わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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あのときのおれいなのである

 ちゃぷちゃぷ。

 吾輩は巫女に出されたお水を飲むのである。お茶碗にいれられたお水はおいしいのである。

 

「あんたって美味しそうに飲むわよね」

 

 巫女が吾輩を見下ろしながら言っているのである。吾輩は振り向いてじっと巫女を見てから、またお水がほしくなったので飲み始めたのである。ちゃぷちゃぷ。こう舌をなんども出したりするのは楽しくなってくるのである。

 

 吾輩と巫女は縁側にいるのである。今日は思ったよりも温かいのである。

 巫女はごろんと寝転がって空を見ているのである。吾輩はお水を飲み終わって振り向いたのである。

 

 みゃー。

 

 ごちそうさまである。巫女は吾輩を見るのである。

 

「なによ? おかわりなんて持ってこないわよ」

 

 じろっと見てきたのであるが、吾輩はおかわりなんて頼んだわけではないのである。ううむ。まあいいのである。吾輩は毛並みのめんてなんすをするのだ。はむはむ、ゆっくりしたときにやるのがいいのである。

 ぺろぺろ、はむはむ、ごろんごろん。

 うむ? 巫女よ、なんで吾輩を見ているのであろうか。吾輩は……なんとなく恥ずかしいのである。巫女はうつぶせになって吾輩を見てくるのである。ほっぺたを縁側で押し付けているのであるが、なんとなくやわらかそうであるな。

 

「…………」

 

 巫女が吾輩を見ているのである。なんであろうか、吾輩はじっと巫女を見ているのである。

 

「何見てんのよ」

 

 吾輩のセリフである。巫女は肘でずりずり吾輩に近寄ってきたのである。むむむ、なんであろうか、吾輩を真剣に見ているのである。なんであろうか? まあ、うむ。巫女である、変なことはすまい。

 巫女が吾輩に手を伸ばしてきたのである。ゆっくりと吾輩の頭に手を置いて、

 

 なでなで。

 

 おお、なかなかいいのである。なんだか珍しいのである。巫女は無表情で吾輩を撫でているのである。ぉお、もう終わりであるか? 寂しいのである。

 

「……ふん」

 

 巫女はまたごろんと寝転がっているのである。うむ、吾輩はちょっと思ったのであるが、とことこ近づいてみるのである。それから黒い髪をぺろぺろと毛づくろいしてあげるのである。

 

「わっ……あんた……な、なんのつもりよ」

 

 毛づくろいである。何もおかしくはないのである。なぜ怒ったのであろうか? 吾輩にはわからぬ。でも、吾輩は紳士であるからして悪いことをしたらちゃんと謝るのである。

わがはいは巫女の横にごろんと寝転がって、のびのびするのである。体を伸ばしておくと走る時には調子が良いのである。

 

「……」

 

 空を見ると今日はお星さまがいっぱいいるのである。何かお祭りもであるのであろうか? 吾輩はみゃあと聞いてみるのであるが、返事をしてもらったことがないのである。巫女をみると黙って空を見ているのである。

 

「猫のあんたに言っても仕方ないけど、星ってどれくらい遠くにあるのかな?」

 

 巫女が吾輩を見ずに言うのである。ううむ、どうであろうか。隣町よりも遠いかもしれぬ……。巫女が手を伸ばしてぐーぱーぐーぱーしているのである。じゃんけんであろうか? 吾輩はじゃんけんは得意である。

 

「星を手につかむ、なんて」

 

 おお。巫女はお星様を手につかめるのであるか、さすがであるな。吾輩にも見せてほしいのである。とんと巫女の上にのって、手を見てみるのである。うむ? 何も持っておらぬ。

 

「あんたねぇ」

 

 なぜか巫女が怒っているのである、吾輩はまたわからぬ。ううむ。難しいのである。しかし、巫女よ。吾輩にも見せてほしいのである、きっときらきらして綺麗なはずであるな。巫女は体を起こしたので、吾輩もとんっと降りたのである。

 

 巫女は吾輩をじとっと見ているのである。何か言いたそうであるが、吾輩に言ってみるのである、吾輩はちゃんと聞くのである。吾輩はちゃんと前足をついて体をぴんとのばして、尻尾を体に巻いて姿勢よくするのである。

 

「……」

 

 巫女は何も言わずに立ち上がったのである。それから部屋に戻っていくのである。途中縁側に寝ていたあうんを蹴って「風邪ひくわよ」と起こしていたのである。優しいのであるな。 

 吾輩はその後ろをとてとてついていくのである。

 部屋に入ると巫女の布団が敷かれているのである。吾輩は畳の上でノビノビしてみるのである。気持ちいいのである。巫女は部屋にろうそくの明かりをつけて布団に入ったのであろう。

 布団の中からごそごそと何かを出しているのである、本であるな! うむうむ。吾輩にはちゃんとわかるのである。巫女は寝転がってそれを読み始めたのである。吾輩にも読ませてほしいのである。

 近寄って本の上に乗ってみるのである。

 ふむふむ。わからぬ。いつか読めるようになればいいのであるが、よくわからぬ。

 

「ちょっとどきなさいよ」

 

 巫女は吾輩の両脇を掴んで脇にどけたのである。なんだか恥ずかしいのであるが、巫女はまた本を読んでいるのである。ずるいのである、吾輩も読むのである。

 そう思って本の上のもう一度乗ってみるのである。巫女はほっぺたを少し膨らませているのである。なんでであろうか? 

 

「……!」

 

 吾輩はまた脇を掴まれて横にどけられたのである。

 

「なんで邪魔するのよ」

 

 邪魔なんてしてないのである。吾輩も勉強したいだけであるな。吾輩はこうにゃあと抗議するのであるが、巫女は言ったのである。

 

「遊びたいのはわかるけど、泊めてやるんだからおとなしく寝てなさい」

 

 遊びたいと言っているわけではないのであるが、まあ仕方ないのである。吾輩は毛並みのめんてなんすでもするのである。ぺろぺろ。

 ふるふる。

 ごろんごろん。ふみふみと毛布をしてみるのである。なかなかいいのである。そろそろ眠たくなってきた気がするのである。そういえば巫女よ、何を読んでいるのであろうか?

 

『吾輩は猫である』

 

 なんと書いてあるかわからぬ。巫女はたまに吾輩を見てくるのである。なんでであろうか?

 

「ねえ、あんたも名前はまだないの?」

 

 わがはいはわがはいである。変なことを聞くのであるな。巫女も巫女である。

 

「猫にそんなことを聞いても無駄よね。化け猫でもない限りは……ふぁーぁ」

 

 巫女が大きなあくびをしているのである。吾輩もつられてあくびをするのである。眠たくなってきたのであるな。吾輩は体を丸めて目をつぶろうとしたのである。すると体がふわっと浮いたのである。

 目を開けると巫女がいるのである。布団の中に入れてくれたのである。なるほど温かいのであるな。

 

「なんで猫なんかと寝るのかしら?」

 

 なんかとはひどいのである。巫女は布団の中の吾輩を見ながら、布団を頭まで被ったのである。布団の中で巫女は吾輩に笑顔を見せたのである。吾輩は巫女が優しいことはちゃんとわかっているのである。

 

「一応言っとくけど、あんたは酒なんて飲んだりするんじゃないわよ」

 

 お酒であるか。飲んだことないのである。

 

「溺れたって知らないからね」

 

 溺れるのであるか……。よくわからぬが、わかったのである。

 

「そういえばあんた、いつの間にか蝶ネクタイなんてしているわけ。寝るときは外しなさいよ。ほら。誰に着けられたんだか」

 

 それはこいしに着けてもらったのである。さとりがくれたらしいのである。

 

「ん? これなんか裏に書いてある。読めないし」

 

 巫女はおきあがって明かりの下にネクタイを持って行ったのである。巫女よ何を見ているのであろうか?

 

『みこよ ありがとう なので ある』

 

「……なにこれ? 私に……お礼? あぁ?」

 

 巫女が首をひねっているのである。吾輩はさとりの顔を思い出して、うれしくなったのである。 

 


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