「傘のことなら私に聞いてくれたらいいじゃないですか」
ふふーんとこがさが胸をたたいたのである。吾輩はもみじの腕の中から抜け出て、地面に降りながらそれを見たのである。首元がかゆいのである。後ろ足で掻くのである。おぉ。気持ちいいのである。
「あ、また今度ね」
はたてはこがさから目をそらしているのであるな。
「えっ!? な、何でですか? 傘のことは傘に聞いた方がいいに決まっているじゃないですか?」
「それはそうかもしれないけど……。でも、そのあれよ。ほら言うじゃない。河童の川流れってさ、ここは玄人の小傘もいいけど素人の私たちで考えるのもいいと思うのよ、うんうん」
はたてがうんうんと首を振っているのである。もみじは何故か腰を落として吾輩の後ろにのいるのである。吾輩の後ろに隠れても、少し大きすぎるやもしれぬ。隠し切れないのである。
吾輩はとりあえず毛並みのめんてなんすをするのである。はむはむ。こうちゃんと吾輩は身だしなみを整えるのである。
「で。でも私にいい考えがあるわっ」
こがさがいい考えがあるらしいのである。きっといい考えであろう。吾輩は応援しているのである。はむはむ。おぉ、ちょうちょうである。どこに行くのであるか? 答えてはくれぬ。むしともこみゅにけーしょんがとれぬのは寂しいのであるな。
「なんだ、おまえ。蝶を食べるのか?」
もみじよ、吾輩は食べぬ。たまに妙なものを食べさせてくる人間もいるのであるが、ちゃんと吾輩は選んで食べるのである。それに吾輩はちゃんとお礼もするのである。
「でも、小傘はあれよね―。いい天気よねー」
はたてが空を見上げているのである。もみじがぼそりと「混乱しているな……」と言っているのである。
「私が、いい天気……??。ど、どういうことなの?」
「あ、あれよ。太陽みたいな笑顔で明るいなって」
「えっ? い、いきなりほめられても。え……えへへ」
はたてが一度こちらを振り向いたのである。すごい目が泳いでいるのである。吾輩に助けを求めているのやもしれぬ。任せるのである!
吾輩は駆けだしたのである。するりとこがさの真下に来たのである。
にゃあーにゃー。
「んー。猫さんどうしたの?」
吾輩はこがさを応援しているのである。さっきの「いい考え」ではたてに言うのである。はたては今困っているのであるからして、きっと助かるのである。なんではたてが困っているのかはわからぬが。
「猫さんもおしゃれな傘屋にいきたいですよねー」
うむ。行きたいのである! かさやとはなんであるかわからぬが、きっと楽しいのである。
聞く前にこがさが吾輩の顎を指でこちょこちょしてきたのである。ううむ、吾輩はやられてばかりではいかぬ。前足で挟み込んでなむなむ、なめるのである。
「あはは、くすぐったいわ」
こがさも今度もみじの指を舐めてあげるといいのである。
「えっ? いい考えってそれなの。小傘が自分の傘を使ってくれっていうかと思ったわ」
「あっ! それでもいいわ! ふふー、私の傘は雨傘だからこんないい日に写真を撮るにはほんのちょっとだけ向かないかなー、なんて思ってたから」
ちらちらとこがさがはたてを見るのである。はたては両手組んでまた困ったような顔をするのである。
「あー、あー私も番傘見たいなー。新しいのほしいなー」
はたても行きたいらしいのである。こがさは「むぅ」と言ってから吾輩をなでなでしてくれたのである。そういえばこすずはどうしたのであろうか、見れば木陰で眠っているのである。気持ちよさそうであるな。
★
こがさと吾輩をを先頭に人里の中のお店にやってきたのである。
暖簾がかかったそこをくぐると、
「わー。すごいですねー」
こすずが声をあげたのである。
吾輩もみるとお店の中は畳が敷いてあって、その上にいっぱい開かれた傘が置いてあるのである。吾輩はとんっと畳に乗って冒険して見るのである。畳に置かれた傘はなかなか大きいのである。「持つところ」が伸びて、お花のように大きく傘が開いている間を通るのである。
傘のとんねるであるな。
「あっ、これすごい」
はたてが言ったのである。吾輩がみると傘に桜の花びらが付いているのであるな。吾輩ははたてに近づいて行って、持っている傘から桜をとろうとして見るのである。取れぬ。綺麗なのに残念である。
「あはは。これは絵よ。赤い傘に桜の花びらが描かれてるだけって……なんで猫に説明しているのかしらねぇ」
絵であるか。ううむ。不思議である。いっぱい桜の花びらがあるのである。吾輩は桜は好きである。
「わっあぁぁ」
声がした方を見てみると。こすずが手に傘を持っているのであるな。
紫の傘である。色はこがさと同じようなのであるが、むむむ。なんだかちょっとかっこいいのである。紫に青いアジサイが描かれているのである。
あれは絵であるな! ちゃんとわかったのである。こすずはくるくるとそれを回しながら「大人っぽいなー」と言っているのである。吾輩も大人であるからして、傘を使うべきかもしれぬ……。
「……」
うむ? もみじよどうしたのであろうか。おお。今度は紅葉が付いている傘であるな。吾輩は気にいったのである。吾輩はそれをもみじに伝えようとしてにゃーと言って傘にぱんちをしてみるのである。
「あ、こら。だめだ」
止められたのである。吾輩はすぐにやめるのである。怒られたら止めた方がいいのである。最近分かってきたのである。なんで止められたのかはわからぬ。
しかし、吾輩のぱんちで傘がころころと転がるのである。紅葉が動いているのである。なんとなくいいのである。
「……これいいなぁ」
「ふふふ。これが傘の魅力ですよー。なんと言っても私たちは天気だって変えられるんですから」
こがさがやってきら椛に話かけたのである。
「わっ。突然なんだ。それに天気を変えるだと? そんな大それたことを付喪神いや小傘ができるわけないじゃないか」
「ふっふっふっ。椛も分かってないわー。私の真の力をみよー」
みよーと、言ってからこがさはきょろきょろして、閉じられた傘を見つけてとてとてもどってきたのである。青い傘であるな。そこに白いものが描かれているのである。
こがさは椛と吾輩が入るように傘をさしたのである。
ぱっと青い傘が開かれるのである。
雪である。
おぉ、天気が変わったのである。こがさともみじが傘に描かれた雪を見ているのである。
「……おどろいた!?」
「……うん……。あ、いや。その大きな声にびっくりする。少しは落ち着きを持ったらどうだ」
もみじはふんとどこかに行くのである。こがさは吾輩を見て片目をつむって「べー」と舌を出したのである。
「なんとなく最近椛がわかってきたわ。猫さんもそう思う?」
吾輩も分かっているのである。もみじはいいやつなのである。
だからにゃーと答えるとこがさも傘を手でくるくる回して言うのである。
「にゃー」
そういえば今日は一年が経ったやもしれぬ。桜とアジサイと紅葉と雪が見られるとは傘とは不思議である。
「あ、そうそう。はたてさん」
「小傘。あー。別にはたてでいいんだけど。ここはいい店ね。ところで何?」
「さっきお店の人と話をつけたわ安くしておくって。これくらいですね」
「…っ。け、けっこうするわね。……もしかして、あんた、ここへの案内料なんて入ってないわよねー」
「まさかまさか!」
「そうよねー。あはは」
くるりとこがさは後ろを振り向いたのである。こがさは青い傘で顔を隠して、べーと舌だけ出しているのである。
小傘ちゃんはできるおんな!