翌日。
「でさ、昨日結局徹夜したんだよ」
「マジかお前。卯ノ花隊長って怖いんだな」
昨日の愚痴を恋次に聞いてもらっていた。
「晩飯は食い損ねるし、結局十番隊の書類も俺がやるし、マジ初日から疲れたわ」
「大変だなお前も」
「ホントだよ」
「でもいいじゃん。女が同じ隊舎にいるってのは」
「は?なんで?」
「そりゃお前、女風呂覗けるからに決まってんだろ」
「………うわ、それはお前さすがに引くわ」
「引……⁉︎な、なんでだよ!」
「男ならその気持ちは分かるよ?だけど実行するのはちょっと流石にないわ」
「お、俺はしてねぇよ!」
「いや、さっきの発言はアレだよね。完全に『同じ隊に雛森がいたら覗く』って意味の発言だよね。流石にないよねそれは」
「ねぇよ‼︎つーかなんで雛森限定⁉︎」
「雛森さんだったら俺も覗くからに決まってんだろ‼︎考えろ馬鹿野郎‼︎」
「えー、なんで怒られたの俺?つーか雛森のこと好きすぎだろお前」
「好きだよ?けど、こう、恋愛とかじゃなくて、愛でたい?膝の上に乗せて喉ゴロゴロいわせながら撫でたい」
「ペット感覚⁉︎」
「でも、実際分かるっしょ?」
「わかんねぇ。全然」
「だよなぁ、お前朽木さん一筋だもんな」
「だ、誰がルキアなんか……⁉︎」
「や、俺は白哉隊長の方を言ったんだけど」
「ホモに見えるのか⁉︎お前には俺が⁉︎」
割と仲良い二人だった。
団子を食べながらそんな事を話してると、恋次が立ち上がった。
「さて、俺はそろそろ六番隊隊舎に戻るわ」
「うい。じゃあ俺もそろそろひばんたにのところに遊びに行こうかな」
「や、そこはお前も仕事戻るとこだろ」
「はぁ?ふざけんな覗き魔」
「誰が覗き魔だ‼︎」
「戻ったらどうせ必要以上の仕事押し付けられるに決まってんだろ。行かねーよ」
「いいのかそれで副隊長……」
「良いんだよ」
「良くありませんよ?」
「良いっつってんだろ。殺すぞ変な眉毛」
「ちょっ、ばっ、おまっ」
あ?何慌ててんだよウゼーな電子レンジと思いながら恋次の方を見ると、卯ノ花隊長が立っていた。
「あっ」
「……ふふふ、今なんと仰いました?」
「お美しい眉の卯ノ花烈女王様と……」
ヒュドフッと脳天に手刀が降って来た。顔面から地面に叩きつけられ、俺は半分気絶したが、そんな俺に構わず卯ノ花隊長は俺の襟首を掴んだ。
「まだ意識はありますね?さ、いきますよ」
「意識があればいいってもんじゃないでしょ⁉︎」
「タメ口の矯正、まだ必要ですか?」
「………すみませんした」
そのままズルズルと引き摺られてる俺に、恋次が敬礼をして見送ってきた。
*
デン、デン、デン、といった感じで俺、卯ノ花隊長、書類は並んだ。
「さて、ではがんばりましょうか」
「嫌だ……こんな作業は嫌だ………」
「がんばりましょうか」
「はぁーいがんばりまぁーす」
俺と卯ノ花隊長は、同じ机で並んで作業を開始した。
「今日は隊長も仕事あるんですね」
「昨日もありましたよ。何度も言いますが、昨日は本当に私の仕事はあらかじめ減らしておいたんです」
………ふむ、本当だったのか。いや、本当だとしても十番隊の件はあなたがやるべき案件でしょう。まぁ、今更そんなこと言っても仕方ないけど。
そういうわけで、お仕事開始。俺と卯ノ花隊長は一枚ずつ書類を片付けて行った。
「………………」
「………………」
おそらくわざとじゃないんだろうけど、この人のおっぱい机の上に置かれてて、すごくエロい。こう、ふっくらした感じが酷くエロイ。超触りたい。揉みしだきたい。最低でも突っつきたい。机が羨ましい。机は今、どんな気持ちなのだろうか。自分の上に胸を置かれ、ペンで身体を紙越しになぞられている。なんという羞恥プレイかつ焦らしプレイだ。俺が机なら、3秒で理性が崩壊し、襲い掛かる事だろう。だって、今すでに襲い掛かりたい衝動に駆られてるもの。
「………言っておきますが、女性は視線には敏感なものですよ。特に、胸と脚に対する視線はね」
「は?ぜ、全然見てませんが?」
「そうですか。素直に謝れば見逃してあげます」
「………すいませんでした」
「セクハラしてる暇があったら、さっさと仕事して下さいね」
はい、もっともですね。
そんなわけで、仕事開始。まぁ、今日は書類がたくさんあったわけではないので、昼過ぎには終わったんですけどね。
「ふぃ〜……終わったぁ……」
「お疲れ様です。本日はあとは自由にしていただいて結構ですよ」
「了解っす」
さて、じゃあ屋根でお昼寝でもしようかな。煎餅でも齧りながら。
「卯ノ花隊長」
「何ですか?」
「お煎餅ってありますか?」
「ありますよ」
「いただいてもよろしいですか?」
「いいですよ。少々お待ちください」
「あ、いえ、場所教えてくれれば自分で取りに行きますから」
「良いですよ、そんな気を使わないで」
「いや、気を使ってるわけじゃなくて、お年寄りを労ってるだけで……」
「水上さん?」
「すみませんでした」
卯ノ花隊長にいただいた煎餅を持って、屋根に上がった。のんびりと空を眺めながら煎餅を齧る。ていうか、濡れ煎餅かよ、渋いな卯ノ花隊長。
………良い天気だなぁ。あ、あの雲、純白のパンツみたい。あー、卯ノ花隊長のパンツ見たい。
「てかこの煎餅美味いな。後で何処で買ったのか教えてもらおう」
そんな事を呟いた時だ。
可愛らしいお団子の髪型を揺らして、パタパタと走る可愛い女の子の姿が見えた。
「………雛森さんじゃん」
ニイィッと俺の口が歪んだ。
屋根から飛び降りて、その後を尾行する。建物の陰から陰へ移動しながら、雛森さんを追った。
すると、雛森さんが動きを止め、後ろを恐る恐る振り向いた。
「………」
「………」
「……気の所為かな」
そう呟くと、再び目的地に向かって歩き出した。
「………」
か、かわええええええ‼︎妹にしてええええ‼︎まっっったく気付かねええええ‼︎
な、なんだあの可愛い生き物。雛森桃だって?うん知ってるよ。
「…………」
あ、またこっち見た。大丈夫、音は立ててないからバレてないはず……。
「コラ」
「痛っ⁉︎」
突然、後方から頭にチョップを喰らい、振り返ると藍染隊長が立っていた。
「君はまた雛森くんをつけてるのかい?」
「あ、藍染隊長。こんにちは」
「挨拶はいいから」
「だって、可愛いじゃないですか!雛森ちゃん!あの同期の男3人に比べて幼い顔立ち、道路整備された後みたいに真っ平らな胸、ストーキングされてるのがわかっても決して暴力を振るわない優しさ、頭撫でると顔を赤くしながら浮かべる恥ずかしそうな表情、シャワー浴びてる時は胸を大きくするために自分で揉んで、お風呂入ってる時にはアヒルに声を掛ける……なにこの可愛さの塊‼︎」
「………だ、そうだよ。雛森くん」
呆れた様子で、俺の後ろに声を掛ける藍染隊長。おそるおそる振り返ると、顔を真っ赤にして斬魄刀を構えた雛森さんが立っていた。
「…………今の、聞いてた?」
「どうして……私のお風呂の中とか知ってるの……?」
「や、その、」
「覗いてたんだね?」
「いや、あれ……」
「覗いてたのね?」
「はい。覗きました」
「〜〜〜‼︎ 弾け、『飛梅』‼︎」
「えっ、ちょっ……ま、待って斬魄刀は洒落んならないからゴメンナサイ雛森さ……」
爆破された。
「もう知らないっ!」と可愛らしく怒った雛森さんはプンプンと怒って何処かへ去ってしまった。
ぶっ倒れてる俺を藍染隊長は起こしてくれた。
「大丈夫かい?」
「大丈夫っす……慣れてるんで」
「君は……。一応、警告しておくけど、好きな子にちょっかい掛けるのはやめておいた方がいいよ。距離を置かれるだけだからね」
そう言った直後、少し藍染隊長の目が鋭くなった気がした。
「………特に、他所の隊の子には尚更、ね」
「……はぁ、気を付けます」
………なんだろう。随分と前からだけど、藍染隊長にかなり嫌われてる気がするんだよなぁ。極たまに、自分がやろうとしてる事を邪魔された時みたいな怒りを感じる。
………あっ、もしかして、藍染隊長も雛森さんの事好きなのかな。なら、少し自重しよう。
「す、すいません。藍染隊長」
「わかればいいよ」
「俺、応援してますから!」
「え?う、うん?ありがとう?」
困惑しながら去っていった。