翌日、瀞霊廷の図書館。俺はそこで気まずい時間を過ごしていた。
朽木隊長と二人きりだからだ。
「……………」
「……………」
おかしい。なんでこんなに気まずいんだろうか。朽木隊長だからか?普通、図書館なんて何処にいても気まずくならないだろ。
あーちくしょう、仕事サボるために朝からこんなところ来るんじゃ無かった。
どうしよう。なんか話したほうがいいかな。や、でもなんで?そんな仲良いわけじゃないしぃ、てか仲良かったら気まずくなってないしぃ。
でも、ツレの恋次の隊長さんなわけだから、ある程度は仲良くしておいたほうがいいかも……。でも、あの人クソ真面目そうだからなぁ、馴れ馴れしく声かけたらキレられそう。
「あの、朽木隊長」
とりあえず、声を掛けてみた。
「なんだ。水上副隊長」
「オセロでも、やりませんか」
「………………」
………何言ってんだ俺。確かにこの図書館には何故かボードゲームが置いてあったりするが……。
「あの、やっぱ嘘で……」
「いいだろう」
「へ?」
「やろう」
マジで……?この人、意外とノリの良い人?
「じ、じゃあ借りてきますね」
「うむ」
そんなわけで、オセロの箱を借りてきた。
俺と朽木隊長は向かい合うように座り、真ん中の机にオセロ盤を置いた。
「デュエル!」
「?」
「何でもないっす」
開始した。
*
10分後。盤上は白で染まった。
ちなみに、朽木隊長は黒である。白哉なのに。
「……………」
「……………」
き、気まずいいいいい‼︎勝ったのに全然嬉しくないいいいいい‼︎
俺のバカ!何でこんな絵に描いたような完封勝利してんだよ!接待プレイって言葉を知らねえのかよ‼︎
「あ、あの、朽木隊長………」
「なんだ?」
「す……」
すいません、って言うのは喧嘩売ってるよな……。
クソッ、考えてから名前呼べばよかった!なんか言わねえと、なんか言わねえと!
「ぎ、ギャハハハハ‼︎ザマァ〜‼︎超弱っ‼︎朽木白哉(笑)。いや済まぬ、ぷっふふー‼︎」
「…………」
あ、朽木隊長キレた。何で笑ったの俺?
「縛道の六十一『六杖光牢』」
「えっ」
当然、俺の身体に光の板のようなものが現れ、俺の動きを封じるように身体に突き刺さった。
「………え、なにこれ」
「では、また機会があれば手合わせ頼む」
「え、ちょっ、朽木隊長何これ?どゆことこれ?」
俺の質問を無視して、朽木隊長は図書館から出て行った。
………ああ、これあれか。放置プレイって奴か。
「ちょっ、朽木隊長⁉︎戻って来るんだよね⁉︎ねぇっ⁉︎おーい、朽木隊ちょ……!」
朽木隊長は戻って来なかった。
*
3日後、たまたま本を借りに来た浮竹さんに助けてもらった俺は、とりあえず飯を食いに行った。
腹減ったなぁ……喉乾いたなぁ……便意を催さなかったのは奇跡だなぁ……。これからは食べ物を大切にしよう、そして朽木隊長を殺しに行こうと心から思いながら、とりあえず四番隊隊舎へ向かった。
「あっ、水上副隊長⁉︎」
虎徹さんが驚いたように声を上げた。
「今まで何処にいらっしゃったんですか⁉︎心配しましたよ!」
「図書館」
「は?と、図書館?」
「そう。それより早くなんか食わせて下さい……。死にそうです……」
「わ、分かりました?まったく……副隊長がいない間、私が代わりに仕事させられたり卯ノ花隊長が不機嫌だったりで大変だったんですから」
「あー、そういや仕事投げ出してたんだっけか。悪いことしたなぁ」
「いや、それもあると思うんですけど、それより最近は……こう、喧嘩友達を失くしたみたいにつまらなさそうにしてたんですよ」
「へ?喧嘩相手って俺のこと?」
「はい。水上副隊長が来てから卯ノ花隊長は……んむっ⁉︎」
後ろから口を手でせき止められる虎徹さん。
「………勇音?余計なことは言わなくていいのよ?」
卯ノ花隊長にそう言われ、涙目になりながらコクコクと頷く虎徹さんだった。
その様子に満足したのか、クソドS卯ノ花はニッコリ微笑んで手を離した。そして、パタパタと逃げて行く虎徹さんに目を向けることもなく、さらに不機嫌そうな笑顔になった卯ノ花隊長は俺を睨んだ。
「さて、何故サボったのか話を聞きましょうか?」
「サボったこと前提かよ……」
いや、キッカケは確かにサボろうとした事だったんだけどさ。だが、そこをバカ正直に話せば俺の首は飛ぶ(物理)。
だから、そこはかなり遠回しな説明をすることにした。
「3日前、少し気になることがありまして、図書館に行ったんですよ」
「サボりに行ったのですね」
一発で看破されました。まぁこの際いいや。
「その時に、朽木隊長とオセロをやりまして」
「え?あの朽木隊長と?」
「はい。ボロ勝ちしたら縛道で縛られて動きを封じられました。3日後に浮竹さんに見つけてもらったというわけです」
「そうですか。つまり、自分で蒔いた種に足を絡め取られたわけですね」
「いやいやいやいや、待て待て待て待て」
「学習なさい。またタメ口ですか?」
「そりゃあねーだろとっつぁん」
「殺すぞ」
「はい、すいませんでした」
この人もこんなストレートな暴言吐くんだな……。
「とにかく、今日はあなたはずっと仕事です。よろしいですね?」
「えっ、せめてご飯くらい……」
「ダメです」
「水の一滴でも」
「ダメです」
酷い。この人、結婚したら絶対に鬼嫁になること間違いない。
*
空腹と喉の渇きと戦いながら書類仕事を続けること二時間、そろそろ意識が遠退いてきた頃に、コンコンとノックの音がした。
「どうぞ」
卯ノ花隊長が返事をすると、ガララッと扉が開いた、
「祐作‼︎」
「れええええんんんんじいいいい‼︎」
恋次の声がして涙目で俺は飛び付いた。助かった!や、ほんまに助かった!
ムギューッとお腹に抱き付いてると、違和感に気付いた。柔らか過ぎる。おそらく俺だけが知っていることだが、恋次は朽木隊長より強くなるために修行してる。その恋次の腹がこんな柔らかいわけない。
誰だお前、と思って見上げると、ルキアが真っ赤な顔で俺を睨んでいた。恋次はその後ろにいる。
「………あっ」
「何をする貴様ああああああ‼︎」
「へぶっ⁉︎」
見事なアッパーカットが俺の顎にクリティカルし、後ろに大きくひっくり返った。その俺にルキアは馬乗りになり、拳を振り下ろす。
「いだっ!ちょっ、いだ!待っ……」
「死ね!死ね!死ね!死ねええええ‼︎」
「ちょっ、ゴフッ、ルキアッ、マジでッ、ガフッ、ブフッ……ウッ……」
「ケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノ‼︎」
「………………」
「おーい、その辺にしとけルキア。本当にそいつ死ぬぞ」
恋次の声が聞こえ、ようやく俺への拳が止んだ。
だが、俺の意識は既に薄れて行った。
「おい、祐作起きろ」
無理。
「大事な話があるんだよ。あ、卯ノ花隊長、これ借りていいすか?」
「いいですよ」
無理だって。どいつもこいつも鬼ですか。
「いい加減にしろよ。はよ起きろっての」
無理無理無理。冗談抜きで心も体もHP1よ俺。
「卯ノ花隊長のおっぱい揉ませてやるから」
「おはよう」
「お二人共、歯を食い縛ってください」
ゴンッゴンッとゲンコツが俺と恋次の脳天に降って来たが泣かなかった。
引き続き、話を進める。
「とにかく、大事な話ですので、10分だけ借ります」
「それは構いませんが、どうかしたのですか?」
「いえ、卯ノ花隊長が気にするほどの事では」
「まあ、なんでもいいですが、祐作さん?遅れた分はちゃんとあとで働いてもらいますよ?」
「えっ、いや俺に選択権がない状態で連行されるのにそれは理不尽じゃ……」
「いいから行くぞ!」
「何もよくねえよ⁉︎」
俺の意見など無視して連行された。
*
「で、何の用だよ」
恋次とルキアの奢りで、俺達は茶屋に来た。
「簡単な話だ。お主、白哉兄様に何をした?」
「あ?」
「驚いたぞ。まさか、あの白哉兄様からオセロに誘われるなんてな」
負けて悔しくて練習してたあの人⁉︎
「俺もだ。まさか執務をほったらかしてまでオセロに誘われると思わなかったよ」
どんだけ悔しかったんだよ!意外とかわいいなあの人‼︎
「理由を聞いてみたんだ。そしたらよ、『水上副隊長に上下関係を教えるためだ』とか言い出しやがってな。それでお前のところに来たわけだ」
オセロで何を教えようとしてるんだろうか。もしかしたら、瀞霊廷の隊長達というのは愉快な人ばかりなのかもしれないな。
「俺は何もしてないよ。ただ図書館で二人きりだったから、オセロに誘って盤面真っ白にしてやったから煽ったら縛道による三日三晩飲まず食わずダイエットさせられただけだ」
そして今も卯ノ花隊長による断食中である。おそらく3キロは痩せるね。
「朽木隊長をオセロに誘ったのか?」
「ああ。あの人弱過ぎwwwぷーくすくす」
「怖いもの知らずだなお前」
「るせー。なんか話さなきゃって思った結果がこれだよ。とにかく、これでお前らの知りたいことは全部だ」
「全部だ、じゃない‼︎貴様のお陰で私と恋次は毎日毎日オセロに付き合わされているのだぞ‼︎」
「毎日って……たかがまだ3日だろ?」
「3日連続でオセロやらされた私の身にもなれ‼︎」
「3日連続断食ダイエットコースの俺に何を言うか‼︎」
「え?す、済まぬ」
いいよなテメェらはよう‼︎三日間ちゃんと飯も食えてトイレにも行けて風呂も入れてよ‼︎何も出来なかったからね俺⁉︎浮竹隊長にはちゃんと何か奢らないと。
改めてそう思いながら、俺は二人に奢ってもらった飯を食いまくった。
*
四番隊隊舎に戻った。これから書類仕事である。
「ただいま戻りました」
挨拶して執務室に入ると、中では朽木隊長がオセロ盤を前にして待っていた。
「………さぁ、やろうか」
やろうか、じゃねぇよ。
ちなみにこのあと、ボロ勝ちした。