【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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??「私のターンだね、フフッ」

 ……というわけで、どうも。ふぁもにかです。今回は例のあの人がちょっとだけ登場します。今まで地の文にちょこっとしか登場してなかったあの人がついにチラッと登場してしまいます。本来登場させるつもりのなかったあの人がなぜかキャラが勝手に動く理論で本編に現れてしまっています。さてさて。誰でしょうかね。

P.S.少々魔が差してしまった私はつい衝動的にネギま!の刹那さん主体のクロスオーバーモノの連載をちゃっかり始めちゃってます。まぁあちらの方は4,5話で終わる短編モノ&あくまで本命は『熱血キンジと冷静アリア』なので、この作品の更新ペースに影響は及ばない……と信じてます。ええ。



11.熱血キンジと解析結果

 

 バスジャック騒動が終結した数日後の放課後。

 

「……キンジ……」

「ん? どうした武藤? 何かオススメのライトノベルでもあったのか?」

 

 2年A組教室にて。キンジは自身の肩に手を乗せて呼び止めてきた武藤の方へと振り返る。そして。頭に包帯が巻かれている武藤へと軽く疑問の声を投げかける。

 

 武藤は大体週に一回のペースで俺に新しいライトノベルや漫画を貸してくれる。どこからか武藤が発掘してくる作品はどれも俺の好みを真芯で捉えたものばかり。そのため、俺は気晴らしとして武藤の提供するオススメシリーズをそれなりに楽しみにしているのだ。

 

 そんなんだから最近武藤の趣味に侵されてきてるんだよなぁとキンジが心の中で一つため息を吐いていると、武藤は「……否……」と首を左右にフルフルと振ってくる。どうやら今回は別件で俺を呼び止めたらしい。

 

「……キンジのくれた機械音声の解析、完了した……」

「ッ!? 本当か!? さっすが武藤! 仕事が早くて助かるぜ! で、どうだった? 何か有力な手がかりはあったか!?」

「……キンジの部屋で話す。あまり他人に聞かれたい話じゃない……」

「そ、それもそうだな」

 

 武藤はまばらにクラスメイトの残っている教室をサッと見渡すと、有無を言わさぬ口調でそうキンジに言い残してテクテクと男子寮へと歩を進めていく。行き先はもちろん、キンジの部屋である。実はちょっとだけ武藤の秘密基地に行きたいなぁなどと兼ねてから思っていたキンジだったが、好奇心猫を殺す。下手に首を突っ込むと色んな意味で取り返しのつかない事態になりかねない。ということで、キンジは自身の知りたい願望にしっかりと蓋をしてから武藤の後を追うのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ただいま、アリア」

「ん。おかえりなさい、キンジ」

 

 キンジの部屋のドアを開けたキンジと武藤を出迎えたのはオーソドックスな割烹着姿で掃除機のホース部分を手に持つアリアだった。どうやら今のアリアはこだわりのツインテールからポニーテールへと髪型を変えているようだ。基本的に武偵高に通ったり外に出かけたりする時のアリアはツインテール一筋なのだが、部屋にいる時のアリアは大抵髪型を弄っている。アリア曰く、家ではその日の気分でサイドテールに結んでみたり、オールバックにして額を丸出しにしてみたり、桃髪をストレートに下ろしてみたりと、色々な髪型に精力的に挑戦しているんだそうだ。バリエーションが実に豊かそうでなによりだ。よって。本日のアリアはポニーテールの気分、というわけなのだろう。

 

 アリアのポニーテール姿は初めてだが、こうして見てみるとポニーテールも中々似合っている。割烹着姿も相重なってか、母親に褒められたい一心で母親の家事の手伝いを密かに行う子供そのものに見えて仕方がない。キンジはおぼつかない様子で家事を頑張るアリア(幼女時代)とそれをこっそりと見守る男前の神崎かなえを想起して、内心でうんうんと頷く。

 

 尤も、これ以上考えているとアリアの鋭い直感が俺の思考を正確に読みかねないので割烹着アリアに対する思考はここらで打ち切っておくことにするのだが。アリアに修羅をその身に召喚されると厄介極まりないからな。

 

 アリアは俺の部屋に住み着くようになってから、部屋の掃除全般を一手に引き受けるようになった。何でも、料理関連の全てを俺に任せているからこれくらいは自分でやりたいんだそうだ。二人暮らしの際には家事の分担が必須、無用な口論を避けるために必要不可欠だとも言っていたが。

 

 アリアの申し出を聞いた時、俺は素直にありがたい気持ちに駆られた。何せ、この部屋は元々4人部屋だ。1人で過ごすには無駄に広いこの部屋を掃除するのは中々に骨の折れる作業だったのだ。それに。時々アリアから発せられるどことなく高貴な雰囲気が関係しているのか、アリアは結構真面目な性格な上に綺麗好きの一面も持ち合わせているので、部屋をかなり清潔に保ってくれる。凄腕家政婦的存在(ただし料理は除く)としてキンジがアリアを重宝するようになるのに大して時間は掛からなかった。

 

「……お邪魔します……」

「あ、はい。えーと……武藤剛気さんで合ってますよね?」

「……ん? 名前を知ってる……?」

「転入初日までに2年A組メンバー全員の顔と名前を覚えましたから。それに私の自己紹介の時に自分から名乗っていたではありませんか」

「……そういえば、そうだった……」

 

 アリアは武藤の存在に気づくとポニーテールを揺らして首をコテンと傾ける。すると。武藤の方もふと頭をよぎった疑問に首をコテンと傾けたが、アリアの指摘に「なるほど」と言わんばかりに1つ頷いた。

 

 疑問がすぐに解けてスッキリしたのか、武藤は迷いのない足取りでスタスタとリビングに足を運ぶと椅子にドカッと座る。その椅子のある場所は武藤の定位置だ。勝手知ったるキンジの部屋ということもあり武藤の動作に全く遠慮というものが見当たらない。

 

「……キンジ。神崎さんと同棲してるの?」

「同棲じゃない、同居だ。成り行きでな。なぁなぁでいったらいつの間にやらそうなったんだ」

「……リア充爆発しろ……」

「? 何か言ったか?」

「……空耳……」

「そうか。ならいいけど」

 

 アリアの掃除のおかげで綺麗さを保っている部屋をキョロキョロ見渡した後、どこか剣呑な雰囲気を身に纏った武藤がキンジに問いかけるも、対するキンジは一切動じることなくテキトーに返答する。『ダメダメユッキーを愛でる会』に所属する武藤の怨念の籠った言葉も聞こえなかったのか、完全にどこ吹く風だ。ちなみに。キンジに武藤の捨て台詞はしっかり聞こえている。それでもキンジがとぼけていられるのは一重に今まで鍛え上げてきたスルースキルの賜物だ。

 

 武藤は「……キンジの奴。ユッキーという人がいながら……」と言わんばかりにため息を吐くと、気持ちを切り替えて手早く黒のノートパソコンをテーブルに設置して操作を始める。卓逸したブラインドタッチで次々とウィンドウを表示させて準備を整えにかかる。

 

「……準備完了。これより解析結果の報告を始める……」

「あぁ。それで? どうだった? 犯人は俺たちの知ってる奴なのか?」

「……俺が話すより、直接機械音声を聞いた方が早い……」

 

 キンジは早く機械音声の解析結果を知りたい思いで武藤の返答を急かす。だが。キンジの思いを知ってか知らずか、武藤はノートパソコンに視線を向けたままだ。どうやらさっさと解析結果を伝える気は微塵もないようだ。

 

「何の話ですか、キンジ?」

「あぁ。アリアには言ってなかったな。実はな、この前のチャリジャックの件の機械音声の解析を武藤に頼んでてさ。解析結果次第じゃ今回のチャリジャックにバスジャックの犯人がわかるかもしれない」

「ッ!? 本当ですか!?」

 

 一通り掃除を終えたのか、掃除機を片づけてきたアリアに事情を伝えると、アリアは真紅の瞳を大きく見開いた。驚愕を顕わにするアリアにキンジは「あくまで『かもしれない』、だがな」と保険の一言を付け加えておく。内心で今のは失言だったなと舌打ちしながら。

 

 武藤からもたらされる情報に多大な期待を寄せた所で、その期待に見合うだけの大した収穫は得られないかもしれない。それではアリアにただぬか喜びをさせてしまうことになる。今のうちに少しでもアリアの興奮を冷まさせようと目論んだ結果が先の保険の言葉なのだが、その程度ではアリアの高ぶる気持ちを抑えることはできなかったらしい。アリアの瞳は見る見るうちに爛々と輝いていく。これはアリア抜きで武藤の報告を聞くことはできなさそうだな。キンジはアリアから武藤へと視線を移すとアリアにも話を聞かせてもいいか尋ねることにした。

 

「武藤、アリアにも聞かせていいか? アリアもこの件を追ってるからさ。どんな些細な情報でも知りたいみたいなんだよ。この様子を見ればわかるだろ?」

「……構わない。ただし、他言無用……」

「わかっています」

「……ん……」

 

 アリアは武藤の示した条件に間髪入れずに力強く頷く。すると。武藤は「うむ。良い返事だ」とでも言うように満足げに頷くと再びノートパソコンのスクリーンへと向き直った。

 

「……じゃあ、始める……」

 

 自身のノートパソコンに色々と設定を施した武藤は少々得意げにノートパソコンの再生ボタンを押す。武藤が例の機械音声の解析結果をもったいづけていることからも有力な情報が期待できそうだ。キンジとアリアはゴクリと唾を呑んだ。が――

 

『す、すみませんでしたあああああああ!! 中空知さまァ!!』

『聞こえないよ、不知火くん。うん、全然聞こえない。ねぇ、もっと私に聞こえるように声を張り上げて言ってよ。はい、ワンモアプリーズ?』

『ぎゃぁっぁぁあああああああああああああ!!』

『はぁ。何とも名状しがたい耳障りな叫び声とか出さないでほしいなぁ。あんまりにもうるさいと頭がガンガンするだけで全然聞き取れないんだよね。もっと美しく鳴けないのかなぁ、不知火くん? はい、ワンモアプリーズ?』

『も、もう止めッ――ぐぎゃあ■ぁぁ◆あ%あ×あぁ☆あ◇あ▼あ#$●ああ!!』

「「……」」

 

 しかし。キンジの部屋に響き渡ったのはキンジのよく知る男の無残な懺悔の絶叫だった。今から約半年前に不良ルートを突き進み始めた不知火亮、その人である。「ぎゃあああああ!」というより「GYAAAAAAAAAAAA!!」と表現した方がよさそうな不知火の断末魔の叫びの合間に挟まれる、人の心臓をガシッと鷲掴みにするような底冷えた声を放つ女性の言葉にキンジとアリアは思わず頬を引きつらせる。言葉を失う。

 

「……あ、違った。間違えて別の流しちゃった……」

「――って、武藤!? ちょっ、これ不知火の声じゃねえか!? 何!? 何がどうなってんのこれ!?」

「……何って、この前の件のささやかな仕返しだけど……? ……ちょっと中空知さんに依頼して色々と仕返ししてもらってるだけ。中空知さんも色々と新しい尋問方法を実践するための実験台が欲しいって物欲しそうに言ってたし……」

「いやいやいや! これのどの辺がささやかだ!? 思いっきりハードだろ! 不知火痛めつけまくってるだろ! しかも右上に『LIVE』って書かれてるし! 現在進行形で不知火が痛めつけられてるってことじゃねえか! しかも中空知さんって、あの中空知さんだろ!? ヤバいなんてレベルの話じゃねえよ! このままじゃ不知火が生きて帰って来れないぞ!?」

「……大丈夫だ、問題ない……」

「問題大アリだ!!」

 

 今こうしてキンジが武藤の両肩をガシリと掴んで声を荒らげている間にも不知火の断末魔が盛大に反響する。もう人間が出せる音域でない感がするのは気のせいだと思いたい。スクリーンには何も映っていないため聞こえてくるのは音声のみなのだが、サウンドオンリーなのが逆に恐怖をそそっている気がしてならない。映像がなくとも、なぜだか不知火が尋問科(ダギュラ)Sランク武偵:中空知美咲の魔の手によって血涙を流している様が容易に想起できた。

 

(つーか、待て。ちょっと待て。そういえば不知火の奴、今日欠席してたよな? まさか……朝からずっとか!? ずっとこの状況なのか!?)

 

 既に不知火を襲う惨状が半日ほど続いているかもしれない。明確に否定できない可能性に思い至ったキンジの背中にゾゾゾッと戦慄が走る。

 

 武藤がこのような仕打ちを不知火に仕掛けたのは間違いなくこの前のバスジャックの一件が原因だろう。というか、そうとしか考えられない。ネオ武偵憲章第八十二条、やられたら数十倍にしてやり返せ。武藤はこれを不知火相手にしっかり実行に移しているのだ。バスジャック犯を不知火が刺激したことで頭にガラス片が刺さるという結果を被った武藤の恨みが今、こうして炸裂しているのだ。

 

「あ、あの、武藤さん。人間、誰しも失敗することぐらいあります。今回の所はこの辺でもう許してあげてはいかがですか?」

「……むぅ。神崎さんがそう言うなら……」

 

 一刻も早く現在進行形で不知火を襲う惨劇を止めなければならない。だが。いかに怒れる武藤を説得したものか。キンジが頭を悩ませていると、アリアが先行して武藤の説得に取り掛かる。武藤は諭すようなアリアの提案(※上目遣い付き)に少々不満そうにしつつも不知火へのささやかな仕返し(?)を止めることを了承してくれた。

 

 そのまま武藤は中空知へと新たな尋問方法の実践の中止を要請する。対する中空知ももう十分に実践し終えたのか、「ん。いいよ」とあっさり矛を収めてくれた。彼女の説得が一番の難関だと思っていただけに何だか拍子抜けなキンジだった。

 

 よかった。これ以上、不知火があの中空知さんの脅威にさらされ続けるなんてことはなさそうだ。これで明日武偵高にやってきた不知火の目が死んでいるなんて事態は避けられそうだ。キンジとアリアは心の底からホッと胸を撫で下ろした。

 

「……で、話を戻すけど……いい?」

「あぁ、そうだな。よろしく頼む」

「……じゃあ、まず、これがボイスチェンジャーで偽装した犯人の機械音声……」

『あ、あああ!? ぼ、ボクのセグウェイコレクションがああああああああああッ!?』

 

 武藤が別の音声ファイルの再生ボタンを押すと、再びキンジの部屋に悲鳴染みた絶叫が響き渡る。だが。今度は不知火の断末魔などではなく、れっきとしたチャリジャック犯の機械音声での叫びだった。機械音声なのに涙声に聞こえて仕方ないのは気のせいだろうか。

 

「な、何というか……改めて聞くと、何とも悲痛な叫びですね……機械音声なのに、悲痛の念がヒシヒシと伝わってきているように感じます」

「なぁ武藤。これ、もっと他にマシな音声なかったのか?」

「……否。けど、これが一番いいと思って。色んな意味で……」

「本気でそう思ったんなら俺、お前との付き合い方変えるぞ?」

「……冗談……」

 

 どこか勝ち誇ったかのような笑みでわざわざ悲鳴に似た機械音声の絶叫を例示として選んだ理由を話す武藤。キンジが武藤の感性に思わず懸念を抱いていると、対する武藤は「フッ。やれやれ、この程度の冗談を真に受けちゃって」と言わんばかりに口角を少し吊り上げてみせた。しかし。この程度のことでイラッとなるキンジではない。キンジの磨き上げてきたスルースキルはダテではないのだ。

 

「……そしてこれが、正真正銘の犯人の声……」

「あ、あああ!? ぼ、ボクのセグウェイコレクションがああああああああああッ!?」

「なッ!? この声、理子!?」

「え、と。理子というと、確か峰さんのことですよね?」

 

 キンジは武藤が次に流した音声に己の耳を疑った。その声は普段の武偵高生活でよく聞いている理子の声だったのだ。理子の声はアリアのアニメでよく出てくるチビ属性のヒロインのような声と同様に中々特徴的なのですぐにわかる。だけど。この機械音声が理子のものだということは。それはすなわち、理子がチャリジャック及びバスジャックの犯人ということになる。それはつまり――理子が武偵殺しの真犯人で、アリアの母親の神崎かなえに罪をなすりつけた張本人だということに他ならない。

 

「ま、待て。待てよ、武藤。これ、どういうことだ? 何の冗談だ?」

「……俺もにわかには信じがたい。……が、これが結果。あの機械音声は峰さんのもので、ファイナルアンサー……」

「ウソ、だろ……!?」

 

 武藤の示した解析結果にキンジは声を震わせる。一筋の不快な汗がキンジの頬を伝う。信じられない。いや、信じたくないといった方が正解か。理子が、大抵のことに怯えて震えて「ひぅ!?」などと悲鳴を上げていた理子が、戦場において一般人以上に役に立たなさそうなあの理子が、神崎かなえに濡れ衣を着せたということが信じられない。人を、それも帯銃が当たり前の武偵を殺したことが信じられない。そもそも、人に凶器を向けるような真似をしたこと自体が信じられない。

 

 でも。よくよく考えてみれば。チャリジャックの一件を思い返してみれば。

 

――あ、あー、マイクテスマイクテス……。ゴホン。えー、この自転車には爆弾がついてますデス。えっと、ちゃんと聞こえてマス?

 

――速度を落としたら爆発しますデス。……ホントですからネ! ホントにホントなんですからネ!

 

――あなたに恨みはありませんけどここで死んでもらいますデス。運が悪かったとでも思って諦めてくださいデス。ご、ごごごめんなさああああああい! 祟らないでえええええええええ!

 

 自分が主導権を握っている状況下でのあの念の押しようは、怯えようは、ビビりようは、機械音声で声色が変えられていてもまさしく理子の反応そのものだった。むしろ今までどうして気づかなかったのかと過去の自分自身を問いただしたくなるレベルに理子らしい反応を見せていた。でも、それでも――

 

 いや、本当は気付いていたのかもしれない。それなのに。理子が機械音声の主だという考えに至らなかったのはきっと、俺と理子とが何だかんだである程度の親交があったからだろう。そのことが俺が『理子=武偵殺しの真犯人説』から目を逸らす大きな要因となってしまったのだろう。

 

「まだ武偵殺しの真犯人が峰さんに決まったわけではありませんよ、キンジ。黒幕が峰さんに罪をなすりつけようとしている可能性もまだ十分に考えられます。濡れ衣を着せるのは奴ら(イ・ウー)の得意技の1つみたいですし」

「……だけど、理子のあの性格が全くの偽物だって可能性もある。そうだろ?」

「はい。その通りです」

 

 アリアは「まぁ、もしそうだとしたら峰さんの演技は大したものですね。敵ながら天晴のレベルです」と言葉を続ける。シリアスムードの中、アリアの手がももまん入りの松本屋の袋へと伸びているのは例に漏れず無意識のことなのだろう。

 

「……とにかく、一度理子と接触する必要がありそうだな」

「……その峰さんのことだけど。今夜7時、ロンドン武偵高の依頼を受けに羽田発のチャーター便でロンドンに渡る模様。その依頼もつい3時間前に受けているみたい……」

「ッ!? 随分と急だな……」

「ただの偶然とは思えませんね。先ほどは峰さんが濡れ衣を着せられている可能性を示唆してみましたが、実の所その可能性はあまり高くはありません。峰さんが武偵殺し本人なのか、多かれ少なかれ武偵殺しの一件に関与している関係者なのかは定かではありませんが、全くの無関係ということはさすがにないでしょう」

「……そうか」

 

 キンジは武藤の調べあげた情報を元に淡々と現時点で推測できる事柄を述べるアリアから視線を放し、ベランダの方へと歩を進める。夕日が差し込むベランダの元へとゆっくりと歩き出す。キンジの脳裏をよぎるのは武偵高入学当初に同じクラスとなった理子の姿。

 

『ボ、ボボボボボクは峰理子とい、言います。よ、よろしくお願いしましゅ! ……あ、あああの、えと、その、ぅぅうううあああああ! 生まれてきてごめんなさあああああああい!』

 

 一年前。東京武偵高校入学後の自己紹介の際、どうにか自己紹介を済ませようとしたものの思いっきり噛んでしまい、さらにクラスメイトの好奇の視線に耐えきれずに全速力で逃亡した理子。武偵高入学当初から異様にビビりだった理子は様々な場面でその怯え具合を奈何なく発揮してきた。特に対人関係においてそのビビり具合は常軌を逸したものがあった。尤も、当の本人はそんな特性を発揮したくてしてきたわけではないのだろうが。そんな理子と俺とがある程度とはいえ仲良くなれたのは今にして思えば奇跡にしか思えない。

 

 でも。それが、全部ウソだっていうのか? 今まで見てきた理子は全て理子の取りつけた頑丈な仮面だったっていうのか? 本当の理子はビビりなんかじゃない、全く別の性格をしているというのか?

 

「……理子。お前が本当に武偵殺しなのか?」

 

 キンジは虚空を見つめながら誰に尋ねるでもなく問いかける。信じたくないものを無理に信じようとしているのが窓に薄く映った苦悶の表情からよくわかる。キンジの後ろ姿をアリアは複雑そうに、武藤はただ無言で見つめていた。

 




キンジ→原作以上に理子との親交がある熱血キャラ。
アリア→割と綺麗好き。何事もまず型から入ろうとするタイプ。家では大抵髪型をツインテールから変えている。今回の件で武藤からちょっと距離を置こうと決心した子。
武藤→キンジに解析を依頼された機械音声を3日で解析し終えるレベルのスペックを持っている。怒らせると後が恐い人。中空知さんとは割と仲良し。
不知火→武藤の謀略で中空知さんの実験台とされた憐れな不良さん。強く生きてほしい。
中空知→尋問科(ダギュラ)Sランク武偵。男性に対する苦手意識を色々とこじらせたのが『中空知さん・改』誕生の発端。しかし武藤とは割と仲良し。声を発するだけで人を怯えさせる術を知っている。尋問の際、「はい、ワンモアプリーズ?」を多用する。何をワンモアするかは禁則事項。知らない方が身のためなのは確実。

 というわけで、今回は『ビビりこりん、正体を暴かれる!? の巻』でした。そして。舞台は原作一巻クライマックス、飛行機上へと移行する……かもしれません。

 でもって今回、ついに尋問科Sランク武偵の中空知さんが音声のみで登場してしまいました。音声だけのはずなのに自分で書いてて「何この子? マジ怖い」って思ってしまいましたね。ええ(ガクガクブルブル)。

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