一護の修行は、とうとう最終段階になった。
斬魄刀を呼び出し、出発の日まで戦闘。
「………で、なんで俺がその戦闘の相手?」
「お願いしますよ、水上サン。アタシよりも水上サンの方が向いてると思ってのことッス」
「別にいいけどよ……」
チラッ、と一護を見た。やる気満々の顔で俺を睨んでいる。
「えっ、と……本気でやっちゃっていいの?」
「ああ、本気で来いよ。水上。いや、その前に斬魄刀を解放しろ」
「………は?」
「斬魄刀だよ、テメェの。こっちは斬魄刀使うってのにテメェは使わない気か?」
「………ほ、本気で言ってんの?」
「本気だよ。つーか本気でかかって来いって言ったろ」
「や、本気でやって欲しいなら斬魄刀じゃない方が良い気もするんだが……」
「良いから斬魄刀を出せって言ってんだよ」
「………わ、分かったよ……。その代わり、後悔するんじゃねぇぞ」
「!」
俺は腰の浅打に手をかけた。
すると、思い出したように砕蜂が呟いた。
「……そういえば、祐作の斬魄刀は私も初めて見るな」
「へぇ、今までどうやって戦ってたンスか?」
「浅打のままだ」
「へ、へぇ……」
「これがバカに出来ない強さなんだ。浅打のまま大虚とタイマン張ってたりするしな」
「す、すごいッスねそれは……。なら、どんな斬魄刀が出てくるのか尚更楽しみっス」
…………俺は浅打から手を離して、両手でTを作った。
「………あの、やっぱやめない?」
「ふざけんな‼︎いいから斬魄刀出せって言ってんだろ⁉︎」
「いや、真面目に。あとで夕食の肉一枚あげるから」
「………‼︎い、いやダメだ‼︎」
「悩んでんじゃねえか」
「いいから解放しろ‼︎」
仕方ねえなあ……。ほんとは嫌なんだけど……まぁ、仕方ないか。
「……笑うなよ」
「笑わねえよ」
「………最古の樹海の中、女、目覚めし刻、中央に聳え立つ一千年の巨木、我に力を分け与えよ、吸えよ魂、射せよ光、汝の身を削って、我が剣となれ『神木ノ太刀』」
直後、俺の浅打からかなりの霊圧が漏れ出し、爆発したように辺りに爆風が吹いた。そして、俺の手に出て来たのは、知っての通り木刀だった。
「…………は?」
「…………え?」
「…………ん?」
「ほら見ろォッ‼︎そういう反応になるから解放したくなかったんだよ‼︎」
「「「………ご、ごめん」」」
「これ言っとくけど俺のコンプレックスだからね⁉︎唇が厚いだとか、額にニキビが多いだとか、鼻の穴がデカイだとか、そういうのと同じだからな⁉︎俺の斬魄刀は木刀なんだからな⁉︎」
俺が怒鳴ると、3人とも気まずそうに視線を逸らした。
ああもういいよ!とにかく一護をボッコボコにすればいいんだろ⁉︎
「行くぞ‼︎一護‼︎」
「お、おう……あ、斬魄刀戻せば?」
「良いよ別に‼︎このままやるよ‼︎」
俺は正面から一護に殴りかかった。それを斬魄刀でガードしながらも後ろに下がる一護。つか、こいつの斬魄刀バカデケェな。
俺は逃さずに木と……神木ノ太刀で追撃する。下から振り抜き、それをガードする一護。ほんの一瞬、浮き上がった斬魄刀の下から手を伸ばし、一護の胸ぐらを掴んで引っ張り、腹に蹴りを入れた。
「グフッ……⁉︎」
さらに出来た隙を逃さず、一護の脚を蹴り払う。浮き上がった一護の腹に拳を叩き込んだ。
最後の一撃は斬魄刀でガードする一護だが、衝撃だけは受け切れず、後ろに膝をついて下がった。
「テメッ……!調子に、乗るんじゃねぇッ‼︎」
地に着いた脚でそのまま地面を蹴り、一護は横から斬魄刀を振り抜いた。俺はジャンプして回避する。
「………いねぇ」
「後ろだアホ」
振り抜いた一護の斬魄刀の上に乗っていた俺は木……神木ノ太刀で顔面を殴り飛ばした。
「ガアッ……⁉︎」
ゴロン、ゴロンも転がる一護。そこからピクリとも動かない。………やべっ、やり過ぎたかも。
「………浦原。気絶しちゃったかも」
「ふむ……仕方ないッスね。水上サン、次からはもう少し加減するように」
「あーい」
「砕蜂サン、叩き起こしてあげて下さい」
「……ふん、何故私が……」
ぶつくさ言いながら一護の方へ歩き、蹴りを入れる砕蜂。うん、あいつはツンデレの素質があるな。
「……にしても、不思議っスね」
「? 何が?」
「水上サンの斬魄刀っス。普通、木刀になるなんてありえないっスよ。今の所、何か能力があるようにも見えないですし」
「それな。卯ノ花隊長もおかしいとか言ってたし」
「斬魄刀っていうのは、普通持ち主の戦闘スタイルに合わせて共に育って行くものっス。そんな斬魄刀がもし、出るとしたら……」
「したら?」
「………水上サンが相手をただボコボコに殴りたいからそうなったか」
「どういう意味⁉︎」
「いやぁ、木刀ならホラ、刀と違ってどんなに殴っても死なないじゃないッスか」
「……ふぅん、そう?じゃあまずお前を殴ろうかな」
「やめてください死んでしまいます」
謝ってから浦原は続けた。
「………まぁ、もしくは真の力を発揮するには条件が足りないか……」
「………条件、ね」
そんなものがあるのか?そんな事を思ってると、砕蜂から「おい」と声を掛けられた。
「起きたぞ」
「さぁ、やろうぜ。水上」
「………考えるのは後にするか」
言うと、俺は木刀を軽く振りながら再び一護と殴り合った。
*
晩飯。
「ご飯できましたよー」
井上さんがそう言うと共に、晩飯を運んで来た。
この人はルキアと恋次を助けに行く人間二号だ。三号が茶渡泰虎さんです。
「ッシャ、来たかオラァッ‼︎」
「コラ、暴れるな‼︎」
後ろから夜一さんに殴られた。この駄菓子屋に世話になってから以来、俺は晩飯の時は夜一さんの隣と決められた。
お陰で、砕蜂から嫉妬ビームを身体中に浴びていて、迷惑なことこの上ない。
「主はすぐに飯になると暴れるからのう」
「今日はホント疲れてるんだって。何回一護を気絶させたと思ってんの?」
「ウルセェ‼︎明日はテメェに勝つ‼︎」
「百億年はえーよ」
「上等だよテメェ表出ろコラ‼︎」
「よろしい。格の違いを教えて差し上げますよ」
「学習しないガキは儂は嫌いじゃぞ?」
「「すいませんでした」」
指をコキコキと鳴らし始める夜一さんに、俺と一護は土下座する。
「ああ……いいなぁ、私も夜一様に怒られたい……」
一人、病気みたいなことをほざいた砕蜂を無視して、飯開始。
「あっ、てめっ一護!それ俺の唐揚げ!」
「他にまだたくさんあんだろうが‼︎」
「うるせぇ‼︎それは俺のなんだよ‼︎」
「ジャイアンかテメェは‼︎」
「ああそうだ‼︎お前のものは、俺のモノォッ‼︎」
「危なっ……てめっ、表出ろコラァッ‼︎」
「ま、まぁまぁ二人とも!落ち着いてよ。唐揚げならたくさん作ってあるから!ね?」
「ダメだ。一護に食わせる唐揚げはねえ。そもそもテメェ、俺に今日負けまくったんだから譲れ」
「はぁ⁉︎ふざけんな!それとこれとは話が別だろうが‼︎」
「もう、そんなこと言ってると、もう二度と唐揚げ作らないよ?」
「すいませんでした井上織姫様。俺のことは殺してもいいのでそれだけは勘弁してください」
「こ、殺さないよ!というか殺せないし!」
基本、人の話も人の言うことも聞かない俺だが、唯一頭が上がらないのが、この織姫様だ。この人の作る唐揚げより美味いものはない。俺はこの人と卯ノ花隊長のためなら死ねる。
すると、隣から腹立つ声が聞こえて来た。
「はっ、ザマァ見ろ水上」
「はいぃ、テメェの処刑確定ィイイイイ‼︎」
「だ、だから二人とも〜」
「ええい!いい加減にしろアホ二人‼︎」
「「貧乳は黙ってろ」」
「卍解してやろうか⁉︎」
その様子を見て、チャドは呟いた。
「………親子かこいつらは」