【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。最近はロクに執筆時間を確保できずに「むきゃぁぁあああああああああああ!!」って叫びたい心境だったりします。くそ、リアル忙しすぎんだろ!

 まぁそれはさておき。せっかくジャンヌちゃんがお喋り王者ランキング3位に輝いてくれたことですし、久しぶりに登場させようかと思います。思えば91話以降、全然出番与えてなかったですしね、確か。……しっかし、何て酷いサブタイトルだ。



107.熱血キンジとSky●e魔女

 

「ッ……」

 

 その時。キンジはベッドの上で目を覚ました。未だ覚醒しないぼんやりとした頭のまま、ゆっくりと体を起こし、周囲に目を向ける。ザッと見た所、キンジが目覚めた場所は車輌科(ロジ)の休憩室のようだった。

 

(そういや、たまに武藤とゲームをしにここに来たよなぁ……)

 

 と、過去を懐かしんだ所で、キンジの脳裏にとある映像がよぎった。それは、イ・ウーの一員だったクレオパトラ7世と対峙するシーン。そして、クレオパトラ7世に見事なまでに出し抜かれ、結果としてアリアを奪われてしまったシーン。

 

 

(クソッ、いくら相手が歴史上の偉人だからって、この結果は酷すぎるだろ!)

 

 アリアが攫われた。異性として好きだと断言できる存在たるアリアをむざむざ奪われた。その事実にキンジはギリリと歯噛みする。とてもかなえさんにアリアのことを任された人間の体たらくではない。キンジは悔しさのあまり右拳をギュッと強く握る。

 

「んッ」

 

 と、その時。キンジの下から声が届いた。それは聞き覚えのある声で。もうすっかり聞きなれた声色で発せられた、少しだけ苦しそうな呻き声で。何だか嫌な予感がしたキンジが声の発生源へと視線を向ける。キンジの視線の先にあったのは――キンジの眠っていたベッドの右隣ですやすやと眠る、実に無防備極まりない白雪の姿だった。キンジの右手を優しく握る黒髪堕落巫女の姿だった。先の呻き声は、いきなりキンジに右手を握りしめられたが故に発せられたものなのだろう。

 

 

「ふぁッッ!?」

 

 以前、寝ぼけたアリアがキンジの眠るベッドに潜りこんできた時の焼き増しのような光景にキンジは思わずベッドから飛び退く。無理もない、アリアがキンジを抱き枕と間違えて抱きついてきた以前(※40話参照)と違い、何の心の準備もできていない状態で自身の隣で添い寝する異性の姿を見てしまったのだから。

 

(え、何これ!? 何この状況!? 一体、何がどうなって――)

「あ! 起きたんだね、キンジくん。よ、よよよかった……!」

 

 ただいま絶賛混乱中のキンジの思考回路を遮るように、これまたすっかり聞きなれた声が届く。その声の持ち主の方向へと振り向くと、今まさにドアから休憩室へと入ってきたらしい理子が安堵の息を零す様子があった。

 

 しかし、ホッと胸をなで下ろす理子とは対照的に、キンジは内心冷や汗ダラダラだった。考えてみてほしい。密室。1つのベッド。背後にはぐっすり眠る女の子(ユッキー)。現在時刻は午前1時。もう何というか、美少女の寝込みを性的に襲った or 今すぐにも襲いかからんとする変態最低男の構図以外の何物でもなかった。

 

 

「り、理子!? ち、ちちちち違うぞ! これは誤解だ! 誤解なんだ! 俺がユッキーの寝込みを襲ったとか、そんなんじゃ――」

「誤解? 何のこと? あ、白雪さん。眠っちゃったんだね。まぁ仕方ない、のかな? 白雪さん、とっても頑張ってたし」

「頑張ってた?」

 

 相手がアリアであればまず間違いなく修羅化して襲いかかってきたであろう光景を前にしても平然としている理子にキンジが疑問を呈すると、「あ、えっと。説明、しないとね」と理子が思い出したかのようにポンと手を打つ。

 

 理子の話によると、カジノ『ピラミディオン台場』内のジャッカル男を掃討し終えたユッキー、理子、レキ一行は、レキのドラグノフのスコープ越しにアリアがクレオパトラ7世に攫われるシーンを目撃していたらしい。

 

 レキが遠距離狙撃でアリアを救おうとするも、そのタイミングで不幸(・・)にもドラグノフが故障。クレオパトラ7世の足を止めることができないまま、急いで現場まで駆けつけた3人はそこで地に倒れ伏す俺を回収。ここ、車輌科(ロジ)の休憩室へ運び込んだ後に、ユッキーが超能力で治療してくれたらしい。ちなみに。アリアの行方については理子とレキが手を回して探偵科(インケスタ)情報科(インフォルマ)諜報科(レザド)の優秀な武偵たちに捜索してもらっているが、現状では成果なしだそうだ。

 

 

「そうか。ありがとな、ユッキー」

 

 普段はやたらめったらだらけている白雪が、献身的介護をしてくれた。キンジはベッド横にそっと座ると、感謝の意を込めてベッドで熟睡中の白雪の頭をよしよしと撫でる。クレオパトラ7世の手のひらで踊らされ気絶させられたのが昨日の午後6時。そして今が午前1時。体中に鉛玉を受けたにも関わらず、たった7時間しか経過していない状態で体にまったく痛みが残っていないのは紛れもなくユッキーのおかげだからだ。

 

(とにかく、どうにかしてアリアを見つけ出さないと始まらない。クレオパトラ7世……もう長いからパトラでいいや。パトラ曰く、呪弾を撃ち込まれた相手は24時間後に死ぬ。今は午前1時だから残りは17時間、猶予はあまり残されていない。だから今日の午後6時までに何とか呪弾に対して手を施さないといけない。でも、どこだ? どこにアリアは連れていかれた?)

 

 よほど心地のいい夢でも見ているのか、「えへへぇ」と頬を緩ませる白雪とは対照的に、キンジの表情は段々と焦り一色に染まっていく。焦燥に駆られるまま、深い思考の海に沈もうとしていたキンジを引き上げたのは、「アリアさんは海にいるよ、多分」という、キンジの考えを見透かした上での理子の言葉だった。

 

 

「東経43度19分、北緯155度3分。太平洋、ウルップ島沖の公海。そこにいるらしいよ」

「多分? らしい? どういうことだ?」

「えっとね、これ白雪さんが占った結果なんだ。……だ、だだだから。信憑性には欠けるけど、他にアリアさんの行方の手がかりがない以上、信じるしか――」

「――何言ってんだ、理子? ユッキーの占いは結構よく当たる。さすがに経緯までピッタシ当たってるとは思わないけど、占いで海にいるって出たんなら海で正解だろう」

 

 どうやらユッキーは俺の治療を行うだけでなく、アリアの居場所を探ってくれていたようだ。理子はいまいち占いの結果を信じていないようだが、ユッキーの占いは概してよく当たる。実際、前の『天然記念物と、絶対に敵に回してはいけない死神と、いつになくやる気な戦闘狂と、オオカミと、魔王召喚の儀式中の凄く怪しい悪魔と、紛うことなきメガネと、やたら大きい鬼と、長髪のアホ幽霊に会う』という占いだって結局は当たっていた。

 

・天然記念物→理子

・絶対に敵に回してはいけない死神→中空知美咲

・いつになくやる気な戦闘狂→レキ

・オオカミ→コーカサスハクギンオオカミ

・魔王召喚の儀式中の凄く怪しい悪魔→ジャンヌ

・紛うことなきメガネ→小夜鳴先生

・やたら大きい鬼→ブラド

・長髪のアホ幽霊→カナ姉

 ――という風に、俺が近い内に出会う連中を見事に言い当てていた。そのため、今回の占いも信憑性は十分だと言えるだろう。

 

(ホント、ユッキー様様だな)

 

 占いという非科学的極まりない手段を通して見事アリアの居場所を探し出してくれた功労者:白雪の頭をキンジは再びよしよしと撫で始める。今のキンジには、熟睡中の白雪が救いの女神さまのように映っていた。

 

 

「ところで、さっきから気になってたんだけど。その眼帯、どうしたんだ?」

「あ、これ? えと、もう皆にボクの右目が見えてないことバレちゃったからね。ジャンヌちゃんから昔もらったの、使わせてもらってるんだ」

「なるほど。確かにジャンヌらしいデザインの眼帯だな」

「ど、どどどう? 似合ってる、かな?」

「あぁ、似合ってる。そういうファッションも悪くないんじゃないか?」

 

 白雪のおかげで幾分か心に余裕の生まれたキンジは理子が右目につけている黒地に白い髑髏マークのついた眼帯に目をつけ疑問をぶつける形で話を展開する。一方、話の流れでキンジに正面から褒められた理子は「そ、そう?」と、少し頬を赤く染めて恥ずかしそうに下を向く。もしビビりこりん真教在籍者が見ていたら、ダバババッと血涙を流すとともに『遠山キンジぶっ殺す』と固く決意していたことだろう。

 

「あ、そうそう! そうだった! さっきジャンヌちゃんがキンジくんに話したいことがあるって言ってたよ」

「ジャンヌが?」

「うん。今ここにいないから、繋げるね」

 

 恥ずかしさを紛らわせるように大きな声で話題を切り替えた理子は武偵高の指定カバンからノートパソコンを取り出し、Sky●eを通してジャンヌに連絡をかける。すると。2秒も経たない内にジャンヌへと繋がったらしく、『どうした、リコリーヌ?』との、いつもより少々くぐもった声が休憩室に響いた。

 

 

「あ、ジャンヌちゃん。キンジくん、起きたよ」

『我はジャンヌじゃない、銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)だ』

「あ、そうだった。ご、ごめんね、ジャンヌちゃん」

『……まぁいい。それより遠山麓公キンジルバーナード、我の声が聞こえるか? そこにいるのだろう?』

「あぁ、聞こえるぞ」

『ふむ、声色からして大丈夫そうだな。さすがは主人公補正に魅入られた者だ』

(相変わらず主人公補正大好きだな、ジャンヌの奴)

 

 『銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)』と理子に呼ばれたいのに素で『ジャンヌちゃん』と言われたジャンヌは軽く諦めのため息を吐く。その後、キンジの無事を確認したジャンヌは『クククッ』と普段通りの厨二チックな笑い声を漏らす。わかっていたことだが、今日もジャンヌは平常運行のようだ。

 

 と、ここで。「はい、これ」と理子からノートパソコンを手渡されたキンジはパソコン画面上のジャンヌを見やって、固まった。「話したいことって何だ?」と聞こうとして、できなかった。理由は簡単、パソコン画面に映ったジャンヌの顔全体が包帯でグルグル巻きにされていたからだ。オッドアイな両目と口元以外の全てが包帯で包まれていたからだ。

 

 

「ちょッ、ジャンヌ!? どうした、その怪我!?」

『我はジャンヌじゃな――』

「――んなこと言ってる場合じゃないだろ!? 何があった!?」

『……むぅ。何だ、リコリーヌから聞いてないのか? 少し前にうかつにも交通事故にあってしまったのだ。正確には、武偵高付近を散策中、トラックに轢かれてどこからか降ってきた鉄柱に腹部を貫かれてな。クククッ、しかしあれだけの大怪我をしておいて後遺症1つ残らないとは、さすが女神の祝福を受けし我だな』

「……ホントだよ。よく生きてたな、お前」

 

 キンジはジャンヌの言葉から現場を想像し、あまりのグロさについ「うへぇ」と表情を歪める。近くで理子が涙目で「うんうん」と頷いている辺り、ジャンヌがいかに奇跡的生還を果たしたのかが伺えるものだ。

 

 

『まぁとにかく、今の我は怪我人だ。あまり長々と話し過ぎると体に響く。時間も惜しいことだし、手短に済まさせてもらう』

「わかった。じゃあ、話って何だ?」

『話というのは、主に3つ。イ・ウーの現状と、カナリアーナの目的、そして砂礫の魔女の目的。これらを貴様に話せと、カナリアーナから頼まれたのだ。それが今回貴様が巻き込まれた一件を取り巻く事情を知る一番の近道だからな』

「ちょっと待て。カナリアーナって……もしかしてカナ姉のことか!? カナ姉起きたのか!?」

『あぁ。ちょうど貴様が砂礫の魔女の術中にハマり気絶した頃にな。その場にいた武偵(※武藤のこと)に我に向けての伝言を残して去っていった。どこへ向かったかは不明だ』

「そう、か」

 

 キンジがカナを打倒してから17日もの間、一度も目覚めることなく長い眠りに入っていたカナがついに意識を取り戻したことにキンジは歓喜の声を上げるも、続けて放たれたジャンヌの言葉にガックリと意気消沈する。カナと話したいことがたくさんあっただけに、カナが行方をくらませてしまったことにキンジは目に見えてしょんぼりとする。

 

 まるで大好きな飼い主に捨てられた忠犬のようだ。近くからキンジの様子を眺めていた理子は思わずそんな感想を抱いた。

 

 

『で、だ。カナリアーナから話は聞いた。現状も大方把握した。中々に厄介な事態になっているようだな。本当なら貴様があのカナリアーナを打倒した件について色々と問いただしたい所だが……まずはイ・ウーの現状について話させてもらう。その方が、後の話の理解がしやすいからな』

 

 カナに今回の一件の事情を全てキンジに話すよう託されたらしいジャンヌを前に、キンジは「わかった。よろしく頼む」と素直にジャンヌの説明を求める。

 

(カナ姉と話せないのは残念だけど、すっごく残念だけど! ……これはチャンスだ。これまで色々調べてきて、それでもまるで全貌の見えなかったイ・ウーについて知れる絶好の好機。この際だ、聞けそうなことは全部聞こう)

『まず、確認だ。貴様はイ・ウーについて、どこまで知っている?』

「どこまでって言われてもなぁ。軍事国家すら手が出せない犯罪組織で、理子やお前やブラドみたいな連中が集ってるってぐらいだぞ?」

『なるほど。まるで知らないんだな、よーくわかった』

(何か凄くバカにされてる気がする……)

 

 ジャンヌは人を小馬鹿にしたような声色で「うむ」とうなずくと、ニタァと凶悪な笑みを浮かべて高らかに宣言した。

 

 

『では、始めるとしようか。そうだったのか! ジャヌ上彰の学べるニュゥゥウウウウウウウウウウウウウウ――――ス!!』

「「……」」

 

 ジャンヌのまるで場の雰囲気を読めな発言にキンジと理子は思わず言葉を失くし、安らかに眠っていた白雪は「うぅぅ」と苦悶の表情を浮かべる。一瞬にして、何とも言いがたい気まずい空気を作り出した張本人たるジャンヌは『コホン』との咳払いを通して何とも形状しがたい空気の払しょくを図りつつ、本題へ入る。

 

 かくして。キンジはカナの計らいのおかげで、謎に包まれていたイ・ウーについての情報を得る機会を手にすることができたのだった。

 

 




キンジ→意識がなかったとはいえ、白雪と同じベッドで眠っていた熱血キャラ。『ダメダメユッキーを愛でる会』の会員に殺されるフラグをせっせと立てている模様。
白雪→キンジの治療からアリアの居場所特定のための占いまで、柄にもなく久々に頑張りまくったせいでばたんきゅーしている怠惰巫女。かわいい。
理子→クローム髑髏と同デザインの眼帯をつけていたビビり少女。かわいい。ちなみに。休憩室の光景を見た理子の脳裏では『キンジ、目覚める→キンジ、白雪と話す→白雪、疲れてベッドに入る→キンジ、すやすや眠る白雪を優しい眼差しで見やる』的な感じで解釈していたため、平然としていたりする。
ジャンヌ→全身包帯グルグル巻き状態な厨二少女。バッと通ったトラックに轢きずられ鳴き叫ばれ、その後どこからか降ってきた鉄柱に腹部を貫かれた結果とはいえ、これは酷い。武藤を通してカナからキンジに一連の事情を話すよう頼まれたためか、やけにキンジに協力的。余談だが、第二次お喋り王者ランキングへ向けて、着実に喋った文字数を稼いでいくスタイルだったりする。


ふぁもにか「せっかくジャンヌちゃんがお喋り王者ランキング3位に輝いてくれたことですし、久しぶりに登場させようかと思います(←ただしSky●e越し)」

 というわけで、107話終了です。久しぶりの更新なのに全然展開が進んでいない&あんまり面白くなくて、何だか非常に申し訳なくなってしまいますね。予定では今回で説明会を終わらせて「いざ第四章クライマックスへ!」ってつもりだったのに……何てこったい。


 ~おまけ(ネタ:話の流れ的にカットした一幕)~

ジャンヌ「ところで、遠山麓公キンジルバーナード……ずっと気になっていたのだが、どうして女装をしているのだ?」
キンジ「え、あッ!?(そうだ、俺まだ遠山金子の格好じゃねぇか!? すっかり忘れてた!)」
ジャンヌ「ま、まさか、貴様も目覚めたのか? ……そ、そうか。うむ、やはり兄弟の血は争えないのだな。世間は女装癖を持つ男に厳しいのが常だが、ま、頑張ってくれ」
キンジ「ち、違う! 違うから! 誤解だから! 俺はノーマルだ! ノーマルなんだぁぁああああああああああああああ!!」

 ノーマルって何だっけ。

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