【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は説明回なので、説明役のジャンヌちゃんがメチャクチャ喋ってるだけの回です。原作を知ってる人にとってはおそらくとってもつまらない回になると思われますので、そのような方々は飛ばし読み推奨です。

 閑話休題。今更ですが、すっごく今更ですが。緋弾のアリアAAのアニメ化が決まったらしいですね。おめでとうございます。というか、去年12月に決まったらしいというのに、今の今まで知らなかった私。私の情報収集力がいかにしょぼいかが露呈してしまったような気分です。

 ともかく、緋弾のアリアAAがアニメ化すれば、ここハーメルンにて緋弾のアリア二次創作がドンドン増えるのは確実。AAの人気次第では本編のアニメ2期もあり得ない話ではなくなったということです。いやぁー、緋弾のアリアがしばらく安泰なのは間違いなしですなぁ。ハッハッハッ。

キンジ「逆にアニメが爆死したら――」

 キンジくん、それ以上いけない。



108.熱血キンジと明かされるイ・ウー事情

 

 午前1時過ぎ。車輌科(ロジ)の休憩室にて。白雪がベッドで眠り、ベッド端に腰かけたキンジが理子のノートパソコンのSky●e画面に映るジャンヌを見つめ、理子がキンジの隣にちょこんと座る中。

 

 つい先ほど空気の読まない発言で盛大にスベり、場の雰囲気を何とも触れがたい微妙なモノへと変化させた重傷者:ジャンヌは『コホン』と咳払いをすると、真剣な表情で口を開いた。

 

 

『では、まずイ・ウーとはそもそも何かについて触れよう。……イ・ウーとは、いかなる軍事国家もうかつに手を出せない、超能力を備え、核武装した戦闘集団だ。その際立った特徴として挙げられるのは、イ・ウーにたった1つのルールすらないということだ』

「ルールがない?」

『そう。イ・ウー内部に一切の規則がないのだ。さらに、世界のいかなる法もイ・ウーを拘束できない。つまり、イ・ウーに所属する限り、メンバーは真に自由なのだ。イ・ウーに集う、天賦の才を授かりし化け物どもから戦闘技術を学び、己を高めるもよし。イ・ウーの立場を利用し、自らの目的を果たすために好き勝手暴れてもよし。イ・ウー自体が特定の目的を持たない自由な組織である以上、イ・ウーの構成員たる我らには何をしてもいい自由が認められている。……目的実現の障害となるのであれば、誰であろうと、それこそ同じイ・ウーの仲間だろうと、その者を殺す自由さえも認められているのだ』

「はぁ? な、何だよそれ。目的がない? 何をしてもいい? そんなの、組織として成り立つわけないだろ。すぐに内部抗争で自滅するに決まってる」

『うむ、いい質問だなぁ』

(……随分と上から目線だな)

 

 キンジはドヤ顔を浮かべるジャンヌに内心イラッとしつつも、ジャンヌが口にした衝撃の事実に戦慄する。この世にルールのない組織なんて存在しない。それはなぜか、簡単だ。ルールがなければ人は纏まれないからだ。ましてや、イ・ウーにはブラドみたいなどうしようもないクズだって所属していた。そのような協調性の欠片も持っていない社会不適合者みたいなのが一か所に固まれば、まず間違いなく組織は崩壊する。本来ならそのはずなのだ。

 

 

『そうだな、普通であればそうなるだろう。だが実際の所、そうはならなかった。リーダーがいたからだ。我らイ・ウーの構成員全員があらゆる智と技能を駆使しようとまず倒せない、絶対的な力とカリスマを持つ正真正銘の化け物:教授(プロフェシオン)がイ・ウーを束ねてきたからだ。だからこそ。イ・ウーは崩壊することなく、組織の形を保ってこれたのだ。言うなれば、イ・ウーはあのお方:教授(プロフェシオン)こそがルールなのだ』

教授(プロフェシオン)、ねぇ。……何かイ・ウーって学校みたいだな」

『その印象は概ね正しいぞ、遠山麓公キンジルバーナード。実際、イ・ウーは学校のような性質を持っている。才に恵まれた者同士、己の技術を他者に伝授し、己が欲する技術を他者から伝授してもらう。さながら教師と生徒のような関係性でな。そのような行為はイ・ウーでは日常茶飯事だ。元々氷の超能力しか使えなかった我が今、雷の超能力や変装術・変声術を使いこなせるのはイ・ウーでリコリーヌたちから技術を授かったからだ』

「そういや前に戦った時にそんなこと言ってたな。……ん? てことは、もしかしてブラドがヒステリアモードを利用していたのは――」

『カナリアーナから学んだのだろうな。尤も、ブラドはカナリアーナを女装癖を抱えた同士として割と好意的に捉えていたが、カナリアーナはブラドを嫌悪していた。ゆえに、教師と生徒の関係をあの二者が構築できるはずがない。……大方、ブラドが勝手にカナリアーナからヒステリア・サヴァン・シンドロームの技術を盗み取ったのだろう。抜け目のない奴だ』

 

 ブラドへの憎々しさを滲ませながら呟くジャンヌ。ブラドが投獄されてなお、ブラドに対する憤りが収まる所を知らないらしい彼女をよそに、キンジは思索する。

 

 稀有な才能を持った者同士が能力をコピーし合い、強くなる。さらなる境地へと己の高めていく。イ・ウーがそのためだけに存在する組織なら何も問題ない。というか、イ・ウーが技術を教え合うだけの場所だと言うのなら俺も望んでイ・ウーメンバーになりたい所だ。だが、問題はやはり、イ・ウーにルールがないこと。イ・ウーで獲得した力を利用して世界に危害を加えんとするイ・ウーメンバーを拘束するルールがないことだ。

 

 

『本題に戻るぞ。これまでイ・ウーの頂点たる教授(プロフェシオン)の絶対的支配により、イ・ウーは存続してきた。しかし、そのようなイ・ウー安定期は終焉を迎えんとしている。教授(プロフェシオン)が寿命で死のうとしているのだ。いくら化け物中の化け物でも、老化には勝てなかったということだな。……そして今、イ・ウー内部では誰が教授(プロフェシオン)の後を継ぎ次期リーダーとなるかで少々荒れている。教授(プロフェシオン)が次期リーダーについて明言していないせいでな』

「……」

『イ・ウーには元々、主に2つの派閥がある。そして今現在、その2つの派閥は互いにいがみ合っている。1つは主戦派(イグナティス)、本気で世界への侵略行為を目論むバトルジャンキーどものことだ。奴らの一派がイ・ウーの主権を握った時、脳みそがお子様な奴らはイ・ウーの力を思う存分駆使して世界各地を襲撃し、世界に混沌と殺戮と争乱をもたらすだろう』

 

 キンジがげんなりとした表情で「いい迷惑だな、おい」と呟くと、『ククッ、違いない』とジャンヌがなぜか小気味よさげに笑い声を零す。

 

『で、2つ目だ。もう1つの派閥の名は研鑽派(ダイオ)教授(プロフェシオン)の気質に寄り添い、日々純粋に己の力を高めいずれ神の領域にまで到達することを夢見る連中のことだ。あくまで末席に名を連ねているだけだが、我やリコリーヌも研鑽派(ダイオ)だ。研鑽派(ダイオ)の連中は教授(プロフェシオン)に迫りくる死期の存在を知ってから、次期リーダーとなり得る存在を探し続けた。イ・ウーに集う無駄に強い連中を束ねられるほどに絶対無敵でかつ、強く、気高く、美しい存在、またはその境地へと近い内に昇華しうる存在を探しに探した。そして、研鑽派(ダイオ)が目をつけた存在。それこそが――神崎・H・アリア』

「……は?」

『選ばれたのだよ。よりにもよって、神崎・H・アリアがだ。加えて、教授(プロフェシオン)自身も神崎・H・アリアがイ・ウーの次期リーダーに就任することに否定的な見解は示していない。黙認は承認と同じ。神崎・H・アリアはイ・ウーの次期リーダーとして教授(プロフェシオン)に選ばれたのだ』

「なッ!? ちょっ、ふざけるな! あ、アリアはイ・ウーのリーダーになったりしない! あのアリアがかなえさんに罪をなすりつけた連中に手を貸したりなんてするものか!」

『それはどうかな。人間、機会さえあれば品行方正にも悪逆非道にもなれる。悪人がいつも悪人でないように、善人がいつも善人でいるとは限らない。大切なパートナーだから色眼鏡を掛けたくなる気持ちはわからないでもないが、思い込みはしないことをオススメする。イ・ウーが常識の通じない組織だってことは、もう十分思い知らされているだろう?』

「うッ、確かに……」

『とまぁ、ここまでがイ・ウーの現状だ。一気に話したから理解できていない部分もあるだろうが……とりあえず、今のイ・ウーは次期リーダーの座を巡って一部の者が暗躍している。そして、研鑽派(ダイオ)が次期イ・ウーリーダーとして神崎・H・アリアに目をつけている。それだけ理解してくれればいい』

「……わかった」

 

 ジャンヌはイ・ウーの現状を要約して示すと、すかさず次の話題に入る。アリアが巨悪の親玉候補としてイ・ウーメンバーから推薦されているという信じがたい事実を前に不安に揺れるキンジをスルーして、ちゃっちゃと言葉を紡いでいく。

 

 

『次はカナリアーナの目的についてだ。さっきまでのイ・ウーの話を踏まえた上でよく聞け。……カナリアーナはイ・ウーを潰すため、アンベリール号沈没事故を利用して表社会から姿を消し、イ・ウーの一員になった。教師として我やリコリーヌに己の戦闘技術を教え込む傍ら、イ・ウーを滅ぼすための手段を模索していた。当初は自力でイ・ウーを壊滅させるつもりだったらしい。が、直に自らの力のみでは不可能だと思い知らされた。ゆえに、カナリアーナは同士討ち(フォーリング・アウト)という手段を選ぶことにした。イ・ウーを内部分裂させ、敵同士を戦わせ、弱体化させようとしたのだ』

(カナ姉、そんな危ないことしようとしてたのか……)

『イ・ウーは教授(プロフェシオン)のカリスマがあって初めて成り立っていた組織だ。つまり、教授(プロフェシオン)が死に、まともにイ・ウーを束ねられるものがすぐさま現れなければ、イ・ウーは勝手に崩壊する。そのことを踏まえ、カナリアーナはイ・ウーのリーダー不在の期間を作り出せる可能性を導き出した。『第一の可能性』は、教授(プロフェシオン)の死と同時に神崎・H・アリアを殺し、研鑽派(ダイオ)が次期リーダーを探し出すまでの空白期間を作ること。そして『第二の可能性』は――教授(プロフェシオン)を直接殺すこと』

教授(プロフェシオン)を、殺す……」

『が、カナリアーナは教授(プロフェシオン)を殺せないと判断した。だからこそ『第二の可能性』を切り捨て、『第一の可能性』しか存在しえないと考え、貴様に神崎・H・アリアを殺す協力を持ちかけた』

「そうか。だからカナ姉は、アリアを殺そうとしていたのか」

『そういうことだ。そして。最低限、自分を超えられるだけの実力を貴様が備えているのなら、もう一度『第二の可能性』に賭けてもいいと考え直し、貴様と一対一で戦った。その顛末は、貴様の方が詳しいだろう?』

 

 カナの事情を、真意を知ったキンジは「そう、だな」と一言呟く。あくまでシリアスチックに言葉を紡ぐキンジだったが、その内心は歓喜の念に満ちつつあった。胸の内が温かくなって、無性にはしゃぎたくなって、しかし場の空気が空気だったので、キンジは今の心境が外へ漏れ出ないように必死に努めた。

 

 キンジが歓喜の感情を抱いた理由は単純明快。これまでカナ姉に守られるだけだった自分が今、頼られているとわかったから。実力を買われ、自分なら教授(プロフェシオン)を倒せると信じられ、思いを託されていたのだと知ったからだ。

 

(俺は、ようやくカナ姉と並び立てるレベルになれたんだな)

 

 もちろん、実力でカナ姉と同じ境地に立てたなどとおごるつもりはない。前にカナ姉の言った通り、カナ姉との戦力差は大人と子供以上だ。だが。カナ姉の隣に立って戦えるぐらいの、カナ姉の足手纏いにならない程度の実力が自分には備わっているのだと実感したキンジは「ふぅ」と一つ息を吐く。それは万感の思いのこもったため息だった。

 

 

『カナリアーナの目的は理解したか? 纏めると、カナリアーナはイ・ウーを滅ぼすため、研鑽派(ダイオ)が次期リーダー候補として指名した神崎・H・アリアを殺そうとした、ということだ』

「……」

『聞いているのか、遠山麓公キンジルバーナード?』

「あ、あぁ。了解、よくわかった」

 

 かつてない精神的充足感に浸っていたがためにジャンヌの要約をサラッとスルーするキンジ。ジャンヌは『本当に聞いているのか? せっかく我がわざわざ話してやっているというのに……』と怪訝な眼差しをキンジに向けつつも、説明のための言葉を並べていく。

 

 

『では最後に、今回神崎・H・アリアを拉致した砂礫の魔女、もといクレオパトラッシュの目的に入ろうか』

「ッ!? ちょっ、待て待て待て! その呼び方はアウトだろ! 絶対ヤバいって!」

『ん? どうした、何が気に入らない? クレオパトラッシュはクレオパトラッシュだろう?』

「だから、その名前を連呼するな! あの日本人の誰もが涙した名作が穢れるだろうが!」

『……ハァ、遠山麓公キンジルバーナード。人の真名を呼ぶことの何が悪いんだ? やれやれ、今の我は怪我人だと最初に行ったであろう。現時点で我はもう結構疲れてるんだ。くだらないことで話の腰を折るようなら、問答無用でSky●e通話を切らせてもらうぞ?』

(え、えぇぇぇぇ。な、なんで俺が責められてるんだよ……)

 

 ジャンヌから空気の読めない奴扱いされていることにキンジは納得いかないと表情を歪ませる。ひょんなことから休憩室の雰囲気にギスギス感が生まれ始めるも、これまで一貫してジャンヌの話を静聴していた理子が「け、喧嘩はダメだよ! 2人とも!」と仲裁に入ったことで、険悪な雰囲気は一瞬にして払拭された。

 

 キンジもジャンヌも、二人の顔色を恐る恐る窺いながら涙目で声を上げる理子をこれ以上困らせたくなかったのである。弱者は強者とはこのことか。

 

 

『さて。話を再開するぞ。クレオパトラッシュ。奴はかつてイ・ウーナンバー2の実力者だったものの、性格に難があるせいでイ・ウーを退学させられた身だ』

「そう、なのか? むしろ、今まで会ったイ・ウーメンバーの中では割とまともな印象だったけど……」

 

 ジャンヌの発言を前にキンジは違和感に首を傾げる。何せ。今まで会ったイ・ウー構成員が、理子(ビビり)とジャンヌ(厨二病)とブラド(変態)とカナ(天然)である。一見、深窓の令嬢のような言動をするパトラをまともな人間だとキンジが捉えたのも道理である。

 

『見た目はそうだろうな。だが、奴は主戦派(イグナティス)筆頭、銀河☆掌握を目論むキチガイ女だ』

「は? ぎ、銀河☆掌握? 銀河って、あの?」

『あぁ、そうだ』

「……さすがに冗談だろ?」

『残念ながら現実だ。クレオパトラッシュには誇大妄想のケがある。イ・ウーの力を利用してまずはエジプトを侵略し、エジプトを拠点として世界を、さらには銀河中を支配する。そのような馬鹿げた目的を掲げて暗躍する主戦派(イグナティス)筆頭なのだよ、奴は』

「……」

 

 キンジはジャンヌが語るパトラの野望に思わず閉口する。今まさに、キンジは歴史の教科書で学び、そして本人と邂逅したことで構築してきたクレオパトラ7世像が木っ端微塵に砕かれていく感覚を味わっていた。

 

 

「……何か、クレオパトラ7世って残念な人だったんだな。仮にも歴史上の偉人なんだから、もっと理知的な人だと思ってたのに」

『――ん? 何を言っているんだ、遠山麓公キンジルバーナード。……まさかとは思うが、貴様はクレオパトラッシュの妄言を愚直に信じているのか?』

「え? 妄言なのか?」

『そうだ。あれはクレオパトラ7世本人ではない。本人を騙るだけの子孫、要はただの哀れな妄言者だ』

 

 ジャンヌの『漫画やアニメの世界じゃないんだ、一度死んだ人間が遥か遠い未来で再び生を受けるなどあり得るはずがなかろう。違うか?』との物言いに、キンジは「それもそうか」とうなずく。どうやらここの所、イ・ウーだの吸血鬼だのと常識外極まりない存在と関わってきた影響で、通常ならあり得ない現象に対して疑う心を忘れていたようだ。

 

 

『奴は我と同じく、策士。いくつもの策略を巡らし人を手のひらで踊らせる狡猾な魔女だ。加えて。(グレード)25というとんでもなく高いGを持ち、砂礫を駆使したあらゆる技を使う奴は世界最強の魔女(マツギ)の1人とされるほどに強い。ダテに元イ・ウーナンバー2ではないということだ。……しかし、奴の最も恐ろしい所は呪いにある』

「呪い?」

『奴は人を呪い、不幸にすることができるのだ。直接呪うか、呪蟲(スカラベ)を使って呪うか。いずれにせよ己の魔力を相手に運ぶことで相手に不幸を呼ぶことができる。今のリコリーヌが右目を失明してるのも、我が交通事故に遭ったのも、今にして思えば奴が呪ったからだろう。奴の計画を我らが妨害できないようにな』

 

 ジャンヌは己の不甲斐なさゆえか、やれやれと肩を竦める。一方。「そう、だったのか」と呟くキンジの脳裏には、前に公園で声出しの練習をしていた理子に会った際、理子の右目に割と大きい虫が貼りついたせいで「みぎゃああああ!?」と悲鳴を上げた理子の姿が浮かび上がっていた。

 

 

(なるほど。あの虫はパトラの使い魔だった、ということか)

『奴のことだ、我とリコリーヌの2人だけ呪ったとは考えにくい。他にパトラに呪われたであろう人間に心当たりはないか?』

「心当たり、ねぇ」

 

 キンジはジャンヌの問いかけを受けて過去の出来事を遡ってみる。具体的には、理子が呪いをかけられたであろう7月6日以降の記憶を振り返ってみる。すると、とあることに思い至ったキンジは「そういえば」と言葉を紡ぐ。

 

「レキがパトラとの賭けに負けたことがおかしいって言ってたな。あと、考えてみれば肝心な所でドラグノフが故障するのもおかしい。レキは自分の武器の整備を怠るような奴じゃないからな」

(むしろ毎日毎日嬉々として整備やってそうだよな。あの性格だし)

『そうか、ならばそれも奴の呪いの結果で間違いないだろう』

「マジかよ。……人を呪って不幸にすることで、相対的に自身を幸運に恵まれた存在にする能力、か。厄介だな」

 

 パトラの脅威を改めて実感したキンジが口にした本音に同意するように、ジャンヌは『うむ、全くだ』と鷹揚に首肯する。

 

 

『で、だ。そんなクレオパトラッシュが神崎・H・アリアを攫ったのは、イ・ウーの次期リーダーになるべく、教授(プロフェシオン)と交渉する際の人質(カード)とするためだろう。奴のことだ、呪弾でも使って教授(プロフェシオン)の判断を急かすに違いない』

「……」

(だからアリアに呪弾を撃ったのか。24時間以内に自分の要求を呑まなければアリアを殺すって脅しのために)

『で、貴様はどうする?』

「どうするって?」

『イ・ウー側の事情をあらかた知った今なら、正常な判断ができるだろう? その上で尋ねさせてもらう。貴様はこれから、どうするのだ? 神崎・H・アリアを取り戻すためクレオパトラッシュを襲撃するか? それとも神崎・H・アリアのことはなかったことにするか?』

 

 ジャンヌは挑戦的な眼差しをキンジに注ぎながらキンジに2択を突きつける。キンジを試すように問いを投げかけるジャンヌだったが、既にキンジの答えは決まっていた。

 

 

「そんなの、決まってるだろ? アリアを取り戻す。相手がどれだけ強かろうと関係ない。パートナーを奪われて命が危ないってのに泣き寝入りをするような奴は武偵じゃないし、パトラのアホな野望のせいでアリアを殺されるわけにはいかないからな」

『……そうか。うむ、中々にいい目をしているな』

「そうか? 自分じゃ全然わからないけど」

『そうだ』

「うんうん! い、今のキンジくん、凄くカッコいいよ!」

 

 ジャンヌがキンジの決断を評価して口角を吊り上げ、理子がジャンヌに同調するように声を上げる中。キンジは一つ深呼吸をする。

 

 もちろん、理由は他にもある。現状でパトラという敵から逃げるような奴は、かつてユッキーの望んだ、悪い人をバッサバッサとやっつけるカッコいい武偵じゃないというのも理由の一つだ。だが、一番の理由は、カナ姉の期待を裏切るわけにはいかないからだ。カナ姉は教授(プロフェシオン)を殺害しうる存在として俺に期待している。なら、教授(プロフェシオン)より弱いパトラの一人や二人程度、楽々倒せなければ話にならないのだ。

 

 

(やってやる。絶対にパトラを倒して、今度こそアリアを助けてみせるッ!)

『ならば話は早い。これより、神崎・H・アリア救出作戦を始めるぞ』

「え? ……協力、してくれるのか?」

『当然だ。今回に関しては利害が一致しているからな。我はイ・ウートップに主戦派(イグナティス)の奴を据えたくない。まして、銀河☆掌握を掲げるバカなんて論外だ。それに何より……』

「何より?」

『いや、何でもない。気にするな』

 

 キンジに協力的な理由を語るジャンヌの表情が憎悪に染まったことが気にかかったキンジが続きを促すも、ジャンヌはフルフルと首を左右に振って話を切り上げる。今のジャンヌの様子から、これ以上情報を引き出せないだろうと判断したキンジは「ありがとう。助かるよ、ジャンヌ」と感謝の言葉を口にした。

 

 

『フン、感謝の言葉などいらん。それぞれの目的のため、我が貴様を利用し貴様も我を利用する。それ以上でもそれ以下でもない。いいな?』

「……ジャンヌ。お前って本当にいい奴だよな。なんでイ・ウーで犯罪行為を働いてたのかが不思議なぐらいだ」

『またそれを言うか。我は銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)、優しさなどといった低俗な感情とはかけ離れた孤高の存在だと前にも言っただろう。もう忘れたのか?』

「はいはい、そんな設定だったな」

『設定って言うな!』

 

 まるでヒステリアモードの時のように優しげな視線をジャンヌに向けるキンジ。

 自身の言葉を軽く流すキンジが気に入らないため、怒気を孕んだ声を上げるジャンヌ。

 さっきとは違い険悪でない二人の様子に安堵する理子。

 

 凄まじくシリアスだった休憩室の雰囲気が大いに和らいだ瞬間だった。

 

 




キンジ→今回リアクション担当だった熱血キャラ。ジャンヌに対する好感度が上がった模様。なお、パトラへの好感度はストップ安である。
理子→今回テラ空気だったビビり少女。しかし、空気でもテラかわいい。キンジとジャンヌが仲良さげになっているのが嬉しい様子。
ジャンヌ→今回説明役に終始していた厨二少女。所々で話を要約してくれる辺り、気配りができる系女子である。ちなみに、今回は厨二発言はほとんど鳴りを潜めている。

 というわけで、108話終了です。説明回が長すぎる件について。やっぱり以前の話でちょくちょくイ・ウー事情について触れてこなかったツケが回ってきたんでしょうかねぇ。

 ちなみに。地の文や会話文で『不幸』って表現がある時は、大抵パトラが呪った結果を示唆しています。それとこれは裏設定ですが、アリアがジャッカル男の中から現れたワンコに対応できずにやられたのも『不幸』だったからです。全く、パトラさんってばマジ用意周到。さすがは元イ・ウーナンバー2。


 ~おまけ(話の流れ的にカットした一幕)~

キンジ「なぁジャンヌ」
ジャンヌ「ジャンヌではない、銀氷の魔女だ」
キンジ「はいはい、銀氷の魔女銀氷の魔女。で、イ・ウーのことを色々と話してくれたのは嬉しかったけど、こんなにたくさん話してよかったのか?」
ジャンヌ「ふむ、というと?」
キンジ「今の話、明らかに言ったらヤバい機密情報入ってただろ。カナ姉の頼みがあったからとはいえ、俺に色々話したことが他のイ・ウーメンバーにバレて、イ・ウーへの敵対行為と思われたりしたら――」
ジャンヌ「心配は無用だ。むしろ、望む所だ」
キンジ「え?」
ジャンヌ「我はイ・ウーに追われる身になりたいのだよ。イ・ウーでやれることはもうあらかたやり終えた。自らを十分高められた以上、もうイ・ウーに留まる理由はない。それに。イ・ウーから狙われる身になれば、地下倉庫(ジャンクション)破壊による莫大な借金をなかったことにできるかもしれない。帳消しにして、武偵高から姿を消せるかもしれない。とても払えそうにない借金の重圧から解放された幸せライフのためなら、刺客が何人来ようが構うものか。クククッ、クククククッ(←やさぐれた笑みを浮かべつつ)」
キンジ「……ジャンヌ、お前。苦労してるんだな」
理子「ジャ、ジャンヌちゃん。ごめんね、ボクがいっぱいお金持ってたら代わりに払ってあげられるのに……(´;ω;`)ブワッ」

 莫大な借金を背負っている事実はじわじわとジャンヌの精神を蝕んでいた模様。
 新たに不憫キャラを開拓しつつあるようだが……強く生きろ、ジャンヌ。

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