「ここか!」
夜一はゲーセンに到着した。そこでは、
「どうした祐作⁉︎随分と遅れているぞ‼︎」
「はっ、バーカ。お前そこには……」
「ああ⁉︎バナナの皮⁉︎」
「アイテムブロックの下に罠をセットする、マリカーの基本だよ砕蜂くん」
「ぐぬぬっ……‼︎だが、後ろから追い付いてやればッ……‼︎」
「馬鹿め、追い抜いてからスターを使うに決まってるだろう」
「あー!あーあーあー!」
「コーラス?」
「違う‼︎あっ……」
「ゴール」
「もう一回‼︎もう一回だ‼︎」
「何度でも掛かってきたまえ。あ、お金ある?ないなら出すよ?」
「大丈夫だ。隊長の稼ぎをなめるなよ」
「そ、そうか」
「…………何やってんのあいつら」
後ろから夜一は声を漏らした。
(あ、あれ?あれ砕蜂、じゃな。で、喜助の言ってた水上祐作、のはずじゃが……まさか、裏切ったのか⁉︎………ならば、ここで仕留めておいたほうが良いな……後ろから、首をへし折ってやる‼︎)
そーっと後ろから祐作に近付く夜一。そして、首の後ろに手を回そうとした時、
「ふぬをっ⁉︎」
「ブッ‼︎」
突然、頭を後ろに下げた祐作の頭突きをモロに喰らった。
鼻から血をダラダラと流しながら、予想以上のダメージに地面でゴロゴロと悶える中、祐作は一位でゴールしながら後頭部を抑えて立ち上がった。
「いった⁉︎何、何事?」
(し、しまっ……‼︎)
「誰あんた?何やってんの?」
「! 貴様、夜一……‼︎」
「そ、砕蜂。久し振りじゃのう」
「夜一……?どっかで聞いたな。誰だっけ?」
「私を捨てた元二番隊隊長だ」
「いやそういうんじゃなくて。確か浦原がなんか言ってたような……」
「浦原だと?」
マズイ……と、夜一は奥歯を噛んだ。この様子だと、砕蜂は自分を恨んでいる。それにプラスして、隊長二人退けた祐作(詳細は不明)、本気で戦っても無事では済まないかもしれない。
そんな夜一の内心を知ってから知らずか、砕蜂は好戦的な笑みを浮かべて立ち上がった。
「ちょうどいいところに来たな、夜一。貴様に復讐させてもらうとしよう」
「ほう、かなり自信があるようじゃのう。儂に勝てると思っとるのか?」
「当然だ。私は既に貴様より速い」
「………随分と腕を上げたようじゃな」
「さて、では始めようか」
「こんな所で始める気か?」
「当然だ。ここじゃなきゃ出来ないからな」
「…………は?」
「さぁ立て!そしてここへ座れ‼︎」
砕蜂の指差す先にはマリカーがある。ポカンと口を開ける夜一に砕蜂は言った。
「何ボンヤリしている‼︎ここに座れ‼︎私の方が速い事を証明してやる‼︎」
「………戦うんじゃないの?」
「そんな気分ではない‼︎」
思わず標準語で聞くと、アホな答えが返ってくる。
「あ、じゃあ3人でやろっか」
「え?あ、うん」
「ついでに、祐作にも勝たせてもらうぞ。今度こそッ‼︎」
言われるがまま流されて、3人はマリカーの席に座った。
〜30分後〜
「フハハハハ‼︎その程度か砕蜂‼︎最初の自信満々な態度はどうした⁉︎」
「クッ、まだまだ‼︎ナメるなよ‼︎」
「ねぇ、あんたらお願いだから静かにゲームしてくんない?周りの視線とかあるからさ」
「って、誰じゃこんな所にバナナの皮置いたの‼︎」
「あ、それ俺」
「先に行くぞ夜一‼︎」
「グヌヌッ……‼︎まだまだ‼︎」
「って、うおおおおお‼︎こんなカーブ曲がり切れるか‼︎」
「砕蜂、体振っても車は曲がらねーよ?」
仲良くゲームしていた。
が、またまた祐作、砕蜂、夜一の順番でフィニッシュ。ぷはぁ〜っと夜一は息を吐いた。
「もう一回!もう一回じゃ‼︎」
「えー、そろそろ別のゲームやろうぜ」
「勝ち逃げする気か貴様⁉︎」
「だってお前ら下手くそなんだもん。あと夜一さん身体振るたびにオッパイ揺れて集中出来ないんだもん」
「き、貴様何処を見ている‼︎」
「オッパイ」
「グヌヌッ……‼︎集中せずにやって余裕で勝つとは……‼︎」
「あ、そっちなんだ」
すると、夜一は砕蜂と肩を組んで自分の近くに寄せた。
「………砕蜂。手を組まんか?」
「……そうだな。いい加減、奴の一人勝ちは許せん」
「儂が奴にアイテムを片っ端からぶつける。砕蜂、お前が競り勝て」
「分かった」
(こいつら過去になんか因縁あるんじゃなかったっけ?)
そんな事を思いながら、ゲームを再開した。
*
その後、マリカー、太鼓○達人、リズム○国、クレーンゲーム、メダルゲーム、WC○F、EX○SマキシマムブーストON、ポ○拳、艦これ○C、ドラゴン○ールヒーローズ、そして最後にプリクラと対象年齢問わず色んなゲームをやりまくった。
今はゲーセン前のマックで3人は座っている。俺の前で「えへへ」と嬉しそうにプリクラを見て微笑んでる砕蜂と夜一さんに俺は言った。
「いやー、遊んだなオイ」
「そうだな。現世でこれほど金を使うことになるとはな……それに、少し疲れた」
「何じゃ、疲れたのか砕蜂?体力なくなったのではないか?」
「むっ、まだまだやれるぞ。次は何する?」
「やめろやお前ら……。一通りあそこのゲーセンは遊び尽くしたよ。あとは二階のパチンコか屋上のバッティングセンターくらいだ」
「「バッティングセンター‼︎」」
「はっ倒すぞマジで。………まぁ、後で行くか。休憩してからな」
そう言ってストローをくわえ、ファンタを少し口の中に含むと、一息ついてから俺は聞いた。
「………で、二人とも何しに来たの?」
「「えっ?………あっ」」
「なんかいきなり俺がゲームしてる時に後ろに現れたけど。特に砕蜂、お前俺の事を捕まえに来たんじゃないの?」
「………はっ、そうだ。そうだった!」
「そうだった!じゃねぇよ。どうすんの今から?これからもう戦う雰囲気じゃないよ?」
「た、確かに……」
「あと、黒オッパ……夜一さんとなんか因縁あったんじゃないの?」
「おい、なんと言いかけた貴様」
「そ、そうだった!よ、夜一貴様……‼︎」
「あーいや、思い出しながら文句言うのやめろ。もう無理あるから。『ずっ友☆』って描かれたプリクラ持ってる時点で無理だから」
「う、うるさい‼︎怒るぞ‼︎」
「や、何でだよ。まぁこれも良い機会だ。今、話し合ってみろよ。何があったか知らんけど、どうせ落ち着いて話し合いとかした事ないんだろ?」
「……………」
「……………」
言うと、二人は黙り込んで視線を逸らした。なんだこいつら、思春期か?
「………あ、俺邪魔?邪魔なら帰るけど」
「いや、ここにいて良い。貴様にもいずれ関係のある話じゃ」
俺に?何で?と、思ったが、すぐに夜一さんは話を進めた。
「砕蜂、百十年前の事を覚えてるか?」
「覚えている。貴様が私の眼の前から忽然と姿を消した時だ。浦原喜助などを庇ってな」
「あ?浦原?」
「奴は元十二番隊隊長だ」
………えっ、そうなの?あの軽薄そうなのが?
「喜助は当時、8人の死神を虚化させた容疑で刑に処されそうになった所を、儂に助けられて現世に身をひそめることにしたからのう」
「虚化?」
「そうじゃ。簡単に説明すると、死神が虚になってしまうということじゃの。霊圧も戦闘力も大幅に跳ね上がるわけだが、理性が飛んでいろんな奴に襲い掛かるようになってしまう。それを何とかするために喜助は8人を現世へ連れ帰ったのじゃ」
「何とかするため?」
砕蜂が眉を吊り上げた。
「私は浦原喜助本人が8人を虚化させたと聞いたが?」
「それが間違っておる。虚化させた犯人は別におる」
「………誰だ?そいつは」
砕蜂に聞かれて、夜一さんは一度ポテトを齧った。サクサクと少しずつ縦に口の中に入れて行って、飲み物を飲むと、言った。
「藍染惣右介じゃ」
「なっ……⁉︎」
直後、ガタッと立ち上がる砕蜂。
「馬鹿な‼︎馬鹿げている‼︎何故、藍染がそんな事を‼︎」
「奴は当時、本性をずっと隠していた。当時の平子も相当警戒しておった。が、警戒していたからこそ、平子は気付けなかったんじゃ。既に、鏡花水月の術中にあった事を」
「鏡花水月だと?アレの能力は」
「完全催眠、それが鏡花水月の能力じゃ」
「完全……⁉︎」
「奴の始解を見たものは必ず掛かる。五感すべてを支配されるわけじゃから、ぶっちゃけどうしようもない」
「………なら、なら当時の隊長達は何処にいる⁉︎それが分からないと説明がつかんだろう‼︎」
「平子達も現世で身を潜めておるぞ。虚化を上手く操れるようになり、藍染との決戦のために力を蓄えておる」
「ッ………‼︎ そんなこと、信用出来」
砕蜂が言いかけたところで、変な格好した8人がマックに入ってきた。
「なんや真子。結局今日もマックかいな」
「ひよ里、ここのマックのポテトは他とは違うで。塩の効き方が尋常じゃないんや」
「いや、知らねーよ。どこも一緒だろそんなもん。何でいちいちこんなとこまで遠出しなきゃいけねんだよ」
「まーたすぐ怒る、拳西のおこりんぼ」
「ぷっははは‼︎それよりお前ら今週のジャンプ読んだ⁉︎」
「いやだからいつも君読ませてくれないじゃない……」
「ああ、今読んどるよ」
「リササンのそれはエロ本じゃナイデスカ」
「………………」
その一行を見て固まる砕蜂。ああ、あれが虚化の8人か。
「………これで信用したか?砕蜂」
「………それで、どこまで分かっている?」
「分かっていることは、藍染の狙いじゃ。奴はあるものを欲しがっている。前は持っていなかったものじゃ」
「ヴォルデモートみたいな言い回しだな」
「それは『崩玉』。現在は喜助が隠し場所として、朽木ルキアの中に入れてあるものじゃ」
「⁉︎」
ルキアの、中だと?
「つーことは、尸魂界がルキアを欲しがってるのって」
「そう、崩玉のためじゃ」
「ま、待て」
そこで話を遮ったのは砕蜂だ。
「私は崩玉のことなんて聞かされていないぞ‼︎いや、私だけじゃなく他のメンバーも知らないはずだ。そもそも、その指令を出したのは中央四十六室……!」
「そう、だから中央四十六室は殺されておる。おそらく、百十年前よりずっと前からのう」
「ッ………」
砕蜂は黙り込んだ。ツーか俺もだ。何より、まさかゲーセン回でこんなシリアスな話することになると思わなかった。
「本来なら、恋次と祐作、貴様らがルキアを連れて来ることが、藍染にとって最善だったはず、じゃが祐作。貴様は奴の計画を狂わせた。今、現状は藍染にとって完全に想定外の事態となっているはずじゃ」
………今にして思えば、俺が藍染隊長に下手に毛嫌いされてたのって、もしかして何度か計画を狂わせてたからかなぁ。でもあの人、コケシくれたしなぁ。
「………まぁ、その、何じゃ。そういうわけで砕蜂。儂は主を見捨てる形になってしまった。すまなかっ」
「どうして、どうして私も連れて行って下さらなかったのですか……⁉︎」
「そりゃお前、巻き込みたくなかったからだろ」
「何⁉︎」
「俺だって今回の件、恋次も連れて行かないで一人でルキアを守る予定だったからな」
「………夜一様」
照れたように顔を背ける夜一さん。涙を流す砕蜂。
………あー、いづらい。まさかあの藍染隊長がねぇ……。
しかし、少し引っかかるな。今現在、尸魂界の護廷十三隊に命令を出していたのは藍染隊長って事になる。百十年も綿密に計画を立てるような慎重な男が、今回砕蜂一人を俺たち3人を奪還しに来させるだろうか?
特に俺なんて、経緯はどうあれ隊長2人、副隊長3人を追い払ったんだ。どう見積もっても、それ以上の戦力を投入するのは当然だろうに………。
「……そういや砕蜂」
「何だ?」
気になったので聞いてみた。
「今回、お前一人で来たの?」
「いや、そうじゃない。今回は五番隊と連携して……」
そこでハッとする砕蜂。
「五番隊⁉︎や、ヤバイ‼︎そういえば今回は祐作を私が足止めしている間に五番隊が他二人を奪還する作戦だった‼︎」
「いやお前ゲーセンで何やってんの⁉︎もう一回言うわ、何やってんの⁉︎」
「こうしている場合ではない‼︎行くぞ二人共‼︎」
俺たちは慌ててマックを飛び出した。
今更だけど全然卯ノ花さん護衛してねえな……。