だんだんと人が多くなってきたのである。いや、人かどうかはわからぬ。どちらかというと妖怪が多いやもしれぬな。まあどちらでも吾輩はこみゅにけーしょんはとれるのである。
そういえばおつきさまも呼べばよかったかもしれぬ。たまには一緒に歩くのはいいのである。吾輩はそう思って外に出ようと思ったのであるが、よく道がわからぬ。
右に曲がってから、左に曲がったりしてみるのである。たまに通りかかるめいどに道を尋ねてみるとなでなでしてくれるのであるが、違うのである。そういうことではない。
巫女もどこに行ったか分からぬ。吾輩は後ろを振り向くと、こいしも吾輩に合わせて後ろを振り向くのであった。
……? 吾輩は今何かおかしなことを言ったのではないであろうか。きょろきょろしてみてもおかしいことはないのである。吾輩は安心して歩きだしたのである。
むむ、下に降りる階段があるのである。そばには「危険 降りるな」と書いてあるのである。これは……何と読むのであろうか。けいねに聞けばわかるのやもしれぬが、吾輩は文字は少ししか読めぬ。いや……あまり読めぬ。
とにかく降りてみるのである。吾輩の足はあまり音をたてぬが、こつこつと階段を下りる音が響いているのである。吾輩が後ろを振り向くとこいしも後ろを振り向いているのである。
おかしいところはないのであるな。
……吾輩はなにかじゅーだいなことを見落としているのやもしれぬ。なんであろうか……。まあ、いいのである。
地下はひんやりしているのである。絨毯ではなく石だたみであるな。これはいいのである。こう、のびのびと寝転がるととても気持ちいいのである。吾輩はこういうことをちゃんと知っているのである。
おっとこうしてはおられぬ。吾輩は探検を続けるのである。ほのかに明かりがあるだけで暗い廊下を歩いていく。ううむ。足音が吾輩のすぐ後ろから聞こえてくると思うのであるが、こいし以外はだれもおらぬな。
「赤い扉だー」
うむうむ。赤い扉であるな。吾輩はかりかりとするのである。こうしていると誰かが明けてくれるのやもしれぬ。吾輩は障子であれば、こう隙間に前足を入れて開けることはできるのであるがドアは難しいのである。
「どうぞー」
おお、一人でにドアが開いたのである。吾輩は中に入ってみるのである。
そこには大きなベットがあったのである。部屋の隅には青い炎がゆらゆらと動いているのであるな。だんすであろうか。
「入ってきたのは誰?」
ベットの上で足を抱えて座っている少女がいるのである。背中から羽が生えて、おお! 宝石のような羽であるな! とてもきれいである。
「猫? それにあんたはどこの誰?」
「私? 私は古明地こいしだよ」
おぉ。こいしである。いつの間にいたのであろうか。いつもの帽子と、白いドレスにお花をいっぱいつけているのである。なかなか似合っているのであるな。
「……まあ、だれでもいいけど。とりあえず出て行ってくれない?」
座っている少女を見ると金髪で頭の横で髪を結んでいるのであるな。吾輩は思うのであるが、吾輩も結んでみたいのである。
「じゃあ、でていこっか」
こいしが少女の手をつかんで引っ張ったのである。
「ちょ、なにすんだ。出ていくのはあんたと、この……猫!」
こいしは頭を傾けて少女を見ているのである。
「あなたの名前は誰ですかー?」
「……フランドール・スカーレット。ここに来たのならあいつ……お姉さまにもあったんでしょ。今日は変なお祭りをするから私はここにいるのよ」
「じゃあ。フランでいいね。さあ、いこいこ」
「だから! 私はここにいるって、それになれなれしく。押すな!」
こいしがふらんの背中を押して外に出そうとするのである。ふらんはどらの前で外に出ないように壁に手をついて踏ん張っているのである。
「よいしょ。よいしょ」
こいしよ。頑張るのである。
「お前たちは何が目的だ!」
焦ったようなふらんの声が響くのであるが、吾輩は見ているのだけである。しかしふらんよ。ちゃんとお外で遊ばねばならぬ。外は気持ちがいいのである。
「もーおうじょうぎわがわるいなー」
「……なんで外に出そうとしているのよ。私は部屋にいるって言っているだろ」
うむ? 吾輩の脇をこいしが持ったのである。そのままふらんに吾輩は渡されたのであるが、吾輩はものではない。ふらんにだっこされたまま目が合ったのである。
「なんで渡したの??」
うむうむ。もっと言ってやるのである。
ふらんが吾輩を紅い瞳で見てくるのである。紅い瞳といえばこがさが半分だけそうであるな。ふらんはそれよりもきれいやもしれぬ。吾輩は前足を伸ばしてみるのである。
「わっ、なんだよ」
かおをそむけられたのである。吾輩は気が付いたのである。白くて柔らかそうなほっぺたであるな。もしかすると甘いやもしれぬ。吾輩は何となくなめてみるのである。
「やめろ! ざ、ざらざらする、きゃっ」
ふらんがよけるのである。吾輩はしぶしぶやめてみるのである。あんまり甘くはないのであるな。
「それじゃあ、フランが猫さんを持っててね。さあ、いこー!」
そういうとこいしがドアの外に歩きだしたのである。
「え? ちょっと、待て。猫を置いていかないでよ」
ふらんも吾輩をだっこしたままこいしの背中を追うのである。吾輩はらくちんである。ううむ、しかしふらんの髪が目の前でゆらゆらしているのである。吾輩はそれを咥えてみるのである。
「噛むな!」
怒られたのである。吾輩はにゃーとちゃんと謝るのである。
「…………フラン! そういう時はね」
こいしがくるりと振り返ったのである。ドレスのスカートがふわっとしたのである。
「にゃー」
こいしが吾輩に言ったのである。何を言っているのであろうか。吾輩はきょとんとしているとこいしがふらんに言うのである。
「猫さんにはちゃんとにゃーとかなーって言わないと伝わらないよ」
「…………は?」
「フランも猫さんと会話するならにゃーって言わないと」
「いやだ!」
「ほら、にゃーって。ね。猫さんにはわかるもんね」
わからぬ。何を言っているのか全然わからぬ。
ふらんが吾輩をちらりと見たのである。ほっぺたをもごもごさせて、顔をそらしながら言ったのである。
「……にゃ……―」
おお、ふらんが赤くなったのである。こいしは「もう少しわかりやすいほうが……」と言っているのであるが、吾輩はどっちでもいいのである。
「も、もういい! 私は部屋に帰る。ほらあんたの猫でしょ」
吾輩をふらんはこいしに渡そうとするのであるが、吾輩はものではないのである。こいしの胸元から抗議のためにふらんの顔をじーっと見るのである。
「な、なによ。なんでそんな顔で見るのさ」
「猫さんはフランもパーティーに参加してほしいって言っているんだよ」
「はあ? いやよ。めんどくさいし」
こいしよ……確かにそれもいいと思うのである。ぱーてぃーにさんかしてほしいのである。吾輩とこいしはじーつとふらんをみたのである。
「なによ。なんでそんな顔で見るの?」
壁際に追い込むのである。ふらんは壁に背中をつけて顔を背けようとしているので、こいしがささっとまわりこんだのである。逃げられぬのである。
「…………お姉さまに叱られても知らないからね!」
「わーい!」
吾輩を抱いたままこいしがふらんの手をぎゅっと握って歩き出したのである。
来たときは吾輩だけできたつもりであったが、帰りはふらんとこいしが増えたのである。
にぎやかになるのはとてもいいことである!