「へ、へぇ、店員さん。この新聞売れているの?」
はたてが吾輩を抱っこたままこすずに聞いたのである。新聞であるか、吾輩は前に見たことがあるのでけいねが障子の間をこう、掃除するのに便利と言っていたのであるな。新聞がほしいということはみんな綺麗好きなのであろうか。
「え、あ、そうですね。結構売れてます。最近は定期購読を望んでいる人もいてですね」
こすずよそこにいたのであるか、てーきこーどくとはよくわからぬがが、きっとおいしいものであろう。おお、う。
ぎゅううう。
はたてよ吾輩をそんなに抱きしめたら痛いのである。うにゃあ、うにゃあ。吾輩はくねくねして見るのであるが、はたては吾輩に気がつかぬ。
「ふ、ふーん。定期購読……あ、貴方も面白いと思う?」
「んーそうねー」
こすずは指をたてて顎の下につけたのである。それからちょっと上を向いて考えているのであるな。吾輩もちょっと真似をしてみるのである。しかし、吾輩は今考えることがないのである。どうするべきであろうか……そう思っているともみじと目が合ったのである。
もみじの好きなものを考えるのである。ううむ、ううむ。こがさではないであろうか。
「なんだろうか、この猫にいつも不本意なことを想われている気がする」
もみじが吾輩をじとっと見て言うのである。はたてはがそれを聞いて言うのである。
「いや、猫と交信しないでよ」
「してませんよっ」
そうである。吾輩はもみじがこがさのことを大好きなことをちゃーんとわかっているのである。こがさもそう思うであろう、いや、こがさはどこに行ったのであろうか。端っこの方で頭に本を載せてバランスをとっているのである。
見なかったことにするのである。何をしているのかわからぬ。
そう思っていると今度はこすずが話を始めたのである。吾輩はこすずを見たり、もみじを見たり、こがさを見たりして忙しいのである。
「時々わからないこととかもありますけど、この文々丸新聞を読んでると新しい発見とかもあって面白いですよ」
ぎゅううう。
むむむ。はたてよ吾輩をだっこするには強すぎるのである。うにゃあ、うにゃあ。もみじもなんとか言ってやるのである。
「はたて」
「な、なによ」
「これくらいでいいんじゃないか。だいたい知りたいことは知れたと思うけど」
「そ、そうね」
はたてともみじはそう言ってくるりと踵を返したのである。その肩をぐいっとひっぱらたのである。はたてが振り向くと吾輩も振り向くのである。
ぷくっとほっぺたを膨らませたこがさが立っているのである。
「だめだめ! 猫さんが苦しがっているじゃないですか~!」
びしっとこがさがはたてを指さして言ったのである。うむ。だっこにもやり方があるのである。
「ほら。貸してください」
「え、ええ」
吾輩ははたての腕からこがさの腕の中にお引越しである。こがさは甘いにおいがするのであるな、もしかしたらこがさの一部はおさとうかもしれぬ。こがさは吾輩を両手で優しく抱き上げてくれたのである。
「こういう風に、だっこしないといけないんですよ?」
うむうむ。吾輩ははたてに怒っているわけではないのである。こう、もう少し優しくもってくれたらいいのである。はたても抱っこされたらわかるやもしれぬ。
吾輩はにゃあにゃあとこがさにはたてを抱っこするようにお願いしたのである。
「すりすりー」
するとこがさは吾輩のほっぺたに顔をすりすりさせてきたのである。くすぐったいのである。こがさはすぐにきりりとした顔つきにもどって、はたてに言ったのである。
「ほら。こうですよ、こう、やさしく! 古い傘をこう開く時みたいに」
「た、たとえがわかりにくいんだけど。ま、まあいいわ。ほらおいで」
また、こがさの腕からはたての腕にお引越しである。ただいまである。移動するときはこがさが吾輩の脇をもってはたてに手渡したのである。
「……こ、こう」
「……うーむ」
こがさが唸りながらじろじろと吾輩とはたてを見るのである。じとーと吾輩をこがさが見てくるのである。吾輩も見返すのである。はたては今度は吾輩を優しくもってくれているのである。
にゃー。
「にゃー」
にこっと笑ってこがさが返してくれたのである。
「うむごーかくですね」
「は、はあ。ありがと」
「しょーじんしてくださいね」
「はいはい」
はたては言いながら吾輩をなでなでしてくれるのである。うむうむ。
「あ、あのー」
こすずが片手を小さく上げながら間に入ってきたのである。
「そ、そんなことよりも。本を借りたりされないんだったら、その……あの、帰ってください」
「この子、結構はっきりと言うのね。でもまあ、そうねお邪魔したわ。椛、小傘出るわよ」
はたて、吾輩。吾輩も出るのである。呼んでほしいのである。
にゃあ、みゃあ、なぉ。
「ど、どうしたのよ。まだ帰りたくないの?」
そうではないのである。それよりももみじとこがさを呼んだから吾輩も呼んでほしいのである。こがさが吾輩をじっと見ているのである。何か考えているのである。
こがさならわかるやもしれぬ! 吾輩はみゃーおと鳴いてみたのである。
「んー。もしかして、私たちは抱っこしたのに椛だけ抱っこのテストをしてないのがダメなのかしら」
全然通じておらぬ。それにもみじの抱っこはなかなかである。
「な、なんでそこで私が出るんだ!」
「まあ、まあ、椛。ほら減るもんじゃないし」
「はたて……いや抱っこするだけですけど、たぶんこいつ小傘の言ったようなことを想っていない気がするんですけど」
はたてが吾輩の脇をもってもみじに渡したのである。今日のお引越しは多いのであるな。もみじは吾輩をじーと見るのである。
「おまえ、ほんとに小傘の言ったようなことを想っているのか?」
別に思ってはおらぬ。にゃーと答えるのである。もみじははぁと返したのである。
「ほら」
おお、優しくもちつつ、ゆらゆらと吾輩の体が揺れるである。てくにしゃんではないであろうか。吾輩はゆっくりするのである。
「おおー」
はたてが何か感心しながら板みたいなものを吾輩達に向けて。ぱしゃっと光ったのである。もみじがむすっとした声で聞いたのである。
「な、なんで私を携帯で撮るんですか?」
「いや、思い付いたのよ」
「は? 何を?」
「私の新聞って地味……手堅いって評判じゃない? だからこう猫の写真特集なんかしたら受けるんじゃないかなって」
「……そ、それは私をはたての新聞に載せるってことですか!!? い、いやですよ」
「目元に黒線入れるから」
「な、なんか嫌だ、というかお山の世間なんて狭いんだからすぐにばれるに決まっているじゃないか!」
ううむ、静かにするのである。こがさがなんだかほっぺが膨らませているのである。それにこすずは「おやま?」と首をひねっているのである。
「まーまー。とにかく椛。ここはひとつ頼むわ。今度お酒をおごるから」
「だーかーらー……。な、なら私より小傘の方がいいでしょう。ほら小傘」
「ふーん」
「な、なんで突然すねているんだ」
「抱っこはうまいようですけど。椛より私の方が猫さんと仲良しですからねっ」
「誰も競ってないだろっ!」
こがさともみじがううううとにらみ合うのである。
そこでぱんとはたてが手をたたいたのである。
「わかった。それじゃあ、二人ともこの猫を抱っこしたりして遊んでるところを撮ることにしたわ、二人にお酒をおごるそれで文句ないでしょう?」
もみじが「文句しかない……」と呟いたのである。吾輩は遊ぶのは大歓迎である。