わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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おんせんにやってきたのである

 石畳を吾輩は歩いていくのである。

 前を行くこがさともみじの下駄がかこんかこん、鳴っているのである。吾輩も音が出せぬかと肉球を石畳に何度かつけてみても何も音が出ぬ。吾輩も下駄をはいてみたいのである。

 

 地底は暗いのであるが、温泉への道には灯篭が並んでいるのである。ほんわかした火のついているのである。並んでいる燈篭をみていると吾輩はほっとするのである。

 

 かつん、かつん。こがさが傘で地面をつつきながら歩くのである。何か歌っているようであるが、吾輩にはよくわからぬ。

 少しだけ歩くと小屋が現れたのである。こがさが吾輩を「おいで」と呼んだのでその後ろをついていくのである。小屋はしっかりした作りである。ひのきであるな、吾輩は知っているのだ。

 引き戸をこがさがからから開けて、吾輩とこがさは元気よく中に入ってみたのである!

 

「おー」

 

 吹き抜けであるな。手前にかごが置かれているのである。小屋の向こう側から外は大きな石がいっぱい並んでいるのである。もわもわ、湯気が立ってよく見えぬが温泉であることは間違いないのである。

 周りには灯篭が立っているので、結構明るいのである! 吾輩たち以外にもお客さんがいるのだ。

 

「わー」

 

 こがさが下駄を捨てるように脱いだのである。

 それから籠に服を脱いでいるのである。この籠、こったつくりであるな。吾輩は籠を作ったことはないのであるが、なかなかいいものと吾輩にはわかるのである。とりあえず中を見てみるのだ。

 

「ねこさんだめだめ」

 

 吾輩がいくつか並んでいる籠に頭を入れてこがさが吾輩の脇に手を入れて持ち上げたのだ。ううむ、なぜダメなのであろう。吾輩にはとんとわからぬ。

 もみじもいつの間にか来ているのである。吾輩がにゃあというと、一度もみじはこがさを見て「に……いやいい」などと言っているのだ。よくわからぬ。

 そういえばさっきの籠にはお寺で見たことのある帽子が入っていたのである。白い、ううむ。なんといえばいいのかわからぬ。もしかしたらお寺のものも来ているのかもしれぬ。

 それはそうとそろそろ離すのである。こがさよ。吾輩は腰を動かしてにゃあにゃあ言うのだ。

 

「おっと」

 

 しゅたっと地面に降りてみるのである。ひのきの床をとととと歩いて、石畳にかっつり降り立つ。吾輩は気ままに行くのである。

 

「ま、まってよ~」

「まて!」

 

 うしろでこがさともみじの声がするのであるが、吾輩は待たぬ。というか、すぐそこにいるのであるから待つも何もないのである。早く来ればいいのである。

 

 どうせこの温泉には吾輩は入れぬ。

 吾輩は温泉の縁に足をかけて中を覗き込んでみたのである。吾輩の顔が映っているのである。あったかい湯気が吾輩の顔にかかるのである。吾輩はこれが好きである。

 しかし、しょうしょう深すぎるのである。猫用のふろでもないものであろうか。吾輩はうなうな悩んでいると、脇をつかまれたのである。

 

「こっちにおいで猫さん」

 

 こがさであるな。今日は脇をつかまれることが多いのであるが、こがさよ。その傘はお風呂にも持ってくる必要はあるのであろうか。吾輩にはとんとわからぬ。

 端っこの方にこがさにもっていかれる吾輩。いがいとらくちんである。

 桶が積み木のように並んでいるのである。その前にこがさは吾輩を下ろしたのである。これ崩してはかぬのであろうか……ううむ、よっきゅうが、いかぬいかぬ。

 こがさはその桶を一つとって、お湯を組んだのである。何をするのであろうか。

 

「おいで」

 

 ……

 ……いやである! いやなよかんがする。

 吾輩は逃げ出そうとすると、脇をかかえられたのである。

 

「何逃げようとしているんだ」

 

 もみじである。はなすのである。これはふとうたいほであるな。べんごしを呼んでもやぶさかではない。しかし、べんごしも地底には来てくれるのであろうか。

 

「ばしゃー」

 

 うにゃあ。お湯が吾輩にかかったのである。はんにんはこがさに間違いないのである。

 

「小傘、私が離していないのにかけるな」

「え、でも一石二鳥ですし」

「かけ湯くらい自分でする」

 

 けほこほ、お湯が目と口に入ったのである。

 吾輩はもみじの手から脱出したのである。ぽたぽたとお湯が吾輩の毛並みに吸われて、あれである。からだがおもい。ううむ、地面にみずたまり……お湯たまりができているではないか、なんとなく座ってみるのである。

 

「おやおや。お姉さんがた、猫を連れてくるなんて良い趣味しているね」

 

 だれか近寄ってきたのである。ぬれた赤い髪をしているのである。

 どことなく猫っぽいのような気もするのであるが、気のせいであろうか。こがさよ誰か聞いてみるのである

 

「お前は?」

 

 いや、もみじではない。まあいいのであるが。

 

「あたいかい? あたいは……まあお燐って気安く呼んでおくれよ。そんなことよりも姉さん方、これなんだが知っているかい?」

 

 なんであろうか、おりんが手に何か持っているのだ。もみじもこがさも首をかしげているのである。……とりあえず吾輩もかしげておくのである。

 

「最近地上に行くことがあってね。雑貨屋で買ったしゃんぷーってやつだよ。なんでも幻想郷の外の世界のものらしいよ」

「「しゃんぷー?」」

 

 こがさともみじは本当に仲良しであるな。別に一緒に言わなくてもいいのである。

 

「まあ、物は試し。そっちの傘持ったお姉さん、座った座った」

 

 おりんが小さな木製の椅子を持ってきて、こがさを座らせたのである。不安そうにしているのである。

 気のせいであろうか。おりんの目が光っているのである。しゃんぷーなるものを手で押して中から液体を出しているのだ。

 

「おっと、その前に目をつぶっていておくれよ」

 

 おりんが桶にお湯をくんできてこがさの頭にかけたのである。それから両手でこがさをなでなでし始めたのである。なんであろう、妙ななでなでであるな。

 おお、お? おお? 白い泡が出てくるのである。

 吾輩は思わずもみじの後ろに隠れてしまったのだ。

 こがさも驚いているのだ。

 

「わ、わ」

「おっと、お姉さん目を開けたら……死にますぜ」

「し、しぬ??」

 

 おりんがごしごしすると泡がこがさを包んでいくのだ。ぽとりと泡の塊がこがさの肩に落ちて体を伝って落ちていくのである。

 

「よし」

 

 おりんがお湯をかけて泡を流すのである。……もったいないのである。もしかしたら甘いかもしれぬ。

 おお、なんだかこがさの髪が綺麗になっているのである。きらきらしている気がするのだ。

 

「あ、なんかつやつやしてる気がするわ」

 

 こがさが指で髪をつまんでいるのだ。嬉しそうなのはよいことである。

 

「ほ、ほう」

 

 なんでもみじはもじもじしているのであろうか。

 ちらちらお燐を見ている気がするのである。何か言いたそうであるな。

 

「お姉さんも試してみるかい」

 

 おりんがもみじに言うのである。もみじが吾輩を見たのでにゃあと言っておくのだ。

 

「……ま、あ。ためしくらいなら」

 

 そわそわ嬉しそうにもみじが椅子に座るのだ。こがさよ何にやにやしているのであろう。

 もみじの髪におりんがお湯をかけて、またなでなでし始めると泡が出てきたのである。

 

「かゆいところはないかい?」

「だ、大丈夫だ」

 

 わしゃわしゃ、白い泡。吾輩はこの時を待っていたのである。

 吾輩はもみじのおひざに足をかけて、体を昇るのである。

 

「おい、何をしている」

 

 もみじが目を開けて吾輩を捕まえようとしているのである。しかしその前に。肩に手をかけて、泡をパクリ。苦い! だまされたかもしれぬ。

 

「め、めがあぁ」

 

 もみじが何か言っているのである。

 






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