大幅に減る人口。壊滅する都市部。
主人公が住んでいる田舎にもウイルスの魔の手が伸びるが…?
これは、全然活躍しない主人公の日記。
☆この作品は、作者の地元にパンデミックが発生したらどうなるか脳内シュミレートしたものです。
ゾンビパンデミック発生から四日が過ぎた。
日記を付ければ落ち着いた後で書籍化して儲けれるかも、と思いたったので今日から頑張る。
まずはパンデミックについて書いていこうか。
血液中に入ることによって感染する、という創作物でありがちなゾンビウィルスは実際有効で、感染者はネズミ算式に増え続けた。
よって都市部はゾンビとの戦いや、数少ない人間同士の生存競争で完全に荒れ果てた。
そう、都市部は。
俺の住んでいる町にウィルスの魔の手は伸びなかった。
才土町という、一応"町"は付いてるけど、景色を見れば十人中十人が田舎と答えるであろうこの町は今日もすこぶる平和だった。
別に感染者が居なかったわけじゃない。
感染は広がったもののすぐに収まったのだ。
面積が約200キロ平方メートルもありながら、人は約1万人しか住んでいないこの町は人口の八割が高齢者だった。
感染者の強さは生前の筋力に依存する…らしい。ネット掲示板にはそう書いてあった。
情報の真偽はともかく、我が町の感染者は弱かった。
感染者が町内に出て二日目までは、窓から外を眺めると三十分に一回は奴らが彷徨っているのが見えた。
しかし、三日目からはさっぱり見なくなった。
当時は喜びつつも首をかしげていたが、どうも歩く内に足が消耗し取れてしまったらしい。実際に足が取れて転ける様が窓から見えた。当然、トイレで吐いた。
四日目からは、窓の外に人が見える様になった。
それまで家に閉じこもっていたが、父さんを誘って外に出た。
一応、自衛用に草刈り鉈とか包丁とか持って行ったが感染者とは出くわさなかった。
エンカウントするようだったらすぐ逃げて、今度はカラス駆除に使う父さんの狩猟散弾銃を担いで行く予定だったのに拍子抜けである。
でも足が取れて蠢いてる奴が遠目に見えた。やっぱり吐いた。
とまあ、今日まではこんな感じだった。
明日から本当の意味で日記を書いていく。
六日目
父さんが職場である役場に行った。バイクで出勤する父さんはいつもより何十倍もかっこよかった。
学校は通学途中が怖いし、そもそも行きたくなのでサボった。
こんな非常時なので勉強する気にもなれず、スマホを使ってネットサーフィンで情報を探りながら、母さんと現状に対する考察と議論をした。
テレビを点けると電源は入っても、何も映らないことからテレビ局は壊滅したんだろうなとか話していると、掲示板に新しいカキコミがあった。
なんでも感染者に明らかにボスっぽい個体がいるらしい。体格がふた回りほど大きくて、そいつの周りは感染者が腐りにくいのか、全然腐ってない奴らがウロウロしてるとか。
ウソ乙とか、画像よこせとか少しスレが加速する中、どこに住んでるか質問するレスを飛ばした。
アンカーを付け忘れていたというのに気づいてくれたようで、群馬と答えてくれた。
少なくとも群馬にはこんな嘘をつく余裕がある地域が存在するんだなと、遠い群馬に想いを馳せた。
スレがグンマーグンマーうるさくなる中、さっきの彼?は群馬戦士という酉をつけてグロ注意のコメントと共にとんでもない画像を貼った。
ほぼ全裸で2.5mはある爛れた灰色の巨人の写真だった。
どう見ても明らかに本物だった。これで加工写真ならプロの犯行だろう。
詳細を希望するレスが幾つかつく。
群馬戦士は十分後に、説明を始めた。
群馬戦士が住んでいる地域にいる人間は知る限りは彼?一人で、食料調達にスポーツバイクでスーパーへ向かっていたところで遭遇。
従来の感染者と同じく、音に反応して追いかけてきたもののすぐに振り切れたらしい。
通常の二倍。つまり人間と同じ速度で走って来る巨人はとても怖かったとか。
だが、ジャーナリストとしての矜持が撤退を選ばなかったという。
ボスゾンビや、ゾンビパンデミックを生きるジャーナリストというデッ●ライジングの主人公みたいな人の登場に、スレは盛り上がった。
興奮の醒めぬまま、話はパンデミックの原因の推測や、他の国の現状に移った。
しばらくは見ていたが、内容が昨日の繰り返しだったので、母さんに例の巨人の画像を見せた。
反応は「へー」だけだった。
てっきりビビると思ってたのに、「いつ電気が止まるか分からないんだから、電池を大事にしろ!」とむしろ怒られた。電池じゃなくてバッテリーだと訂正してあげたら無視された。ひどいや。
七日目
明日、自警団が動くらしい。父さんが言ってた。
ずいぶん早く動くんだな。こういうパンデミックとかだと組織は動かないのがお約束なのに。
でもまぁ、部落の自警団だし、組織って言うほど大きくもないしな。その分小回りが利きやすいってことかな?
昨日はたくさん書いたのに、今日は書く事がこれくらいしかないな。
群馬戦士も現れなかったし、平和に過ごせるだけマシなんだろうけど暇だ。
八日目
自警団が活動を開始した。といっても、遺体を運んで供養するだけらしい。
そう、遺体だ。感染者でもゾンビでもなく、遺体だ。
いくら人に害をなすとはいえ、勝手に殺す?倒す?のは止めたらしい。
狭い田舎だし、ご近所付き合いもそこそこあるからなぁ。知り合いを傷つけるのはキツイだろう。
それに戦闘になったら、怪我をするかもしれない。怪我=感染なので迂闊には手を出せない。
よって、完全に機能を停止した、遺体を供養した訳だ。
放置したら、目覚めも悪いし、衛生的にもあれだしな。
懸命な判断だと思う。
あと、家々に声をかけて周っているらしい。
怪我人がいるかもしれないからだって。納得。
九日目
今日はニュースが二つある。
一つ目、群馬戦士が現れた。
なんと、あの灰色巨人を倒したらしい。証拠画像もアップされた。
真っ黒焦げのヒトガタの写真だった。
路駐されてた車を爆破して倒したとか。こいつ主人公だわ。カッコよすぎる。
二つ目、警察と役場、あと消防が動いた。
上、つまり都市部と連絡がつかないので、独自に行動を開始したらしい。
この日記の最初に荒れ果てた、とは書いたけど、マジで壊滅してたぜ都市部。
十日目
遂に、呼びかけても返事が無い家に入ったらしい。
返事が無いって事は、高確率で感染者が居るって事だから、分厚くて防御力の高い消防服とかを着て行ったとか。
幸いまだ動いている感染者は居なかったらしいけど…どこまで本当かね?
十一日目
ヤバい。そろそろ学校が始まるって、町内無線が流れた。一ヶ月後を予定としてるらしい。イヤだ!行きたくねぇ!
十二日目
昼間っから町内無線がうるさい。
なんか音楽流せば、外に居る感染者はスピーカーに寄ってくるんじゃね?って父さんに提案したら、採用された。
町の安全に一役買ったZE☆とドヤ顔していたが、正直後悔している。
家の無線は切ったけど、窓を通り越して響くのでうるさい。町のイメージソング(笑)が流れているのだが、妙に明るくてイラつく。
外でスピーカーにホイホイされてる感染者を探して確保する人に比べれば楽だし我慢する。
十三日目
相変わらず外がうるさい。
十四日目
昨日と同じ。
十五日目
やっと「感染者ホイホイ作戦」が終わった。俺は「赤茶けた雄鶏作戦」と名付けたけど父さんに拒否られた。
中二病が過ぎたか。
「感染者ホイホイ作戦」はさすがに不謹慎なので心の中で使う事にした。
的を得てるし、シュールだと思うんだけど…
十六日目
特筆するべき事はなかった。
十七日目
特筆するべき事はなかった。
…あれ?ここ八日くらい群馬戦士が現れてないぞ?
十八日目
悲報、明日学校再開
十九日目
一応車で送ってもらって学校に行った。
教室に入ったが、明らかに人数が少なかった。子供を外に出したくない親がいるんだろう。
朝のHRで山田が死んだ事が発表された。ウザい奴だったが、それを聞いてパンデミックが実際に起きたとやっと気づけた気がする。
吐いた時もぶっちゃけ他人事だったしな。ちょっとしんみりした。
二十日目
学校に行った以外特筆すべき事はなかった。
二十一日目
幸運にも隣の県から逃げてきた奴がいたとか。無傷だから役場で受け入れたらしい。
隣の県は隣の県でも都会の方の県から逃げてきたらしい。
向こうは地獄だって。まぁ、日本一田舎な県へようこそ。歓迎するよ。まだ会った事ないけど。
二十二日目
登校する生徒も増えて、元の日常に戻った。
食料問題も魚以外はギリギリやっていけるらしい。
市内で働いていた人達が使用されていなかった畑を耕し始めたからだ。
人手&後継者不足で畑や田んぼは余っていた。技術指導をしている近所のじーさんばーさんもこころなしか嬉しそうだ。
しかし、アウトブレイクで地方創生が起きるとは皮肉なもんだ。
二十三日目
もうマジで書く事が無いので日記をつけるのは今日で辞める。というか、出版社が滅亡してるのに俺は一体何処に書籍化を持ちかけるつもりだったんだろう。自分のアホさ加減に腹がたつ。
とりあえず、この日記は封印する。
ウイルスが空気感染する様になったら、封印を解いてまた書くとしよう。
八月三十一日 大有 来斗
主人公の名前がdiaryとrightの当て字とか、群馬戦士の本名がキラキラネームの朽木鬼人でワクチンの作り方を知っているヒロインと出会って世界を救う旅に出たとか、どうでもいい裏設定はたくさんあるけどもう疲れた。