わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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がんばりさんもやすまねばならぬ

 しゃめいまるという少女は天狗のようである。もみじとは知り合いということなのであるが、なんだかふんいきがちがうのである。

 

「部下を思いやって温泉旅行も考えるとは、いやはや、少し甘すぎますかね」

 

 ばさばさ、黒い羽を鳴らしながらしゃめいまるが地面におりてきたのである。もみじは何かいっているようであるが、顔にじんだ脂汗がすごいことになっているのである。

 

「いや、し、しかしですね。わ、私は」

 

 もみじが吾輩をちらりと見てきたのである。がんばるのである。何をしているかはよくわからぬ。もみじはなぜかため息をついてから、しゃめいまるにむかいあったのだ。

 

「私は仕事が大好きなので休みはいりません……」

「おやおや、それは感心ですね。椛」

「そ、それほどでも、だ、だから地底には……」

「もちろん。そんな椛には温泉旅行から帰ってきてから、たんと仕事を用意しておきますから。安心してくださいね」

「は、ははは」

 

 もみじは頑張り屋さんなのであろう。

たまには休んだ方がいいのである。吾輩はちゃんと休む時はやすんで、がんばるときはてきどにがんばるのである。またたびを取ることに関して吾輩のみぎにでるものはいないのである。

そういえば、吾輩のひだりにはだれかいるのであろうか、気になって横を向いてみる。うむ。こがさがいるのである。

 

「なんだか蚊帳の外なきがするわ」

 

 こがさよ、吾輩がちゃんと相手をしてあげるのである。さみしがることはない。

 そう思って吾輩はこがさの足にあたまをすりすり、してみるのだ。

 

「くふふ、くすぐったい」

 

 こがさが軽くにげたのである! 吾輩なんとなく追いかけてしまうのだ。

 くるくるその場で追いかけっこをして、吾輩は疲れたのである。座って休むのだ。めりはりが大事とけいねも言っていたのであるが、めりはりとはなんであろう。

ふと目が合ったしゃめいまるは吾輩を見て、ちょっと呆けているようである。

 

「ああ、お久しぶりですね。空の上であって以来ですか。猫さん。いや、ひどい目にあいましたよあれは」

 

 よくわからぬが吾輩も久しぶりだと思うのである。

しゃめいまるはひどいめにあったらしいのであるが、吾輩もむりやり空の上に連れていかれたのである。それにしてもしゃめいまるよ、なんでえがおで吾輩に近づいてくるのであろうか、なんとなく怖いのである。 

 吾輩はそれとなくもみじの足元に隠れたのである。

 

「こ、こら私を盾にするな」

 

 なーお。

かくまってほしいと吾輩はうったえる。

 

「おや、椛。猫さんとお友達になったのですか」

「い、いえ。こら離れろ」

 

 冷たくされるとさびしいのである。吾輩はひっしにめで訴えるともみじも困ったような顔をしているのである。吾輩はわかっているのである。もみじは悪いようかいではない。きっといろいろといいこともしているのであろう。

 

「そうですね」

 

 ぱんとしゃめいまるが手をたたいたのだ。吾輩びっくりして椛の足につかまってしまったのである。しつれいしたのである。

 

「椛。それに猫さんと、そこの付喪神さん。三人で地底を取材してきてください。椛が引率するように」

「ま、待ってください。なんでですか」

「おもしろそうですし。それに上司の命令です」

 

 おお、吾輩地底に行けるのである。うれしいのである。

 

「お、おうぼうだー。それにおもしろそうって普通は婉曲的にいうものじゃないのですか?」

「そうそう、付喪神さん。いや小傘さんでしたね」

「無視し始めた……」

 

 もみじよ、そう肩を落とすことはないのである。

吾輩にはちゃんとわかっているのである。吾輩も巫女に相手をされぬことがあれば寂しいこともあるのである、もみじはきっとしゃめいまるがすきなのであるな。

 

「うー」

 

 うなりながらもみじが爪を噛んでいるのである。なんとなく怖いので吾輩は小傘の足元に移動するのだ。

 

「おいでませー」

 

 こがさが両手を広げて吾輩を迎えてくれたのである。吾輩もおとなしく抱かれるのだ。こがさも地底に行くのであろう。しゃめいまるが言っていたのである。こがさは吾輩をよしよししながら話し始めたのである。

 

「私も今日はお墓でおどろかせる日だから」

 

 こがさはいかぬのであるか……さびしいのである。

 そう思っているとしゃめいまるがこがさの肩をもって言ったのである。

 

「小傘さんとは以前取材でお会いしたことがありますね。どうですか、人間をたくさん驚かせておなかいっぱいになれましたか?」

「う、ま、まあ。ぼ、ぼちぼち……こ、このまえは人里で大勢おどろいてくれたわ」

 

 吾輩が傘の上に乗って歩いたときのことであるな。あれは盛り上がったのである。

 

「なるほど、なるほど。さすがですねぇ」

「そ、それほどでも」

「前もかなり恐ろしいお化けだと思っていましたが、いまでは里の人間たちを手玉に取るほど成長しているとは……感服しました」

「…………ま、まあ。それほどでも」

 

 なんであろうか、吾輩を抱いているこがさが小刻みに震えているのである。吾輩が見上げると、目がやまめのように泳いでいるのである。しゃめいまるも横を向いている……うむ? 目だけこちらを見ているのだ。流し目というやつであろう。吾輩もやってみるのである。いみはない。

 

「地底に住んでいる鬼の一人や二人驚かせに行ってみてはどうですか? いや……鬼を驚かせるくらいだったら、人間などいつでも驚かせることはできるとは思いますが」

 

 こがさが吾輩を見てきたのである。こころなしか目がきらきらしている気がするのである。

 

「お、鬼を驚かせることができれば、きっと人里の人間たちも私を恐れてくれるに違いないわ!」

 

 にゃあにゃあ。吾輩はよくわからぬが、楽しそうなので吾輩も鳴いておくのである。なんであれ、楽しいことはいいことに違いないのである。吾輩はよくわかっておるのだ。

 

「そうそう、その意気です。さて、椛」

「はい……なんでしょうか」

「ということで取材を願いしますね。カメラくらい持っていると思いますが、いろいろと面白い話を期待していますよ」

「…………なんでこんなことに」

 

 もみじはなんだか元気がないのである。吾輩たちをどんよりくもりぞらのような目で見ているのだ。しゃめいまるはなんだかにこにこしているのである。

 なにはともあれ、吾輩はこがさともみじが一緒に地底であそべることが何よりもうれしい……むむむ、いやいや、吾輩は本当は地底にいるという「こころがよめる」というようかいと会うというすうこーな理由があるからして、遊びに行くのではない。

 ……ちょっと遊んでもいいであろうか?

 吾輩は元気のないもみじににゃあと聞いてみたのだ。

 

 もみじは目をぱちくりさせて、ほんのり笑顔になったのである。

 

「にゃあ」

 

 おお、もみじが吾輩がなんでか鳴き声をはなったのだ。これは遊んでもいいということであろうか。

まあいいのである。吾輩はもぞもぞとこがさの手の中で動く。

 そろそろ降りてもいいであろうか。

こがさが放してくれたから地面に着地したのだ。吾輩はだっこもすきであるが、こう地面をふみふみするものやぶさかではない。

 

「それでは皆さん、よい旅を……」

 

 しゃめいまるがばさっと羽を鳴らして空に上がったのだ。吾輩が見た時にはあおいそらにすうと上がっていくのが見えたのだ。てんぐはとべていいとおもうのである。吾輩も練習すればできるであろうか? 

 

「それじゃあ、いこー」

 

 こがさも元気であるな、傘をくるくるまわして片目をつぶってきたのである。

 

「……おー」

 

 もみじはなんだか疲れているのである。

 


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