雛森は少し用があって、恋次、イズルと一緒に祐作のいる四番隊隊舎に来た。
用、というのは白哉の「今度こそ水上に勝つ」という台詞で果し状を渡しに行く途中の恋次に捕まり、3人で行くことになったものだ。ちなみに勝負内容はもちろんの事、オセロである。
「もお〜……それくらい一人で行きなよ」
「仕方ねえだろ。お前、前回渡しに行った時に卯ノ花隊長に暇人を見る目で見られた俺の気持ちがわかるか?」
「いや、知らないから……」
上から雛森、恋次、イズルと言った。
「というか、朽木隊長はなんでオセロ?」
「前に祐作に負かされてからハマっちまったんだよ。ルキアのいない今、俺は毎日付き合わされてる……」
「え?相手って君と朽木さんしかいなかったのかい?」
「んっ、そういえばそうだな。なんで俺とルキアにだけ頼ん………あっ」
「………友達、いないのかな」
「………………」
お通夜のようなムードになりながら、四番隊隊舎に入った。許可を取って、祐作の部屋へ向かった。
「水上くん、入るよ」
ノックをしてふすまを半分ほど開けた。中で祐作は椅子に座って背もたれに寄りかかり、足を組んで机に肘を着き、無くなった耳を撫でながら本を読んでいた(エロ本だけど)。
直後、雛森は若干ショックを受ける。あの耳は自分を庇って無くなったものだ。もしかしたら、かなり気にしているのかもしれない。
「…………」
「どうかした?雛森さん」
「あっ、いや、何でもないよ」
イズルに声を掛けられ、襖を開けた。
「って、何読んでるの水上くん⁉︎」
「あ?………あっ、ヤベッ」
「変態!すけべ!最低!」
「ち、違うから!これ俺のじゃないから!」
「じゃあ誰のよ‼︎」
「こ、これは、えっと……アレだ。藍染隊長の‼︎」
「えっ………」
ドン引きしたような顔になる雛森。これからは少し藍染隊長からは距離を置こうと思い、祐作はあとで新しいメガネ拭き買ってあげようと心に誓った。
「それより、なんかようかお前ら」
「朽木隊長から果し状だ」
「あー……またか」
恋次が果し状を取り出した。
「悪いな、毎回毎回」
「ホントだよこのヤロー。お前んのところの隊長オセロに心奪われすぎだろ」
「ほら、受け取ってくれ。一応、言っとくけど、場所は六番隊隊舎、明日の12時からな」
「はいはい……」
「って、おい破くなよ‼︎」
「概要聞いたんならいらねーだろこれ」
「ったくオメーは……」
「あ、せっかくだから遊ぼうぜ。この前(無断で)現世に行った時にゲームキューブ買って来たんだ」
「懐かしいな……」
「やろっか」
夜までおかし食べながらゲームした。
*
その次の日、朽木隊長を負かして、部屋でゴロゴロしてると、またノックが来た。
「あーい?」
「水上くん?」
「雛森さん?どったの?」
返事をすると、扉を開けて入って来た。すると、少しはにかんだような笑顔で言った。
「えへへ、来ちゃった♪」
「ごめん。もう一回言ってくれる?」
「へ?……え、えへへ、来ちゃった♪」
「オーケー、録音した」
「録音⁉︎んもー!なんでそういうことするの⁉︎」
「可愛いから」
「かわっ……⁉︎す、すぐ調子のいいこと言うんだからぁ……」
なんだこの子、満更でもないのか。
「それで、何か用?」
「あ、うん。ちょっと来て欲しいところがあるんだ」
「どこ?」
「それは着いてからのお楽しみだよ」
「ごめんそれもっかい言ってくれる?」
「やだよ!」
出掛けた。
*
………今にして思うと、夢のような感覚だ。雛森さんとデートできるなんて。
「どこ行こうか、ラブホ?」
「怒るよ?」
「ごめんなさい」
「まったく……男の子ってみんなそうなんだから……藍染隊長だって、しらばっくれて……」
ごめん、藍染隊長……今度、メガネケース買ってあげるから許してくれ。
「それで、どこいくの」
「十二番隊隊舎」
「ごめん聞き間違えたかも、もっかい言ってくれる?」
「十二番隊隊舎」
「あ、やっぱそう言ってたんだ……。それ本気で言ってんの?」
「え?うん」
「帰る」
「待って待ってお願い!話聞いてよー!」
雛森さんが可愛らしく俺の腕を引っ張るので、足を止めた。
「その……水上くんの耳、ないでしょ?」
「あ?ああ……これか」
「うん。それ、私のことを助けてくれた時に落とした奴だよね……」
落としたって……人の耳を自転車の鍵みたいに言うなよ。
「それで、その……私の所為だから……治してもらえるように涅隊長にお願いしたの」
「いや人選。なんでトップクラスの奇人に頼んじゃうのかな」
「許可をもらうために色々とさせられて……で、でもっ、水上くんのためだもんね!」
「やめろよ!なんかすごい俺やらしい奴みたいじゃん‼︎ていうか何させられたの⁉︎場合によっては今から戦争起こすけど……」
「とにかく、行こうよ。お願い」
「…………わかったよ」
渋々承諾した。
*
十二番隊舎。入ると、ネムさんが待っていた。
「こんにちは、涅副隊長」
「こんにちは。雛森副隊長、水上副隊長。どうぞお上がりください」
「おーっす、ネムさん!相変わらず柔らかくも弾力のあるいいおっぱいしてますね」
出会い頭におっぱいを揉んだ。この人は揉んでも反撃もして来ないので本当に最高です。
「んなっ……⁉︎」
「ありがとうございます。奥でマユリ様がお待ちです。ご案内いたします」
「ち、ちょっと!何揉んでるの水上くん⁉︎ネムさんもやめさせないと!」
「畏まりました」
直後、俺の頭を掴んで、壁にダンクするネムさん。
「これでよろしいでしょうか?」
「え?あ、うん。良いですよ?」
「………自分で命令しといて引いてんじゃねえよ……」
「おっぱい星人は黙ってて」
黙らされた。
「いやおっぱい星人て……俺、雛森さんのちっぱいも好きだよ?」
「ちっぱいって言うな‼︎」
減り込んでる所をさらに蹴られた。
このままでは話が進まないので、抜いてもらって奥の部屋へ。
「ここです」
「失礼しまーす」
間延びした声で中に入った。
「遅いヨ」
「すいませんね」
「それで、なんだったカネ?雛森桃」
「ああ、そうそう。水上くんの耳を治していただきたくて……」
「そうだったネ。じゃあ水上祐作、そこに座りたまえ」
「は、はぁ」
言われるがまま、俺は椅子に座った。
「希望はあるカネ?」
「や、特にないですね。強いて言うならイヤホン付けられるようになればそれでいいんで」
「ふむ、なるほど」
「すいませんねなんか」
「いいんだヨ。コチラとしても、いい実験道具が来た」
「あ?お前今なんつった?」
「動くなヨ」
「おい待て!お前今なんて……‼︎」
「ネム、おさえろ」
「畏まりました」
「おい!てめっ……!あ、おっぱい当たってる……柔らかい……」
「上手いぞ、ネム」
耳をいじられた。
*
ポッポー、ポッポー、30分後。
「ほら。できたヨ」
再び鏡を見ると、耳のあるべき場所に受話器が付いていた。
「イヤ(耳)フォン(電話)付けられたあああああ‼︎⁉︎」
下らねえにも程があんだろおおおおおおお‼︎‼︎
「ふむ、中々良い反応だネ」
「良い反応だネ、じゃねぇよ‼︎何だこれ!どうやって使うんだよこれ‼︎」
「まだ何か不満があるのカネ」
「不満しかねえんだよ‼︎ここはテメェ一人の大喜利舞台じゃねえんだよ‼︎いいから早く耳戻せ‼︎」
「そう急くな。それには別に機能がついていてネ。その外側に付いてるボタンを押したまえ」
「あ?これか?」
言われて、俺はボタンを押した。直後、イヤフォンが変形してバズーカになった。
「いや無駄な機能‼︎」
「今のは4のボタンだヨ。他に0〜9と*、#のボタンで機能が切り替わる」
「だからいらねーって‼︎普通に耳にしろって言ってんだろ⁉︎」
「ちなみにそれ、引っ張れば取れるヨ」
「じゃあ耳じゃねぇだろこれ‼︎ただの携帯暗殺道具じゃねぇか‼︎」
だめだ……これだからこいつ嫌なんだよ……。
「もういいよ……つーか、そんな事だろうと思ったわ。帰る」
「ったく、せっかく人が親切に直してやったというのに……失礼な奴だネ」
「人の体を魔改造するマッドサイエンティストに言われたくねぇよ‼︎行こう雛森さん」
「あ……うん!お二人共、失礼しました!」
俺たちは十二番隊隊舎を後にした。
*
帰り道。帰宅してると、雛森さんが心配そうに声を掛けてきた。
「あの、水上くん」
「んー?」
「良かったの?耳……」
「あーまぁね。つーかあの変態科学者になんぞなんも期待してなかったし」
「でも、不便じゃないの?耳ないと……」
「いいんだよ別に。この傷跡は、俺が雛森さんを守れたっていう証でもあるから」
「……………」
「だから、雛森さんも気にしないで」
「…………うん」
「さて、じゃあとりあえず帰ったら一緒にお風呂入るか!」
「それは嫌」
「……………」
お断りされた。