指輪の魔法使いinこのすば   作:陸海 空

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初投稿です。初心者なので、至らない点やおかしな点が多数あると思いますが、よろしくお願いします。


「指輪の魔法使い」

プロローグ

 

 彼は女神アクアによって異世界へと転生した。

 

 アクアは日本で夭折した人間の死後の案内を務める。死者にはもれなく魔王軍とモンスターたちが割拠する世界への転生を勧め、彼らが望む能力(チート)を授け送り出す。彼もまたその内の一人だった。

 

 彼は齢17にして死んだ。今までの例によって彼もまた卓越した才能か天井しらずの能力を授かった。そして、初心者(ルーキー)でありながら類まれな冒険職に就き、魔王や強力な魔物を討伐し、様々な難題(クエスト)をクリアしていく……ことにはならなかった。彼が意図してそうしなかったわけではなく、できなかったというのが正しい。

 

 そうなるとは露とも知らない彼は、第一の街「アクセル」に降り立ち、街の様子を観察しながらギルドを探した。道で遊んでいた子供にギルドの場所を尋ねると遊びに連れて行かれてしまい、ギルドへたどり着けたのは結局日が傾いた時分だった。受付手数料をポケットの中に入っていたものから払い、能力値測定を行ってから熟慮の末、冒険職「ウィザード」を選びそのままギルド内で夕食を摂ってから紹介された最も安い宿泊所(馬小屋)に泊まる。

 

 翌日、彼は見事必死に人脈作りとレベル上げを始めるはめになった。

 

 

第一話「指輪の魔法使い」

 

 

 異世界へ転生した佐藤和真。念願の異世界暮らしのために「ジャイアント・トードを3日で10匹討伐する」というクエストを受けたのはいいものの、頼りにしていたアクアが使えず、2匹を討伐するのが精一杯であった。そこでアクアの発案によりパーティを結成することになったのだが――

 

「……来ないわね」

 

 求人の募集をだしてから半日経っているにも関わらず一向に人が来る気配がない。どうなっているのかと掲示板の方を見ると、そこには2人組の冒険者がいた。

 クエストにざっと目を通した後、最後に募集の紙に目を留めた。全く相手にされていないわけではないようだが、読み進めるにつれて顔をしかめ始め、終わりの方には黙って首を横に振って去っていってしまった。。

 

(どんな内容を書きやがったんだ……アクアのやつめ)

 

「なあ、ハードル下げようぜ。流石に上級職のみ募集ってのは厳しいだろう」

「うぅ……だってだって」

 

 人が寄り付かない根本の要因は『上級職に限る』という募集条件にある。駆け出しの冒険者の多いこの街に、勇者候補たる上級職がそう余るほどいることはない。仮にいたとしても既存の力のある他のパーティで優遇されることを望むだろう。

 上級職と云えどもレベル1の『アークプーリスト』のアクアと、最弱職の『冒険者』である和真たちのパーティというのは、冒険者たちにとっては命を預ける仲間としてあまりにも弱々しいものである。そこにわざわざ入ろうとする人物はよっぽどの物好き(変わり者)か、仕方なく入る和真と同じような立場のような(余り)者だろう。

 

「なあ、せめて中級職以上とかにしたらどうだ? このままじゃ1人も来ないだろうし最弱職の俺の周りがいきなりエリートばかりじゃ俺の肩身が狭くなる」

「そう、そうわね……。このままだと……、じゃあ中級職も能力値次第で採用することにしましょう!」

 

 魔王討伐のためにできるだけ強力な人材で固めたかったアクアだが、メンバーが誰一人と集まらない事態は何よりも避けたいことである。渋々といった様子で募集の条件の最後に、「中級職の方でも相談次第」と書き入れる。これで少しでも考えてくれる人が増えると安堵した和真。その様子を見ていたある男が和真に声を掛ける。

 

「俺で良かったら入れてくれない?」

 

 短い驚嘆と共に和真はその男をまじまじと見た。

 

 まず目を引いたのが、その顔立ち。濁りのない黒い瞳。和真には懐かしい日本人のものだった。美醜どちらとも言えない顔だったが、この世界に来てから見てきた冒険者たちの多くに共通する暑苦しさやむさ苦しさは感じないものだった。和真の少し茶色掛かった髪とは異なり少し艶のある黒い髪。眉にかかるかかからないかぐらいの長さを和真から見て左から右におよそ7対3で分けている。

 黒のロングローブ風のパーカー付きコート。その裏地は赤。その下にグレーのシャツ。そして赤のジーンズ。

 かつて和真がいた世界でこの服装は、はっきり言って派手で浮いているものだ。それこそ異世界の人間の服装のように見える。だからといってこの世界に馴染んでいるかと言えばそうでも無い。

 世界に馴染めていない彼の極めつけは、そのベルト。バックルが、黒に金縁の手の平なんて物を一体誰が考えただろうか。和真は総括して彼をこう評す。

 

(チャラ男ってとこだな……)

 

 和真はこの部類は苦手だったので、断るという選択肢がふと頭を過ぎったが、思いとどまった。

 

(贅沢言っている場合じゃないしな)

 

 和真はこの世界に来てからというものの、ろくでもない出来事を思い返す。初期装備に含まれてしかるべきはずの冒険者登録料さえない赤貧状態。今までの人生との引き換えに持ってきた特典(もの)である女神(アクア)への無能疑惑。密かに根拠なく期待していた自身の能力値は冒険職としては最弱である『冒険者』にしかなれない程度という残念なもの。

 彼が思い描いた異世界ライフとあまりにも違ってシビアでリアルな世界。この八方塞がりの和真に声をかけてきた異世界(同郷)の人物。和真のステータスの中で唯一の突出した幸運が引き寄せてくれたのか。

 

(――もし彼が即戦力なら……)

 

 今日の宿代さえも払えないこの救いようもない事態を変えてくれるかもしれない。

 

(詳しく話を聞いてみないことには始まらないな)

「とりあえず冒険者カードの方を見せてもらっても?」

 

 何はともあれ、彼について調べなければならない。この世界での身分証明書兼ステータス表でもある冒険者カードを見せてもらうことにした。

 

「ほら、これだ」

 

 左のポケットから出されたカードを受け取り、掲示板から鼻歌交じりにステップしながら戻ってきたアクアと一緒に見る。「座るよ」と一言かけて男はカズマの隣に座る。

 

赤間暁人(あかまあきと)。名前からして日本人か。じゃあ転生したうちの1人か? 知っているか、アクア?」

「覚えてるわけないじゃない。今まで何人転生させてきたと思ってるの?」

「っていうか、こっちの青い髪の娘は……? まさか女神様ってことはないよな。そっくりさん?」

「んな訳ないでしょ! 正真正銘の女神よ! 女神!」

 

 暁人にとってアクアとは恩人、いや恩女神であるのだ。神聖で高潔な存在でまさか外界で相見えることになるなどとは露にも思わない。

 

「なんか最初に会った時と全然違くない?」

「実はこれが素で、今はもう化けの皮が剥がれたんだ……えーと、暁人さん」

「あぁー……なるほどねぇ、力を与えてくれたから良いように補正がかかってたんだな」

 

 別に呼び捨てでも構わないさ、と付け加えて暁人はギャーギャー喚き散らすアクアを見て溜息を吐いた。

 

 

 

「……死に様をバカにされた腹いせに連れてきたぁ!?」

 

 和真のこれまでの経緯を聞いて暁人は驚嘆の声を上げる。

 

「ま、まぁ今じゃ後悔している……」

 

 そして、一文無しで来たため日雇い土木工事でその日の食い扶持を確保し、その後の宴会で吐くほど呑んだアクアの世話の日々。さらに昨日に受けていたクエストでジャイアント・トード1匹も狩れないどころかやられる寸前だったことへの不満を漏らす。

 

「――ホント役に立たない駄女神で……」

「駄女神って何よぉ! 和真ぁ!」

 

 暁人を放おって目の前で喧嘩を始めた2人に頭を痛めつつ、2人の後ろに回って頭を叩く。

 

「「……痛!?」」

「ちょっと早くしてくれないかな」

「じ、じゃあ冒険職とか個別の項目を見ていこうか」

 

 暁人の静かな圧力に押され暁人のカードに目を戻す和真とアクア。そこに書かれていることを読み進めていく。

 

「冒険職は……『ウィザード』で中級職ね。となると問題は能力値なんだけど……」

「どれも上級職に見劣りしないじゃない。何で中級職留まりなのよ。これならアークウィザードにだってなれるわよ」

 

 魔力値はアクアほどではないが和真と比べれば天と地の差。これだけの数値であればもう1つ上のアークウィザードになれるはずだが――。

 上級職になれならなっておくようなアクアには縛りプレイ、なりたくてもなれない和真にとっては舐めプレイに思えた。

 

「俺は魔法使い(ウィザード)だからね。つまらないこだわりだよ」

 

 その辺での迷惑はかけないよ、と付け加えて面接は終了。能力値などは問題ない。あとは彼の持ってきた特典の確認や実戦での連携が上手くいくかなどの確認をしなければならい。

 

「お試しで組んでやってみてから、で良いですかね?」

「ま、それが順当だな」

 

 そこで和真は暁人に名前を名乗る。

 

「俺の名前は佐藤和真。冒険職は『冒険者』、よろしく」

「ああ、よろしく。和真」

 

 右手を差し出して握手する。コネ作りという打算もあったが、日本人の知り合いはどうしても欲しかった和真。

 

(チャラ男でチーターってあまり関わりたくなかったけど……まぁ、悪い人ではなさそうだな)

 

 そこで今後の参考のために、彼の能力(チート)を訪ねておく。

 

「それで暁人の特典は何だ?」

「後で見せるよ。お楽しみは後に取っておくもんだろ?」

 

 それから話はクエストのことへ続く。すでにクエスト「ジャイアント・トードを3日間で10体討伐」は2体までは済んでいる。クエスト達成時の報酬は討伐した個体数に応じて行うということにして、いざ街の外れへ席を立った彼らに声をかける者がいた。

 

「募集の張り紙みさせてもらいました」

 

 暁人と和真が振り返るとそこには年端もいかない少女の姿。黒いマントに黒いローブ、黒いブーツに青い魔法石が嵌めこまれた杖とトンガリ帽子。そして左目には十字架が刻まれた眼帯をしている。

 

「この会合は世界が選択し運命(定め)! 私はあなたがたのような者達の出現を待ち望んでいた」

 

 そこで一拍置き、右手を広げマントをたなびかせ、帽子のつばを少し持ち上げ右目を見せる。影から紅い瞳が見えた。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし最強の攻撃魔法『エクスプロージョン(爆裂魔法)』を操る者……!」

「えっ……と」

 

 どう反応すれば良いのか困り果てる和真と暁人。それ見ためぐみんは得意気に続けた。

 

「ふふん、余りにもの強大さ故に世界から疎まれし禁断の力を汝欲するか。ならば、我とともに究極の深淵を覗く覚悟をせよ、人が深淵を覗く時深淵もまた人を覗いているのだ」

 

「それ絶対意味わかってないで使ってるだろ、紅魔族」

「し、知ってるわい!」

「紅魔族……ってあなた紅魔族なの?」

 

 思わず突っ込んだ暁人の言葉にアクアが思い出したかのように声を上げる。

 

「如何にも!我は紅魔族随一の魔法の使い手めぐみん!」

 

 アクアの問いにめぐみんは頷くともう一度仕切りなおしをと再び名乗る。

 

「我が必殺の魔法は山をも崩し岩をもく……だ……く……」

「おっと」

 

 急に体が崩れ落ちた紅魔族を椅子を飛び越え暁人が支える。

 

「おいどうした?」

「も、もう3日も食べてないのです。何か食べさせていただけませんか」

「ほら、掴まれ」

「すみません。ありがとうございます……」

 

 暁人の問に窶れた声で返すめぐみん。そんな彼女を支えながら、さっきまで自分が座っていた場所に座らせる。

 

「ほら、何か頼め。和真たちもどうだ?」

 

メニュー表を渡し、めぐみんの隣に座る暁人。目を皿のようにしてメニュー表を見るめぐみんの左目の眼帯について和真が触れる。

 

「その眼帯は何だ? 怪我しているならこいつに治してもらったらどうだ。こいつ回復魔法だけは得意だから」

「だけって何よ、だけって!」

 

 持っていたメニュー表を置き、左目を隠しながら意味ありげにつぶやく。

 

「ふふ……これは我が強大なる魔力を抑えるためのマズィックアイテム……もし外されることがあるならこの世に大いなる災厄がもたらされるであろう……」

「封印……みたいなものか」

「まぁ嘘ですが。ただオシャレでつけてるだけ」

 

 あっけからんと嘘だと告白しためぐみん。

 

「あぁ! ごめんなさい! 引っ張らないで! やめ、やめろぉ!」

 

 目にパチンコを食らわそうとしている和真にドン引きする暁人。一方、アクアは、淡々とした様子で紅魔族について説明し始める。

 

「紅魔族っていうのはね、生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートで……みんな変な名前を持ってるわ」

「へー」

「あぁああ!! イッタイ目がぁ!!」

「悪い、てっきり(からか)ってんのかと思った」

 

 痛みが引いためぐみんは気を取り直す。

 

「いいですか、みなさんにとってみればそう思えるかもしれませんが、紅魔族から言わせれば、街の人たちの方が変な名前に思えるのです」

「……ちなみに両親の名前は?」

「母はゆいゆい! 父はひょいさぶろー!」

 

 三人は沈黙。

 

「……この子の種族は優秀な魔法使いが多いんだっけか」

「ええ」

「おい、私の名前について言いたい事があるなら聞こうじゃないか」

「ドーナツうめぇ」

 

 暇になった暁人はどこからか紙袋を取り出してドーナツを頬張っていた。

 

 

 

「彼女はアークウィザードで間違いないわ。カードにも高い魔力値が記されているし、これなら期待できると思うわ。もし彼女の言う通り爆裂魔法が使えるなら、それは凄いことよ?爆裂魔法は、習得が極めて難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」

「おい、彼女ではなく、私の事はちゃんと名前で呼んで欲しい」

 

 めぐみんの冒険者カードを受け取ったアクアと和真はテーブルに並んだ暁人の奢りを食べながら面接を始める。紅魔族の名は伊達ではないようで、暁人より上位の冒険職のアークウィザードに就いていた。

 

「って待てよ……ちょっと、アクア」

「何よ、和真。ちょうど今唐揚げ食べてるところなのに」

「いいか。よく聞け、アクア。前衛の魔法使いっていうのはそう多くもいらない。どっちかに絞るぞ」

 

 暁人とめぐみんに聞かれるとまずいので2人に背を向け小さな声で話す。

 前衛の魔法使いを2人も置く余裕は無いと考える和真。取捨選択を迫られることになるのだが……。

 

「めぐみんの方が上級職だし……そうね。人数が多すぎるとクエスト報酬の配分が少なくなっちゃうから……できれば暁人の方には……」

「ちょっと待てアクア。せめて暁人にチャンスを与えてみるべきじゃないか?」

「でも、普通に考えて上級職の方が強いに決まってるでしょ?」

「何言ってんだ、中級職でも一応こいつはチート持ちなんだぞ。見てみなきゃどっちがどうなんて分からないんじゃないの?」

「和真が言うなら……」

 

 異世界人でエリートなロリっ子よりも、チート持ちだが日本人で自分の年齢と近い青年を選びたい和真と上級職の方が良いと単純に考えるアクア。

 和真の暁人を選ぶ余地を残す方法に少し不満を漏らすが、納得したようだ。腹ごしらえを済ませてから、支払いを終えた暁人に和真はアクアと話し合った内容を伝える。

 

「……ということで、暁人。お前とめぐみんとどっちが役に立つかこのクエストで見るから」

「マジかよ……」

 

 暁人にとってみれば話がまとまってきているところだったわけで、あまりいい顔はしなった。そのまま和真についていく。

 

 

 

 ジャイアント・トードがいる街の外れまでたどり着いた和真一行。見渡す草原には近場の4匹ほど見えるだけだった。

 

「我が強大なる爆裂魔法は最強魔法。その分、準備に長い時間が必要です。それまで時間稼ぎをお願いします」

「じゃあ、俺から」

〈ドライバーオン・プリーズ〉

 

 右手をかざすと、暁人のベルトが姿を変え、その特徴的な黒い手の平が浮き上がる。間髪置かずにベルトのレバーを操作し、バックルの手の平の向きを変えた。

 

〈シャバドゥビタッチヘンシーン!〉

 

 軽妙な音楽。独特なリズム感だがその歌詞を聞いているとなんとも言えない気分になる。

 

「変身」

 

 左手に赤い指輪を填めてその装飾を下ろし、それをベルトのバックルにかざす。

 

〈フレイム・プリーズ〉

〈ヒーヒーヒーヒーヒーヒー!〉

 

 左手を横に広げ魔法陣を展開。アップテンポな曲が流れ、魔法陣が暁人の体を左から右へ抜けていく。それとともに姿が変わった。

 現代社会で「仮面ライダーウィザード」と呼ばれる姿に変わった暁人。これこそが彼の持ち込んだ特典(チート)である。

 

「何だこの音楽は……それに“火”?たしかこれって……」

「プークスクスなにこれだっさー」

 

 この変身待機音は現代社会で言われたのだが、強烈なインパクトがある。独特なリズム。単純なワード。高いテンション。暁人にはそのあたりの感覚はもう慣れていてもうなんとも思わない。しかし、和真やアクアには妙なものにしか思えなかったらしい。

 

「ほう……我がライバルはなかなか面白い魔法を使うようですね!」

 

 一方、めぐみんはすでに暁人をライバル視しているようだ。そして、彼女の心の琴線に触れるものでもあったのか、初めて見る魔法と変身に興味津々である。慣れている暁人だが、その強烈なインパクトは暁人自身もよくわかっているようで、三者三様な反応をみせる彼らに一言。

 

「歌は気にするな」

 

 和真たちの前に進み出た暁人は、左手を顔元に寄せ指輪を前方のジャイアント・トードに向けた。

 

「さぁ、ショータイムだ」

 

 彼の戦いの前のルーティン。新しい指輪を取り出し右手に填める。

 

〈ルパッチマジックタッチゴー!〉

〈コネクト・プリーズ〉

 

 ベルトの手の向きを反転しかざす。魔法陣を展開。手を入れ取り出したのは銀色の銃――ウィザーソードガン。これにもベルトと同じように黒い手が握りった状態で付いている。

 

 正面のジャイアント・トードの場所をしっかり見据え、銃を左から右へと撃ちながらくるりと体を回す。4発の銀の銃弾。魔力を帯びたそれは獲物に一直線に進む。当たる前に横に並び一旦下へ降りるとそこから上へ突き上げる軌道を取り、ジャイアント・トードの首を貫く。一瞬の静寂の後、首が落ちた。

 

「「「えっ」」」

 和真たちから見れば当たるはずのない弾丸が何故か当たったことになる。

 

「今のどうやった……!?」

「銃弾で首を切り落とした」

(チートじゃねぇか)

 

 これが特典(チート)持ちのなせる業かと和真は昨日の自らの泥臭い戦いと対比しながら暁人を恨めしそうな眼で見る。

 

「まずは1匹」

 

 ウィザーソードガンをガンモードからソードモードに切り替えて1番遠いカエルの元へ駆け出す。暁人に気づいたカエルが舌を伸ばすが――

 

「は!」

 

 迫る舌を片足で踏み切って後方宙返りで避け、着地と同時に斬る。舌が戻った隙に距離をさらに詰め、再び彼を捉えようとする舌は先ほどより速い。左に受け流し、体をターンさせ、立ち止まること無くカエルの胴体の前へ。左から袈裟斬り。右からもう一度。さらに横一閃。その動きでくるりと回る。

 いよいよ切迫した様子で、攻撃するカエルの攻撃に対し、ウィザードソードガンを八の字に回し牽制。一旦体に引き寄せ右足を踏み出すと同時にカエルの巨体に突き出した。

 フェンシングのように突き出されたウィザードソードガンの衝撃は、その巨体を地面から浮き上がるほどのものだった。そこで暁人は剣を立て、左手で支えて持つ。

 

「さぁ……二匹目といこうか!」

〈キャモナシューティングシェイクハンズ〉

〈フレイム・シューティングストライク!〉

 

 再びガンモードに戻した暁人は、握った状態のハンドオーサーを開き、フレイムのリングをかざす。

 

〈ヒ!ヒ!ヒ!〉

「はぁ!」

 

 銃口に炎を纏った魔法陣がいくつも展開する。先ほどのように左から右へ手を振って炎を撃つ。爆炎に包まれたカエル。魔力が爆散しこんがりと焼けたカエルが地面に倒れた。

 

「おーい、暁人ー! めぐみんの分も残しといてくれよー!」

 

 わかった、と返ってきた言葉を受けて、和真は剣を取り出し、一番近くのカエルを倒すべくアクアをけしかける。

 

「……おい、行くぞアクア。お前、一応は元なんたらなんだろ? ちょっとくらい活躍したらどうだ」

「元って何!? ちゃんと現在進行形で女神よ私は!」

「……女神?」

「……を、自称している可哀想な子だよ。たまにこういった事を口走ることがあるんだけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」

 

 事情を知っている暁人とは違い、めぐみんは「女神」という単語に反応する。面倒事は避けたかった和真は咄嗟にアクアを犠牲にしてごまかす。その言葉に、同情というか憐憫の目でアクアを見るめぐみん。涙目になったアクアは、拳を握りしめ自暴自棄ぎみに1番近いカエルの方に駆け出し……食われた。

 

「えぇー……」

 

 4匹目のカエルの注意を集めるべく舌を避け続けている暁人は、そのあまりにもあっさりとやられたアクアを見て呆れるしかなかった。ふと上空を見ると、魔力が集まっているのが分かった。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に、我が真紅の混交に望み給う。覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理。 無行の歪みと成りて現出せよ!」

「え、何?」

「踊れ、踊れ、踊れ、我が力に望むは崩壊なり。並ぶものなき崩壊なり。万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ!」

「もしかして爆裂魔法ってやつ?」

「これが人類最大の威力の攻撃手段!これこそが!究極の攻撃魔法……」

 

 真下にいる暁人のことなどお構いなしに詠唱を続けるめぐみん。

 

「ちょ、おいおいおい――」

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 その直後それは爆ぜた。強烈な閃光、大気をも震わせる轟音。カエルだけではなく逃げていた暁人さえも飲み込み、局地的な火炎の上昇気流を生み出した。

 

「暁人ぉ―――!」

 

 和真はその爆発地点よりもかなり離れているにも関わらず、爆風で体が飛ばさせそうになる。

 しかし、それをまともに受けた暁人のことが心配で気が気でない。しかし――

 

「あれ……?」

 

――火炎がまるで吸い込まれているのかというように小さくなっていく。その中心には左手の赤い指輪に魔法陣を展開させた暁人。炎を吸い込んだ暁人の様子を見て和真は安堵の溜息をついて暁人の側に行く。

 

「大丈夫か。暁人」

「ふぃー。まあね」

 

 暁人の元にやってきた和真。その向こうには――

 

「……えげつねぇ」

 

 カエルがいた場所を中心に直径二十メートル以上のクレーターができていた。

 

「あぁ……これが爆裂魔法か」

「この姿じゃなきゃやばかったな。おい、気をつけろよ。めぐ……って、おっと」

 

 いきなり地面の中から出てきたカエルに気づいた暁人はめぐみんへの抗議を中断して距離を取る。

 

「めぐみん! 一旦離れて、距離を取ってから攻撃を……」

 

 暁人に倣って距離を取った和真。めぐみんにもう一度エクスプロージョンを頼もうとするが――

 

「あれ?」

 

 めぐみんが倒れていた。

 

「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。やばいです。食われます。すいません。ちょ、助けひあっ!?」

 

 のそりのそりと迫るカエルに食われてしまっためぐみん。放おっておいたアクアの方も、いい加減にどうにかしなければならない。

 

「あぁー!! 何でこうなるんだよ!!」

「しょうがない。手分けするか」

 

 身動き取れないカエルを倒した2人は、粘液まみれの2人を引っ張りだす。

 

「うぇ……何度嗅いでも生臭いな」

「よいしょっと。あと何匹……?」

「えーと、……3匹だな。暁人、頼めるか」

「……わかった。2人を頼む」

 

 地面から次々と這い出てくるカエル。暁人に任せたほうが良い、と判断した和真は無防備なアクアとめぐみんを守る。

 とりあえずこちらに背を向けている一番近くのカエルに駆け出す。背後から跳び、空中で斬りつけてから正面に着地。振り向きざまに一撃。踏み込んで横蹴りを入れるも、反動で暁人自身も飛ばされる。

 

「うぉっと! そう言えば物理攻撃には結構強いんだっけか。だったら……」

〈キャモナスラッシュシェイクハンズ〉

〈フレイム・スラッシュストライク〉

 剣を構え直し、オーサーを開き左手をかざす。赤い魔法陣がウィザードソードガンにいくつも展開する。

 

〈ヒ!ヒ!ヒ!〉

 

 両手で持ち腰を落とし構える。カエルはようやく体を起こしたところで、暁人の炎を見て大急ぎで体勢を立て直そうとするが……

 

「は!」

 

 横一閃。カエルを避ける間もなく炎の斬撃を受けた。

 

「おっと……今のはちょっと贅沢すぎたか」

 

 ふらついた暁人。なんとか体勢を立てなおして、次の相手を見る。

 

「あと2匹か。ちょっと魔力の節約しないとまずいな……」

〈バインド・プリーズ〉

「よっ!」

 

 『バインド』を使ってカエルの動きを封じる。その間にカエルに近づき、新たに指輪を取り出して、かざす。

 

〈ビック・プリーズ〉

「よぉっと……はぁっ!」

 

 赤い魔法陣を上に展開し、腕を突き入れる。魔法陣の効果で巨大化した右手でカエルを叩き潰す。そんな様子を見て和真は暁人の応援をする。

 

「おーい、暁人ー! 良いぞ! 最後の1匹派手に決めてやれ!」

「ああ!」

 

 魔力節約のために大規模な魔法を使わずに、ひたすら物理攻撃に徹していた暁人は和真の声を聞いて、和真の方を向いて大きく応えた。それから、舌を後ろに跳んで受け流し、ウィザーソードガンをガンモードに切り替える。脚を狙い撃ち、動きを留める。そこで、新しい指輪を取り填める。

 

「一応これ、俺の採用試験だったな。最後は派手に行くか……さぁ、フィナーレだ」

〈ルパッチマジックタッチゴー!〉

〈チョーイイネ!キックストライク!サイコー!〉

 

 足元に魔法陣が出現。その場でターンして右足に掛かったロングローブを払う。

 

「はぁああああ!」

 

 十分な魔力が足に貯まると同時にカエルに駆け出し、ロンダート。そのまま空中で反転しキックを叩き込んだ。

 

「たあああ!!」

 

 後ろに倒れたカエルに大きな魔法陣が出現し、爆発四散。振り返って敵がもう動かないことを確認した暁人は安堵の溜息。

 

「ふぃー」

 

 魔力切れ寸前なのか砕け散るように変身解除した暁人。ふらつきながらキックのために地面に置いたソードガンを拾い上げソードモードにして体を支える。

 

「ああ……疲れた」

「お疲れ、暁人」

「ああ、めぐみんのあれがなかったら魔力切れしてたな」

「ところで一つ質問がある」

「何?」

「暁人の特典って仮面ライダーで合ってるか?」

「そ、ウィザードっていうんだけど」

 

 だから、それ以外の冒険職につくつもりはないのさ、苦笑いしながら付け加える暁人に和真が真顔で返す。

 

「ホントくだらないこだわりだな」

「おい」

「まあ、そんなに怒るな。暁人」

「そうだな。終わったことだし帰るか」

 

 ふらふらとしながら、粘液まみれのアクアとめぐみんの元へ近づいていく暁人の後ろ姿を、和真は夕日越しにただ無言で見つめるのだった。




次回――ドMな仲間が合流。

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