お互いに斬りかかろうと斬魄刀を構えて襲い掛かる。
「や、やめてシロちゃん、水上くん‼︎」
雛森さんの声が聞こえた。が、少なくとも俺は止まれない。副隊長と隊長相手だ、油断したら狩られる……と、思ったらひばんたにはホントに止まった。釣られて俺も止まってしまった。
「解放しろ」
「あ?」
「斬魄刀も解放せずに隊長と副隊長相手に勝てるわけねえだろ。さっさと解放しろ」
「……………」
今なんつったこいつ?斬魄刀を解放?あの木刀を?
「本気で言ってんの?」
「当たり前だろ。じゃないと、勝負にもならねえよ」
「…………いや、やだ」
「はぁ⁉︎やだ⁉︎なんでだよ‼︎」
「そ、それは……まぁ事情があるわけでして、ね?斬魄刀の解放だけは勘弁して欲しいなーみたいな」
「ふざけるな、しろ」
「ふざけてねーよ!てかいいのか?したら尚、弱くなるぞ?いいんだな?」
「は?なるわけねーだろ。何、痛い言い訳してんだ」
「バッカお前、自分の常識が世界の常識だと思うなよ。俺の斬魄刀は普通の斬魄刀とはわけが違うんだよ。ナメんなターコ」
「お前、そのセリフだと相当強そうに感じるぞ。その斬魄刀」
「ああ、ついでに言うと名前と解号も強そうだよ」
「ならしろよ」
「嫌だって言ってんだろ‼︎ホントもはや斬魄刀じゃないから。刀って言っていいのかすら分かんないから」
「えー、でもこのままお前倒してもこっちとしてもなんか嫌なんだよね。なんていうか、やるなら全力の相手をボコボコにしたいって言うか……」
「いや知らねーよお前のポリシーなんて。何その戦国大名みてーなポリシー」
「じゃあわかった。あっち向いてホイしよう。俺が勝ったら斬魄刀の解放な」
………ああ、分かった。そゆことか。
「わかったよ。ただし、俺が勝ったらお前らは尸魂界に帰れ」
「OK‼︎」
「おーい隊長?バカなのあんた?」
「「ジャン、ケンッ、ポンッ‼︎」
ひばんたに→ぐー
俺→パー
「あっち向いてホイ‼︎」
「ッ‼︎ はい凌いだ〜‼︎」
「「ジャン、ケン、ポンッ‼︎」」
ひばんたに→ぐー
俺→パー
「ねぇ、何これ。なんなのこの流れ?」
松本さんの台詞を無視して、試合続行。
「あっち向いてホイ‼︎」
「ほいっ!はい凌いだ〜‼︎」
「チッ!悪運の強え野郎だ‼︎」
「「ジャン、ケン、ポンッ‼︎」」
「いい加減にしてくれる?こっちも暇じゃないんだけど」
ひばんたに→ぐー
俺→パー
「また負けたあ‼︎」
「テメエ、さっきからぐーしか出してねえじゃねえか‼︎なめてんのか⁉︎」
「刀握った手でやってるからよバカ隊長」
「あっち向いてホイ‼︎……って、また凌がれた⁉︎」
「テメエこそさっきから右ばっか指してんじゃねえか‼︎ナメてんのか⁉︎」
「なめてんのはお互い様よバカ二人」
ハッ、甘ぇ。今のはこれまでの流れなら確実にまた右を指すという雰囲気を作るミスディレクションだ。今のでひばんたにが向く方向のパターンは掴んだ。
だが、奴はジャンケンでぐーを三回連続出すというミスディレクションを使ってきている。これはつまり、奴はまた自分がグーを出すと思わせようとしている。裏をかいて、ここはこっちもグーを出せば勝てる‼︎
「「ジャン、ケン、ポンッ‼︎」」
ひばんたに→グー
俺→グー
「何っ⁉︎」
こいつ……まさか、何も考えてないだけか⁉︎ならばっ‼︎
「「あい、こで、しょッ‼︎」」
ひばんたに→チョキ
俺→パー
「」
「ッシャオラッ‼︎やっと勝った‼︎」
「上等だテメエエエエエエ‼︎来いやああああああ‼︎」
轟ッ‼︎と俺とひばんたにを中心に霊圧が溢れ出し、風が舞い上がる。
「キャアァアアア⁉︎」
「な、なんだ………⁉︎」
「あっち向いてホイよ」
雛森さんとイヅルと松本さんから声が上がる。
俺とひばんたにの足元から霊圧によって地面が抉れ、徐々にクレーターが形成されていく。
ひばんたにが人差し指を伸ばし、俺の眉間を指した。
「あっち向いて……‼︎」
「最古の樹海の中、女、目覚めし刻、中央に聳え立つ一千年の巨木、我に力を分け与えよ、吸えよ魂、射せよ光、汝の身を削って、我が剣となれ、『神木ノ太刀』‼︎」
「卍解‼︎『大紅蓮氷輪丸』‼︎」
「あれ?始解した?」
松本さんの無粋なツッコミを無視して、さらに俺とひばんたには霊圧を高めた。ゆっくり剣を引くひばんたに、木刀……じゃない、神木ノ太刀を構える俺。
「ホイィッ‼︎」
※ここから先は1秒間のやりとりです。
俺は指を振られる前に手を伸ばし、ひばんたにの指を掴みながら横に首を右に振った。ひばんたにの指を振る方向を固定するためだ。
が、ひばんたには俺の掴みを回避した。そして、俺が振ろうとした右方向に指を回した。俺は首を無理矢理止めて、逆側に変えた。
すると、蛇のようにグネッと腕と手首を曲げて方向を変えるひばんたに。俺は右腕でその手首を止めた。そのまま右腕を左に向けて俺は首を右に向けた。
ひばんたには右手を拳にして、左手の指を立てて右に向けた。俺は右足を出して、膝で左手を上に払った。
※1秒経ちました。
右手を掴まれ、左手は上に跳ねられた状態のひばんたにと、左手を掴んで、片足を上げて立ってる状態の俺が止まっていた。
「い、今何か見えた………?」
「さ、さぁ……?」
「ていうか何これ……」
再び俺とひばんたには拳を引いた。ここまできたら小細工は無用、より速かった奴が勝つ、それだけだ‼︎
「「ジャケポン‼︎」」
俺→チョキ
ひばんたに→チョキ
「「アコショ‼︎」」
俺→パー
ひばんたに→ぐー
「あっち向いて………‼︎」
再び、最高潮まで高まる霊圧。
ゴクリと、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。相手の心理など読むな、全ては自分の勘を頼れ、それで勝て‼︎
「あっち向いてホイ‼︎」
「ウォラァッ‼︎」
直後、俺は人差し指を右に向けた。ひばんたにがその俺の指を握って、無理矢理上に向け、反対側を向いた。ボギッと俺の人差し指から鈍い音が鳴り、激痛が走る。
「………あっ」
直後、ひばんたにから間抜けな声が聞こえた。
俺は、人差し指と親指を最大限に開き、親指を反対側に向けていた。つまり、二ヶ所同時に指したのだ。
「ハイィィィイ‼︎俺の勝ちィイイイイ‼︎」
「いやいやいやいや‼︎汚いわよそれ‼︎」
横で見ていた松本さんが口を挟んできた。
「あ?何が?」
「あんた今、二箇所指してたじゃない‼︎反則よ‼︎」
「誰も人差し指で指すなんて言ってませんが?てか人差し指、もう指せませんが?」
「んグッ……‼︎こうなったら二回戦目は私が……‼︎」
「よせ、松本。お前の敵う相手じゃねえ」
ひばんたにが止めた。
「今回は俺たちの負けだ。退くぞ」
「あのっ、隊長?」
「良い、最初に俺たちの帰還を賭けてしまった時点で、俺の負けだ」
「や、そうじゃなくて」
「雛森、吉良、お前らも帰る準備をしろ」
「何泣いてんですか日番谷隊長」
「な、泣いてない‼︎」
おいおい、何泣いてんだよ。何処まで悔しがってんだこいつ。まぁ、ゲームで負けて悔しがるのはよく分かるけどな。
俺はひばんたにに声をかけた。
「良い勝負だったぜ、朽木隊長とのオセロより全然やり甲斐があった」
「………水上……!」
「またやろうぜ、日番谷番長」
「………隊長だよ、馬鹿野郎」
俺と日番谷は握手をした。グスッとしゃくり上げる声が聞こえた。
何故か感動して泣いてる雛森さん、呆れてものが言えないって感じで両手を広げてる松本さん、飽きて寝てるイヅル、あいつは後で殴ろう。
「じゃ、俺たちは約束通り帰る。でも、次はこうは行かねえぞ」
「…………上等だよ」
日番谷雷鳥は帰っていった。
………さて、防衛任務完了。俺もそろそろ駄菓子屋で寝るかな……そう思った時、新たな霊圧を感じた。
慌ててそっちを見ると、涙目の済まぬさんが立っていた。
「………朽木隊長?」
「…………私とのオセロはつまらなかったか……?」
あっ、やべっ、聞かれてた。
ああ……涙目でスッゲェ睨まれている……!
「あ、あのっ、何でここに……?」
「日番谷隊長が負けたときのために隠れていたのだ……。兄の戦闘力は底知れんからな……」
と言うことは連戦か?ヤバイ……人差し指が折れた状態で何処までこの人とやれるか……‼︎
と、思ったのだが、朽木隊長は背中を向けた。
「帰る」
「えっ?」
「帰る」
帰った。
そんなわけで、隊長を二人撃破した。