わがはいは、わがはいである   作:ほりぃー

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ぱーてーの誘いにはのらなければならぬ

 吾輩は驚愕したのである。ううむ。だれやらが神社に来たことは覚えているのである。この耳がしっかりと「さくや」なる声が聞いたのだ。

 この目をぱちくりさせて、うなうなと唸りながら考えてもわからぬ。さっきまで吾輩は巫女のお酒の瓶を体で支えて零れぬようにするというししふんじんの働きをしておったはずである。

 

 それというのに、吾輩はだっこされているのである。

 

「お嬢様。猫を捕まえましたわ。如何いたしますか?」

「いや、誰も捕まえてなんていってないのだけど……。まあいいわ。そのまま邪魔にならないように持っていなさい」

 

 吾輩が見上げると顔の左右で三つ編みを結っている少女がおるのである。このおなごの手に抱かれて吾輩は揺られている。ううむ。吾輩、だっこされておることは慣れておるが、いつの間にだっこされたのかとんと分からぬ。

 おそらくであるが、このおなごが「さくや」であろう。にゃあにゃあ。三つ編みをこう、はっ。少し揺れている三つ編みをパンチしてしまったのである。ふかこうりょくというものである。

 

「こらこら」

 

 さくやよまるで人の赤ん坊を揺らすように吾輩を揺らすではない。こう見えても吾輩は紳士で通っているのである。おお、顎の下を撫でるな、ごろごろ。

 

「ここかしら」

 

 ううむ。これはゆだんできぬてくにしゃん。しかし吾輩とてこう捕まっているままでは折れぬ。この撫でる指をこう噛んで威嚇するのである。

 

「ふふふ」

 

 吾輩に指を噛まれて笑うとは面妖であるな。しかし安心するのである、少女にけがをさせるつもりはないのだ。こうかみかみ、と吾輩をぞんざいに扱うとこうなるという脅しである。これ、鼻をくすぐるでない。

 

「なにやってんのよあんたら」

 

 この声は巫女が戻ってきたのであるな。

 

「ああ、霊夢。この猫なにかしら?」

 

 別の声がするのである。そういえばさくやと一緒に誰か入ってきたである。それをおお、お腹をさするのもなかなか……ううむ、考え事が出来ぬ。巫女よ助けてくれ。

 

「野良猫よそいつ。で? レミリア、あんた何しにきたのかしら。まさかそいつに猫を撫でさせるために来たんじゃないでしょ?」

 

 もう一人をレミリアというらしいのであるな。おお、にゃあ。

 ええい。もう我慢できぬのである。さっきから何か吾輩が考えようとするたびに執拗にマッサージをするではない。憤怒にかられた吾輩は、もぞもぞと咲夜の手の中で体勢を立て直して、そこから飛び出したのである

 

 ――

 

 吾輩はさくやにだっこされているのである。なぜ。なぜであろう。とんとわからぬ。

 確かに脱出したはずである。目の前に畳の折り目まで見ておったのに、次の瞬間にはここでおお、ぉお背中をさするのもうまい。

 

「この猫大人しいですわね」

 

 さくやが何か言っているのだ。

 

「いや、あんた今……まあいいか」

 

 巫女が何かを言いかけて止まったのである。何を言いかけたのであろう。

 

「ああもう、話が途切れた。で? あんたら何しに来たのよ」

「月が綺麗だったから寄ってみただけよ」

「ああ、そう」

 

 レミリアという少女は小柄であるな。頭にこうりんのところで見たどあのぶかばーのような物を被っておる。

 肌が白くてほっぺたが柔らかそうである。ちょっと噛んでみたいのは悪いであろうか。

 そんなことを思っているとレミリアがさくやに抱かれている吾輩をちらりと片目で見てきたのだ。八重歯? であろうか、きらっと光る歯を見せてから両手を組んでいるのだ。

 

「うちのツパイの方が可愛いわね」

 

 ううむ。それは吾輩のことであるか。巫女よ何か言ってやるのだ。

 

「ああ、そういえばなんだっけ。ちゅ、ちゅぱなんとかをあんた飼ってたわね」

 

 突然さくやが吾輩を撫でるのをやめたのである。今である。脱出を試みたのだ。

 

 なぜさくやの手の中に吾輩はいるのであろうか。離れられぬ。さくやを見上げると何故か笑っているのだ。ううむ。何でであろう。さくやは吾輩を抱いたまま言うのである。巫女に向かって。

 

「ぱちぇ? といいたいの?」

「そんな名前だったかしら。前に狸から聞いたんだけど……」

 

 ふむふむ見えてきたのである。このレミリアは「ぱちぇ」なる猫を飼っているのであるな。しかし、凛々しく野原を闊歩する吾輩も負けぬ。まだ見たことはないのであるが、吾輩はぱちぇには負けてはおられぬ。

 

「いや、ぱちぇじゃないわよ。咲夜」

「あら。違うのですか? てっきり私はそうかと思いましたが、今日も本を読んでいらしたので」

「…それになんの関係があるのかしら……? 咲夜、貴女はたまに妙なことを言う気がするのだけれど」

 

 ぱちゅは本を読めるのであるか! 吾輩、負けたのである。吾輩はよい木の実の成るところは良く知っておるが、人の書いた文字は読めぬ。だが、吾輩は紳士であるから負けは負けとして認めねばならぬ。だが、いずれは吾輩も読めるようになるのである。

 まだ見ぬぱちぇよ、見ておるがよい。猫として吾輩は追いついて見せるのである、ああごろごろ、さくやよ決意している時に顎を撫でるでない。

 巫女よ助けてくれ。

 

「まあ、何でもいいけど。私はそろそろ寝ようと思ってんだけど。レミリア。あんたがただ寄っただけとは思えないわ」

「ふふ、そうね。半分は本当だけど、半分はこっちよ」

 

 レミリアは懐から一通の手紙を出したのである。それを巫女に渡そうとして、手を滑らせて落としたのだ。レミリアは自分で拾って巫女に渡した。

 

「……今度、我が紅魔館でパーティーを開くことにしたの。これは招待状よ」

 

 ぱーてーであるか、吾輩には招待状はないのであろうか。

 

「くく、その猫も連れてきてもいいわよ。あの子の遊び相手になりそうだから」

 

 吾輩も行ってよいのであるか。中々話しが分かるではないか。しかし、ご馳走をくれとは吾輩は言わぬ。ヤマメと煮干しがあればそれで充分なのである。それにさくやよ、巫女とレミリアの話に聞き入って油断しているのであるな。今である――

 

「わぁぁ」

 

 わ、吾輩いつの間にかレミリアの頭の上に載っているのである。いつの間に移動したのであろうか。それに驚いてレミリアのかぶっていた帽子をずり下げてしまったのである。こ、これレミリアよ暴れるでない。

 

「ま、前が。ちょっと咲夜!」

「はい」

「なんで猫が頭の上にいるのよ」

「その子が急に飛び出したので」

 

 吾輩はレミリアとは別方向に飛んだはずであるが、気が付いたらいつの間にかその上に載っていたのである。まるで吾輩、前に耳にしたわーぷをしたようである。いつの間にかレミリアの頭の上に「置かれていた」かのようである。ちょっと招き猫のようであるな。いや、今は関係ないのである。

 

「はいはい、もう。ほらレミリアじっとしなさい」

 

 レミリアと吾輩が一緒に右往左往しておると巫女が吾輩を抱き寄せてくれたのである。なんとなく安心するのはなぜであろう。さくやがにこにこしているのが少し怖い。

 

「とりあえず、この招待状は預かっておくわ。いい酒用意してなさいよ」

「愚問ね。私が客人をもてなすのに抜かりがあるわけないわ」

 

 帽子を被り直しながら、レミリアは言ったのである。

 

 ★

 

 二人が去ってから吾輩と巫女は縁側で月を見ながらぼんやりしているのである。胡坐をかいた巫女の膝に乗って、吾輩はかりかりと煮干しを噛んでいる。

 

「招待状か。あ、これ英語じゃない。読めないわよこんなの」

 

 巫女は酒を飲んでいるからか、顔が少し赤い。ツマミは月と、吾輩ときんつばである。

 

「これ、おいしいわね」

 

 きんつばを食べながら吾輩を巫女は撫でる。

 


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