わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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ちゅうい;もみじーのくちょう


なかよくはんぶんこにはできぬ

 とてとて、吾輩は石段を上るのだ。

 神社の石段はいつ昇ってもしっかりしていて上りやすい。ただお天道様が頑張りすぎた日は吾輩の肉球が熱くて登ることができぬ。程よい日には、あれである。よい日陰を見つけてごろごろするのもおつなものである。

 まあ、だいたいそういう時には巫女に箒で追い払われてしまうのであるが……あれはりふじんとしかいいようがない。

 それはそれとして、吾輩は生まれて初めてチラシを配るところなのだ。こいしが持ってきた絵のついた紙を口にくわえているのだ。石段を半分くらい上ったところで後ろを見れば、広い空が見えたのだ。

 おっと、吾輩はあくびをしてしまうところであった。今はならぬ。断じてならぬ。いったん頭を手で掻いておちつこうと……ううむ、ちょっとチラシがくしゃくしゃになってしまったのだ。まあ、よいのである。大切なのはきもちというであろう。

 

 吾輩はあくせんくとうしながら神社の石段を登りきる。最後の一段はすたっと飛ぶのが作法なのである。姿勢よく着地せねばならぬ。

 

 境内には誰もおらぬ。吾輩とさいせんばこまで石畳が一直線に伸びているだけなのだ。のどかである。吾輩はいつもの通り、真っ赤な鳥居をくぐって中に入っていくのだ。吾輩はこの鳥居には上ったことがない。柱が丸くてつるつるするので、どうにも登れぬ。

 

 というか誰もおらぬ。いったんチラシを置いて、にゃあにゃあと鳴いてみても返事もない。

 ううむ、ごろん。ごろごろ。これはゆゆしきじたいであるな。

 せっかく巫女にチラシを配ろうと思ったというのに……

 ごろごろ、くしくし。どうしようか考えねばならぬ。そうである、こころはいないであろうか、昨日は巫女の服を着ていたはずである。おらぬな。このさいふとでもよいが、肝心な時にはおらぬ。こがさは下で寝ておるし……。

 どうしようかと吾輩はころころ転がりながら考えているのだ。石畳は体が汚れぬからよい。空に、くもが、うかんでいる。

 

「なんだ、おまえ」

 

 おおう、吾輩びっくりして、後ろを向いてしまったのだ。逆に驚いている声の主がいたのだ。髪の白いおなごであるな。巫女のような……服であるが、頭に紅の六角帽子をかぶっているのである。……腰には剣であろうか。

 

 にゃあ。吾輩は挨拶をしたのだ。挨拶は関係のはじまりとけいねも言うところである。

 しかし、白髪のおなごはじろっと吾輩を見ているのだ、切れ長の目であるな。まつ毛が長いのがあれである。吾輩まつ毛の長いものにすりすりされるとたまに痛いのだ。

 

「…………ご主人様はどうしたんだ?」

 

 むむう。こやつ挨拶を返さぬ。吾輩はゆるせぬ。こうなったら挨拶をするまで見てやるまでである。あと、ご主人様とは誰のことであるか。

 

「ねこに話しかけても仕方ないか……神社の適当なところに射命丸さ……まあいいか。巫女への新聞をおけそうな場所は……まったく、あの人もたまに会いに来たと思ったら雑用を……こんな時だけもみじーもみじー。あーあ」

 

 じーー。ぶつぶつ言いながら歩いているのであるが、吾輩は一生懸命見ているのだ。このおなご「もみじー」というらしいのである。

 

「適当に縁側にでも放り込んでおこうかな。はあ、山の上に住み着いた連中は変なことするし、休みはないし……上司はあれだし……はあ」

 

 なんだか肩を落として歩いているのだ。手には丸めた新聞紙を持っているのだ。吾輩もあれにはたまにお世話になるのだ。寒い日に巫女が吾輩をくるくるまいてほうちするのである……思い出したら寂しくなったのだ。

 

 じいい。それはそうと見るのである。

 

「このねこ……なんでついてくるの? なにか咥えているな、チラシ?」

 

 なぁーご。チラシをとろうとしてもそうはいかぬ

 

「ちょっ、離してって。かたくなに離さない。まあ、いいか。よっと」

 

 もみーじ、いやもみじーは吾輩を抱いて胡坐をかいたのだ。なるほどこれなら吾輩がくわえたままでも読めるのである。やるのである。

 

「なになに。温泉巡りイベント……地底か……。おんせんかー。疲れが取れるだろうな。なんでこの猫はこんなのを持っていたんだろうか、なあおまえ」

 

 にゃあお。吾輩ちゃんと返事するのだ。もみじーは吾輩の頭の後ろの方を撫でてくるのだ。おおう、なかなかいいのである。吾輩はもみじの膝の上でコロコロ動くのである。

 

「どうしてこんなチラシを持っていたんだ。あは、こいつ。ここか」

 

 おなかを撫でるのもきゅうだいてんであるな。そういえばきゅうだいてんとは何であろうか。まあいいのである、誉め言葉なのである。

 

「まあ、猫に聞いてもしたかないか。言葉が喋れればなぁ」

 

 それは吾輩も思うところである。こみゅにけーしょんができればいいのであるが、

 

「そういえば地底には心が読めるとかいう妖怪がいるらしいけど」

 

 !!! 吾輩はぴーんと来たのである。誰かわからぬが、こみゅにけーしょんができるやもしれぬ。もみじーよ。地底とはどこであろうか、にゃあにゃあと聞いてみるのだ。

 

「お、おお。暴れるな。もう。なんなんだ」

 

 立ち上がろうとするではない。吾輩は切実に巫女ともこころとも小傘とも、ついでにふとともこみゅにけーしょんがとりたいのである。吾輩はもみじーを逃さないために腕に飛びついたのだ。

 

「こら」

 

 それでも立ち上がろうとするのであるな、こうなったら頭を押さえるのである。吾輩はもみじーの細い腕をすたっすたと伝っていくのである。結構こわい。

 

「わ、わ、わあぁ!」

 

 もみじーが驚いて中腰になったのである。ええい、ここで落とされてはたまらぬ。吾輩はもみじーの背中に飛び乗ったのだ。

 

「せ、背中に乗るな」

 

 顔をあげないでほしいのである。

 まるまったもみじーの背中がぴんとなっては吾輩落ちてしまうのだ。そうはさせぬ。吾輩は前足に力を込めて、もみじーの肩に引っ掛けたのだ。

 張り切りすぎたのである。吾輩はもみじーの肩を起点にジャンプしてしまったのだ。くるりと一回転して、もみじーの肩に着地したのである。吾輩落ちるようなへまはせぬ。そして胸をしっかり張るのが紳士なのである。

 

「ぐえ、おもっ!?」

 

 失礼であるな。おお、もみじーが肩に乗った吾輩をつかんできたのだ。勢い余って、吾輩を抱いたままもみじーもちょっと回転したのだ。

 

 ちゅんちゅん。

 鳥が鳴いているのである。もみじーは吾輩を変なぽーずで抱いたまま固まっているのだ。何をしているのであろう。顔がだんだんと赤くなっていって、口をへの字に結んでいるのだ。

 それから大きくため息をついたのだ。

 

「何が悲しくて一人で大道芸をしないといけないんだ……」

 

 吾輩を向かい合うように持ったままいうのである。すまぬ。こみゅにけーしょんがしたいのである。吾輩はもみじーの顔をじーと見てみるのだ。するとくすりとしてくれたのである。

 

「地底は遠いし、めんどくさいことも多いし、どうしようかな。ん?」

 

 もみじーが急に横を見たのだ。吾輩も横を見る。

 そこにはほっぺたを膨らませたこがさがいたのである。何を怒っているのであろう。

 

「わ、わたしというものがありながらー」

 

 なにか変な方向に怒っている気がするのである。こがさはからから下駄を鳴らして近づいてくるのだ。それからおお、もみじーから吾輩を取ろうとするのだ。

 

「おい、いきなり来て誰だおまえ!」

「私の方がうまくねこまわしできるんだからー」

 

 吾輩を取り合うではない。ここはなかよくはんぶんこに……されては困るのである。ちょっとようむを思い出してしまったのだ。

 




ひょんなぱーてー。こがさ・わがはい・もみじー

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