わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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にぎやかなのはやぶさかではない

 吾輩はお風呂に前足をつけてみるのである。そのままゆらゆら揺らしてみると、波が立つではないか! いや、別に意味はないのである。しかし、温泉の縁で遊ぶのはなんとなく楽しいと吾輩は思ってしまうのである。

 吾輩以外はどうなのであろう。吾輩は考え込んでしまうのである。

 

「そ、そろそろ上がったらどうだ。小傘、げ、限界だろう」

 

 もみじがゆでたさわがにのようになっているのである。

 真っ赤であるな。そういえば巫女と一緒にさわがにを取りに行ったことがあるのである。山の中の小川はきらきら綺麗であった。吾輩はさわがにをみつけるのは得意なのである。

 巫女が足を滑らせて川に頭を突っ込んでいたことは誰にも言わぬ約束である。吾輩は律義であるからしてまだ誰にも言ってはおらぬ。

 さわがにとりは楽しい物であった。まあ、吾輩はあんなものは食べぬが。

 巫女はゆででぱりぱり食べていたのだ。今考えても硬そうであった。それよりもヤマメを取ってくれとにゃあにゃあ頼んでも巫女は聞いてはくれなかったのである。

 代わりにそのへんの葉っぱをくれたのであるが、あまりのことに吾輩混乱した思い出があるのである。

 

 いかぬいかぬ。思い出にふけってしまったのである。吾輩はだんだんこがさともみじがお風呂の中で何をやっているのかがわかってきたのである。先に上がった方が負けなのであるな、そうと知っていれば吾輩も上がらなかったのである。吾輩も勝負したかったのである。

 

「も、もみじこそ真っ赤よ。あ、あがったら?」

「私はふだんの仕事で疲れているんだ、ちょうどいい湯治だ」

 

 赤くなったもみじはさわがにのように固いのであろうか。

 さわがには元から硬いのであるが、もしかしたらもみじも硬いのかもしれぬ。吾輩はお風呂の縁から前足を伸ばしてもみじの肩に触れてみたのである。

 なんだ柔らかいのである。しかし、それにしても体があったかいである。

 

「何をしているんだ」

 

 もみじが吾輩の足をもって聞いてきたから、吾輩はなーごと詳しいせつめいをしたのである。

 

「遊ぶのは後でしてやるから、おとなしくしていろ」

 

 別に遊んでほしいわけでもないのであるが……いや、せっかくなのであとで遊ぶのである。約束したのである。

 吾輩は邪魔にならぬように体を横たえて座る。この目で勝負を見届けるのである。

 

 くい、くい。

 

 む、だれかが吾輩のしっぽを引いているのである。

 吾輩はびくっとしてそちらを向いてしまったのである。見てみれば桶とひしゃくをもった船長がいるではないか、何の用であろう。

 

「猫さん、今度は桶に重しを入れておきましたからもう一回乗りませんか?」

 

 乗らぬ。重しを入れる意味も分からぬ。

 この船長は何を考えているのかわからぬ。吾輩はもみじとこがさの方へ視線を戻したのである。うむむ、この勝負どちらが勝つかわからぬ。こがさもまっかである。

 そういえばこがさは何の妖怪なのであろう。さわがに? ううむ、謎は深まるばかりである。そういえば前にもみじがからかさと言っていたのであるが、あれであろうか。

 からかさ、とは……むむむ。わからぬ。ごろごろ、吾輩は思案するのだ。

 誰かがしっぽを引いているのである。また船長であろうか。

 

「こんにちは」

 

 なんだくろだにではないか。地底の入り口でもみじとあそんでいたものであるな。

 温泉に入りに来たのであろう。肩からタオルをかけているのである。そのタオルをかけるのは吾輩もちょっとやってみたいのである。

 ……そういえばまだヤマメをもらってはおらぬ。いつになったらくれるのであろうか。吾輩は立ち上がってくろだにににゃあと毅然と言ったのである。

 

「……にゃあ? 駄目だね。私は猫語はわからないよ」

 

 残念である。吾輩も教えてあげたいところであるが、今は忙しいのである。

 

「なんだ? さっきの天狗じゃないか」

 

 くろだにが吾輩と同じように前足と後ろ足のひざを地面につけながらもみじの近くまで歩くのである。首にかけたタオルがゆれるので、吾輩思わずパンチしてしまったのだ。

 

「土蜘蛛……お前も温泉に入りに来たのか」

「そうだよ、私は綺麗好きでね」

「病を司る妖怪がよく言う」

「態度悪いなぁ。そういうあんたこそ、なんでそんなゆでだこみたいになってまで入っているのさ。上がれば?」

 

 こがさがなんとなく笑っているように見えるのであるが、体は真っ赤であるな。

 ところでゆで、だことは何のことであろうか? あ、わかったのである。空を飛ぶあれであるな。

 

「あがれば? 椛」

「小傘こそ先に上がれ」

 

 くろだにはその場に胡坐をかいて考えこむようなしぐさをしたのだ。そしてしばらくして、ぽんと両手を打ったのである。

 

「あぁ。我慢比べ。天狗も大変だねぇ」

 

 くろだにが笑っているのである。楽しそうであるな。

 吾輩は誰かが楽しそうにすることはやぶさかではないのである。くろだには吾輩を振り返ったのである。いや、吾輩を桶にいれようとしている船長を振り返ったのである。吾輩はじたばたするのである。

 

「ちょいとそこの桶を持ったあんた」

「はい? なんでしょう」

 

 船長は吾輩を入れながら言うのである。というか桶に吾輩をいれるでない。脱出するのである。

 

「せっかくだからどちらが勝つか賭けない?」

「なるほど。おもしろそうですね」

 

 ふぎゃあ、ううむ。吾輩を押さえつけようとするでない。船長よ。吾輩を怒らせたらあれである、またたびを分けてやらぬ。吾輩は船長の手から逃れるようと動き回るのである。

 

「か、勝手にかけ事するな!」

 

 もみじが怒っているのである。そんなことよりも吾輩は船長から離れてくろだにのひざ元へ避難したのである。くろだには吾輩を抱き上げて、頭を撫でてきたのである。

 

「この猫は頭が弱点みたいね……そらそら。それじゃあ私はこの天狗が勝つ方に賭けるわ。あんたは?」

「そうですね。じゃあ私も天狗に賭けます」

「賭けにならないじゃないか」

 

 くろだにが吾輩を撫でながら苦笑しているのである。船長は吾輩を取り返そうと魔の手伸ばそうとするのでパンチで叩き落すのである! にゃあ、にゃあ。船長の手を何度も撃退するのである。

 

「じゃあ私はそっちの付喪神に賭けるわ」

「お! 大穴狙いね。誰?」

 

 だれであるか? 違い声に吾輩とくろだにが反応したのである。

 ぺたぺた足音がするのである。吾輩が見れば、おおぱるすぃではないか。吾輩はにゃあと挨拶するのだ。

 

「妬ましいわ……」

 

 吾輩を見ていったのである。よくわからぬが、ぱるすぃの挨拶なのかもしれぬな。それよりも早く吾輩のいいところも見つけてほしいである。いや、顎を撫でてとは言ってはおらぬ、……ごろごろ。

 

「ふふ」

 

 ぱるすぃが笑っているのである。それはいいのであるが、くろだにが上から撫でて、ぱるすぃが顎を撫でていて、吾輩は挟み撃ちにあっているのかもしれぬ。これは初めての体験であるな。

 船長はひしゃくで桶にお湯を入れているのである。ほっとくのである。

 

「な。何勝手なことを言っているんだ」

 

 もみじが何か言っているのである。安心するのである。吾輩はもみじもこがさも応援しているのである。

 

「う~」

 

 こがさが変な声を出しているのである。

 

「うー」

 

 もみじが歯を食いしばっているのである。

 くろだにが吾輩の前足をもって、上下させるのである。

 

「ほらほら、がんばれ、がんばれ」

 

 おお、なんか吾輩が応援しているみたいで気に入ったのである。こがさもくらくらしながら親指を立てているのである。

 こがさよ。そっちに親指を立てても吾輩はおらぬ。こっちである。

 




みんなで街をかんこうして、あの人にあってこの旅行はおひらきかも(たぶん)

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