わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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みこころ


つちあそびは、たのしいものである

 いい天気なのである。

 吾輩はごろりと日当たりの良いばしょでくしくし後ろ足で首を掻いているのである。それにしても昨日のお祭りは大変だったのだ。迷子のこころを探してほうぼー駆けずり回ったところである。

 吾輩のあんよはなかなかにくたびれているのだ。だから今日はのんびり過ごすことにしよう。それに今日はよい「ねどこ」もあるのである。

 

 昨日吾輩は巫女の家の座敷でぐーすか寝ているこころの上で寝ていたのであるが、朝起きてみれば目の前におらぬ。代わりに吾輩の体の下に橙色の布が敷かれていたのである。これがなかなか寝心地がよい。まるでかぼちゃのような色であるが、ところどころに穴が開いているのが不思議である。

 吾輩はとろりと落ちてくるまぶたに抗う事が出来ぬ。なかなかのきょうてきであるな。

 それにしてもこころはどこにいったのであろう……またいなくなったのである。

 

「わ! あ、あんたなんでそんな格好しているのよ」

 

 ねむいのである、遠くでぼんやり巫女の声が聞こえてくるのである。

 

「目が覚めたらねこが私のスカートの上で猫が寝ていたから、仕方なく」

「仕方なくって……いや、なんであんたもあの野良も私に無断で寝てんのよ……あー、あ、頭が痛い。二日酔いかも」

 

 こころのこえが、するのである。あと巫女よあたまがいたいのは、ゆゆしきもんだいなの、であるろうのう、わがはいがなでて、来るので、ある………………また、たび。

 

 ぐう。

 

「ともかく! あんたもこっちに来なさい、みっともない」

「おお、これは驚きのお面」

「うるさい!」

 

 

「おーい」

 

 ゆさゆさと吾輩が揺られているのである。吾輩はむくっと体を起こしたのである。

 目の前に巫女がいるのである。吾輩を揺らしていたのはお主であろう。

 ううむ? 見慣れぬ巫女であるな。髪が桃色なのである。いや、この無表情はどこかで見たことがあるのである。むむむ、吾輩は考えたのだ。

 ふと、座敷から見える庭を見たのである。なんとなくそうして見たくなったのである

 

 そうしていると視界の端から桃色の髪の巫女が膝立ちで歩いてきたのである。 明るい庭を背景にして赤い袴を摘まんでいるのである。やっと気が付いたのであるが、この巫女装束の少女はこころである。

 なぜいつもの服ではなく、白い上着に赤袴を着ているのであろうか? もしや、巫女になったのかもしれぬ。それならば吾輩も悪い気はせぬ。

 

「…………」

 

 こころよ、吾輩を無表情で見下ろすのはやめるのである。すっと立ち上がってこころは袴を指でつまんでいるのである。それからくるくると回った。桃色の髪がきらきら光りながら揺れているのである、ちょっと手でパンチしてみたいのである。

 

「あたしきれい?」

 

 止まって言うのである。

 こう、良く晴れた日の座敷は狭いのであるが、お天道様の光を後ろに受けながらこころは首をちょっと傾けているのである。

 吾輩はもちろんにゃあおと答えておくのである。

こころは……なぜ右手を上に振り上げるのであろう。無表情で怖いのである。そう言えば巫女とは違い、腕に何もつけていないから涼しげであるな。腋も開いているのである。

 

 まあ、どうでもいいのである。吾輩はこころの横をとてとて抜けて、縁側からすっとジャンプしたのである。うむ。畳も好きであるが、こう地面をふみふみするのもいいのであるな。

 いい天気ではある。良い木陰はないであろうか……あのあたりがいいのである。

 

「急に外に出てどうしたの」

 

 こころも外に出てきたのである、一緒に外でお昼寝してもいいかもしれぬ。吾輩はにゃあと答えておいたのである。

 だからであろう、吾輩がとてとて歩くとこころもついてくるのである。大きな幹の良い木があるのである、風と葉っぱが歌っているのである。

 このあたりにするのである。

吾輩はかりかりと地面を掘ってみるのだ。もちろんこころとのこみゅにけーしょんの為である。このあたりで寝てはどうであろう、ちらりと吾輩は心を見るのだ。

 

「……いきなり猫が動く。まさかここほれワンわ……ここほれにゃーにゃー? つまりこの下におたからがある……?」

 

 顎に手をあてて何か言っているのである。いや、こころよ急いでどこに行くのだ。そしてなぜスコップを片手に戻ってきたのであろう……土遊びであるな! 吾輩もそれはやぶさかではない。

 ざっくざくとその場をこころと共に掘るのだ。土のにおいがすると吾輩ちょっとわくわくするのである。

 

「あ、あんたたち! な、なんで穴なんて掘ってんのよ!?」

 

 吾輩とこころが振り向くと巫女がいたのである。こころよじじょーを説明するのである。

 

「まて、これには深いわけがある」

「はあ? あんた、私が貸してやった服も汚れてんじゃない!」

「猫がここでにゃーにゃー言って地面を掘り進めていた。おそらくお宝がある」

「おたから~?」

 

 巫女が吾輩を見てきたのである。何だか胡散臭げであるな。

 そして、吾輩もわかったのである。どうやらこころは吾輩がおたからの場所を教えたと思っているようである。誤解である。そんなことは一言も言ってはおらぬ。

 巫女よ、こころに言ってやってほしいのである。

 

「たしかに最近オカルトボールみたいなこともあるし、この野良もたまにへんなこともあるし」

 

 うむ? 何を考えているのであろうか。ちらちらと吾輩を見ないでほしいのである。

 

「もしかして本当におたからが……?」

 

 でぬと、思うのであるが……。

 

 

 吾輩とても悪いことをしたような気がするのである。

吾輩の目の前には大きな穴が開いているのだ。巫女とこころと吾輩で掘ったのだ、手伝わぬわけにはいかぬ。

 お昼には少し休んだだけで、それ以外には作業が止まらぬ。

 そういえば吾輩がお昼にもらったねこまんまなるものを食べていると、穴の近くに狸がいたのであるが、あれは何であったのだろう?

 

「はあはあ、結構掘ったのに……」

 

 巫女よ、そろそろ諦めていいと思うのである。

 

「もう少し」

 

 こころよ諦めるのである。

 吾輩はそろそろ穴の底から自力で上がれぬようになるから、そのあたりをうろうろしているのである。うむ? だれか来ているのである。あの片手にキセルを持ったおなごは百物語で見たことがあるのである。。

 それより吾輩は恐る恐る穴の中を見下ろしているのである。

 吾輩、困ったのである。

 巫女とこころの頑張りを無駄にしたくないのである。

 どうすればいいのであろうか? こうなったらまたたびでも持ってきて埋めてもいいのである。いや間に合わぬ。

 

 吾輩がぐるぐると自分の尻尾を追いかけていると、突然音がしたのである。

 

 がキン!

 

「な、なんか見つかったわ」

「おおー」

 

 吾輩は急いで穴の中を見下ろすのである。巫女が地面をぱっぱと手で払っているのである。するとぱあぁあときらきら光ったのである。

 巫女が地面からおおばんこばんを持ち上げたのである! きらきらとぎらぎらしているのである! 巫女は肩を震わせながらいったのだ。

 

「ほ、本当にあった ………やった、やったわ!」

「おおおお、これは喜びのお面」

 

 巫女とこころが抱き合いながらくるくると穴の中で踊っているのである。吾輩はあまりに驚きすぎて訳が分からぬ。不意に鼻をつくようなにおいがしたのである、吾輩が後ろを向くと、キセルを持った女子が笑っているのである。

 吾輩ににこにこ笑いかけてから、踵を返したのである。

 

 ――葉っぱでできるお宝たいけんじゃ

 

 何か聞こえたのであるが、意味は分からぬ。

 ま、吾輩は巫女とこころが喜んでくれればそれ以上言うことはないのである。

 

 


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