ふむ、吾輩はどうしようか迷っているのである。
無事に迷子もいなくなってから、ゆーかもいなくなったのである。吾輩が次にするべきことは突然いなくなったこころを探しに行くことであろう。
それにしても皆突然いなくなるのである。吾輩にはとんと分からぬ。全くしかたのない者たちなのである。吾輩はその場で後ろ足で首元を掻いてみるのだ。ううむ、いい。
生きていくことは出会って別れるという事らしいのである。
けーねに聞いたことがあるのである。
いちごいちえというのであるな。吾輩はいちごを食べたことはないのであるが、出会いといちごは切っても切れぬ関係なのであろう。不思議である。いつか音に聞くいちごを食べてみたいものである。いや、やまいちごなら食べたことはあるのだ。
しかし、吾輩にはわからぬ。いちごはともかく「いちえ」とは何であろうか、まあ何かの果物であろう。
そんなふうに吾輩は思索にふけっていると、空が光ったのである。
見れば花火が上がっているではないか、大きな花が空に咲いているのである。ぱぁんぱらぱらと音をたてては散っていくのだ。吾輩はそれを見てにゃあと一声、綺麗である。まわりの人々も立ち止まってぱちぱちと拍手しているのである。
いかぬ、こころを探さねばいかぬ。今頃泣いているかもわからぬ。
そう思って吾輩はとことこ石畳を歩き出すのだ。空ではぱんぱんと花火が上がって、立ち止まって見ている人々の間を吾輩が歩いていく、みんな止まっているから歩きやすいのである。
吾輩は歩きながら考えるのである。
さっき別れたからには次は誰かに会えるのであろう。吾輩のふかい経験からすれば、別れても寂しがることはないのである。ちょっと寂しいのであるが、また誰かに出会えるのである。
「おお、おぬしは」
後ろから誰かが吾輩を呼んでいるのである。吾輩はくるりと後ろを振り向くと、団子を持った「ふと」が吾輩を呼び止めているではないか、
相手している暇はないのである。
「ちょ、む、むしするではない」
吾輩は忙しいのである。
「おぬしとはお昼寝をした仲ではないか……」
ふとに両脇を抱えられて持ち上げられたのである。うむ、今日は頭にあの長い帽子を被っていないのであるな。
「なあ、おぬし」
顔を近づけてくるのである。空には綺麗な青い花火が上がっているのである。
「我の烏帽子を知らないか?」
知らぬ。えぼしとはあの頭にいつも載せている物のことであろうか、逆に吾輩が知っていると思うのであろうか?
「祭りではしゃぎ……ごほんげふん、げほげほ。年甲斐もなくはしゃぐ屠自古のやつと大人な我がいろんな店を回っているといつの間にか頭から帽子が消えていたのだ……盗まれたのかもしれぬ」
ううぬ。もし本当であればそれは由々しき問題であるな。しかし、頭から盗むとはすごいことである。吾輩ならば、ふとの足元でから飛びかかるくらいしかできぬ。
「…………」
うむ? ふとが何か吾輩を見ているのである。なぜそんなに見つめるのであろうか、照れるのである。いや、なぜ持ち上げるのであるか。そしてなぜ自分の頭に吾輩を載せようとしているのであろうか。
吾輩はふとの頭に載せられたのである。おお、しかいがたかい。空に桜の花みたいな花火が上がったのである。
「重い……」
失礼であるな。それに勝手に吾輩を載せたのはふとであろう。吾輩はにゃあと鋭い抗議の声を上げたのである。それにこれは帽子の代わりをするという事であろう。自分で言ってて意味が分からぬ。
「しばらくこれで我慢するか」
いや、ふとよ。これでいいのか。
☆
くすくすくす。
吾輩とふとが歩くとまわりが笑っているのである。まあ、笑う門には福が来るというから悪いことではないであろう。しかし、吾輩の大変さもわかってほしいのである。
なんといってもこのふとは暴れるのである。
「おお! あれはなんであろう」
などと言いながら屋台に向かっていくのはかわいいものである。
時にはジャンプしたり、吾輩を載せたまま屈んだりする。振り落とされそうになったことはもう何度もあるのである。吾輩が必死になって組み付くのである。
「おおう。そう我を慕うのは分かるが、あまり動くではない」
こみゅにけーしょんがしたいのであるな。ふととは話が合う様で合わぬ。
「我も何を言っているのか。こういう時に猫と話ができればいいのに……」
ちょっといしそつうができたのであろうか。ふととは腐れ縁を感じるのである。
うむ? あちらで何か笑い声がするのである。吾輩がそちらを見ようとする前にふとが首をぐるりと向けたのである。実は吾輩とふとは既にこみゅにけーしょんできているのやもしれぬ。
人だかりができているのであるな。
そこにひょこひょこと動く烏帽子が見えるのである。うむ……あれは見たことあるのである。誰か知らぬが頭に被っているようであるな。遠くから見れば着物をきた女子のようであるな。髪が桃の花のような色なのである。
「あ! あれは我の烏帽子ではないか」
どたどたと走るのはやめるのである。いきなりのことに吾輩もしがみついてしまったのである。
「いたい!!」
ふとのあたまにつめを刺してしまったのである。おおおお、ふとよその場でぐるぐる回転されると吾輩も酔ってしまうのである。吾輩は振り落とされない様に頭にしがみつくのである。やっと止まった時にはふとも眼をぐるぐるさせているのである。
騒がしいふとであるな。まったくこのふとは。
「あらあらあら」
烏帽子をかぶったおなごが近づいてきたのである。手に扇子を持って顔の半分を隠しているのである。目元が優しげであるな。青い着物を着ているのである。
その後ろには緑の服を着た、うむあれは刀を振り回す危険な少女である。あちらも吾輩に気が付いているようである。確かに昔にちょっといざこざがあったのであるが、吾輩は水に流しているのである。
だから吾輩がにゃあと挨拶をすれば、あちらも驚いてかぺこりと頭にを少し下げてくれたのである。これこそれーぎであるな。紳士な吾輩は嬉しいのである。
「かわいらしいことね? 頭に猫さんの帽子」
にっこりと烏帽子の女子が言うのである。吾輩またまた照れるのである。
「ゆゆこさま、ゆゆこさま。さっき拾った烏帽子。この人のじゃないですか?」
刀振り回す少女がゆゆことやらに耳打ちしているのである。やはり、ふとの烏帽子であったのであるな。まあ、こんなもの持っているのはふとくらいしかいないのである。当のふとも肩をふるふると震わせているのである。
「お、おぬし。その烏帽子は我の物だ。返すのだ!」
「……だーめ」
くるっとゆゆこがきびすを返したのである。ふとは手を伸ばしながら追うのである。
「あ、あの。ほんとに我の物だとおもうのだ」
「ほんとかしら。なにか証拠があるのかしら?」
「な、名前は書いてはおらぬが……」
意外とふとは気弱であるな。ゆゆこの後ろでぱぁんと花火が上がったのである。振り返ったゆゆこがふとに笑いかけているのである。
「そう、じゃあそこの屋台でやっている型抜きでこの妖夢に勝てば返してあげるわ。負けたらそうね、その猫さんを貰おうかしら?」
我は景品ではないのである。あ、いや吾輩は景品ではないのである。
「な、なに!? ……な、なんで我が、それに我が勝ったら我の烏帽子が帰ってくるだけではないか!」
「そうねー。だったら、貴女が勝ったら妖夢がなんでもするわよ?」
「え?」
刀を持った少女が驚きの声を上げたのである。