【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。そろそろ第四章も終わりが見えてきましたね。途中で執筆放棄したり復活こそしたものの更新速度が大幅に減速したりと随分の長い間、第四章にかかりきりでしたね。本当に申し訳ないです、あい。……早くこの第四章と第五章を終わらせてキンジくんたちがのんびりと日常してる話を書きたいでござる。

 ちなみに、今回更新が遅くなったのは人狼にハマってたからです。人狼ゲームにハマって、熱血キンジと冷静アリアキャラに人狼させようと精一杯頭使って、散々時間使って粘ったくせして結局「あ、これ無理だ」と投げ出したりしてたからです。……人狼ってホント頭使うよね。アホなふぁもにかにはわけがわかりませぬ。



115.熱血キンジと予期せぬ闖入者ども

 

 闖入者ことジャンヌが見渡す範囲の空気中の水分を凍らせる大技たる『凍てゆく世界(フリージング☆ワールド)』を行使した影響により、すっかり氷に凍てついてしまった『王の間』にて。

 

 

銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)、颯爽登場ッ! クククッ、クハハハハッ! ハァーッハッハッハッハッハッ!!」

 

 ジャンヌは笑う。あたかも死人が蘇る様を目撃したかのような驚愕の表情を浮かべるパトラ(※ついでにキンジ)を見やり、愉悦顔で狂ったように哄笑する。今のジャンヌの狂気に満ちた笑顔は、おそらく泣く子も気絶する程度の破壊力を秘めているようだった。

 

 

「ジャンヌ・ダルク30世さん!? 貴女、どうしてここへ――」

「どうして? どうしてだと? クッハハハハハハハッ! そうかそうか、貴様がそれを言うか。一時的とはいえ我が盟友リコリーヌから右目の視力を奪い、さらにはゴレムでリコリーヌを殺そうとした貴様がそんな戯言を口にするか、クレオパトラッシュ! 我がなぜここへ来たか。簡単だ、リコリーヌに危害を加えた貴様に一矢報い、我の溜飲を下げるためだ! ……存外到着が遅れてしまったからどうなることかと危惧していたが、貴様が下らぬ前口上を長々と垂れ込んでいたおかげでどうにか無事間に合ったようだ。愚かだな、クレオパトラッシュ。大した意図もなしに敵を前に長々と語るなんて三流のやることだぞ?」

(それ、割とブーメランでジャンヌに帰っていく言葉のような……今もそうだけど、地下倉庫(ジャンクション)の一件の時にも散々語ってなかったか、ジャンヌ?)

 

 キンジの疑問を代弁してジャンヌに問いかけるパトラに対し、ジャンヌはそのオッドアイな両眼に激しい憤りの炎を宿しながらパトラを愚かだと嗤う。やたらハイテンションで得意げな今のジャンヌには、キンジが冷たい視線を送っていることなどまるで気づかない。

 

 

「貴女がここへ来た理由を尋ねているのではありませんわ! 私は貴女を入念に呪って、大怪我を負わせたはず。たかが数週間程度ではまず完治できないほどの深手を負わせたはずなのに、どうして傷一つありませんの!? こんなのおかしいですわ!?」

「あぁ、何だそっちか。クククッ。なに、大したことじゃない。貴様がこそこそと怪しげな蟲を我の元に飛ばしているようだったからな……偽者の我とすり替えておいたのさ」

(……偽者とすり替えた? どういうことだ?)

 

 問い詰めるように疑問を投げかけるパトラに、ジャンヌは「ふむ」と両腕を胸の辺りで組みつつ、相変わらずドヤ顔のまま種明かしをする。ジャンヌの発言の意味がよくわからず、内心で疑問を抱えながらもパトラとジャンヌとの掛け合いを静観するキンジ。すると。ほどなくしてパトラから「……な、何を言っておりますの?」との困惑の声が生じた。

 

 一方のジャンヌは羽織っている黒マントの内側からとある物を取り出す。ジャンヌが右手の人差し指と中指で挟んで取り出したのは、白雪が使っていた紙人形だった。

 

 

「それ、ユッキーの……!?」

「ほう。気づいたか、遠山麓公キンジルバーナード。我はユッキーお姉さまに氷の超能力を伝授する代わりにユッキーお姉さまの持つ技術を学び、習得した。まぁ、瞬く間に我の技術を全て吸収しきったユッキーお姉さまと違って、我はまだあまりユッキーお姉さまの技術を我が物にできてはいない。が、それでも紙人形を元に身代わりを作り差し向けるぐらいのことはできるようになった。ゆえに。クレオパトラッシュの怪しげな動きを事前に察知した我はこれで偽者を作り、そいつに被害を肩代わりしてもらった。あとは救護科(アンビュラス)の連中に口裏を合わせるよう依頼し、時が来るその時までネットカフェにでも潜伏すれば、トリックの完成というわけだ」

「なるほど、そういうわけか。けど、パトラだけじゃなくて味方まで騙すって……」

「ククッ、敵をより確実に騙すためにまず味方から徹底的に騙す。策士なら選んで当然の手法だ。……クレオパトラッシュの警戒の目から抜け出すために敢えて奴の思惑通り怪我をしたフリをしてクレオパトラッシュの出方を伺う方針を選んだ以上、真実を知っている者は一人でも少ない方が都合がよかったのだよ」

 

 ジャンヌはひとまず自慢げにクツクツと肩を震わせながら話すも「まぁ盟友リコリーヌやユッキーお姉さままで騙さざるを得なかったことについては申し訳ないと思っているが」と眉を寄せて言葉をつけ足す。ここまで全力で悪役チックな言動を取ってきたジャンヌだったが、どうやら味方を騙してしまったことへの罪悪感もそれなりに抱いているようだ。

 

 ちなみに。ジャンヌが本当は怪我などしていないことを事前に知っていたのは武藤と平賀のみ。それゆえの武藤がジャンヌに放った『……なぜ、言わない?』発言である。また。ついでだが、怪我一つない状態で車輌科(ロジ)のドックへ姿を現したジャンヌを見た時の理子の驚きっぷりが珍妙かつ凄まじかったことをここに記しておく。

 

 

「……貴女のトリックは理解いたしましたわ。それで、貴女はこれからどうしますの? 私が峰理子リュパン四世さんに手を出したことに怒ってここまでわざわざやって来たとのことだから、私との戦闘の意志はあるのでしょう。しかし、貴女ごときが私に勝てると本気で思っていますの?」

「我の話を聞いてなかったのか、クレオパトラッシュ? 言っただろう? 我はリコリーヌに危害を加えた貴様に一矢報い、我の溜飲を下げるためにここに来たと。既に『ほとばしる三角柱(ピアシング☆デルタ)』を貴様に命中させることができた以上、我にもう貴様と兵刃を交える気など毛頭ないさ」

「だったら、貴女は一体何のために――」

「――クククッ、仮にも策士ポジションを自称するなら少しは自分の頭で物を考えたらどうだ? それとも貴様には物を考える頭がないのか? 意外だな」

「なん、ですってぇ!?」

「ほらほら。顔を真っ赤にさせて積極的に自分はすっごく怒ってますアピールをするのもいいが……頭をフル回転させて考えるがいい、策士クレオパトラッシュ。緊迫した状況の中、敵が長々と話をする時……それは2パターンに分かれる。1つは根拠もないのに勝利を確信した単なるバカの自殺行為。そしてもう1つは――時間稼ぎを目的とした策士の巧妙な罠、だ」

「ッ!?」

「さて、そろそろいいか?」

 

 ジャンヌは閉ざされたままの『王の間』の扉に目線だけ向けて問いかける。すると、『王の間』の入口たる巨大な扉にいくつもの斬撃が刻まれ、ドゴォォォンと扉が木っ端微塵に砕かれる。そうして。粉々に破壊された扉からスタスタと足音を引き連れて現れたのは――三つ編みにされた綺麗な茶髪にエメラルドグリーンの瞳をした、キンジが人類史上最も美しいと捉える存在だった。

 

 

「ええ、十分眠気が取れたわ、ありがとう。ポンデリングモンド・グロッソ」

銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)だ。何をどう間違えたらそんなヘンテコな名前になるんだ、わけがわからないぞ」

 

 武偵高の女子制服を身に纏った、あまりの美しさに神々しさをも感じてやまない美女ことカナ(※現在、アホの子モード)がふわぁぁと気の抜けるあくびをしながら登場し、ジャンヌがあまりに酷いカナによる自分の名前の呼び間違えを直ちに修正する。そんなカナの様子をまざまざと見せつけられる形となったキンジとパトラは衝動のままにそれぞれ「兄さ――いや、カナ姉!?」や「カナさん!?」などと驚愕の声を上げることとなった。

 

 

「思わぬサプライズゲストに驚いたか? クククッ、我がここへ来た目的は2つ。その内、本命は神崎・H・アリア奪還に乗り気な姿勢を見せたカナリアーナの案内人としてここまで彼女を連れてくること。クレオパトラッシュへの私怨を晴らすのはあくまでそのついでだったということだ」

「カ、カナ姉……!」

「キンジ。貴方は言ったわよね。私が眠っている間に私の悩み事を悪い夢だったと思えるようにして見せるって。でもね、キンジ。私は大事なことを人に丸投げにしてのほほんとした夢を見ているのは主義じゃないの。キンジが私を悪い夢から解放しようと頑張ってくれているのなら、私も弟のために全力を尽くしたい」

「カナ姉……」

「キンジ、これはお礼よ。キンジは私に、大切なことを教えてくれた。義は決して妥協してはいけないこと、そして己が貫くべきと思ったことは何が何でも貫き通すこと。おかげで私は失ったものを取り戻せた。だから。そのお礼を、授業料を今からここで払うことにするわ」

 

 どうやらあっという間に平常運行の真面目モードに切り替わったらしいカナの胸の内を聞いたキンジは「そっか。ありがとう、カナ姉」と素直に感謝の言葉を口にする。

 

 カナがアリアを殺さない『第二の可能性』を選択し、アリアを助けるために実際にここまでやってきてくれたという事実に、キンジが確実にアリアを助けられるようにカナがパトラの妨害を買って出てくれたという事実に内心で感激しながら、キンジは心の内からの感謝の言葉を述べる。

 

 

「お礼はジャンヌに言いなさい。彼女がいなければ、私はここまで来れなかったわ」

 

 旗色が悪くなったこの状況をどう打開すべきかとこっそり探っているパトラが余計な行動をしないようキッと睨みつつ、カナはキンジの感謝の言葉を受け取り拒否し、代わりにジャンヌへと差し向ける。と、ここで。珍しく空気を読みキンジとカナの話に口を挟まなかったジャンヌが「全くだ、我がここまで貴様を連れてくるのにどれだけ苦労したことか……」と沈鬱なため息を吐いた。

 

 

「ジャ、ジャンヌ?」

「遠山麓公キンジルバーナード。カナリアーナがヒステリア・サヴァン・シンドロームの発動時間を長引かせるため、真面目な時ととてつもなくアホな時とを切り替えているのは知っているな?」

「あ、あぁ」

「なら話は早い。当初、我はカナリアーナにはクレオパトラッシュの居場所を伝えるだけにして現地でカナリアーナと合流する予定だったんだ。クレオパトラッシュの居場所を電話で尋ねるだけ尋ねてすぐに電話を切ったことから、カナリアーナは独自の移動手段を持っているとの前提を元に、我はあの技術チートな2人にオルクス2号(※オルクス簡易版)をちゃっちゃと作ってもらって、それで貴様とユッキーお姉さまの後に続こうとしていたんだ。……だが。そこでふと、我は嫌な予感がしたんだ。その嫌な予感に従った我はすぐさまカナリアーナの居場所を逆探知し、現場に向かった。そしたら――」

「――そ、そしたら?」

「カナリアーナがレンタルしたママチャリで海を渡ろうとしていたんだ」

「……はい?」

「本人は『私は21世紀の青雉。海だって余裕で渡れるわ。要するに車輪が沈む前にペダルを漕げばいいわけでしょう?』などとわけのわからないことを供述していたから、無理やりオルクス2号に座らせてここまで連れてきたんだ。そういう時に限ってカナリアーナがずっとアホのままでいたせいでどれだけ精神を消耗したことか……」

 

 ジャンヌによって明かされた、カナ乱入の裏側を知ったキンジは、徐々に死んだ目へと移行してゆくジャンヌに対し「……お疲れ様、ジャンヌ。いや、銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)」と彼女の苦労を労わる言葉を掛ける。キンジがわざわざジャンヌを真名で呼ぶ辺り、フリーダムなカナの相手で蓄積された労苦を背負うジャンヌを真に気遣う心情が表れている。

 

 

(まさかママチャリで海へ突撃しようとしてたなんて……俺はカナ姉のアホの子モードを少し過小評価していたのかもしれない。やっぱ何しでかすかわからないアホの子モードは恐ろしすぎるな)

「さて、カナリアーナ。一応聞いておくが、我の助力は必要か?」

「ジャンヌ、心して聞きなさい。乙女と乙女との決闘は、昔も今も1対1で行うもの、2対1なんて美しくないわ。それに。今の私はイ・ウーのセンターポジションなんて余裕で狙えるから、元イ・ウーナンバー2の脇役なんて相手じゃないわ」

「承知した。では、我はユッキーお姉さまの保護に回るとしよう」

 

 凛とした声色でジャンヌの手助けを断るカナ。カナの堅い意志を確認したジャンヌは「ユッキーお姉さまぁぁああああああああ! どこですかぁぁあああああああああ!」と大声を上げながらカナの元から去っていった。ついさっきまで全力で悪役をやっていた者と同一人物とは思えないほどのテンションの落差である。

 

 

(ま、ジャンヌがいてくれるんならユッキーのことは心配しなくてよさそうだ)

「あ、そうそう。言い忘れるところだったわ。キンジ。私があげた、緋色のバタフライナイフを今持っているかしら?」

「あぁ、持ってるけど……」

「そう。なら、そのナイフを持ったまま今すぐアリアとキスしてきなさい」

「……へ?」

 

 カナからの突然の爆弾発言にキンジの頭は一瞬にして真っ白に染まった。今の緊迫した状況にまるで似つかわしくない言葉が唐突にカナの口から飛び出てきた影響により、キンジの思考回路は無意識の内に一時的にショートした。

 

 

(え、え? 何、どういうこと? もしかしてカナ姉、いつの間にアホの子モードに切り替わってたりする?)

「カ、カナ姉? ちょっと、何言って――」

「あ、もしかしてキスは初経験かしら? だったらキスコールとか必要? それならここでやっておくわよ。パトラの相手をしながらでもそれぐらいならできるから」

「いやいやいや、そういう問題じゃないから!? なんで俺がここでアリアとキスしないといけないんだよ!? 場違いにも程があるだろ!?」

「それがアリアの呪いを解く、最も効率的な方法だからよ」

 

 なんで心の準備もなしに意識のないアリアとキスをしないといけないのか。そのような疑問を胸に、羞恥心から顔をカァァと紅潮させて声を荒らげるキンジにカナは平然と返答する。あくまで真剣な眼差しをキンジに注ぎつつ、「もう時間はほとんど残されていないわ。急いで」と言葉を付け加える。

 

 カナのエメラルドグリーンな両眼に宿る、理知的な光。それは、今のカナが冗談で物を言っていない証左だった。言い換えれば、それは――アリアを救うためには、アリアとのキスが欠かせないという何よりの証だった。

 

 

(~~~ッ!! とりあえず! キスとかそういうのを考えるのは後だ! まずはアリアを取り戻さないとッ!)

 

 キンジは自身の頭が余計なことを考えないようにブンブンと頭を左右に勢いよく振る。そうして。ある程度冷静さを確保したキンジは、アリアが収められているのがほぼ確定的な黄金の棺へと直行する。

 

 

「素直に行かせると思いまして!?」

 

 しかし。ここでパトラの声が響き渡ったかと思うと、キンジの元にパトラの生成物が一斉に襲いかかる。計300本はあろうかというナイフが、計100体はいようかというジャッカル男・鷹・アナコンダ・豹の軍勢が、キンジを殺戮せんと束になって迫ってゆく。そのあまりの弾幕具合に、キンジは思わず立ち止まり「はぁッ!?」と驚愕に目を見開く。

 

 カナが現れてからというもの、キンジたちの会話に一切介入することなく、警戒の眼差しを注いでくるカナの視界に入らない領域にて、こそこそと地道に砂金から生成しつづけたパトラの軍勢。しかし、無能力者を余裕でオーバーキルできる過剰戦力に為すすべもなくキンジがやられることはなかった。なぜなら、キンジとパトラの間に割って入ったカナが不可視の銃撃と斬撃でパトラの生成物をもれなく全て壊しきったからだ。

 

 後にキンジは語る。長い三つ編みを躍らせて華麗にその場で回転しつつ、不可視の銃弾(インヴィジビレ)サソリの尾(スコルピオ)を駆使してパトラの放つ軍勢を破壊し尽くし、キンジを守るその姿は、天女と評するのもおこがましいほどに神秘的だったと。

 

 

(た、助かった……。カナ姉、ナイス!)

 

 何ら危なげなくパトラの攻撃から自分を守ってくれたカナ。その事実を受け止めつつ、キンジは再び黄金の棺へと駆けてゆく。例えまたパトラが何か仕掛けてこようとカナ姉なら絶対に自分を守ってくれる。だから、これから何が起ころうと立ち止まり後ろを振り向くことは絶対にしないと心に決めながら、キンジは走る。

 

 

「やっぱり用意してたのね。話し好きな貴女がずっとだんまりだったから、そろそろ仕掛けてくると思っていたわ。……でも、それを私に使わなかったのは失敗ね。私に集中砲火させれば、まだ貴女の勝機はあったかもしれないのに。……ふふ、パトラ。貴女は今、最もやってはいけないことをした。私の目の前で、キンジに危害を加えようとした。覚悟は当然――できているわよね?」

 

 一方、パトラに立ち塞がるカナはニッコリ笑顔を形作るために口角を吊り上げる。聖母のようなカナの微笑みと、しかし絶対零度のような冷たさを誇るカナの口調とのあまりのギャップにパトラの口から思わず「ひッ!?」という小さな悲鳴が漏れた。

 

 

「さぁ、パトラ。私と全力で遊びましょう。私の切り札の不可視の銃弾(インヴィジビレ)サソリの尾(スコルピオ)……キンジは初見で悠々と攻略しちゃったけど……貴女はどうかしら?」

「バ、バカにしないでくださいませ! 無能力者ごときにできて、私にできないことなんてこれっぽっちもありませんわッ!」

 

 爪先をわずかに動かして無形の構えを取りパトラを挑発するカナを前に、パトラは深窓の令嬢な雰囲気から思いっきりかけ離れた、怒りの形相で声を荒らげる。カナという存在に畏怖を抱き、即刻降参したくなる心情を無理やり押さえつけるために敢えて大声を上げる。

 

 

 かくして。カナはパトラの注意を一手に引きつけることに成功し、キンジはようやく誰にも邪魔されることなくアリアが収められているであろう棺の元へ到着するのだった。

 

 




キンジ→基本、聞き役に徹していた熱血キャラ。前回の活躍は一体何だったのかと言わんばかりの存在感である。アリアとのキスを想像して顔を真っ赤にさせる辺り、初心である。
ジャンヌ→アホの子モードなカナの影響ですっかり苦労人と化した厨二少女。彼女がいなければカナがパトラの元へたどり着けなかったことを踏まえると、ジャンヌの功績は非常に大きい。ちなみに。ネットカフェだけでなく厨二病喫茶こと不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)辺りでも潜伏していた。
カナ→ある意味で通常運転な男の娘。今回はほぼ真面目モードだったため、思ったより全然はっちゃけない結果となった(※ただしおまけは例外)
パトラ→ジャンヌとカナの乱入のせいで一気に小者臭を漂わすようになった貴腐人。戦場はパトラのホームグラウンドだというのにまるで勝てる気がしないのはきっと気のせいではない。

 というわけで、115話終了です。久しぶりにカナさんを登場させられたので、執筆しててとても楽しかったですね。本当はユッキーも登場させるつもりだったんですけど……ここ最近は目立ってたし、今回は空気でいいですね、あい。

 ちなみに。こうしてカナさんが乱入してきた時点でもう第四章クライマックスは終わってます。原作既読者ならお察しだと思いますがね。なので当然、原作4巻と同様、カナとパトラとの戦いは描写しません。気になる方は、自由に妄想しちゃっててください。


 ~おまけ(その1 ネタ:アホの子キャラに特有の『あの』属性)~

ジャンヌ「さて、そろそろいいか? カナリアーナ?(←閉ざされた『王の間』の扉に目線だけ向けつつ)」
キンジ&パトラ「「……」」
ジャンヌ「む、カナリアーナ? どうした、早く出てこい」
キンジ&パトラ「「……」」
ジャンヌ「……む、なぜ出てこない? あんまり出番を引っ張った所で大した効果はないぞ? 早く姿を現すといい、カナリアーナ」
キンジ&パトラ「「……」」
ジャンヌ「な、なぜだ? なぜ登場しない? これは一体……ッ!? ま、まさか――まさかとは思うが、このピラミッド内で迷子になったとかそういう展開じゃあるまいな!? どういうことだ、篝火を目印にすればここまで迷うことなくたどり着けるはずだぞ!?」
キンジ&パトラ「「……」」
ジャンヌ「ええい、いつまでもここで待ってられるか! 今からここにカナリアーナを連れてくる! それまで貴様たちはそこで待機しておけ! いいか、絶対に勝手に話を進めるんじゃないぞ! いいな!? 絶対だぞ!?」
キンジ&パトラ「「あ、はい」」

 姿の見当たらないカナを探すため、全力ダッシュで『王の間』から去るジャンヌ。

キンジ「どないせいっちゅうねん」
パトラ「全くですわ」

 ピロリン! キンジとパトラとの親密度が3上がった!


 ~おまけ(その2 裏話:フリーダムカナさんと苦労人ジャンヌちゃん)~

 カナから電話がかかり、パトラの居場所を尋ねられたジャンヌ。
 一度はパトラの居場所を伝えて電話を切ったジャンヌだったが、唐突に嫌な予感がしたため、すぐさま逆探知したカナの居場所へと直行することにした。

 そうして。空き地島へとやって来たジャンヌが目の当たりにしたのは――ママチャリを携えて海を見据えるカナ(※アホの子モード)だった。

ジャンヌ「おい、カナリアーナ」
カナ「あら、ジャンヌ。こんな所で会うなんて奇遇ね」
ジャンヌ「貴様、何をやろうとしている?」
カナ「何って、海を渡ってキンジの元へ行くつもりよ」
ジャンヌ「……ほう。そのママチャリで『東経43度19分、北緯155度3分』の地点へ行く気なのか」
カナ「ええ」
ジャンヌ「本気なのか?」
カナ「当然よ」
ジャンヌ「……カナリアーナ、愚かな真似は止めるんだ。ママチャリごときで海上にあるクレオパトラッシュの拠点へ行くなんて無理だ」
カナ「じゃあ――もう少し、無理させてもらおうかしら? だって、私の辞書に『無理』なんて言葉はないもの」
ジャンヌ「貴様の辞書事情なんて知るかぁッ! 無理なものは無理だ!」
カナ「大丈夫、私なら行けるわ。青雉だってやってたもの。ロングリングロングランド付近の海をチャリで走行していたもの。……私は21世紀の青雉。海だって余裕で渡れるわ。要するに車輪が沈む前にペダルを漕げばいいわけでしょう?」
ジャンヌ「だから無理だって言ってるだろうが! 青雉ができたからって貴様にできる道理はない! ついでに貴様は21世紀の青雉でもない! 何なんだ、貴様のその根拠のない自信は!? 一体どこから湧き出てる!?」
カナ「ジャンヌ、不安な気持ちはわかるわ。よくわかる。でも、お願い。私の目をよーく見て。――私を、信じて。ね?」
ジャンヌ「信じられるかぁぁあああああああああああああああああ!」
カナ「あ、そうだ。そうだわ。ジャンヌ、貴女が海を適宜凍らせれば、青雉のようにより確実に海を渡れる。パトラの所まですぐにたどり着けるわ」
ジャンヌ「……百万歩だ。仮に百万歩譲って貴様の意見を我が聞き入れたとして、我をどこに乗せる気だ? そのママチャリは一人乗りだろう?」
カナ「そんなの、ここに乗せれば解決よ」

 ジャンヌをお姫さま抱っこの形でひょいと持ち上げ、ママチャリの前カゴにすっぽりお尻をハメる形でジャンヌを置くカナ。

ジャンヌ「ふ、ふふ――」
カナ「どう、名案でしょ?」
ジャンヌ「ふざけるなぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ジャンヌはママチャリの前カゴから脱出し、カナの手を乱暴に掴んで引っ張ってゆく。

ジャンヌ「我に続け(フォローミー)、カナリアーナ! クレオパトラッシュの元へ向かう手段を今、天才技術者2人に作らせている! もうすぐ完成するからそれを使って行くぞ! いいな!?」
カナ「えー、でもせっかくママチャリレンタルしたのにぃ……」
ジャンヌ「えー、じゃなぁぁああああああああああああああああい!!」

 苦労人ジャンヌちゃんの巻。
 アホの子に振り回されるのはいつだってツッコミスキルを保持する者である。

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