卯ノ花さん護衛します!   作:杉山杉崎杉田

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数年後の春:1日目

そんなこんなで、数年が経った。四番隊にはすっかり慣れて、あまり慣れたくなかったが、卯ノ花隊長からの仕事の押し付けにも慣れた。あまり慣れたくなかったけど。

今日は恋次が副隊長に就任し、ルキアが現世へナントカ任務に行くことになった。

 

「と、いう日なのにあなたは行かないのですか?」

 

俺に仕事を押し付けて、自分はお茶とせんべいで和風ティータイムをしている卯ノ花隊長が俺に言った。

 

「別に祝うようなことでもないでしょ。てか俺の時は誰も祝ってくれなかったし」

 

「小さい男ですね」

 

「うるせーですよ」

 

はぁーあ、まぁいいか。っと、仕事完了。気が付けば、書類仕事の早さも随分と手際良くなった。この程度なら 半日掛からん。

 

「おーわった、っと」

 

「お疲れ様です」

 

お疲れ様、じゃねーよ。押し付けといてどの口が言うかコノヤロー。と、思ったところで殴られるので言えないんですけどね。

 

「あ、ところで祐作」

 

そういえば、卯ノ花隊長には下の名前で呼び捨てされるようになった。まぁいつも一緒にいるからそのくらいはいいけど、正直嫌われてると思ってたもんだから意外だわ。

 

「何ですか?」

 

「そろそろ、あなたの斬魄刀は始解くらい出来るようになったのですか?」

 

「あ、はい。一応、名前は分かりましたよ」

 

「では、私の前でやってみてくれませんか?」

 

「えー、ヤですよ」

 

「? 何故?」

 

「だってまだ俺も試したことありませんもん」

 

正直、アレから何度も任務行ってたけど、敵なんて普通に浅打で余裕で倒せるからあんま解放する必要なかったんだよな。

 

「あの、それであなたの斬魄刀は文句言わないんですか?」

 

「んー……特になんも言わないっすね。大人しいもんすよ」

 

「………まぁいいです。とにかく、解放してみてください」

 

「えー、どうせなら戦闘で解放したいんですけど」

 

「ダメです。自分の斬魄刀の能力も把握しないで戦闘で使うつもりですか?」

 

「いや、アレだよ。戦闘中に覚醒してみたいんですよ。やられそうになったところで」

 

「何言ってるんですかあなた」

 

「えー、その気持ちわかんないすか?」

 

「わかりません。とにかく、隊長としてあなたの能力を知る必要があります。解放してください」

 

「絶対嫌です」

 

「なんでですか。死にかけて覚醒なら別に能力分かってても良いでしょう」

 

「はぁ……こいつわかってねぇなぁ」

 

「あ?」

 

「ごめんなさい。……違うんすよ、そうじゃない。要はあれですよ、新たな能力に戦闘中に目覚めたいんですよ」

 

「いや『目覚めたいんすよ』とか言われても……。いいから見せてください」

 

「まったく、男のこの浪漫を理解できないとは……」

 

「給料引きますよ」

 

「すきませんでした」

 

………まぁ、実際俺も知っとかないと困るしな。使えない始解だったらへし折ってやる。

 

「………えーっと、なんだったかな……」

 

えーっと、解号は………、

 

「最古の樹海の中、女、目覚めし刻、中央に聳え立つ一千年の巨木、我に力を分け与えよ、吸えよ魂、射せよ光、磨けよ心、鍛えよ体、セントラルスポーツ訓、一ノ宮家家訓、他人に借りを作るべからず、この橋渡るべからず、一休さん、高級感、ゴージャス、ロジャース、キャプテン・ロジャース、スイカ、かもめ、メリッサ、さくらんぼ、ボボボーボボーボボ………」

 

「真面目にやりなさい。殴りますよ」

 

「だって中二臭くて恥ずかしいんだもん!そりゃボケに逃げるよ!」

 

「タメ語?」

 

「なんだよ我に力を分け与えよって!なんで植物に力懇願してんだよ俺‼︎光合成でもすんのか⁉︎」

 

「だからタメ語?」

 

「いいよなぁ‼︎他のみんなはシンプルでよう‼︎なんで俺の斬魄刀だけこんなんなんだよ‼︎ナメてんのかバーカ‼︎」

 

「殺しますよ」

 

「ごめんなさい」

 

これでたいしたことない斬魄刀だったらマジでキレっからな‼︎最低でも自動的に経絡秘孔を突けるくらいの機能が付いてないと………、

 

「いいから早くして下さい」

 

「わ、分かりましたよ………」

 

そんなわけで、再び詠唱開始。

 

「最古の樹海の中、女、目覚めし刻、中央に聳え立つ一千年の巨木、我に力を分け与えよ、吸えよ魂、射せよ光、汝の身を削って、我が剣となれ、『神木ノ太刀』」

 

直後、鞘から抜かれた俺の刀は形を変えた。

鍔は消え、刀身の刃の部分は若干丸くなり、全体が茶色く変化していく。

そして、俺の手元に残った刀は……、

 

 

木刀になった。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

俺も卯ノ花隊長が黙り込む。えーっと……ちょっと待て。なんだこれ。神木ノ太刀だよな?

始解をxと仮定、x=浅打+解号、解号=『最古の樹海の中、女、目覚めし刻、中央に聳え立つ一千年の巨木、我に力を分け与えよ、吸えよ魂、射せよ光、汝の身を削って、我が剣となれ』=神木、浅打=刀、x=神木+刀………、

つまり、

 

「ただの木刀じゃねぇかああああああああッッ‼︎‼︎」

 

全力でシャウトしながら刀を窓からぶん投げた。

 

「ふざけんなああああ‼︎何が神木ノ太刀だよ‼︎意味深な名前つけやがって‼︎謝れよ、ちょっと期待した俺に謝れよおおおおおお‼︎」

 

俺が窓の外で転がってる木刀にボロクソ暴言を吐いてると、深刻そうな顔をした卯ノ花隊長が俺の肩に手を乗せた。

 

「………これは、少し異常ですね」

 

「そりゃそうだろ‼︎劣化してんだからよ‼︎」

 

「少し試してみましょうか」

 

「は?試す?」

 

「とりあえず、これ斬ってみてもらえませんか?」

 

言いながら卯ノ花隊長はサンドバックを置いた。そうだな、まずは試してみないことには始まらん。

俺は木刀を拾いに行って横に構えると、サンドバッグにむかって軽く振り抜いた。思いっきりくの字型に折れるも、すぐに元に戻るサンドバッグ。普通に打撃、といった感じだ。

 

「………これは、ただの打撃ですね」

 

「見りゃ分かりますよ‼︎」

 

「これでは本当にただの木刀……浅打の段階の方がまだ強いくらいです」

 

「言わないで!心が折れますから‼︎」

 

「…………」

 

少し考え込んだ後、卯ノ花隊長は言った。

 

「……この件は、一度考えましょう。私とあなただけの秘密にしておきましょう」

 

「は、はぁ、なんで?」

 

「斬魄刀の始解が木刀なんて誰にも言えるわけないでしょう。下手したら副隊長から外されるかもしれませんし、良いですね?」

 

「分かりました。はぁ……」

 

と、いうわけで、俺の斬魄刀は木刀だった。

 

 


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