卯ノ花さん護衛します!   作:杉山杉崎杉田

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退院:1日目

数日後、退院した。俺は未だに、無くなった耳に違和感を感じながら、呑気に歩いていた。

耳以外は卯ノ花隊長のお陰でほぼ全快したのだが、今まで病室で寝かされていた分、働かされると思うと気が重かった。

 

「祐作‼︎」

 

突然、声を掛けられた。

恋次とイズルが立っていた。

 

「おう、どしたん?」

 

「卯ノ花隊長と付き合ってるってマジ?」

 

「…………はっ?」

 

今なんつったこいつ。

 

「誰と誰が?」

 

「お前と卯ノ花隊長」

 

「俺と卯ノ花隊長が?」

 

「付き合ってるのかい?」

 

直後、俺の拳が真っ赤に燃え、イズルを倒せと轟叫びながら頭を掴んだ。

 

「誰から聞いたんだ?その妄言」

 

「いだだだだ‼︎ご、ごめんなさ……‼︎」

 

「そんな良い妄想教えんじゃねぇ‼︎俺と卯ノ花隊長が付き合ってるってことは、あのおっぱい揉みしだき放題って妄想しちまうじゃねぇか‼︎」

 

「喜んでる?喜んでるの⁉︎」

 

イズルを壁に投げつけた。

 

「………で、実際どうなの?」

 

恋次が落ち着いた様子で聞いてきた。

 

「や、普通にねぇから。つか、何処から聞いてきたのそれ?」

 

「何処から、ってのはわからねぇけど、もう精霊廷中に広まってるぜ」

 

なん、だと………⁉︎

 

「ま、まさか、俺が寝てる時に卯ノ花隊長がお見舞いに来る時は必ず一人だったり、京楽さんや浮竹さんがヤケに俺に『頑張れよ』って言ってきたのって⁉︎」

 

「ああ。まぁ、俺はそんな詳しいことは知らないから。俺はイズルに聞いただけだし」

 

俺は壁にめり込んでるイズルの胸ぐらを掴んだ。

 

「オイ、テメェは誰から聞いた」

 

「ま、松本さん、です……」

 

よし、元を叩き潰そう。

俺はイズルから手を離し、十番隊隊舎に向かった。

 

「あ、待てよ祐作。はいこれ」

 

ホイッと恋次から缶ジュースを二本投げられた。

 

「ん、何これ」

 

「俺とイズルから、退院祝い」

 

イズルがフラフラと親指を立てた。

 

「サンキューな」

 

俺はそう短く言うと、十番隊隊舎に走った。

 

 

十番隊隊舎。俺はドアを蹴り破って入った。

 

「おいっすぅ‼︎もういっちょ、おいっすぅー‼︎」

 

「テメエエエエ‼︎だから一々ドア蹴り破って入ってくんじゃねええええええ‼︎」

 

「おう、ひばんたに」

 

「日番谷隊長だ‼︎」

 

怒鳴りながら斬魄刀を振り回すひばんたに。それを俺は躱しながら、聞いた。

 

「おいおい、病み上がりに、体を、使わせるんじゃ、ねぇよ」

 

「病み上がり相手に刀を振らせるんじゃねぇ‼︎」

 

「それより、松本さんは?」

 

「話聞いてんのか⁉︎」

 

「いいから答えろよ、来年まで投げるぞ」

 

「どゆことーッ⁉︎」

 

「お前じゃ話にならねぇ‼︎隊長を呼んでもらおうか‼︎」

 

「俺だよ‼︎」

 

「ちょっとさっきから五月蝿いわよ……って、あら。卯ノ花隊長の恋人さんじゃない」

 

松本がのこのこと現れて寝言をほざきだした。

 

「あ?テメッ、泣くまで殴るぞ。誰が広めてんだその噂」

 

「へ?知らないわよ。私はギンに聞いたけど」

 

「ギンって……市丸隊長?」

 

「そーよ。それより隊長、喉乾いた」

 

「テメェは隊長をパシる気か⁉︎」

 

「あ、ならこれあげるよ」

 

俺は恋次とイズルからもらった缶コーヒーを一本投げ渡した。

 

「あら、ありがとう。じゃあお返しにこれ」

 

投げ渡されたのは生八つ橋の箱。

 

「ああ、どうも」

 

「じゃあね」

 

 

三番隊隊舎。

 

「すみませーん」

 

「あ、ああ。水上副隊長。何か用でっか?」

 

「もう大体検討ついてるんで直接聞きます」

 

(大体検討がついてる……?まさか、藍染隊長の言う通り本当に……!)

 

「俺と卯ノ花隊長が付き合ってると噂巻いたのはあんたですか?」

 

(良かった、アホで)

 

ん、なんかホッとされてる気がする。

 

「いや、ボクも藍染隊長に聞きました」

 

「ありがとうございます。ではこれ、」

 

「? なんやこれ」

 

「生八つ橋っす」

 

「ああ、じゃあ僕からはこれや。豆腐」

 

「あら、いいんですか?」

 

「ええよええよ」

 

「じゃあありがたく。では、失礼します」

 

なんかわらしべ長者みたくなってきたな。

 

 

「………あ、あれ。藍染さんが欲しがってた奴やった」

 

 

五番隊隊舎。

 

「失礼しまーす」

 

「⁉︎ や、やぁ、水上くん……」

 

「藍染隊長。こんにちは、今日はお話があってきました」

 

「な、何かな……?(まさか、まさかまさかついにこの前のことがバレっ……⁉︎)」

 

「俺と卯ノ花隊長が付き合ってるって噂したの、藍染隊長すか?」

 

(⁉︎⁉︎⁉︎ な、何故それを⁉︎)

 

あれ、なんか今一瞬動揺があったような。

 

(いやいやいや、落ち着け私。確かに何となく腹立ったから精霊廷に広めたのは私だが、私もまた雛森くんに聞いただけだ。私が広めたわけじゃない)←矛盾

 

藍染隊長は咳払いをしたあと、言った。

 

「僕は、雛森くんに聞いたよ」

 

「んなっ……⁉︎結局あいつか……‼︎」

 

そういえば、あのおっぱい揉み揉み事件の時に廊下で虎徹さんと話してたな。

…………あいつらが犯人か‼︎

 

(⁉︎ なんか睨まれてる⁉︎ 歯軋りまでして缶コーヒーを握り潰して……!まさか、私の計画を止めてやるという決意か?)

 

「あ、藍染隊長。これ、お礼にお豆腐です」

 

「(な、何故僕の好物を⁉︎)ありがとう」

 

「……………」

 

「…………な、何かな?」

 

「いえ、その豆腐今までわらしべ長者のように交換しまくって僕の元に来たんですよ。だから、藍染隊長からも何か〜なんて思ってみたり」

 

「………(下手なものは渡せない)。これなんてどうかな」

 

「わぁ、コケシ!」

 

な、なんでこのコケシメガネかけてるんだろう……。

 

(しまった!あのコケシ、虚圏に置こうと思ってた藍染モデル!で、でも『やっぱ返せ』なんて言ったら、勘付かれるかもしれない……‼︎いや、すでに勘付かれてる可能性も……いやしかし……‼︎)

 

「じゃ、ありがとうございます。また今度」

 

「あ、ちょっ」

 

さて、雛森さんを探そう。

 

 

ふぅ……わらしべ長者で色々と回った結果はコケシか……。いや、雛森さんに何か貰えるかもしんないな。まぁ、コケシの時点で良いものとはとても言えないだろうけど。

で、雛森さんは何処にいるのだろうか。藍染さんに聞いときゃ良かったかな。気楽にそんなことを考えながら歩いてると、バッタリと卯ノ花隊長と出会した。隣には虎徹さんがいる。

 

「あっ」

 

「あら」

 

あ、どうしよう。俺の耳に回ってきたということは、間違いなくこの人も俺と同じ風評被害に遭ってるよね。気まずい。

 

「こ、こんにちは」

 

「はい、こんにちは。どうしました?こんな所で」

 

「や、ちょっと雛森さん探してて」

 

「へぇ、恋人の前で他の女性の名前を口にしますか」

 

「ブッフォ‼︎」

 

思いっきり吹き出してしまった。

 

「どうしました?汚らしい」

 

「いや、あんたがどうしたんすか⁉︎」

 

「あら、嫌ですか?」

 

「嫌じゃありません。恋人ならオッパイ揉みたいです」

 

「殴りますよ?」

 

「ごめんなさい」

 

「冗談に決まってるじゃないですか。というか、あなたは恋人をなんだと思ってるんですか」

 

はい、おっしゃる通りです。

 

「まったく、もう少し入院してれば良かったのに……」

 

虎徹さんからすごい毒が聞こえた気がしたが、流すことにした。うん、だってきっと多分気の所為だと信じてるもの。

 

「ていうか、卯ノ花隊長は意外と気にしてないんですね。てっきり俺と恋人なんてヘドが出るほど嫌がると思ってたのに」

 

「はい、吐き気をもよおすほど嫌です」

 

ハッキリ言うなあ、俺並みのメンタルがなきゃ自殺してるよ?

すると、虎徹さんがやけにニヤニヤしながら言った。

 

「そんなこと言って。それより、水上副隊長に言いたいことがあったんじゃないんですか?」

 

「ああ、そうでしたね。この前の任務の現地に、これが落ちていたのですが」

 

卯ノ花隊長は懐から俺の折れた刀を取り出した。

 

「俺のです、返して下さい」

 

「折れてるんですよ?」

 

「何言ってるんですか?懐から出たということは、あなたのおっぱいに触れてた刀ですよ?」

 

直後、卯ノ花隊長は刀を握り潰した。

 

「おっと、勝手に砕けてしまいましたか」

 

「いや無理あるでしょ……」

 

今思ったけど、この人もなかなかアホだよな。いや、普通に暴力的なだけかもしれんが。ほんと、人は見かけによらないわ。

 

「今、失礼なこと考えてませんか?」

 

「いえ、決してそんなことは。どうやったらそのおっぱい揉めるかを考えてました」

 

「いや、誤魔化せてませんし輪をかけて失礼ですし失言ですし失敬ですよ?」

 

「最初と最後は意味同じじゃね?」

 

「タメ口とは、失敗しましたね水上さん」

 

「何ですか?もしかしてイン踏むのにハマってるんですか?それともラッパー気取りですか?卯ノ花隊長にもマイブームがあってなんか可愛らし」

 

メキッと俺の顔面に拳がめり込んだ。

 

「………すいませんでした。調子こいてました」

 

「歯向かってみようという勇気だけは讃えてあげましょう」

 

「自分が怖いという自覚はあるんすね……」

 

この人、絶対結婚できねえよ。絶対鬼嫁になるよ。これはもう俺がもらってやるしかないんじゃねぇの?

 

「卯ノ花隊長」

 

コソッと虎徹さんが卯ノ花隊長の脇腹を肘でつついた。

すると、卯ノ花隊長は咳払いして、改めて、といった感じで言った。

 

「それで、ですね。あなたの斬魄刀は折れてしまったわけですし、涅隊長に直してもらいに行きませんか?」

 

「斬魄刀?誰の?」

 

「いや、あなたの」

 

「それ斬魄刀じゃありませんよ。ただの刀」

 

「へっ?」

 

珍しく卯ノ花隊長が間抜けな声を上げた。

 

「ただの刀です」

 

「………そう、ですか。驚きました。ということは、あなたは斬魄刀無しで大虚に挑むなんてバカなことをしたわけですね?」

 

………あれ?なんか怒ってる?

 

「何故、斬魄刀を出さなかったのですか?」

 

「や、俺さ。霊術院卒業する時、下痢気味だったんですよね。トイレで踏ん張ってたら浅打もらいそびれて、そのまま刀だけで戦ってたんすよ。だから、斬魄刀持ってないんすよね」

 

「………頑張ってたんですね。今まで」

 

「まぁ、そうですね。頑張ってました」

 

「浅打をもらってればしなかった苦労をしていたのですね……」

 

うわ、なんか馬鹿にされた気がする。

 

「じゃあ、浅打をもらいに行きましょうか」

 

「あれ誰から貰うんすか?山爺?」

 

「霊術院にあるでしょう。私から話を通しておきますから、取りに行きなさい」

 

「あーい」

 

てなわけで、浅打とコケシを交換した。

 

 


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