卯ノ花さん護衛します!   作:杉山杉崎杉田

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3日目

 

「あらら、虚閃直撃やないですか。これは終わりやな」

 

「…………」

 

「どうかなさりましたか?」

 

「………いや、本当に彼は副隊長か、と思ってさ」

 

「と、言いますと?」

 

「見てれば分かるよ」

 

「そう言われましても………。はっ?嘘やろ?」

 

「思いの外、手強い相手なのかもしれないな」

 

 

御虚閃が当たる直前、俺は刀を正面に振り下ろした。

そう、御虚閃を斬った。もちろん、無事では済んでない。刀身が吹っ飛んだ。

あーあ、どうすんだよこれ。お気に入りだったのに。

 

「なんて言ってる場合じゃないか」

 

大虚は俺に再び飛びかかってきていた。

俺の顔面に拳がめり込む。その拳の手首を掴んだ。

 

「痛ェなこの野郎」

 

呟くと、折れた刀を大虚の右胸に突き刺した。

更に、掴んだ手首を引っ張って腹に膝蹴りを入れ、手を離して両手を組んで、後頭部に本気で振り下ろした。

 

「ッ……‼︎」

 

前のめりに倒れそうになる大虚。だが、足を踏み出して堪えると、俺の腹に爪を突き刺した。

 

「ゴフッ………⁉︎」

 

こんにゃろッ……‼︎

負けじと、折れた刀を首の後ろから突き刺した。さらに、後ろから頭を掴んで引っ張って後頭部に膝蹴りした後、顔面に拳を突き刺した。

だが、まだ大虚は死んでない。いい加減にしろ、と割と本気で思ったので、俺は大虚を力任せに背負い投げして、地面に叩きつけた直後、折れた刀を再び喉に刺した挙句、横に掻っ捌いて、切断した。

そこで、ようやく動かなくなり、消えて行った。

 

「ふぅ……やっと終わったか……」

 

そう呟いたところで、全身の力が抜けたように俺はぶっ倒れた。

そういや、ぶっ刺されたり耳取られたりでズタボロにされてたっけか。あれ、確か出血多量で死ぬ事もあるっけか。

 

「いやだああああ‼︎死にたくねええええ‼︎誰か助けてええええ‼︎」

 

気合を入れて立ち上がり、瀞霊廷向かおうとする。……あれ、なんか血で前が良く見えない。瀞霊廷どこですか?

犬のおまわりさーん、僕を家まで案内してくださーい。

ああ、これほんとにヤバイ。テンパると心の中で機関銃レベルのペースでボケ倒す癖が出てる。

本気でヤバイ奴だ。

すると、薄っすらと隊長羽織を着た誰かが目の前に立ってるのが見えた。

 

「………助かった……」

 

「はい、助けにきました」

 

思わず声を漏らすと、そう返ってきた。

安心しきったのか、俺はフラリと足をもつれさせ、前のめりに倒れた。

ポフッと柔らかい何かの上に顎が落ちる。

 

「ふふふ、頑張りましたね。これから、治しますからね」

 

俺の頭を撫でながらそう言う声が聞こえた。

………この優しい声、そして隊長羽織、何より弾力マックスの胸………、

俺の目はカッと見開いた。

 

「卯ノ花隊長のオッパイ⁉︎」

 

「寝てて良いですよ?」

 

直後、首の後ろに手刀が降って来て、俺は気絶させられた。

 

 

目を覚ますと、俺は布団の中に寝かされていた。

 

「痛ッ………」

 

『まだ起き上がらない方がいいですよ』、というおきまりの台詞がなくても、自分の身体の調子を把握できた。どうやら、起き上がらない方がいいようだ。

にしても、『まだ起き上がらない方がいいですよ』の台詞がないということは、誰も俺の事を診ててくれてたわけではないのか。やっぱ、漫画やアニメみたいにはいかないか……。

そう思って何となく横を見ると、卯ノ花隊長が椅子に座ったまま眠っていた。この人のこういう無防備な姿は珍しく、思わず見惚れてしまった。

 

「………………」

 

超綺麗だな、やっぱり……。普段は俺に対してやたらと当たりの強い卯ノ花隊長だけど、こうして見ると本当に俺の中でドストライクの美人さんだ。

すると、「んっ……」と色っぽい声を漏らして、卯ノ花隊長は目を覚ました。

 

「………眠ってしまってましたか。あ、水上さん。おはよございます」

 

「……………」

 

「水上さん?」

 

「………あ、ああ、はい。すいません、見惚れてました。おはようございます」

 

「………そういうことは、あまりストレートに言わない方が良いですよ?」

 

あ、(怒)の顔だ。や、でもそのくらいで顔が真っ赤になるほど怒らんでも……。

 

「昨日は、大変だったみたいですね」

 

「ほんとですよ。大虚が出るなんて聞いてませんよ」

 

「勇音があなたの事を心配してらっしゃいましたよ。血だらけのあなたを抱っこして持って帰った時に一番に飛びついてきましたから」

 

「………ああ、やっぱりあの時に俺を受け止めてくれたの、卯ノ花隊長のオッパイだったんですね」

 

「怒りますよ?」

 

「ごめんなさい」

 

「………まぁ、今回は良くやってくれました、と褒めてあげましょう」

 

微笑みながら、すごく上から目線で褒められた。

どうやら、素直に褒めるのが嫌になるほど、俺を褒めるのは癪なようだ。

 

「良くやったならご褒美下さい」

 

「また、そうやって……。はぁ、まぁいいです。モノによりますが、ご褒美をあげましょう」

 

「マジでか‼︎」

 

よっしゃ!それなら俺の答えは決まってる!

 

「オッパイを触らせて下さい‼︎」

 

「ダメです」

 

やっぱダメか……。いや、ここで諦めてたまるかよ‼︎

 

「そこを何とか‼︎」

 

「ダメです」

 

「お願いしますッ‼︎」

 

「ダメです」

 

「俺のオッパイも揉んでいいですからッッ‼︎‼︎」

 

「ダメです」

 

クソッ、懇願ではダメか……。なら交渉だ。

 

「………そういえば卯ノ花隊長。俺をここまで運んでくれたのは卯ノ花隊長なんですよね?」

 

「そうですが何か?」

 

「俺のこと気絶させましたよね?手刀で」

 

ギクッ、と卯ノ花隊長の肩が一瞬、跳ね上がった。

 

「あれはどうしてくれるんですか?」

 

「い、いえ、あれはあなたが余計なことを口走るから……」

 

「でも、第三者から見たらアレは戦闘を終えて重傷を負ったばかりの俺にトドメを刺したようにも見えますよね?」

 

「……………」

 

何も言わない卯ノ花隊長。頭痛を堪えるように、こめかみに人差し指を当てた。

 

「まったくあなたは……。そんなに女性の胸を揉みたいのですか?」

 

「揉みたいですッ‼︎」

 

俺の信念のある即答に、更に深いため息をついた。だけど、一つ間違いがある。

 

「違います、卯ノ花隊長。女性の胸が揉みたいんじゃない」

 

「はい?」

 

「俺はッ‼︎あなたの胸がッ‼︎揉みたいんだッ‼︎」

 

直後、俺の頭からブシッと血が噴き出した。

しばらく目をパチパチさせた卯ノ花隊長は、まるだ俺に顔を見せないように後ろを向いた後、咳払いをして言った。

 

「………仕方ないですね」

 

「…………はっ?」

 

「いいでしょう、揉ませてあげます。ただし、10秒だけです」

 

「マジで⁉︎」

 

「マジです」

 

…………え、ま、マジ?マジで?MA☆JI☆DE☆?

 

「ィィィイイイイヤッフウウウゥゥゥゥッッッ‼︎‼︎」

 

「あまり叫ばないで下さい。人が来る前にさっさと終わらせますよ」

 

卯ノ花隊長は俺の腕を持ち上げた。

ドックン、ドックンと心臓が五月蝿い。俺の手が胸に吸い寄せられて行く度に、その高鳴りが早くなっていった。

キタ……キタ……キタキタキタァ……‼︎

俺は全神経と五感のすべてを右手に集中させた。

ハートキャッチプリキュア‼︎この後すぐッ‼︎

そう心の中で叫びながら、俺の右手はフニっと胸に触れた。

 

「…………ありっ?」

 

………ありっ?

 

「どうしました?」

 

ニコニコしながら俺に聞いてきた。あ、この顔、何か企んでるというか、タネがあるって顔だ。

 

「………あの、全然手に感覚が伝わって来ないんですけど……どういうことですか……?」

 

恐る恐る聞くと、「良くぞ聞いてくれました!」とでも言わんばかりに微笑みながら卯ノ花隊長は答えた。

 

「実は、痛み止めも含めて水上さんには麻酔が打ってあるんです。簡単に言いますと、触覚は感じません」

 

「」

 

「ふふふ、残念でした。でも、良かったじゃないですか。念願の私の胸を揉めて」

 

「」

 

「…………あの、水上さん?」

 

「」

 

俺は今、どんな顔をしているのだろうか。まず間違いなく、落書き状態のようになっているのだろう。

真っ白に、体は棒人間、顔は点と棒(または曲線)だけ。

 

「あァァァんまりだァァアァ‼︎」

 

ビクッとする卯ノ花隊長。

 

「こんなの、こんなのないよッ‼︎こんな……‼︎」

 

思わず涙が流れた。ツウッと頬を涙がつたるのが分かった。ガチ泣きしてる俺にドン引きしたのか、卯ノ花隊長は言った。

 

「あ、あの、そんな落ち込まないで下さい。ほら、今ならどんなに揉んでもいいんですよ?」

 

「10秒間だけだし感覚ないし虚しさしか残りませんけどね⁉︎」

 

こ、この人は……‼︎どこまでサディストなんだ……‼︎少なからずそう思った直後だ。

ガシャンと音がした。うるせーなこの野郎と、八つ当たり気味に睨みつけると、虎徹さんがおそらく俺のための食事であろう器載せてあったトレーを足元に落として、信じられないものを見る目で俺たちを見ていた。

 

「」

 

「」

 

俺も卯ノ花隊長も言葉を失う中、虎徹さんは気まずそうな笑みを浮かべた。

 

「………お、お邪魔しました」

 

食器だけ片付けて、『? どうしたんですか?虎徹さん』『ひ、雛森副隊長。今はやめておきましょう』『どうしてですか?なんかこの世の見てはいけないものを見た時の顔と、いい特ダネを掴んだって顔が混ざったような顔してますけど』『い、いいから!後で教えてあげるから!』という会話を残して出て行った。

ふと卯ノ花隊長の顔を見ると、真っ赤になってぷるぷる震えていた。

その様子に、俺は我慢できずに噴き出した。

 

「ぶはははははッ‼︎ざ、ざまああああああ‼︎人を馬鹿にしてっからそうなるんだ!ぶわはははははは‼︎」

 

「黙って」

 

「はははははひゅっ⁉︎」

 

黙らされた。

 

 


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