【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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シリアス「ふぅ。最近は俺様の活躍場所が大いに確保されていて結構結構! ふッ、できる男は各所に引っ張りだこでホント忙しいぜ! あまりに忙しすぎて笑いが止まらんなぁ、ハッハッハッ――ガフッ!? な、この俺様を攻撃したのは誰だ!?」
ギャグ「ちょっとお邪魔しますよっと◝(・ω・)◟」

 というわけで。どうも、ふぁもにかです。ここ最近、日間ランキング40位周辺をウロウロできている影響か、執筆速度が若干ながら早まっているように思います。やっぱり、ここの所ランキングなんて全然載っていなかった分、テンション上がっちゃってるんでしょうねぇ、うむ。



119.熱血キンジと脱落者

 

「――アリアァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 アンベリール号の舳先にて。シャーロックの手によって大切なパートナーたるアリアがおそらくボストーク号へとお持ち帰りされただろうことにキンジは叫ぶ。ただアリアの名を叫ぶことしかできない。だが、この時。キンジは己の中に確かな違和感を感じていた。なぜなら。ドクンと自身の体の中心に灼けつくような感覚が巡ったかと思うと、自分が性的興奮を感じてないにもかかわらず、いつの間にかヒステリアモードになっていたからだ。

 

 この状況にキンジは覚えがあった。それはかつて、横浜ランドマークタワー屋上でのブラドとの戦いの最中のこと。ブラドが全力で振り抜いた拳が見事にクリーンヒットし、ボロボロなんて表現が生ぬるいほどの大怪我を負った時も、なぜかヒステリアモードになれたのだ。朦朧とした意識の中で性的興奮を感じる余裕なんてないはずだったというのに。

 

 

(だけど、あの時のヒステリアモードと今のヒステリアモードとは何かが違う。かといって、普段のヒステリアモードでもないし……これは、どういうことだ? なんで俺はヒスれた? 俺の体に、一体何が起こってるんだ?)

「く、ぅ……。教授(プロフェシオン)の奴、俺の記憶に、干渉する、ような、真似をして……何が、狙いだ?」

 

 キンジが己のヒステリアモードに対し不気味さを感じ始めたと同時に、背後から苦しそうな声が届く。ハッとキンジが振り返ると、カナがゼェゼェと荒い息を吐きながら、ズキズキと痛みを訴える頭を押さえるように片手を置きながら、ゆっくりと立ち上がる姿があった。男声、鋭い目つき、男らしい口調から考えるに、どうやらヒステリアモードが解けたらしく、今のカナ姉は元の兄さん状態へと戻っている。

 

 

「な、貴方何をやっておりますの!? 止めてくださいませ! まだ傷は癒えてないのに、今無理して動いたら――」

「――心配するな、パトラ。この程度、限りなく致命傷に近いかすり傷だ」

「ふざけてる場合じゃありませんわ! 死にたくなかったら大人しくしてくださいませ!」

「断る。むしろ、ここまででいい。これ以上は治すな」

「なッ!?」

 

 金一の身を案じて声を荒らげるパトラは、金一の右胸の銃創を完璧に治そうと手を伸ばす。が、金一はパトラの手首を掴み、無理やり治療を中断させる。この時、キンジは気づいた。カナ姉モードから元の兄さんに戻ったにもかかわらず、これまたいつの間にか兄さんがヒステリアモードを発動させていることに。

 

 

(兄さんもヒステリアモードになった!? 女装による性的興奮に頼れるわけがないこの状況で、どうやって……?)

「キンジ。一度しか言わない、よく聞くんだ」

 

 兄が今の自分と同様に、性的興奮なしにヒステリアモードに至っていることにキンジが動揺する中。金一はシャーロックに撃ち抜かれた心臓が中途半端に治っている状態で無理に体を動かしたためにカフッと吐いた血を制服の袖で拭いながら、話を始める。それは、今のキンジが抱く疑問を氷解させる、ヒステリアモードについての話だった。

 

 

 簡単に纏めると、こうだ。HSSことヒステリア・サヴァン・シンドロームには通常のヒステリアモードの他にも成熟や状況に応じた派生系が数多く存在しているらしい。

 

 例えば、ヒステリア・アゴニザンテ。これは瀕死の重傷を負った男が死ぬ前にどうにかして子孫を残そうとする本能を利用して発現させることができる。つまり。ヒステリア・アゴニザンテは、別名たる『死に際(ダイイング)のヒステリアモード』から察せられる通りの、命と引き換えのヒステリアモードである。ちなみに、今の兄さんが発動しているのはこのヒステリア・アゴニザンテだそうだ。

 

 例えば、ヒステリア・ベルセ。これは自分の女を他の男に奪われることを起因として発現させることができる。通常のヒステリアモードことヒステリア・ノルマーレが『女を守るヒステリアモード』なら、ヒステリア・ベルセは『女を奪うヒステリアモード』。

 

 戦闘能力がヒステリア・ノルマーレの1.7倍――ノーマル状態の実に51倍――にまで増大するものの、自分以外の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情を利用する影響で、男相手では当然、時には女相手でも荒々しい言動を取る場合があるらしい。ヒステリア・ベルセの血が激しい時と比較的収まっている時とが不定期に切り替わるせいで制御が難しく、さらに思考が攻撃一辺倒になりがちなため、諸刃の剣なヒステリアモードである。ちなみに、今の俺が発動しているのはこのヒステリア・ベルセだそうだ。

 

 

(なるほど。これで色々謎が解けた。あの時、ブラドとの戦いで俺がヒスれたのは、俺がヒステリア・アゴニザンテを発動させたからだったんだ。……え、待った。ってことは、あの時の俺、死にかけだったのかよ!? ウソだろ、どんだけとんでもない綱渡りしてたんだよ、俺!? よく生還できたな、おい!?)

 

 金一からある程度ヒステリアモードの話を聞いたキンジは無駄に51倍に跳ね上がった思考回路でブラド戦のことを振り返り、思わずブルリと身を震わせた。

 

 

(って、違う違う! 今気にしないといけないのはブラド戦のことじゃない。今の兄さんがヒステリア・アゴニザンテを発動させていること――つまり、兄さんが今死にかけてることだ!)

「今はこれ以上話をする余裕はない。行くぞ、キンジ」

「ダ、ダメだ、兄さん! 止めてくれ! ヒステリア・アゴニザンテを発動できるぐらい死にかけの状態でシャーロックと戦ったりなんてしたら――」

「――止めるな、キンジ。今が好機なんだ。教授(プロフェシオン)はたった今、このアンベリール号――日本の法律が適用される日本国籍の船――でお前のパートナーを奪ったんだ。つまり、教授(プロフェシオン)を未成年者略取の罪で合法的に現行犯逮捕できる絶好のチャンスが整ったんだ。この降って湧いた好機を逃す手はない」

「けど、だからって!」

「キンジ! 男には、例え命を犠牲にしかねない状況下であっても、それでも男の意地を貫き通さないといけない時がある! それが今だ! 今が、今こそが義を全うできるチャンスなんだ! これを逃せば、もう機会は絶対にない!」

 

 兄さんに死んでほしくない一心で金一の無茶を止めようとするキンジ相手に、金一は己の思いの丈を乗せて全力で吠える。大気をビリビリと震わせるほどの気迫を見せる金一。そのエメラルドグリーンの双眸に宿る確かな覚悟の炎を見て、キンジは己の思いと兄の思いとを天秤にかける。そして。迷いに迷った末、キンジは兄の気持ちを尊重することに決めた。

 

 

「……わかった。もう、止めない」

「悪いな、俺のわがままを押し通すような真似をして。……そうだ、キンジ。今の内にこれを託しておく。受け取ってくれ」

 

 心ならずも自身の考えを重んじてくれたキンジに、金一は申し訳なさそうに軽く笑みを浮かべる。その後、金一は思いついたように制服のポケットから何かを取り出し、キンジの手に無理やり握らせた。キンジが「兄さん?」と疑問の声を投げながらも自身の手元を見てみると、金一から渡されたのは――親指サイズのレオぽんのぬいぐるみだった。

 

 

「えーと、兄さん? これ、俺の記憶が正しかったら……確か兄さんが熱心に集めてたご当地レオぽんのぬいぐるみの1つだったような気がするんだけど?」

「あ、違う。つい、渡すものを間違えてしまった」

「……兄さん、やっぱりここで大人しくパトラの治療を受けた方がいいんじゃないのか? 実はもう意識が朦朧としてるんじゃ――」

「くどいぞ、キンジ。二度も言わせるな。俺は引くつもりはない。今のはちょっとうっかりしていただけだ。意識もしっかりしているし、心配ない。それより……本当に渡したいのは、これだ」

 

 自身のご当地レオぽんのぬいぐるみ収集癖を知らないパトラが見つめている手前、金一は顔を赤らめながらも鮮やかな手並みで、今しがたキンジの手に乗せたレオぽんの極小ぬいぐるみを回収する。そして。金一は三つ編みの長髪へと手を伸ばし、茶髪の内側に隠し持っていた9ミリ径の銃弾を2発、キンジへと手渡す。

 

 その白と黒に着色された銃弾は、キンジのよく知るものだった。

 武偵弾。それは銃弾職人(バレティスタ)にしか作れないために高価で希少。そして。その特徴ゆえに超一流の武偵にしか手にすることのできない、一発一発に多種多様な特殊機能を秘めた必殺兵器(リーサルウエポン)である。

 

 ちなみに。今回、キンジが金一から渡されたのは、白色の閃光拳銃弾(フラッシュ・グレネード)と、黒色の炸裂弾(グレネード)閃光拳銃弾(フラッシュ・グレネード)は理子やレキに使われたことがあり、炸裂弾(グレネード)はこれまた理子がブラド相手にお見舞いした現場に居合わせていたため、キンジにとっては両方とも馴染み深い武偵弾である。

 

 

「俺は今、死の淵にいる。ゆえに、体の不調のせいでこれらを使うタイミングを逸する可能性が否めない。……だから、その2つをここぞという時に使うんだ」

「了解」

合わせろ(・・・・)、キンジ。共に教授(プロフェシオン)を倒し、捕まえるぞ!」

「ッ!? 兄、さん!?」

 

 キンジの隣に立ち、勇ましい声を上げる金一に対して、キンジはこれでもかと目を見開いた。それは、兄が弟の俺を足手纏いではなく、共通の目的を元に一緒に戦う意思を本人の口からはっきりと示してくれたから……ではない。

 

 では、どうしてキンジが驚きの表情を浮かべたのか。答えは簡単。キンジの知らぬ間に、金一の背後に水色に透き通った『何か』を掲げた、見覚えのある少女が存在していたからだ。

 

 

(え、ちょっ、何やってんの?)

「そこまでだ、愚か者。――その身に刻め、魔女粉砕(ウィッチ☆パウンド)!」

「なに――ぎゃいんッ!?」

 

 水色に透き通った『何か』、もとい側面に100トンと刻まれた氷の巨大ハンマーを掲げた少女――ジャンヌ・ダルク30世――が何を血迷ったか、金一の後頭部にハンマーをもぐら叩きの要領で上段から渾身の力を込めて叩きつける。その結果。キンジにばかり注意を向けていたせいで背後が疎かになっていた金一はドゴォと氷の巨大ハンマーの餌食となり、珍妙な悲鳴を上げるとともに甲板にドサッと倒れ、そのままあっさり意識を失った。

 

 

 かくして。キンジが非常に心強い助っ人である金一とともにボストーク号へ乗り込む的な非常に燃える展開は、空気を読まないジャンヌのウィッチストップ(物理)の影響により、何の因果か光の速さでどっかしらにフライアウェイするのだった。

 

 




キンジ→アリアをシャーロックに奪われたことでヒステリア・ベルセを発動させた熱血キャラ。兄と共闘するという、もう二度とないかもしれない貴重なチャンスを無惨にも潰された、かわいそうな主人公である。
ジャンヌ→背後からの不意打ちであっさり金一の意識を刈り取った厨二少女。何だかんだ、海からは生還した模様。また、最近はフリーダム属性をも身につけているような気がする。
金一→原作と似たような口調&性格ながらも、素で天然な所もチラホラみせてくる人。66話でも軽く触れたが、ご当地レオぽんのぬいぐるみを収集し愛でる性質がある。……とりあえず、カナ姉を返してくれ(←理不尽)
パトラ→今現在、最もヒロインっぽい立ち位置にいる貴腐人。ここ数話の間で一気に善人になったように思えるのはきっと気のせいではない。あと、カリスマはどこかへと旅立ったらしい。


ジャンヌ「クックックッ……銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)、颯爽登場ッ!」
ふぁもにか「 ま た ジ ャ ン ヌ か 」
ジャンヌ「あぁ、またなんだ。すまない」

 というわけで、119話終了です。相変わらずシリアス基調な展開の中でギャグさんがちょこっとだけ「やぁ」と顔を出してくる感じの内容でしたね。

 ちなみに。ヒステリア・アゴニザンテがヒステリア・ノルマーレと比べてどの程度の性能か書いていないのは、私が確認した限りにおいて、ヒステリア・アゴニザンテの性能が原作で明かされてないからです。まぁ死に際の人間が子孫残したい本能で覚醒するわけですから、ヒステリア・ノルマーレより遥かに性能が良いと考えるのが妥当でしょうが。

 それにしても……さっすがジャンヌちゃん。100トンの巨大ハンマーを軽々使えるなんて、華奢な見た目と違って何て力持ちなんだー(棒読み)


 ~おまけ(ジャンヌの使った技説明)~

・魔女粉砕(ウィッチ☆パウンド)
→某海賊漫画のウソップさんをリスペクトした技。実際は5キロ程度の重量である氷の巨大ハンマーを生成する際、側面にデカデカと100トンと刻んでおくことで、『100トンというとんでもない重さのハンマーを軽々持っている自分』という存在を相手に強く印象づけさせ、相手の恐怖心と警戒心を煽ることができる。心理的な駆け引きとしてある程度は使えるネタ技だが、ジャンヌ自身はあまり好んで使わなかったりする。

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