わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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どれすをきるのである

 うむうむ。

 

 絨毯の上は柔らかいのである。吾輩はなかなか気に入ったところであるな。しかし、寝そべって毛並みをなめるといつもよりきれいにすることができるような気がするのである。

 

 しゅっしゅっと、音がして吾輩はそちらを見るのである。

 

 大きな鏡の前に巫女が座っていて、その黒い髪をさくやがブラシでこう、しゅっしゅっとしているのである。こうなんといっていいであろうか、あれは毛並みのめんてなんすであるな。

 

吾輩はちゃんとブラシは知っているのである。前にふとにやってもらったのである。

 

「ふん」

 

 巫女は不機嫌そうであるな。吾輩はさくやの前に行ってじーっと見るのである。吾輩はもぶらっしんぐをしてほしいというわけではないのである。ただ、見ているのである。

 

「ふふ。猫さんはあとでね」

 

 うむうむ。

 

 いや、別に催促したわけではない。だがこう、ブラシでしゅっしゅしてもらうのはやぶさかではない。

 

「とりあえずこの目つきの悪い巫女の着替えから終わらせないとね。さ、お嬢様が用意したドレスをどれでも選んでいいわよ」

「私はこれでいいわよ」

 

 巫女が自分の服をつまんでいるのである。

 

「それじゃ意味がないでしょ。こっちの部屋よ。早く」

「ひ、ひっぱるんじゃないわよ」

 

 巫女がさくやに連れていかれるのである。吾輩はそれにとことこついていこうとして、巫女が振り返ったのである。

 

「あんたはここにいなさい!」

 

 ううむ。なぜであろうか、吾輩は止められてしまったのである。

 

 やることがない。仕方ないので、後ろ足で顎をかいてみてるのである。おお、いい気持がよい。

 

 

 吾輩はあくびをしたのである。退屈であるな。巫女もさくやも戻ってこぬ。

 

 吾輩はすくっと立ち上がってから、のびのびして体をほぐすのである。体を動かす前にはちゃんとのびのびをするのが必要なのである。今度こがさにも教えてあげねばならぬ。

 

 とことこ。吾輩は巫女の歩いて行ったほうに向かうのである。小さなドアの前にさくやが椅子に座っていたのである。

 

「あら、猫さん。こっちに来たのね。あなたのご主人様は中でドレスを選んでいるわ。猫さんもついてこないように言われたけど、私も追い出されてしまったわ」

 

 ご主人? 何のことであろうか? 吾輩はよくわからぬが、にゃあとあいさつをしてから、ドアをかりかりしてみるのである。

 

「なにかしら。入りたいの?」

 

 入りたいというよりも体が勝手に動いたのである。

 

しかし、さくやがちょっとだけドアを開けてくれたのであるからして、吾輩はちゃんとお礼を言ってから中にするりと入ったのである。

 

 ううむ。いい匂いのする部屋であるな。服が並んでいるのである。……ちゃんとわかっているのである。これがどれすであるな! 吾輩もたまには着たほうがいいのであろうか? しかし大きすぎる気もするのである。

 

 物音がしたのであるからそちらに歩いていく。吾輩は用心深いのであるから物陰から顔を半分だけ出して、様子をうかがったのである。

 

 巫女が赤いどれすを着て鏡の前でくるりと回っているのである。黒い髪にはいつものりぼんがないのであるな。すかーとがひらひらとうごいているのである。吾輩は危うくそれに反応して飛び出してしまいそうになったのである。

 

「……」

 

 なんとなく楽しそうである。鏡に手を置いて少しうれしそうにしている顔が見えるのである。うれしいことはいいことであるな。吾輩は物陰からじっと見ているのである。

 

 巫女はどれすのを両手でつまんでちょっとお辞儀したのである。……むむむ、紳士である吾輩にはわかるのである。あれはあいさつの練習であるな。

 

 吾輩もするのである。とことこと歩いて、巫女ににゃあーと声をかけてみるのである。挨拶はちゃんと元気よくするものであるな。

 

「……!!! っ!」

 

 巫女が顔を真っ赤にして吾輩を見たのである。ぐぬぬという顔をして、何も言わぬ。

 

 巫女は吾輩を指さして怒っているような顔をしているのである。しかし吾輩は何もしてはおらぬ。

 

「あんた……いや、猫に何を言っても仕方ないわね。はあ」

 

 しんがいである。吾輩はなんでも聞くのである。悩みがあるならなんでも言うのである。またたびのいっぱいある場所も教えるのである。

 

「何か言いたげね。まっ、どうでもいいけど」

 

 巫女は吾輩から目をそらして、手に白い手袋をしたのである。寒いのであろうか? 

 

吾輩も一度だけけいねにてぶくろをつけてもらったことがあるのであるが、あれはかりかりができないのでいかぬ。

 

 

 吾輩はお屋敷の中を探検するのである。

 

 巫女とさくやが話し込んでいる間に出てきたのである。ぱーてぃーとやらはまだ始まらぬようであるな。見れば忙しそうにめいどが準備をしているのである。

 

 吾輩も手伝いたいところであるが、何をすればよいのかわからぬ。仕方ないので絨毯の上で寝そべってじーとみていたのである。いろんなものを持っためいどが歩いているは戻ってくるので楽しいのである。

 

 ふと、刀を持ったものが通りかかったのである。黒い丈の短いどれすを着ているのであるな。ようむであるな。吾輩を見るなり、剣を抜いて、ふーっといかくしてきたのである。

 

 ……まあ、おちつくのである。吾輩は寝そべっているだけである。

 

「な、なんだ猫か。危うく斬るところだったわ」

 

 よくわからぬが吾輩は危なかったやもしれぬ。ようむは吾輩の近くでぐるぐる歩き回っているのである。

 

「くそ。いきなりドレスに着替えさせられるなんて不覚だわ。というか私の服はいったいどこに行ったんだ。こんなに短いスカートなんて正気じゃないわ」

 

 かりかりと爪を噛んで、顔を赤くしているであるな。よくわからぬが落ち着くのである。吾輩はじっと見ながらそう思ったのである。

 

 おお。黒いドレスにはお花の模様がついているのである。なかなか似合っていると思うのである。吾輩はそれを伝えようとしてうまくいかぬ。みゃーといえばいいのか、ぐるぐるといえば伝わるのかわからぬ。

 

 こみゅにけーしょんは難しいのであるな。

 

「はずかしい……」

 

 顔を赤くしたようむはそれだけ言ってどこかに行ってしまったのである。

 

 次に歩いてきたのはなんであろうか。……大きな木の桶が歩いてきたのである。吾輩は興味がわいてそれをじーっと見つめていたのであるが、吾輩の前で木の桶が止まったのである。

 

 桶が動いて中からふとが顔を出したのである。

 

「おお、猫ではないか」

 

 ふとであるな。吾輩は興味がなくなって寝そべるのである。

 

「ふふ。我が来たとなるとそうおなかを見せるとは。なでなでしてほしいのであろう! そうであろう!」

 

 ふとが吾輩の背中をなでてくるのである。なかなかの手並みであるが、ふとは何をしているのであろうか。

 

「今日は太子様も来られるからな。先に敵情視察というやつだ、それにしてもおぬしはどこにでもいるのう。高麗野もどこかにいるのか?」

 

 こまの……あうんのであるな。どこかに行ったのである。

 ふとはしきりに吾輩をなでなでしていると、後ろから来た数人のめいどに取り押さえられてどこかに連れていかれたのである。「は、はなせー」といっていたのである。

 

 吾輩は頭をふるふるして立ち上がり、首を後ろ足でかいかいしてみるのである。

 

 そこでふと思ったのである。ふと、というのはふとではなく。こう……ふとおもった。ううむ、ふとのことではない! 邪魔しないでほしいのであるな。

 

 ようむもふとも来たのであるが、もしかするともっと大勢の吾輩の知り合いがくるやもしれぬ。…………楽しみであるな。

 

 


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