わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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おてんとうさまのしたは、ひろいのである

 吾輩が数日ぶりに神社に顔を出してみると、なにやら何かを広場で作っているのである。

 それはまるで塔のようであるな。周りには青い服を着た女子が力仕事をしているのである。おそらく何かの妖怪であろう。大きな木造の塔に紅白のめでたい垂れ幕を付けているようである。

 

 まあ、吾輩には関係ないのである。

 いつも通り、良さげな場所を探して日に当たりながら丸くなるのである。うむ、このあたりが良い感じに草が生えている。ここにするのである。

 吾輩はそこで丸くなった。だが、怠けているのではない。吾輩はとても忙しいのである。

 前足を嘗めて毛並みをしっかり整えなければならぬ。

 ううむ、それにしても顎のあたりがかゆいから後ろ足で掻くととてもいい気持になるのだ。おお、おおう。

 

『よーし。それはそこにやってー』

 

 青い服を着て、青い髪をした少女は他の者たちに指示をしているのである。吾輩はそれを内心応援しつつも、眠くなってきたのである。それにしても平和そのものであるな。

 そう思って吾輩は後ろをくるりと向いて視るのだ。特に意味などはない。

 

「…………」

 

 そこに一人、歩く途中で固まった様な少女がいるのである。

 なんだか桃のような髪の色をした少女である。吾輩のするどい視線を受けてもぴくりとも表情を変えぬのだ。こやつ、やるのかもしれぬ。

 まあ、いいのである。吾輩は一旦神社の方をちらりと見て、もう一度後ろを見たのである。

 

「…………」

 

 なんか近づいてきているのである。それにしても表情が全く変わらぬ。頭に狐のお面をかぶっているのであるが、それ以外は普通の、いやよく見たらあまり吾輩も見ぬような服装である。

 穴ぼこだらけのスカートを穿いているのである……貧しいのであろうか。吾輩は少し心配なのである。ちょっと自分でも心配性かもしれぬとこの頃思っているのだ。そう思って少し眼を閉じてしまったのだ。

 吾輩はっとしてすぐに少女を見たのである。

 近いのである。しゃがんで地面に手をついてしまっているのだ。その無表情な顔がすぐ目の前にあるのである。

 

「…………かんねんしろ」

 

 いきなり言われても困るのである。いったい何がしたいのであろう。

 少女は吾輩に手を差し伸べてきたのである。吾輩の前で手のひらを広げているのだ。吾輩も意味が分からずに少女をみると、全く表情が変わっておらぬ。しかし、心なしか眼がきらきらしているような気がするのである。

 

 わけがわからぬ。吾輩はとりあえず手を嘗めてみるのだ。

 すると少女は自分の掌をじっと見つめて首を振るではないか。

 

「ちがう。……そうじゃない」

 

 いや、わからぬ。

 少女がまた吾輩に手を差し伸べてきたのである。今度ばかりは流石の吾輩にもわからぬ。だからちょっと首を傾げて少女をみると、手を差し伸べたまま少女も首を傾げているのである。……吾輩と一緒の動きをしてどうするのであろう、説明してほしいのである。

 

『そこまでだ面霊気よ!』

 

 吾輩たちが悩んでいるとどこからか聞き覚えのある声が聞こえてきたのである。

 吾輩はそちらをむくと神社の軒下からずりずりと烏帽子をかぶった少女がはい出てくるではないか。うむ、ふとであるな。なんで軒下にいたのであろうか、もしや住んでいるやもしれぬ。

 足を広げてから右手をちょっとあげ、さらに左手を吾輩たちに突き出してくるのである。妙なポーズであるな。

 

「でたな、ようかいのきしたやろう」

 

 無表情の少女がなにか言っているのである。それにふとが怒った。

 

「わ、我のどこが妖怪だ! これは深いわけがあってのことだ」

「……ふつう軒下にもぐらないと思うけど」

「そうなのよねー。いや、我も太子の命で神社の下にいたのだが、さびしくって。あ、いやなんでもない」

 

 無表情の少女とふとは知り合いのようであるな。吾輩はさっきから一歩も動いてはおらぬが、なんだかあっちを向いたりこっちを向いたり忙しいのである。

 

「よいか、面霊気よ。この猫は我を慕っているのだ」

 

 慕ってはおらぬ。

 

「おおー」

 

 少女よ、騙されるでない、と言いたいところであるがまあいいのである。なんだか楽しそうであれば吾輩とやかくいわぬ。

 ふとは吾輩の前に両膝をちゃんととつけて座って、吾輩に手を差し伸べてきたのである。

 

「お手」

 

 ふふんと鼻を鳴らしながら吾輩にふとは言ったのである。

 なるほど、吾輩に人里で飼われている犬のようなことをさせるつもりであるな。吾輩はそれはできぬ。他を当たってほしいのである。できれば犬辺りがいいのではないであろうか。

 

「……ほれほれ」

 

 手のひらをひらひらさせても吾輩はせぬ。ふとよ……いや、そんな不安そうな顔になって行かれると困るのである。吾輩もぷらいどはあるからして、できぬものはできぬ。

 横を見ると無表情の少女がふとをじっと見つめているのである。ふとは汗を掻き始めている。

 

「……できない?」

「い、いや。こ、これは我もまだ教えていなかったからな。ほら猫よ。手を出すのだ」

 

 なんだか可哀想になってきたのである。吾輩されるがままである。

 

「よいか、猫よ。お手とは手のひらをこう広げて」

 

 といいつつ、吾輩の前足をふとが持って肉球を上に向けたのである。それからふとが自分の右手を肉球の上からゆっくりと下ろしてきたのだ。

 

「よいか、こうするのだ!」

 

 吾輩の前足の肉球にふとが手を乗っけているのである。

 自信満々な顔をしているふとを吾輩はどうすればいいのかわからぬ。悩まし気に横の無表情の少女を見れば、吾輩から眼をそらしてくるのである。どうしようもできぬ。

 

「……………」

 

 ああ、いい風が今日は流れているのである。こんな中お昼寝をすれば気持ちがいいであろう。

 

「こ、これではまるで我が猫にお手をしているみたいではないかっ!」

 

 ……吾輩に言われても困る。勝手にやってきたのである。ふとは吾輩の両前足を持って振るのであるが、これが握手というやつであろうか。

 

「我は……なんで、猫に怒っているのか」

 

 きっと疲れているのであろう。吾輩はうにゃあとその場で鳴いて、ぐるぐると回ってから横になるのである。ふとをちらりちらりと見てみるのだ。

 吾輩はこみゅにけーしょんは難しいが伝わってくれると嬉しいのである。吾輩の思っていることわかってくれればよいのであるが、

 

「我と昼寝がしたいのか?」

 

 嬉しいのである。

 

「し、仕方ないな」

 

 ふとはその場でころりと吾輩に並んで寝ころんだのである。

 何故か吾輩を抱き寄せて仰向けになったのだ。おお、今日も青い空に雲が泳いでいるのである。気持ちがいいのである。

 

「私もねむくなってきちゃった」

 

 無表情の少女よ遠慮することはないのである。ごろ寝するのである。

 なに、この幻想郷の土地はどこでも寝ていてもお天道様が照らしてくれるのである。

 心配するでない。

 

 ★

 

 どれくらいたったのであろうか。

 ふとに抱かれているとなんだかあったかいのである。

 それでも吾輩少し寝ぼけているのかもしれぬ。

 

『ああーもう、なんでこいつらいるのよ』

 

 巫女の声がする気がするのである。

 

『こいつ、なんで猫を抱いて寝てるのかしら。それにこころも寝てるし。……お祭りで踊ってもらうから、風邪なんてひかれたらこまるけど』

 

 まつりをするのであるか。吾輩やたいの裏でよくいい匂いを嗅いでいるのである。

 

『……仕方ない。掛ける毛布とかあったかな。まったく人の神社でなんで寝てんのよ』

 

 巫女が歩いていくのである。

 吾輩は、それを呼び止めようとして声が出ぬ。代わりに二人の少女の寝息が吾輩の耳に響くのである。

 

 

 

 


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