刹暴吾に8ポイント付加されます】

 

 

「ニ、ニジグンジョウさん……!」

「これで味方はいなくなったなぁ? えぇ?」

 

 まるで即堕ち2コマのように羅刹暴吾の暴力に屈してしまったニジグンジョウ。自身を助けてくれる味方を失った理子に対し羅刹暴吾が威圧をかけると、理子はまるで金縛りにあったかのようにその場から動けなくなる。が、ここで。理子はただ怯える子猫で終わることはなかった。涙を目尻にどうにかせき止めつつ、羅刹暴吾をキッと見つめ返す。

 

 

「……ど、どどどどうしてボクを、その、ピンポイントで狙ってくるの?」

「あ? んなもん、決まってんだろ? 他の闇組織連中に何が正しいかを知らしめるためだ」

「何が正しいかを、知らしめる……?」

「この世で最も至高なのはユッキー様ただ一人。これが世の真理だ。なのに、他の闇組織の構成員どもは何を血迷ったか、ユッキー様以外の凡俗を祭り上げて神だ神だと信仰してやがる。だから、わからせてやるんだよ。この世に神は1人のみで、神たりうるのはユッキー様しかいないってことをなぁ。この『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員ナンバー045の俺が他の闇組織の信仰対象を公開処刑して、わからせてやるんだよぉ!」

 

 理子の問いかけに対し、羅刹暴吾が冥土の土産だと言わんばかりに己が理子を狙う動機を語る。東京武偵高三大闇組織。それは圧倒的な統率力で組織の形を保ちながらある特定の人物を祭り上げているのが特徴的な闇組織である。

 

 だがしかし、完璧な統率などあり得ない。そのため、闇組織の中には『過激派』というモノが存在する。あまりに各闇組織の信奉対象を崇め奉るあまり、他の闇組織で信奉されている存在を一切認めず、この世から排除してやるとの暗い欲望にあふれた連中が、確かに一定数、勢力を確立しているのだ。そして。羅刹暴吾は『ダメダメユッキーを愛でる会』の過激派の一員である。

 

 

(や、闇組織? 『ダメダメユッキーを愛でる会』? な、何それ、聞いたことないよ!? どうなってるの!?)

「まずはお前だ、『ビビりこりん真教』が崇める邪神、峰理子ぉぉおおおおおおおおおお!」

「ひぁッ!?」

 

 羅刹暴吾は己の中に荒々しく渦巻く激情のままに渾身の拳を理子へと繰り出す。それは普段の理子であれば十分に避けられる程度のパンチである。しかし。今の理子は避けられない。大菊寿老太による全力のドッキリや大菊寿老太による全力のドッキリや大菊寿老太による全力のドッキリや鳥人型ロボットの襲来など、これまで人知を超えた恐怖を立て続けに経験し、恐慌状態に陥ったままの理子は今、そこらの情報科Eランク武偵並みに役立たずとなっていた。

 

 ビクゥッと体を震わせ、迫りくる暴力に怯えることしかできない理子。しかし、ここで。残酷なだけが世界ではないということを体現するかのごとく、理子に助けが入った。何と、理子と羅刹暴吾との間に入るように一人の人間が滑り込み、右手に装備した、いかにも西洋騎士が持っていそうな大盾で羅刹暴吾の攻撃を防いだのだ。

 

 

(ちッ、まーた邪魔が入りやがったか……)

「よかった、間に合っタ! ふぅ、間一髪だったサ!」

 

 ズガンと空気を介して浸透する拳と大盾との衝突音。理子に顔面ヒットするはずだった拳を止められたことに羅刹暴吾がイライラを募らせ、大盾を持った張本人たる男子武偵(※頭に赤いハチマキをしている)が爽やかさにあふれた口調で今の心情を口にする中。理子が突然の助けについ呆然としていると、理子の背後からまた一人武偵が姿を現す。くせっ毛な茶髪に漆黒の眼差し、ついでに赤縁メガネが特徴的な年相応の男子武偵――葵――が「ご無事ですか、りこりん様!?」と声をかけてきた。

 

 

「う、うん。ボクは大丈夫、助けてくれてありがとう……」

「どういたしましテ! これぐらいお安い御用サ!」

「礼など不要です。りこりん様の窮地を救うことは、俺たちにとっては当然の行いですから」

 

 理子は自分が『様』付けで呼ばれていることに違和感をヒシヒシと感じつつも感謝の言葉を述べると、赤ハチマキの武偵と葵はそれぞれの性格を実に反映した言葉を返してくる。と、ここで。理子は自分への害意のない二人に対して、心中の疑問を投げかけてみることにした。

 

 

「と、ところで。き、君たちは、もしかして……『ビビりこりん真教』とかいう闇組織の人なの? ボクのことを『神』だって崇めているっていう、あの?」

「なッ!? どうしてそれヲッ!?」

「誰ですか、りこりん様!? 誰からその情報を――」

 

 理子の問いかけに『ビビりこりん真教』の信者らしい二人の武偵は深い動揺を顕わにする。その後、葵が「――まさか!?」と、とある可能性に思い至った時、ここまで軽く話の輪からハブられていた羅刹暴吾がニタァと歪んだ笑みを浮かべて「そうだよ! 俺だ、羅刹暴吾様だぁ!」とドヤ顔でカミングアウトした。

 

 

「きっさまぁぁああああああああああああア! 東京武偵高三大闇組織がそれぞれ神と崇める当の本人には、闇組織の存在を絶対に教えなイ! それが暗黙の了解だっただろうガ! その禁忌を侵すとはどういう了見サ!?」

「どういう了見も何も、神はユッキー様のみだ。それ以外の邪神にどうして気を遣う必要があるってんだ? あぁ?」

「……なるほど、貴方は『ダメダメユッキーを愛でる会』の過激派でしたか。俺たち『ビビりこりん真教』の信者を狙うのでなく、りこりん様を狙う卑怯者め……ッ!」

「卑怯? んなもんはテメェらが決めるもんじゃねぇよ。勝てば何をやっても正義、世界はそういう風にできている。違うかぁ? 違わねぇよなぁ?」

 

 目に見えて激昂する赤ハチマキの武偵と表面では冷静さを保とうと奮闘するが今にも内心にて煮えたぎる感情が表出しそうな葵。その二人に対して羅刹暴吾は余裕綽々と言わんばかりの獰猛な笑みを貼りつける。どうやら羅刹暴吾は、己の実力が眼前の赤ハチマキ&葵の二人組よりも勝っていることを瞬時に見抜いたらしい。

 

 

「ここは俺たちに任せてお逃げください、りこりん様!」

「羅刹暴吾は強いって話だからナ! 仮に俺たちが負けてもいいように、ここは逃げ一択だぜ、りこりん様!」

「ね、ねぇ。一つだけ聞かせて。どうしてボクのためにそんなに頑張ってくれるの? 本来、寮の違うボクたちは敵同士だよね? そ、それにボクは、『様』付けされるような立派な人じゃないよ? ほんの些細なことでビクビクしてて、情けないだけのボクを、どうして――」

「――それ以上、自分を貶めるのはお止めください。りこりん様には良い所がいっぱいあります。その魅力に気づいたからこそ、俺たちは闇組織を作ってまで、こうして助けに駆けつけてまで、貴女のために尽くしたいと考えているんです。今はわからずとも、いつかきっと自らの魅力に気づけるはず。だからどうか、りこりん様は今のまま、成長してください。それが俺たち『ビビりこりん真教』の唯一の願いです」

「こいつの話を信じられないなら、りこりん様の友達に聞いてみるといいサ! 絶対、りこりん様の良い所をこれでもかって教えてくれるからサ!」

 

 理子が「ふ、二人とも……」と赤ハチマキの武偵と葵を見やると、二人が優しさを多分に含んだ視線を返してくる。理子が二人を残すことを躊躇わないように。後々になってから理子が『逃げる』という判断をした過去の自分を責めないように。そのような心遣いが見え隠れする赤ハチマキの武偵と葵の眼差しを受けて、理子は、二人に背を向けて、走り出した。

 

 

(状況はよくわからない。なぜかボクを狙っている敵がたくさんいて、でもボクには味方もたくさんいる。なら、ボクは――ボクなんかの味方になってくれている人たちのためにも、絶対に生き残る! この寮取り合戦を、生き残ってみせる!)

 

 理子は心の中で決意を固めつつ、全力で逃げ出していく。が、ここで。理子は何もない所で躓き、顔面からドサァッと派手に転んだ。ここまで幾度か全力疾走で逃げてきたためか、肉体的疲労により理子の足が言うことを聞かなくなりつつあったがための展開である。

 

 

「ぜ、絶対、絶対に生き残るんだからぁぁああああああああ――ッ!!」

 

 理子は顔面強打の激痛に涙目になりながらも、涙声で己の覚悟を絶叫しつつ羅刹暴吾からどんどん逃げていく。その逃げ足スキルは凄まじく、あっという間に羅刹暴吾や赤ハチマキの武偵、葵の視界から理子の姿が消え失せた。

 

 

(……見たカ?)

(はい。バッチリと目撃しました)

(黒だったサ!)

(ええ、今日のりこりん様は黒でしたね!)

(こ、これは全真教メンバーに緊急通達せねばならないサ!)

(連絡は俺に任せてください、決定的瞬間を携帯に収めましたので!)

(でかしたサ、葵! じゃあその間はこの羅刹暴吾を俺一人で押さえるサ!)

(了解しました!)

 

 愛という名の鼻血をダクダクと垂れ流しながら、目だけでアイコンタクトを取る赤ハチマキの武偵と葵。ついさっきまで素晴らしく良い人な雰囲気が全力でにじみ出ていただけに、何とも残念な言動である。救いがあるとすれば、この二人の本性を理子が知らないということだろう。知らぬが仏とはこのことか。

 

 ちなみに、この時。隙を見せまくる赤ハチマキの武偵と葵を一気に駆除するため、攻撃を仕掛けようとしていた羅刹暴吾が、二人がブシャアと鼻血を噴出し始めたのを前に、『何だこいつら、いきなりこんな大量の鼻血を放出するとか、気持ちわりぃ。やっぱりユッキー様以外を崇める奴って総じてキチガイなんだな。改めて確信したぜ』と内心で引いていたのだが、そのことを当の赤ハチマキの武偵と葵は知らないのであった。

 

 

 そして、十数秒後。葵の携帯を起点として、『【拡散希望】我らが神、りこりん様の今日のパンツは黒』という情報が決定的瞬間の写真付きで発信され、『ビビりこりん真教』の信者たちに瞬く間に伝播していったのだとか。情報社会、恐るべし。

 

 




理子→主に大菊寿老太のせいで恐慌状態に陥り、本来の戦闘能力を発揮できないでいるビビり少女。ついに東京武偵高の抱えるダークサイドこと、東京武偵高三大闇組織の存在を知ることとなった。現時点で割と体力を消耗している彼女ははたして最後まで生き残れるのだろうか。

■『読者さんが実際に番外編に登場しちゃう企画!』からのキャラ
⑩葵→読者からふぁもにかが独断で参戦させたキャラ。強襲科Bランク、2年・男。『ビビりこりん真教』の信者ナンバー003。一人称は『俺』。基本、丁寧語を使う小柄な子。くせっ毛な茶髪に漆黒の眼差し、赤縁メガネが特徴的。武偵にしては珍しい、落ち着き払った性格。真面目で純粋。実は落とした財布を必死に探していた時に理子に届けられ、その優しさに惚れたという裏エピソードがあったりする。でもって、そのエピソードは『ビビりこりん真教』の聖書に綴られ、全信者に共有されていたりする。武器は基本拳銃のみだが、サブでナイフを所持。体の各所に仕込んだ拳銃を取り出して撃ち尽くしたらリロードせずポイ捨て&次の拳銃を取り出すといった、懐事情的にまるで優しくない戦闘スタイルを採用している。

■その他のオリキャラ(モブ)たち
羅刹(らせつ)暴吾(ぼうご)→『ダメダメユッキーを愛でる会』の過激派。強襲科Aランクの中でも割と強いとの評判がある程度は広まっている。普段は理性的だが、今回は凶悪な名前に負けない暴走っぷりを披露している。一応、不知火よりは弱い。
赤ハチマキの武偵→『ビビりこりん真教』の信者ナンバー046の武偵。大盾を攻撃と守備とで併用して戦うタイプ。ちなみに、『ビビりこりん真教』での活動をきっかけに彼女ができた。

○ディスガイアが元ネタな者たち
ニジレッド→ニジレンジャーのリーダー。本名:赤松秀夫。リアクション担当。高校生だがエロ方面には全く目覚めていない、健全なようで健全じゃない感じが否めない高校生である。
ニジブルー→ニジレンジャーの構成員。本名:青木貞夫。やられ役筆頭その1。
ニジイエロー→ニジレンジャーの構成員。本名:黄菊正雄。やられ役筆頭その2。
ニジオレンジ→ニジレンジャーの構成員。本名:橙島エルゴ。理子、ジャンヌを除くニジレンジャーの中で何気に一番強かったりする。
ニジグンジョウ→ニジレンジャーの構成員。本名:群青直哉。ニジレンジャーの中で最も輝いていたと思われるキャラ。カッコいい所を見せるも、弱さゆえにあっさりと撃破されてしまう。暴力には勝てなかったよ……。

※鳥人型ロボット
・平賀文が寮取り合戦で撃破ポイントを稼ぐために大量に投入したロボット。その数は軽く3ケタを超えており、内蔵されているセンサーで武偵を見つけ出し、手当たり次第に気絶させようと攻撃を仕掛けてくる仕様となっている。強襲科Bランク並みの実力を持っているため、下手に立ち向かうのは危険。ちなみに、たまに鳥人型ロボットに紛れてイレギュラーとしてフライングマン型ロボットが混じっている。


 というわけで、EX6は終了です。まさかあのおまけの一発ネタだったニジレンジャーたちがここまで輝く回が生まれるとは、さすがに読者の皆さんも想像してなかったのではないでしょうかねぇ? 私自身も『キャラが勝手に動く理論』で彼らが動き回り始めたものだから非常に驚いたのが記憶に新しいです。個人的にも当初は一発ネタに終わるはずだったモブの方々にスポットライトが当たり活躍してくれるのは非常に楽しかったです、あい。


 ~おまけ(その1:一方その頃)~

金建ななめ「お、着信だ。また撃破通達かな……ッ!? り、りこりん先輩の今日のパンツが黒、だと……!?」
レオぽん『? 何か言ったのか?』
金建ななめ「い、いや! 何でもない、何でもないよ! あは、あはははははは!」
レオぽん『おー?』
風魔陽菜「むむ?」

 金建ななめは『ビビりこりん真教』の信者ナンバー226である。


 ~おまけ(その2:もしも羅刹暴吾の暴力から理子を救ったのが『奴』だったら)~

 羅刹暴吾の唸りを上げる拳が理子を襲わんとする。が、理子に赤ハチマキの武偵とメガネの武偵の援護は来ない。万事休すに陥る理子だったが、ここで。流れが変わった。

 何と、暴力を振るう側だったはずの羅刹暴吾が、理子の背後越しにビュオンと風を切って繰り出された『何か』により殴られたのだ。そのあまりの勢いに、羅刹防護の体は街路樹に叩きつけられ、そのまま何本もの街路樹をなぎ倒すようにして吹っ飛び、最終的にビルの入口を封鎖するガラス扉にガシャーンと突っ込む形でようやく終息。結果、羅刹防護は気絶し、撃破通達が生き残りの全武偵に周知されるのだった。


(だ、誰かがボクを助けてくれた!?)

 瞬時に状況を判断した理子が背後を振り返った時。理子はビシリと、石像のごとく固まった。なぜなら。ダスターコートに黒いペストマスク、顔とマスクとの隙間から漏れ出る紫色の煙が特徴的な一人の人間がグネグネしていたからだ。さらに、ダスターコートのあらゆる隙間から蛍光ピンク色をしたぶっとい無数もの触手が顔を出し、その表面から透明な粘液を垂れ流しながらうねうねと左右に蠢いていたからだ。


「違うだろぉ、それは違うだろぉ! りこりんは弄って脅して怯えさせるのが楽しいのであって、ただ単に暴力任せにいたぶり痛めつけるのは違うだろぉ!? お前らはりこりん弄りの暗黙の了解を理解できていなぁぁあああい! 貴様は所詮、りこりん弄り界隈でのにわかなのだ! 情弱は山へ帰れぇぇええええええええええええッ!! フヘニハハハハハッ! アハハハハハハハッ! ……あ、りこりん。大丈夫ですか? 怪我とかしてないですか?」

 散々触手と一緒に体をグネグネしながら絶叫していた存在――もとい大菊寿老太はふと我に返ると、理子の顔色をうかがってくる。が、理子からすれば、ついさっきまで狂人認定不可避な態度をしていた存在が急に自分に対して優しくなった所で、警戒心が薄れる所か、眼前の存在に対する恐怖が増幅されるだけだった。


「ひ、ひぁあああああああああああああ!!」
(お、追いつかれたッ!? さっきの触手に追いつかれたぁ!?)

 理子はもうボロボロと涙を流しながら、涙声な悲鳴とともに走り去る。
 この悪夢が一刻も早く覚めることを願うことしか、今の理子にはできなかった。

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