わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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ちていへんもしゅうばん(見せ場はない)


そのかおはわがはいもすきである

 吾輩とこがさは足湯のそばでのんびりしているのである。

 吾輩は足湯に入ってはおらぬが、湯気があったかいのである。その場で丸くなっているとこがさが吾輩の下にハンカチを敷いてくれたのである。ありがたいのである。

 

「ちゃっぷ、ちゃっぷ、それにしても椛遅いなぁ。そろそろ温泉に入りに行こうかしら?」

 

 吾輩はむっくり体を起こしてみるのである。そういえばどれくらい時間がたったのであろう。よくわからぬ。そういえば、何か大切なことを忘れている気がするのである。こがさよ……そばに折りたたんだ傘を置いているのである。

 

 なんであったか、もみじに何か言われた気がするのであるが……。おお、そういえば傘をさしておくように言っていたのである。めじるしであるな。

 吾輩は気が付いたのである。こがさよ今すぐ傘をさすのである。吾輩はなすび色の傘をパンチして訴えるのだ。

 

「こらこら。私の傘はおもちゃじゃないわ」

 

 いや、このままではもみじがここには来ぬ。こがさよ気が付くのである。吾輩は訴えるのだ。そんな吾輩をじっと、こが吾輩を見てくるのである。大きな瞳であるな、吾輩はこがさのおめめは好きである。

 

「そっか」

 

 わかってくれたようであるな。ぽんと手をたたいているのである。吾輩は安心して胸をなでおろすのだ。

 

「そういえば私は鬼を驚かせにきていたんだったわ! 危ない危ない」

 

 ぜんぜんわかっておらぬ。しかし、こがさは自信満々に立ち上がって、傘をばっと開いたのである。なぜかその場でくるりと回って、吾輩に舌を出しながらウインクをしてくるのである。

 

「それじゃあ猫さん。今から……」

「傘……さしておけといっただろうが!!」

 

 どーん。吾輩は驚いた。

 急に何かが落ちてきて土煙が舞ったのである。吾輩はいきおいあまってころころ転がるのである。ぺっぺっ、口に砂が入ったのである。砂はおいしくはない。 

 空から落ちてきたのは誰であろう。うむ、もみじである。しりもちをついて傘にしがみついているこがさの前ににおうだちをしているのである。

 

「お前、こんなところでくつろいで……かなり探し回ったんだぞ。なすび色の傘を開いたからわかったものの」

「ご、ごめんなさい……な、なすび?」

 

 指を顔の前に突き付けてもみじが怒っているのである。怒るではない、吾輩はこがさともみじの間に入って、怒るもみじを見上げたのである。ううむ、見上げたはいいがあとはわからぬ。

 

「そ、そんな目で私を見るな……はあ、もういい」

 

 なんか吾輩が見ているだけで収まったのである。

 

「もう、疲れた。ひっく。挨拶に行った鬼の皆さまのところではお酒も飲まされるし」

 

 そういえばもみじは少し顔が赤いのである。吾輩はお酒を飲んだことはない。

 

「早く温泉に入って、一眠りして帰るぞ」」

 

 まだまだ、ぷんぷん怒っているのである。肩をいからせてもみじが歩きだしたのである。どことなくふらふらしている気がするのは気のせいであろうか。吾輩は心配なのである。

 吾輩はこがさににゃあと声をかけて、もみじの後ろをとことこついていくのである。

 

「あ、ちょ、ちょっとまってよ。どこにいくかわかるの?」

 

 こがさが立ち上がって追いかけてきたのである。もみじがゆらりと後ろを向いたのだ。

 

「勇儀様に聞いた。ひっく、ああ、天狗である私でも酔いそうになる酒を飲むなんて……」

「ゆうぎ?」

「様、をつけろ。……それよりもああもう、なんだか怒ったらくらくらしてきた」

 

 もみじがその場で座り込んだのである。だ、大丈夫であろうか。

 

「だ、大丈夫?」

「だいじょうぶ、にきまっている、わたひを誰だと思っている」

「……1足す、1は?」

「……いっぱい」

「だめだこりゃ」

 

 もみじがぐったりしているのである。こがさはふうーと息を吐いて、吾輩をちらりと見たのだ。……なんであろうか、寝ているもみじを見るこがさの表情を吾輩はすきである。

 やさしいきがするのである。

 もしかしたらもみじも安心して眠ってしまったのかもしれぬ。

 

「よいしょ」

 

 こがさがもみじをおんぶしているのだ。吾輩も手伝うのにはやぶさかではない。しかし、手伝い方がわからぬのだ。こがさのまわりをぐるぐる歩き回ることになったのである。

 

「重いなぁ」

「ぐるる」

 

 こがさの言葉にもみじが犬のような声を出したのである。おお、首筋にかみつこうとしているのである。

 

「わ、わ、私は食べてもおいしくないわ。お、重くなんてない、ごめんなさ――」

 

 かみつかれているのである。

 

 ★

 

「あれ、ここはどこだ」

 

 やっともみじが起きたのである。頭を振っているのである。吾輩とこがさはあれから、いろいろと歩き回ってやっと「おんせんやど」を見つけたのである。とおいみちのりであった。

 大きなおやしきである。わふうというやつであるな。

 吾輩達はおおきなおやしきの、おおきな座敷にいるのである、と吾輩はもみじに言ってみるのだ。にゃあにゃあ。

 

「お前、私を見ていてくれたのか。よしよし」

 

 頭を撫でてくれているのである。なんか違う気がするのであるが、まあいいのである。吾輩は神社では巫女に怒られるからできぬ畳の上でのころころを楽しんでいただけである。

 

「ここは宿か。小傘はどこに行ったんだ。あつ、頭が痛い。なんだか途中から記憶がない……」

 

 大丈夫であるか、吾輩はもみじの膝にしがみついて心配するのである。もみじは吾輩の鼻を押さえてくるのである。ううむ、なんでであろう。吾輩は押してくる指を舐めて抵抗するのである。

 

「とんとん」

 

 もみじの肩をたたいている者がいるのである。吾輩からはよく見えぬ。吾輩にはもみじも大きいのである。もみじはため息をついて振り返ったのである。

 

「まったく、小傘だろう、なにを……きゃ」

「うらめしやー」

 

 おおお。鬼のお面をかぶったなぞの少女がいるのである!

 吾輩はもみじを守るのである。かくごするのである。もみじはその場でのけぞっているのだ。

 

「ふふふ。さっきかまれたお返しね」

 

 鬼のお面を取ると、中からこがさが現れたのである。ほっぺたを膨らませて鼻を鳴らしているのだ。吾輩はほっとしたのである。

 

「お、おまえ」

 

 怒るもみじがこがさにとびかかって頭をぐりぐりしているのである。

 それは、何であろう。撫でているのであるか。

 

「い、いたいいたい」

「しょうもないことばかりして、私がお前なんてかむわけないだろ。猫じゃあるまいし」

 

 ぬれぎぬである!!

 それでもこがさともみじは仲良しであるな。吾輩は満足である。

 畳の上で仲良く遊ぶのである。吾輩も混ざりたいのであるが、混ざれぬ。吾輩も遊んでほし……遊んであげるのである。

 

「ま。まいった~」

 

 こがさの上にもみじが乗っているのである。楽しそうである。こがさは白いハンカチを手で振っているのだ。さっき吾輩のべっどになったはんかちであるな。ちゃんとはんかちを持っているこがさは偉いのである。

 どこがえらいのかは吾輩もよくわからぬ。けーねが言っていたのである。

 

「はあ、柄にもなくムキになってしまったわ」

「が、柄にもなく………?」

 

 もみじがこがさを強い目で見ているのである。こがさは両手を上げて。

 

「も、もうあたまぐりぐりはこりごりです」

「……ふん」

 

 もみじがこがさを離して、どいたのである。するとこがさがぱっと正座をしたので、吾輩もその膝に乗ってみるのだ。

 

「この宿には大浴場があるそうですよ。椛も入りに行きましょう!」

 

 両手を広げてあかるくこがさが言ったのである。

 吾輩も両手を広げようとしてころりと膝から落ちてしまった。

 

 


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