ちていの都はにぎやかである。
おおきなおやしきが立ち並ぶ中を吾輩を先頭にのんびり歩いていくのだ。しかし、人里よりも立派なのである。おそらくがんばり屋さんが建てたのであろう。
大通りにはいろんなお店があるのである。つちぐもだとか鬼だとか、よくわからぬ者がいろんなものを売っているのだ。たまにいい匂いにつられてとことこ吾輩が歩いていくと、こがさかもみじに止められてしまうのである。はずかしいのである。
がやがや、わいわい
吾輩は神社でのお祭りを思い出しているのである。人通り……はないのであるが、妖怪通りが多いので吾輩はしっかりともみじの足元についていくのだ。たぶん踏まれぬ。
「……間欠泉の騒ぎから地底に来る妖怪も増えたって聞いたけど」
もみじがひとりでぶつぶつ言っているのだ。吾輩はにゃあと相槌を打っておくのであるそれにしてももみじの袴がゆらゆらしていて、吾輩はたまにかみついてしまいそうになるのである。いかぬいかぬ。
「とりあえず、着替えたい……」
どろだらけのこがさのいうことはもっともである。とはいっても吾輩は着替えるものがないのである。たまには服を着るのもいいかもしれぬ。
もみじもこがさに言うのである。
「さすがに私は地底にきて鬼の皆さまに挨拶もしないわけにはいかないからな……あーあ。気が重いわ」
「ふぁいと?」
「うるさい」
地底から飛び込んでくるだけでこがさともみじは仲良しになったようなのである。けっこうなことであるな。ふともみじが立ち止まっているのだ。
「それじゃあ私は挨拶に行ってくるから、ちょっと別行動をしよう。集合場所は……どうしよう?」
「うーん。目立つものなんてわからないし……」
こがさが傘をばっさと開いて悩んでいるのであるが、吾輩いいことを思い付いたのである。こがさが一番目立つのである。もみじよ、大きななすび、ではない傘を目指して帰ってくるのである。まいごになってはならぬ。
あと、もみじが離れるとちょっと寂しいかもしれぬ。
「お前が一番目立つな」
「え? 猫さんが?」
「……なんだっていいけど、私が戻ってくるまで適当にぶらぶらしてていいわよ。傘だけはさしておいてくれ。空を飛んで探せば一発だろうから」
「はい? よくわからないけど、わかったわ」
そんなこんなで吾輩とこがさはもみじと別れたのである。どこに行くかは吾輩にもとんとわからぬ。だから吾輩とこがさはのんびりとそのへんを歩いていくのである。
「おんせんはいりたいなー、でもどこにいけばいいのかわからないわ。猫さんはわかる?」
にゃー
わからぬ。
吾輩も初めてきたところはさすがによくわからぬ。だが、きっと大丈夫である。吾輩が付いているのだ。おお、こがさよあそこに湯気が立っているのである、きっと温泉である。
吾輩は幻想郷にひみつの温泉を持っているから知っているのである。そういえばこの前会ったあのおなごはどうしているであろうか、さこつなどと言っていた気がするのである。名前であろうか?
「あ! 温泉発見。ふふふ、猫さんよりも早く見つけたわ」
いや、吾輩が先に見つけたのである。吾輩は抗議するのだ。こがさはわかってかわからずかわからぬ笑顔である、わからぬことだらけであるがかんだいな吾輩は許してやるのである。
こがさが下駄で走り出したのである。吾輩もついていくのだ。周りの妖怪たちはみんな吾輩達を見ているのである。こがさはやはり目立つのであるな。
「あれ?」
あれは温泉ではないのである。いや、温泉かもしれぬ。小さな小屋のようなところで座り込んでいる少女がいたのである。小屋は屋根しかない、冬は寒そうである。
それでも屋根の下に浅い穴があるのである。そこにお湯が張ってあるではないか。
「なんだ。足湯かー」
こがさが下駄をぽいぽい投げ捨てているのである。はしたないであるかしらして、吾輩は下駄の鼻緒を咥えてしっかりと邪魔にならぬ物陰にもっていくのだ。こがさよ感謝するのである。
こがさはスカートをまくってあしゆ、とやらに足をつけているのである。なるほど! だから足湯であるか。吾輩はまたひとつ賢くなってしまったかもしれぬ。それにしてもこがさはずっとはだしのような格好である。
「あああ~」
びくっ。
吾輩はこがさの呆けた声でびっくりしたのである。みれば顔をほんのり赤くしてりらっくすしているではないか、変な声は出す必要はない気もするのであるが……。
それでも吾輩には言うことはないのである。さて、吾輩も足をつけるとしよう……うむ? 吾輩は後ろも前も足である、どうすればいいのであろう。
「妬ましいわ」
びくっ。
最初から足をつけていた少女が言うのである。見れば金髪である、たぶん妖怪であるな。白い脚をお湯につけているのである。吾輩はこがさのそばに寄ってみるのだ。
「ああ、こんにちは。あなたも足湯にきたの?」
こがさの知り合いであるか?
「……猫さんは寝ているときに襲ってきたから知らないかも、えっと名前は……パ、ぱ……るこ?」
「パルスィ! あぁ、妬ましいわ」
ぱるすぃというのであるが……ううむ。変な名前である。ぱるすぃは足湯でちゃぷちゃぷ足を動かしているのである。こがさも一緒にちゃぷちゃぷしているのである。
吾輩も負けておられぬ、とおもったらこがさが吾輩を抱いてきたのである。いや、足湯に入れぬ。膝の上におくではない。
「妬ましいって、何が妬ましいんですか?」
「いっぱいよ、そんな理由なんていくらでもつくれるわ」
ぱるすぃがこがさの髪をつまむのである。
「この青い髪もつやつやだし、目がぱっちりしているわ。ああ妬ましい。それに猫なんて連れて……可愛らしい顔をしているのも妬ましいわ」
「そ、そんなことないですよ」
こがさが真っ赤になって驚いているのである。吾輩はその膝の上でごろごろ。
「そういう謙虚なところも妬ましいわ……あぁ」
ぱるすぃはいいところを見つけるのがうまいのであるな。吾輩もほめてほしいのである。
こがさは頭を掻きながら照れているのである。
「い、いや。そんな~ぱるすぃさんの方がこう、びじんですし、髪も綺麗ですね」
「……」
ぱるすぃがほっぺたを膨らまして赤くなっているのである。
「そんな人をほめるところも妬ましいわ……」
「いやいや、ほんとですよ」
む? むむむ。こがさとぱるすぃがお互いのいいところを言い合っているのである。
「あなたは~」
「パルスィさんこそ~」
吾輩もほめてほしいのである!
「だからその服もかわいいから妬ましいわ!!」
「パルスィさんの服も個性的でかわいいです!!」
いや、なんで褒めあいながら喧嘩を始めるのであるか、こがさよ。おお、こがさがぱるすぃの足を軽く蹴っているのである。
「足も白いですしパルスィさんっていいですよね」
「……そ、そんなこと。……妬ましいわ」
「妬ましい」
「妬ましい? なんであなたが……いうの」
こがさが妙な会話をしているのである。それにしてもお互いいいところを見つけるのが得意で吾輩大満足なのである。そろそろ吾輩をほめても差し支えないのである。
ぱるすぃが立ち上がったのである、いよいよであるな。
「わ、私もう行くから」
ぱるすぃよ吾輩、吾輩は?
ほめてくれぬのであろうか。おお、顔を真っ赤にして走り去っていってしまったのである。残念であるな……
「いっちゃった……」
こがさも吾輩をほめてもいいのである。
「ふぁーあ、早く温泉に入りたいなぁ」
む、吾輩はこがさのひざの上でごろごろして抗議するのだ。