【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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??「我のターンだ」

 ……というわけで、どうも。ふぁもにかです。前回、あとがきにて『次回は飛行機上に舞台が移るよ!』的なことを書きましたが……あれ嘘です。ごめんなさい。飛行機へと場面が移るのは今回の話を含めて2話後のことになりそうです。

 でもって、今回はサブタイトルからわかる通り、主人公キンジくん不在の緊急事態回です。ビビりこりん主体です。あれ? 前にもこんなのなかった? といった疑問は華麗にスルーしてくれると助かります。『熱血キンジと冷静アリア』連載一か月記念とでも思っててくれると非常に助かります。そして。今回は原作一巻で登場しないはずの性格改変キャラが思いっきり登場します。個人的にこの作品内の改変キャラの中で屈指のお気に入りキャラですね、この子。書いててすっごく楽しいですし。



12.怖がり理子と電話相手

 

 一応車輌科(ロジ)所属の武藤による機械音声の解析から『理子=武偵殺しの真犯人説』がキンジたちの間で持ち上がっていた、まさに同時刻。

 

「――ひぅッ!?」

『ん?』

 

 とある西日の差し込む高級ホテルの一室にて。ふかふかベッドにペタンと腰を下ろしていた下着姿の理子は突如体中を駆け巡る悪寒にブルリと体を震わせる。理子は背筋に氷を差し込まれたような感覚に思わず文字通り飛び上がる。すると。ふかふかベッドは思いっきり飛び上がった理子の体を着地の際にトランポリンの如く跳ね上げ、ベッドの有効範囲外にポーンと跳ね飛ばした。

 

 「へ?」とふかふかベッドの思わぬ反動に空中で情けない声を上げた理子はそのまま部屋の床に敷かれたカーペットに顔面から見事に激突。思わず「へぶッ!?」と乙女らしからぬ声を盛大に上げた。続いて、理子の頭に追い打ちと言わんばかりに携帯ストラップを大量に取りつけたデコレーション過多の水色携帯が確かな重量を伴ってグサッと突き刺さった。泣きっ面に蜂とはこのことか。

 

「~~~ッ!!」

『い、いきなりどうしたのだリコリーヌ!? 何があった!? 敵襲か!? 敵襲なのか!? 敵襲なんだな!? 大丈夫か!? 怪我はないか!?』

 

 いきなり理子が押し殺したかのような悲鳴を上げたことで電話先の相手は理子の身に緊急事態が発生したと判断したのか、理子の安否をしきりに尋ねてくる。口調から慌てふためいている様子がよくわかる。それだけ理子のことを大切に思っているのだろう。尤も、その人物はなぜか理子のことを『リコリーヌ』と巻き舌を駆使して呼んでいるのだが。

 

『くそぅ、誰だ!? 誰がリコリーヌを襲うような小癪な真似を!? まさか機関のエージェントか!? ちぃっ。奴らめ……こうなれば我の聖剣、デュナミス・ライド・アフェンボロス・クライダ・ヴォルテール、略してデュランダルの錆に――』

「あ、い、いや、違うよ! 敵襲になんて遭ってないから! 今なんか少し悪寒がしてね。ちょっと顔から床に落ちただけたから。大丈夫、大丈夫……多分きっとおそらくメイビー」

『……それは大丈夫と言えるのか?』

「う、うん。そんなに痛くないし。きっと大丈夫。うん。心配しないで。いつものことだから」

『……なら構わないが』

 

 理子は顔面から床に激突したことによる激痛にたまらず顔に両手を当てて転げまわる。傍から見たら「目がぁ、目がぁぁあああ!」と悶絶しているように見える体勢で理子が床に倒れている間にも、電話先の人物は理子が敵襲に遭ったと断定しドンドンと誤解を加速させていく。ガシャリと電話先の相手が西洋剣――本人曰く、聖剣:デュナミス・ライド・アフェン(以下略)――を握った音でハッと我に返った理子は床に転がる装飾だらけの携帯に飛びつき、電話先の相手の抱いた誤解を解きにかかった。

 

 理子の釈明に電話先の相手は怪訝そうな声を上げるも理子がもう一度肯定するとあっさりと一歩引いた。どうやら電話相手は深く理子を追及しない方針に切り替えたようだ。理子は相手の心遣いに内心で感謝の気持ちを存分に顕わにした。

 

「え、えっとさ、ジャンヌちゃん……私、大丈夫かなぁ? ヘマとかしちゃってないよね? 遠山くんたちに正体バレたりとかしてないよね? 私上手くやれてるよね!?」

『案ずるなリコリーヌ。貴様は我が認めた盟友、リコリーヌ・ヴィ・ガルランディア・ロゴス・ゼルベスドール・ウィルフィン・アークスウィッドだ。貴様の実力ならば遠山麓公キンジルバーナードや神崎ヶ原・H・アリアドゥーネはもとより、平和な島国で育った武偵高の有象無象など造作もあるまい。もっと胸を張って自信を持つといい、リコリーヌ。貴様に足りないのは己の卓逸した能力を正当に評価する心持ちなのだからな』

「そ、そうだね。そうだよね」

 

 理子は携帯を肩と耳で挟みつつ、常備している救急セットから絆創膏を取り出し擦りむいた鼻に貼りつける。一連の動作が手慣れていることから、今回のようなことは理子にとって別段珍しいことではないらしい。もちろん、絆創膏の前の消毒液も忘れていない。

 

 顔面を強打した痛みが相重なってか、弱気になって訪ねてくる理子にジャンヌと呼ばれた電話先の少女は理子の不安を払拭しようと言葉を重ねる。理子が反論を挟むことのできない、しかしそれでいて理子が聞き取りやすい速さで理子を勇気づける言葉を紡ぐ。

 

 理子はジャンヌの放つ一言一言が確かな温かみとともに胸にストンと収まっていく感覚を感じていた。自身の弱々しい心と徐々に調和していく感覚を味わっていた。いくら自分で自身の力を信じようとしても不安は消えるどころか無駄に膨れ上がってしまう。信じ込めば信じ込むほど不安が加速度的に膨張してしまう。

 

 でも。ジャンヌから自身の実力に対してお墨付きをもらうと、なぜだかそれが紛れもない事実に思えて心底安心できるのだ。これから自らの人生を大きく左右する正念場を控える理子にとって、ジャンヌの激励はどんなお守りを持っているよりも心強かった。今の自分なら何でもできるような気さえしてきた。

 

 理子は心から「ありがとね、ジャンヌちゃん」とお礼の言葉を口にする。眼前にジャンヌがいないにも関わらず無意識に頭をペコペコと下げながら。もはや条件反射のレベルである。しかし。ジャンヌはどういう心算か、理子の感謝の気持ちにただ沈黙を返してきた。

 

「ジャ、ジャンヌちゃん?」

『……はぁ。やれやれ、リコリーヌ。貴様は何度言えばわかるのだ?』

「へ? え?」

 

 「全く、貴様という奴は……」と言わんばかりのジャンヌの呆れ混じりの嘆息に理子は困惑する。何かジャンヌにため息を吐かせるような言葉を言ってしまったのだろうか。何かジャンヌの地雷を踏むような真似をしてしまっただろうか。ジャンヌに嫌われたくない一心で自身の発言内容を振り返ってみるも、理子には何がジャンヌの気に障ったのか全く見当もつかなかった。

 

『我はジャンヌなどという名ではない。我の真名は銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)。ジャンヌ・ダルク30世は所詮世を忍ぶ仮の名だ。前世より魂で繋がりし我とリコリーヌとの間柄でそのような偽名を使う必要はあるまい』

「う、うん。そうだね、銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)ちゃん(そうだった。ジャンヌちゃんのことは銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)ちゃんって呼ばないといけないんだった。というか、そろそろボクのことリコリーヌって呼ぶの止めてほしんだけど、でもジャンヌちゃんだからなぁ。絶対理子って呼んでくれないんだろうなぁ。はぁ……)」

 

 どうやらジャンヌは理子に真名で呼んでもらえなかったことがお気に召さなかったらしい。若干悦に浸った流暢な声色で自身を銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)と呼ぶよう主張してくる。言葉の一つ一つがやけに芝居がかっているジャンヌを前に理子は内心で深く深くため息を吐いた。余談だが、ジャンヌは『峰理子リュパン4世』の名は理子が語る仮の名で真名は『リコリーヌ・ヴィ・ガルランディ(以下省略)』だと信じて疑っていない。

 

「ところでさ、銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)ちゃん?」

『うぬ? 何だリコリーヌ? 何かこの世の理から外れたものでも察知したか?』

「ええと、そうじゃないんだけど……(ジャンヌ・ダルク30世って名前、世を忍ぶどころか逆に凄く目立ってるように感じるのはボクの気のせいなのかな?)」

『リコリーヌ?』

「……ううん。何でもない」

 

 理子は喉まで出かかった疑問の声をどうにか呑みこんで首を振る。なぜだか不明だが、そのことをジャンヌに指摘してはいけないと理子のビビりな本能がしきりに警鐘を鳴らしてきたのだ。今までこの方、自身の直感に従って失敗したことは一度もない。理子は己の感覚を従い疑問を墓場まで持っていくことにした。

 

「えっと。それじゃあね、銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)ちゃん」

『ああ。武運を祈る。我もあの方のお告げ通りになるよう手はずを整えておく。豪華客船、アルザイル・フェンボルス・ベラルージュ・リーザス・ルキオス号、略してアンベリール号に乗った気分でいるといい』

「その豪華客船、ボク沈没させちゃったんだけど……」

「む? そうだったか?」

「うん。でも、手伝ってくれてありがと。銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)ちゃん。ホントに助かるよ」

『礼には及ばんよ。ではな、リコリーヌ。貴様に女神の祝福があらんことを願っている』

 

 ジャンヌのその言葉を最後に二人の携帯越しの会話は終わった。理子はジャンヌによってブツリと切られた携帯をジッと見つめる。ジャンヌ・ダルク30世。一風変わった、けれどとても頼りになる友達の激励&助力を得た理子は胸の前で両手でギュッと拳を握る。

 

「……よし。ボクも頑張らないとね」

 

 理子はうんと一つ頷くと、トテトテとホテルのクローゼットへと向かい両手で取っ手を掴んでおもむろに開け放つ。そして。中から黒を基調にした洋服を取り出す。理子の手には自身が独自ルートで入手したキャビンアテンダントの制服一式が握られていた。

 

 ちなみに。クローゼットを開ける際、キィィと扉が少々音を立てたことにビクリと反応し「ひゃう!?」などと声を上げてしまったことは理子だけの秘密だ。

 




理子→ジャンヌに依存傾向のあるビビりさん。一応ジャンヌが名付けてくれた『リコリーヌ・ヴィ・ガルランディア・ロゴス・ゼルベスドール・ウィルフィン・アークスウィッド』の名前を覚えている。名乗ろうと思えばきちんと名乗れる。
ジャンヌ→中二病重篤患者。中二病Sランク。やけに長い名前をつけたがる。ラ行入りの言葉には巻き舌を使う。理子の実力を存分に評価している。また、理子相手ならレズになってもいいと思えるほどに理子に好意を抱いている。

 というわけで、中二病なジャンヌさんが登場しました。早く中二病ジャンヌさんとダメダメユッキーとを戦わせてみたいですね。……けど、ユッキー、全然戦ってくれない気がしますね。むしろジャンヌさんの一撃で死んだふりとかしそうです。


 ~おまけ 次回予告(緋弾のアリア・アニメ版風)~

アリア「ここまで長い道のりでしたね、キンジ」
キンジ「アリア? どうしたんだ、いきなり? そんな畏まって」
アリア「チャリジャックに始まりバスジャック、バイクジャックにカージャック、フェリージャックにタクシージャック、トレインジャックにハウスジャック、トラックジャックに観覧車ジャック、ゴンドラジャックにヘリジャック、一輪車ジャックにお馬さんジャック、ベビーカージャックにジェットコースタージャック、ブタさんジャックに牛さんジャック、ウサギさんジャックにカメさんジャック。三輪車ジャックにレオぽんジャック。幾多の困難な道のりを互いを信頼して共に乗り越えてきた私たち二人はついに、ついに! 武偵殺しの真犯人へと繋がる重要人物:峰さんと接触するために動き始めます!」
キンジ「んなたくさん乗り越えてきたか? つーか、途中からジャックする対象おかしくなってる気が……」
アリア「次回、『熱血キンジと宣戦布告』。見ないと風穴開けますよ?」

 ……せめておまけだけでもキンジくん&アリアさんを出してあげたかった。ただそれだけ。

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