ぴくぴく
ぴくぴく
うむ。
吾輩は耳をぴくぴくさせて起き上がったのである。体をしっかりと伸ばして、すくっと立ち上がるのである。吾輩は紳士であるからして、おねぼうさんはいけないのである。
「ん」
巫女はまだ眠っているようであるな。吾輩は起こさないようにお布団から抜け出すのである。吾輩は抜け出すのは得意だ。
「んん」
しまった……吾輩の尻尾が巫女の鼻をくすぐっているのである。いや、わざとではない。吾輩はその場で巫女の顔を覗き込むと起きてはおらぬ。幸せそうに眠っているのである。
雨の音がするのである。吾輩は外に出ようとして、部屋をぐるぐるしてみるのであるが、障子が閉まっていて出られぬ。吾輩はじーと白いそれをみてみるのである。
ぱしぃっとこう、破いてもよいのであろうか。
いや、巫女に怒られたことがあるからしてやめておくのである。
しかし、出られぬ。吾輩はその場でぐるぐる回ってみるのであるが、いい考えが浮かばぬので横になってみた。
尻尾でぱしんぱしんと床をを叩いてみるのであるが、巫女は起きる気配がないのである。吾輩は外に出たいのである。
焦ってはいかぬ。のんびり行くのである。吾輩は毛並みのメンテナンスをするのである。
ぺろぺろ。かりかり、はむはむ。
指の間をこう口でハムハムしておくと綺麗になるのである。それにしても巫女はおきぬ。ねぼすけさんであるな。おなかをかいているのであるが、吾輩もなでなでしてもやぶさかではないのである。
吾輩は巫女の顔の前にいったのである。ほっぺたが柔らかそうである。少しさわってもいいとおもうのである。吾輩はパンチしてみるのである。おぉ、柔らかい。
「ん、ん」
巫女が何か唸っているのである。じーと吾輩が見てもそれでもおきぬ。軽く触ってみるのであるが、やはりおきぬ。
…………うむ。
吾輩は振り返って障子の前に来たのである。吾輩はぱりぃっと破れるのが好きであるからして……でも前にけいねに怒られてしまったのである。ううむ、吾輩はしょうじとにらめっこである。
少しくらい触ってもよいかもしれぬ。吾輩は手を伸ばそうとしたのである。
「んん、あんた何やってんの?」
何もやっておらぬ。吾輩はゆっくりと振り返って巫女ににゃーと挨拶するのである。
巫女は体を起こして吾輩を見ているのである。
そのままずいいと膝をすすめてきたのである。吾輩を持ち上げて聞いてきたのである。
「あんた、なんか悪さしようとしてなかった?」
目の前に巫女の顔があるのである。悪さなどしておらぬ。ただ少し障子をこう、触ってみようとしただけである。吾輩はじーと巫女の目を見ているのである。
「まったく」
巫女がため息をついたのである。
「あんた、人の言葉がわかってそうでわかってない気がするわね」
そうであろうか……吾輩はちゃーんと巫女の言っていることを聞いているのである。こみゅにけーしょんはなかなか難しいのであるが、吾輩は覚えているのである。
かららと巫女が戸を開けたのである。吾輩がその隙間からのぞくとやはり雨が降っているのである。こういう日はのんびりと神社にいるのがいいのである。
「あー、雨降ってるし。今日は確か紅魔館でパーティーだったんじゃなかったかしら。屋内だっけ?」
吾輩は巫女の開けたところからとことこ外に出て、廊下でこてんと横になってみるのである。おぉ、良く雨が降っているのである。地面がバシバシなっているのである。
「あんた、雨の間だけだからね。ちゃんと明日にはでていきなさいよ」
わかっているのである。吾輩は振り返ると。巫女は吾輩のうしろでしゃがんでじっと見てきているのである。なんであろうか。手を伸ばしてきたのである。
なでなで。
なでなで。
なでなで。
うーむ。なかなかうまいのである。吾輩は巫女のことをほめるのである。ちゃんとなでなでができて偉いのであるな。
「まあ、雨なら逃げないでしょ、レミリアのやつもあんたを連れてこいって前言ってた気がするからちょうどいいかも。パーティーに連れていくって……そういえばどうやって連れていこう」
安心するのである。後ろについていくのである。どこに行くのかはよくわからぬが、きっと楽しいのである。
吾輩は毛並みのメンテナンスにもどるのである。あたりを見回すと、遠くで顔半分だけ「こまの」が見えるのである。なんか羨ましそうであるな。
「霊夢さん……私にもなでなでしていいんですよ……?」
なんか言っているのである。
「なに、あれ?」
知らないのである。巫女よ、なでなでしてあげるのである。巫女はうーんと体を伸ばして部屋に戻っていったのである。
「着替えるからね。あんた後でご飯あげるから逃げないのよ」
ごはんであるか! 楽しみである。吾輩は待っているのである。
そういえば昔どこかでちゅーるという美味しいものがあると聞いたことがあるのであるが、きっとやまめであろう。
「ずるいですよー」
こまのが廊下を滑って吾輩の前に来たのである。……! 楽しそうである。吾輩も滑ってみたいのである。
「猫さんだけ。霊夢さんになでなでしてもらってずるです。私はたまに家事とか手伝っているのに!」
かじ、かじとは何であろうか。よくわからぬ。こまのは吾輩を抱き上げてぷくっとほっぺたを膨らませているのである。吾輩はこまのの手をぺろぺろと舐めてみるのである。
「あーあ、私もパーティーにいきたいなー」
大きな声であるな。
「あーあー。れーむさんが私も連れて行ってくれたら―。私たまに家事もお手伝いして、お掃除もしているんですけどねー。あーあー」
「うっさい!!」
ぱしぃと戸があいてびっくりしたのである。そこにはいつもの赤い服を着た巫女居たのである。
「あんたは、くどくどとわざとらしく……」
「こ、こうぎですよー。霊夢さん猫さんのお世話をしますから私もつれていってくださいー」
「…………あー?」
巫女よ、こまのもいいこである。吾輩がちゃんと面倒を見るから連れて行ってあげるのである。吾輩は迷子の扱いには慣れているのである。
「どうせレミリアも細かいことは言わないだろうから、別にいいけど」
「やったー!」
こまの吾輩をぎゅーとしてきたのである。
「ふわふわな毛並みですね―」
それほどでもないのである。
「それはそうとあんた。連れて行ってあげるんだから数日、神社の前の掃除をするのよね」
「え?」
「なに? 嫌なの?」
「お、おうぼう。ま、まあ。任せておいてください」
こまのは吾輩を床においてどんと胸を叩いたのである。
「あら?」
巫女はそれを見ずにこまの後ろを見ているのである。
吾輩も振り向くと雨が弱まっていたのである。こまのも振り返ったのである。
青空がちょっと見えているのである。
「雨、やみそうね。通り雨だったのかしら」
「そうみたいですねー」
「そうだ、レミリアとか咲夜がその猫を連れてくるように言ってたから、あんた逃げないように見張ってなさいよ」
「はーい」
吾輩は逃げぬ。すっと立ち上がって、尻尾を体に巻きつけて背筋を伸ばすのである。
「ご飯持ってくるから待ってなさい、あ、あうんは自分用意するのよ」
「ふふふ、霊夢さん。私が台所にいくと猫ちゃんがにげちゃうかもしれませんよ。だから、ゴハンは持ってきても罰は当たりませんよ」
「そ、じゃあ。あんたは飯抜きね」
「そ、そんなぁー」
「どうせ狛犬なんだから平気でしょ」
「そ、それはそうかもしれませんけどー!」
吾輩はとことこと歩いていくのである。巫女の部屋でくつろぐのである。