神社の石段をとてんとてんと降りていくのであろう。吾輩は後ろから来るけいねをちらちらと見ながら、降りていくのである。
吾輩は石段を上ったり降りたりすることのべてらんである。神社にはもう何度言ったかわからぬ。そうして階段を降りきったのである。
「待ってくれていたんだな。ありがとう」
どういたしましてである。吾輩は紳士であるからけいねがヤマメをくれるときに「まて」という時もちゃーんと待てるのである。
「それにしてもすっかりと遅くなってしまったな」
空を見れば、お天道様が山の向こうに帰るところである。こう、オレンジ色の空はなかなか好きである。お空もみんなに喜んでほしいのであろうな! 毎日綺麗に色を付けているのである。
「帰ろうか」
けいねがそう言ったのである。
☆
だんだんと暗くなっていくのである。しかし、吾輩は暗いところでもちゃんと歩くことができるのである。けいねは「提灯でも持ってくればよかったな」と言っているのであるが、安心するのである。吾輩がえすこーとするのである。
足元に転がっていたこいしに躓いたのである……いや、これは油断しただけである。けいねよ、ちゃんとわかっていると思うのであるが……吾輩は後ろをう振り向いてみたのである。けいねはキョトンとした顔で吾輩を見ているのである。どうやらばれ……。ちゃんとわかっているようであるな。
「やっとついたな」
おお、いつの間にかてらこやについていたのである。吾輩は一番乗りで門をくぐったのである。
「おわっ。びっくりした」
びっくりしたのである! 吾輩の前に黒髪の少女が立っているのである……ううむ、背中から赤と青の……羽? であろうか、生えているのである。吾輩はとりあえずれいぎただしく「にゃあ」と挨拶をしたのである。ううむ? どこかで会った気がするのである。
「にゃあ」
その少女はにっこり笑って吾輩に返したのである。どうやら悪いものではないようであるな。吾輩は安心したのである。
「ああ、こんにちは、おじいさん」
けいねがやってきて言うのである。おじいさん……? どこにいるのであろうか、挨拶をせねばならぬ。まなーである。おらぬのはないか?
「こんにちは」
羽の生えた少女が言っているのである。おじいさんなのであろうか、ううむそうは見えぬ。けいねよ、この少女はたぶんおじいさんではないのである。そう思っていると、門をくぐって少女はどこかに行ってしまったのである。
「こんな遅くに何をしていたんだろうか……。保護者のおじいさんが夜道に独りは心配だが、まあ大丈夫か」
けいねよ、どうみてもおじいさんには見えなかったのである。ううむ、わからぬ。教えてほしいのである。さっきの少女はおじいさんだったのであろうか? にゃあにゃあ、とけいねのおひざにすりよってみるのである。
「くすっ。なんだ、そんなにおなかが減ったのか? ご飯にしようか?」
うむ!
☆
てらこやの中に入ったのである。もちろん足はちゃんとふきふきしたのである。
吾輩の前に桜色のお茶碗が置かれたのである。中にはご飯が入っているようであるな。これはさっきけいねがにとりからもらったお茶碗である。吾輩は前足をお茶碗にかけて、顔を突っ込んだのでる。
むしゃむしゃ。
「ふふ、おいしいか?」
うむうむ。吾輩は口元を舐めながら答えるのである。けいねは吾輩を見ながらにっこりしているのである。それを見ると吾輩もうれしくなるのである。けいねもご飯を食べるのである。
「おまえ……結構汚れたな。そういえば今日はいろんなところでごろごろしてたからなぁ」
……恥ずかしいのである。吾輩は綺麗好きであるからして、お山のお風呂に行くのであるが、今日はまだ行っておらぬ。
「よし。お風呂を沸かすか、一人でやると結構大変だが、私も今日は疲れたよ。ちょっと待っててくれ。こういう時に妹紅がいてくれたらなぁ。炎でさっと温めてくれそうなものなのに……薪代も結構馬鹿にならない出費なんだ」
よくわからぬが吾輩もお手伝いするのである。
もぐもぐ、これをちゃんと食べ終わってからである。もぐもぐ。おいしいのである。吾輩はとても幸せであるな。そういえばさっきはあうんににぼしももらったし……おお、そういえばなずーりんからヤマメをもらえなかったのである……思い出したのである……。
うむ? けいねがおらぬ。お風呂を沸かしに行ったのであろうか?
こんこん。
物音がして吾輩はそちらを見てみたのである。おお、よく見ればさっきの少女であるな。にやにやしながら吾輩を見ているのである。ぴんと指を吾輩に突き付けて言うのだ。
「おまえ。もしかして見えているんじゃないか?」
なんのことかわからぬ。吾輩はうしろを振り向いてみたのである。
「いや、違う違う、猫。猫」
吾輩のことであるか! 見えているというとちゃんと見えているのである。吾輩はじっと少女を見返したのである。
「困るのよねぇ。このぬえは正体不明でなきゃ。こうやって人里を練り歩いていろいろとくふうーしているのに、でもまぁ猫くらいならいいのか? ああん」
どことなく楽しそうに言うのであるな。ぬえというのであろう。ぬえ……鵺かもしれぬ。吾輩はものしりなのである。
「おや? 妹紅。来てたのか」
けいねが帰ってきたのである。もこおであるか。どこにいるのであろう。吾輩はあたりをきょろきょろと見まわしてみたのであるがぬえしかおらぬ。けいねよもこおはおらぬぞ。
「ちょうどよかった。妹紅。お風呂に水を張ったんだ。いつものようにしてくれないか」
「……わかったわ」
ぬえがにやぁと笑いながら立ち上がったのである。もこおはおらぬが、ぬえがやるのであろうか。吾輩にはよくわからぬ。けいねよ。にゃあにゃあと吾輩が聞いても「めっ。ごはんをあんまり食べ過ぎると太るぞ」と言われたのである。
ううむ、太るのはあまりいやである。
ぬえのあとをとことこ歩いていくのである。お風呂場は吾輩も知っているのである。
「くっくっく。このぬえの正体に気が付かずにお風呂まで用意してくれているとはな。ちょうどくつろぎたい気分だったのよ……」
ぬえは頭の後ろに両手で組んで歩いているのである。
「お寺では行水なんてしているみたいだけどあんなの冷たくて絶対やりたくないわ。お、ここか。月明かりの入ってくるいい風呂場じゃないか、村紗でも連れてくればよろこびそうだな」
むらさ……きゃぷてんであるな! 吾輩は知っているのである。
ぬえはお風呂場に入っていくのである。暗いままであるが大丈夫であろうか。ごそごそと服を脱いでいるのだ。ここのお風呂は「ひのき」を使っていると聞いたのである。よくわからぬがよいことなのであろう。
「さてと」
ぬえがはだしになってぱたぱたと湯舟に歩いていくのである。お水が張っているようには見えるのであるが、高くて良く見えぬ。
吾輩は物陰からじっと見ているのである。ぬえは湯舟に手をかけているのであるな。
「おい、お前も一緒に入るか……なんてね」
いや、いいのである。
ぬえは吾輩をみて、ちらっと舌を出しているのである。右目をウインクしているのである。吾輩はだんだんとわかってきたのである。じっと、じっと見るのである。
ぬえがざばぁっとお風呂に入ったのである!!
「……ひゃぁああ!!!!」
水風呂から這い上がってきたぬえは四つん這いで吾輩を睨んできたのである。
「ち、違うからな!!」
わかっているのである。わかっているのである。おっこちょいさんであるな。
ぬえええぇにコメントもらえるとぬえぇえ