【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 熱血キンジと冷静アリア 10話突破記念突発的企画

~前回までのあらすじ(HOTD風)~

「お前の目的は何だ?」「お、その反応。いるんスねー?」
「助けて、キンちゃん」「さて。初めましてだな、少年」
「風穴の時間です!」「あ、あー、マイクテスマイクテス……」
「……おのれ、不知火……」「ネオ武偵憲章第八十二条、やられたら数十倍にしてやり返せ」
「こう見えて私、結構持ってますよ?」「さすがは私のライバルです」
「神崎、時間だ」「俺はただ突き進むだけだ」

――第一章 熱血キンジと武偵殺し(前半戦)――

……うん。つい衝動的にこんなの作ってみたけど全然前回までのあらすじになってませんね。むしろカオス具合が凄まじいことになってますね。ええ。



10.熱血キンジとバスジャック

 

 一方その頃。切迫するバスジャック事情の一部始終を上空高く飛ぶヘリコプターから見下ろす、強襲学部(アサルト)が誇るSランク武偵3人の少年少女の姿があった。

 

「派手にやってますね、色々と……」

「どうやら不知火さんの機転で当面の危機は乗り切ったようですが、今の銃撃で多くの武偵が怪我を負った模様です」

「まっ、バスジャック犯をいたずらに刺激したのも不知火だけどな」

 

 上からの発言順に、片手で双眼鏡を持ち、もう片方で悠然とももまんを頂くアリア。カロリーメイト(チーズ味)を両手に持ってリスのごとくポリポリ食べつつ、双眼鏡に頼らずに肉眼(ジト目)でバス内の状況を正確に把握するレキ。菓子パンをパクパク食べつつ、双眼鏡と読唇術を駆使して現状をしっかり把握するキンジである。3人の性格ゆえか、眼前に繰り広げられる光景に対する感想は三者三様にきっちりとわかれている。

 

 ちなみに。なぜSランク武偵3人がそれぞれ甘いものを食べているのかというと、突如ももまんを無性に食べたくなったアリアが『糖分を補給すれば集中力がアップします。集中力がアップすればバスジャック事件の解決率がさらに上がります。さあ! 皆さん、今すぐ甘いものを食べましょう! もはや一刻の猶予もありません! 勝負の火蓋は切って落とされたのです! レッツお菓子タイム!』などとキンジとレキに熱烈に演説したことに起因する。さすがのアリアも現在の緊迫した状況下で1人だけ平然とももまんを食べることには抵抗を覚えたのだろう。ゆえにキンジとレキを巻き込んだというわけだ。

 

「さて。これからどうしますか、神崎さん?」

「そうですね……」

 

 カロリーメイト3本を食べ終えたレキはあむあむと小動物のごとくももまんを口に運んでいるアリアに判断を仰ぐ。キンジも何か飲み物が欲しいな、できれば甘くない奴がいいかな、などと思いつつアリアの返答を無言で待つ。どうやらこの三人の中で作戦を立案する立ち位置の人間は自然とアリアに決まったようだ。

 

 レキから問いを向けられたアリアは双眼鏡から目を離し、「んー」と虚空を見つめて考えを巡らせる。そして。糖分補給という大義名分を元にモグモグ食べていた4つ目のももまんの最後の一口をしっかりと噛みしめて完食するとキンジとレキへと向き直る。

 

「レキさん。貴女はバス車外の爆弾を見つけ次第、上手く狙撃して撃ち落してください。私とキンジは車内の爆弾をどうにか処理しますので。先ほどのオープンカーみたくバスジャック犯が追い撃ちを仕掛けてきた場合は各自、臨機応変に対処しましょう」

「わかりました」

「まっ、それが妥当だろうな。あとほっぺにアンコついてるぞ、アリア」

 

 アリアの指示にキンジとレキは即座に了承の意を伝える。その際。キンジはアリアの頬を指さしてさらりとアンコが付いていることを伝えると、「ふぇっ!?」と可愛らしい反応を見せるアリアをしり目にパラグライダーの準備を整え始める。

 

 バスに爆弾が仕掛けられている。それだけでバスジャック犯が自らジャックしたバス内に潜んでいる可能性は著しく減少する。その上、さっき機関銃が派手にバスを撃ちまくったことを考えると、バスジャック犯がバス内に潜んでいる可能性はないと言っていい。事件解決のためにひとまずバス内に向かうのは何ら問題のない選択と言えよう。

 

「さて。行くか、アリア」

「はい! 行きましょう、キンジ!」

 

 準備を終えたキンジが開け放たれたヘリの扉へと向かうと無地の水色ハンカチでしっかりと口元を拭ったアリアが後に続く。眼下の景色を見下ろし、そして互いに視線を交差させるキンジとアリア。二人はヘリとバスとの距離や風向きを見計らい、キンジが先行する形で刹那の躊躇もなくヘリから飛び降りた。「……くれぐれも気をつけてください」とのレキの言葉を背中に受けて。

 

 ある程度重力の為すがまま降下した二人はパラグライダーを危なげなく駆使して何事もなくバスに着地する。ちなみに。今回使ったパラグライダーは一度限りの使い捨てだ。もったいない気もするが仕方あるまい。二人は互いに目を合わせて双方の無事を確認して頷き合うと、割れた窓から進入する形でバス内部へと突入した。

 

「――なッ!? キンジに神崎さん!? どうしてここに!?」

「バスジャックされたって聞いてな。助けにきた。大丈夫か、不知火?」

「あァ、俺はな。だが、他の奴は半分はやられた。もうロクに動けねえんじゃねえか?」

 

 バス内に乗り込んだキンジとアリアを迎えたのは驚愕に満ちた不知火の声だった。キンジが自分たちの事情を手短に話すと不知火は負傷した武偵たちを一瞥しつつキンジとアリアにバス車内を取り巻く現状を伝える。その際、不知火はちゃっかり武藤のダイイングメッセージ――『犯人は不知火』――が二人の目に留まらないよう細心の注意を払っていたりもする。二人に見られでもしたら『不知火亮=武偵殺しの模倣犯』だと誤解されかねない以上、当の不知火は必死である。

 

 さて。余談だが、夏休みデビューを果たし不良スタイルを貫いているはずの不知火がどうしてアリアを名字にさん付けで呼んでいるのか。これについての答えは簡単、初対面でアリアを舐めてかかったせいでアリア主催の恐怖体験を経験したからである。身に刻まれた恐怖はアリアへの絶対服従を誓っているというわけだ。

 

「そうか。わかった。アリア。手分けして爆弾探すぞ」

「わかりました。では、私は座席の方を探しますのでキンジは――ッ!? 避けてください! キンジッ!」

「ッ!?」

 

 アリアは素早く拳銃を取り出すとキンジの胸に向けて一切の躊躇なしに発砲する。アリアの声に反応し、持ち前の反射神経でサッと半身になりギリギリでアリアの銃弾を避けたキンジ。その視界の端にキンジへと銃口を向ける機関銃の姿があった。事態を即座に把握したキンジは振り向きざまに拳銃を取り出し背後のオープンカーのタイヤに向けて発砲。パンクさせることでオープンカーを失速させ、車に備え付けられた機関銃の無力化に持ち込んだ。

 

「いきなり発砲してすみませんでした、キンジ」

「いや、いい。危ない所だったしな。ったく、やっぱオープンカーはあれ一台じゃないってことか。この分だとあと何台来るかわかったもんじゃないな」

 

 危うく背後から撃ち殺されかけていたキンジは背筋にうすら寒いものを感じつつ、「やれやれ」と陰鬱なため息を吐く。と、そこに。続けざまにまた別の黒のオープンカーがバスと並走してくる。今度は機関銃を向けずに代わりにロボットアームで小型爆弾を投げてこようとしてくる。

 

「ちぃっ!」

 

 間一髪。爆弾が投げつけられる前にキンジは咄嗟にロボットアームの関節に銃弾を当てて投げる方向をずらしに掛かる。銃弾を受けてバランスを失ったロボットアームは手に持っていた爆弾をオープンカーの座席にポロリと落とす。別の爆弾を投げられる前にそのままキンジがタイヤを撃ち抜こうとした所で、いきなりオープンカーは何とも派手に爆発した。どうやらレキの狙撃がオープンカー内の爆弾を撃ち抜き、爆弾を山積みにしていたオープンカーを自爆へと導いたようだ。

 

「助かったよ、レキ。この調子で頼む」

『窮地のライバルを助けるのは当然のことです。外の不審車両はなるべく私が片付けますので、二人は車内の爆弾の方を』

「わかった」

「わかりました」

 

 インカムのマイクに向かってレキへと礼を告げるとバスジャック犯の機械音声と似たような無機質な声が返ってくる。だが。そのレキの声がどこか誇らしげに聞こえた気がして、キンジは「ん?」と首を傾げた。

 

 それから。バスに近づく不審&無人車両の捜索及び撃破をレキに任せたキンジとアリアは爆弾探しに集中する。しかし。さすがのレキも全てのオープンカーを破壊できないのだろう。時折、レキの狙撃網を突破してやってくるオープンカーをキンジはアリアと協力して撃退する。そして。暫くして、バス車内に仕掛けられていた小型爆弾を全て一か所に収集し終えた所で新たな問題が浮上した。ズバリ、この大量に積み上げられた爆弾の山:計59個の爆弾をどう片づけるかだ。

 

「えーと。どうしよっか、これ……」

「私は一応爆弾処理はできますが、専門ではありません。正直言って、これだけたくさんあるとどうしても時間がかかってしまいます」

「武藤がやられてるのが痛いな。あいつならこの程度5分そこらで片づけられるってのに」

 

 今現在。趣味の範囲内で神業レベルの爆弾処理をやってのける武藤がばたんきゅ~状態となっている以上、この場に爆弾処理のできる人間はアリアのみだ。だが。アリアによる爆弾処理はアリア主観でどうしても時間が掛かってしまうらしい。時間をじっくりとかけていたら手遅れになりかねない。何か。何かないのか。バスがレインボーブリッジを突っ走る中、キンジは必死に考えを巡らせる。

 

 頭を捻るキンジをよそに「ダメ元ですが、一つ一つ地道に爆弾を解除するしか方法がなさそうですね。キンジは外からの攻撃の警戒をお願いします」とアリアが爆弾の山と向き直った時、『キンジさん、アリアさん』とレキの声が二人のインカムに響いた。

 

「レキか、どうした?」

『その大量の爆弾の処理についてですが』

「ッ!? 何か名案でも浮かんだのですか!?」

『それ、海に投げ捨ててはいかがでしょうか? 今、海に船は通っていませんが?』

「「あ……」」

 

 レキの提案にキンジとアリアは奇しくも同じタイミングで小さく声を上げる。全くの盲点だった。何も爆弾処理の方法は爆弾解除しかないわけではない。周囲の安全が確認されていれば敢えて爆発させる方法だってあるのだ。そのことがすっかり頭から抜けていた事実を知った二人は思わず沈黙する。思考停止に陥る。

 

『? どうしましたか、二人とも?』

「「――それだッ(ですッ)!」」

 

 レキの問いかけでハッと我に返ったキンジとアリアは即刻行動に移した。レキの狙撃の嵐を切り抜けてしきりに追いすがってくる多種多様な色のスポーツカーのタイヤをパンクさせつつ、不知火を始めとしたまだ動ける武偵たちとともに次々に小型爆弾を東京湾へと投げ込んでいく。海から連続して爆発音が響き渡り水しぶきがここまで飛んでくるのもお構いなしにどんどん爆弾を海に捨てていく。

 

「……ふぅ。どうにかなったか」

「そうですね」

 

 爆弾を全て捨て終えたことで減速を許されたバス車内にて、キンジとアリアはため息とともに自身に張った緊張の糸を解く。かくして。バスジャック犯による一連の騒動は怪我人こそ発生したものの、強襲学部Sランク武偵3名の途中参加によりどうにか死者を出すことなく収束したのであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――時は少しさかのぼる。

 

「……行きましたか」

 

 キンジとアリアが無駄のない軽やかな動きでバスへと降り立つ様をジィーと無機質な瞳で見届けたレキは自身の仕事をこなすため即座に狙撃体勢に入る。その一連の動きに一切の無駄が存在しない辺りがロボットバトルジャンキーレキとのあだ名をつけられる理由の一端なのだろう。

 

(私は一発の銃弾。弾は穿つもの。闇も、絶望も、運命さえも。貫けないものなど存在しない。いかなる概念も、銃弾たる私を前に総じて無力と化す)

 

 レキはドラグノフのスコープに目を当てて、内心で詠うように言葉を紡ぐ。いつも通りの精神統一の言葉だ。この精神統一の有無で狙撃成功率が著しく変化するというわけではない。精々微々たる差異だ。これはあくまでレキの癖のようなものだ。

 

 レキは機関銃を携えた無人のオープンカーの群れへと狙いを定めると、遥か遠くに離れた標的へと次々と正確無比の弾丸を放ちオープンカーのタイヤを一台一台パンクさせていく。爆弾を備えたオープンカーに対してはその爆弾を撃ち抜くことで車を自爆させる。つい先ほどキンジとアリアに不審車両の一切を自分に任せるよう提言した手前、中途半端な仕事は許されない。目指すは自身の狙撃での不審&無人車両の全滅である。

 

 だが。オープンカーの数があまりに多いため、何台かはジャックされたバスへの接近を許してしまう。しかし。あの二人なら何ら問題ないだろうとレキは一ミリたりとも同様の色を見せずに己の責務を淡々と全うする。

 

「……ん」

 

 あらかた機関銃や爆弾を携えたオープンカーを駆逐し終えた頃。ふとドラグノフのスコープ越しの目線をバス内部に向けると、爆弾の山を前に頭を悩ますキンジとアリアの姿が見えた。アリアが「やるしかありませんね」と言わんばかりの表情で爆弾処理に専念しようと爆弾の山を見据えた辺りで、レキはヘッドホンに取り付けたインカムのマイクに向けて言葉を放つ。レキの脳内では現状を打開する1つのアイディアが浮かんでいた。

 

「キンジさん。アリアさん」

『レキか、どうした?』

「その大量の爆弾の処理についてですが」

『ッ!? 何か名案でも浮かんだのですか!?』

「それ、海に投げ捨ててはいかがでしょうか? 今、海に船は通っていませんが?」

『『あ……』』

「? どうしましたか、二人とも?」

『『――それだッ(ですッ)!』』

 

 放心状態からハッと我に返ったらしいキンジとアリアがバス内の武偵たちとともに爆弾をポイポイ東京湾に捨て始める様子をレキはただジィーと見つめつつ、レキは次なる標的としてバス下に括りつけられたプラスチック爆弾に標準を合わせて引き金を引く。爆弾の留め具に銃弾が命中したことでバス下につけられていた爆弾はアスファルトを数度バウンドして東京湾に落下。そのまま水中で爆発した爆弾は凄まじい爆音を轟かせてみせた。どうやら今の爆弾がバスジャック犯が用意した爆弾の中で最も強力なものだったらしい。勿論、東京湾に人や船がないのは事前に確認済みだ。抜かりはない。

 

(私は一発の銃弾。理不尽を撃ち砕き、未来を切り開く、疾風の嚆矢。風を纏った弾丸。……撃ち抜け。さすれば、道は開かれん――)

 

 レキは再び精神統一の言葉を心の中で詠い、相変わらずの精度で黒のオープンカーのタイヤを撃ち抜く。その際、バスが徐々に減速する様子がレキの瞳に映った。どうやら無事にバス内の全ての爆弾を東京湾に捨て終えたようだ。

 

「任務完了ですね」

 

 何事もなく止まったバスを狙う存在が何一つないことをこの目でしかと確認したレキはスコープから目を離して狙撃体勢からおもむろに立ち上がる。レキの視線の先にはホッと安堵の表情を浮かべるキンジとアリアの姿が鮮明に映し出されていた。

 

「あ、新連載の漫画がありますね……。――ッ。らんらん先生原作、平賀あやや先生作画のハイスペック学園バトルコメディですか。なるほど。あの大先生方が共同戦線を組みましたか。しかも武偵二人を中心にしたダブル主人公モノのようですし……これは楽しみですね」

 

 二人から視線を外したレキはドラグノフを背中に背負い直し完全に武装解除する。そして。レキは制服の中からおもむろに少年誌を取り出し、座席に腰を下ろしてページをめくり始めた。風が読めと言っている以上、レキに読まないなどという選択肢は存在しないのだ。レキは自身の敬愛する二大漫画家:らんらん先生と平賀あやや先生の新連載に多大な期待を胸に抱きつつ、少年誌の世界にその身を投げ出したのであった。

 

 ちなみに。レキは自身が『風』を都合よく解釈しているという事実に微塵も気づいていない。無意識とは恐ろしいものである。

 




キンジ→さすがに爆弾処理はできない熱血キャラ。甘いものはそれほど好みではない。
アリア→某ライナくんの如くももまん帝国建国を目論んでいるももまん中毒末期患者。医者も「ダメだこいつ」と匙を明後日の方向に投げ飛ばすレベル。武藤ほどではないが爆弾処理はできる。
不知火→アリアに絶対服従を誓った不良さん。アリアを『様』付けで呼んでもいいと思っている。
レキ→カロリーメイト大好きっ娘。カロリーメイトを人類の偉大な発明品の1つとして位置付けている。狙撃前の自己暗示らしき言葉の内容が色々と変化している。漫画家:らんらん先生、平賀あやや先生を大先生と慕っている。
らんらん先生→突如漫画に目覚めた例のあの人。漫画家タイプは福田真太。
平賀あやや先生→ペンネームで本名を隠す気のない例のあの人。漫画家タイプは新妻エイジ。

理子「ボ、ボクのルノーコレクションが、全滅……うぅ(涙)」

 というわけで、レキに出番を与えんがために勃発したバスジャックの件はどうにか終結しました。まさか3話に渡って続くとは思いませんでしたが。それにしても……うん。今回の展開、何だかご都合主義感が凄まじかったですね。ええ。

※爆弾のポイ捨ては大変危険な行為です。なるべくポイ捨ては行わないでください。爆弾のポイ捨てを行う際は周囲に人気がないことを十分に確認した上で行ってください。皆様のご協力をお願いいたします。

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