女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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予告通り二人称視点
(彼と彼女使ってないから二人称じゃないかにゃー)
久しぶりにラブコメっぽいの書いた気がします。



風邪を引きながら涼風青葉は意を決する。

 

北海道の雪花の夜。

温かい湯に体を浸からせ、満足げに微笑む女がいた。

 

「はぁ...涼風が...気持ちい...」

 

 

外気の気温は1桁、あるいはそれを下回るというのにその女は胸から上を湯の外に出して手を広げて度々吹いてくる涼風を堪能していた。

 

 

「そしてあったかい〜〜北海道さいこ〜〜」

 

 

1人なのをいいことに湯の中に入ったり出たりを繰り返して肌はツヤツヤ、血行もよくなり心身共に良くなっているはずだった。

しかしそれも節度を持って適度な時間湯に浸かり、湯から出ても湯冷めしないように水分を拭き取りすぐに服を着ていればの話である。

彼女は風呂から上がっても体も拭かずに冷たいコーヒー牛乳を飲み干し、扇風機の風に当たったりしていた。

 

 

その結果。

 

 

「ごほっごほっ」

 

 

ゲーム制作会社『イーグルジャンプ』

キャラクターデザイナー班 涼風青葉

社員旅行の北海道で調子に乗りすぎ、風邪を引きました。

 

 

「はぁ去年は全然平気だったのに、年かなぁ...」

 

 

げほげほと20歳前なのに年だと呟く青葉。それだと遠山さんや八神さん、さらに言えば葉月さんなんて年中風邪を引いている。

喉と鼻はそこまで酷くないが咳と頭痛に苦しめられ青葉は昨日の夜から寝たきりである。

 

 

「出社時間...なのに寝ているこの背徳感...ふふたまにはいいかも...」

 

 

口元を抑え笑いをこらえるも隠しきれず目だけがクスクスと笑っていた。

だが、青葉はあることに気づくと血相変えて飛び上がるようにベッドから身を起こした。

 

 

「あ!休暇の連絡忘れてた!!」

 

 

自分に何やってんだ〜!!と言いつけ頭をポカポカ殴ってスマホを手に取ると急いで上司である遠山りんにメールを打ち込む。

 

 

「遠山様 本日風邪のためお休みします。よろしくお願い致します 涼風青葉」

 

 

送信っと、メールを送るとぽてっと顔から枕に倒れ込む。

 

 

「メール打っただけで疲れました。しんどい。そもそも病気なんだから連絡なんて無理なんだよおやすみなさい」

 

 

震え声で言い訳すると目を閉じて寝ようとする。もしこれをある男が聞いていれば「自業自得だろ」と一蹴されていただろう。

しばらくしてスマホからピロリン〜とメッセージの受信を伝える音が鳴りスマホを手に取って内容を確認する。

 

 

『体調は大丈夫?お仕事のことは忘れてゆっくり休んでね』

 

 

「遠山さん優しいなぁ…ふざけて風邪ひいて申し訳ない...」

 

 

大丈夫です。ご心配おかけしてすみません。と返信してまた寝転ぶと目を閉じる。

 

 

「しっかり治そ!」

 

 

と、言ったがりんから青葉が休むと聞いて心配した面々たちから一気にメッセージが届きスマホからはピロリンという音が連続で鳴り響く。

 

 

『青葉ちゃん大丈夫!?』

『無理せんようにな〜』

『たくさん寝るんだよ〜』

 

 

ひふみ、ゆん、はじめと青葉のことを可愛がっている先輩方からメッセージが来て青葉は嬉しく思いつつも申し訳なさを感じた。

 

 

「う〜滅多に休まないからすごい心配されてしまう」

 

 

またふらつく頭を起こして『ちょっと熱があるくらいなので寝てれば治ると思います。ありがとうございます!』と誠心誠意の返信をしてため息をつく。

すると、またピロリン〜と受信音が鳴り見てみると後輩から『お大事に』ときて頬が緩みそうになる。

が、その顔はすぐにムッと顰めっ面へと変わった。なぜなら同期で自分の知ってる社内唯一の男からなんの連絡もないからである。

自分では話すほうだとは思っているがまだやはり壁を感じざるおえない。

相手もそう思っているのかもしれないが、紅葉のようにお大事に一言くらいあってもいいじゃないかと悪態づきながら痛む頭を抑えて青葉は今度こそ眠ろうと瞳を閉じた。

 

 

 

###

 

 

 

「う〜〜にゃー!!」

 

 

フミ、フミ、フミと顔を柔らかい小さな何かが触れているのを感じて涼風青葉は目を覚ました。

飼い猫の肉球で顔を揉まれたせいか僅かに猫みたいになっているが薬の副作用なのかもしれない。

青葉はなんで起こされたんだと猫を睨みつけ、視線を壁にかけてある時計へとスライドする。

 

 

「はっ...3時。結構寝てたかも」

 

 

そう呟くと猫は「にゃー」と青葉の足を小さな手で擦る。青葉は布団から出て上着を羽織ると自室からダイニングへと向かう。

 

 

「お腹減ったの〜?」

 

 

尋ねると「にゃーん」と返事をする飼い猫に微笑みかけるとピンポーンと廊下にインタホーンが鳴り響く。

 

 

「こんな時に...宅急便かな…」

 

 

じゃれてくる猫をあしらいながら手に印鑑を持ちドアに付いた小さな穴から外にいる人間を覗き見る。万が一、宅急便の人とかではなく不審者なら今の自分は一瞬でやられてしまうからである。

念の為覗いたその先にいたのは。

 

 

「な、なんで八幡がいるの...?」

 

 

メールをしてこないと思えばまさか直接見舞いに来るなんていうのは青葉の予想の範疇を遥かに超えており、嬉しさと戸惑いの混じった声で呟いた青葉は急いで洗面所で顔を洗う。再三にわたり鏡で自分の顔を見て、玄関に戻り靴を並べると深呼吸して扉を開く。

 

 

「ど、どしたの...?」

 

 

ゆっくり開きながら聞くと八幡は手に持ったビニール袋を掲げた。

 

 

「遠山さんにお見舞い行ってくれって頼まれてな。上がっても大丈夫か?」

 

 

「う、うん」

 

 

青葉がそう言うと八幡は靴を脱いで青葉の家に上がり込む。それに青葉は今まで感じたことない高揚感を感じてじっと八幡を見つめてしまう。人の視線に敏感な八幡はそれに気付き青葉に尋ねた。

 

 

「どした、なんかついてるか?」

 

 

「ううん!そんなことないよ!」

 

 

疑いの目を向ける八幡に対してほっと胸をなでおろす青葉。

 

 

「あ、そうだ。お前風邪なんだよな」

 

 

「うん、ちょっと北海道でテンション上げすぎて...」

 

 

青葉が照れるようにいうと、その一部始終をちゃっかり男湯で聞いていた八幡は「あー、あれか」と心の中で呟くと持っていた袋に手を伸ばす。

その仕草に青葉は八幡からのお見舞いに何かくれるのかと期待したが、中から出てきたのは1枚の使い捨てのマスクだった。

思ってたのと違う...という顔をする青葉に八幡は真顔でこう言った。

 

 

「お前風邪なんだろ?」

 

 

そして当たり前のようにマスクをつけて手を洗いに行く八幡に青葉は乙女心を遊ばれたことに腹を立てる。

しかし腹を立てたところで熱は下がらず、むしろ怒りのパワーで悪化した。

 

 

「で、何しに来たの」

 

 

「さっき言わなかったか。お見舞いだよ」

 

 

手を拭きながら戻ってきた八幡にそう投げかけると首を傾げて返された。

とてもそんな態度じゃないと憤怒しかけてると青葉の飼い猫がにゃーにゃーと餌くれ餌くれと強請っていた。

八幡も実家でカマクラという猫を飼っていたのでその鳴き方には覚えがあった。

 

 

「なぁお前飯は」

 

 

「あ!忘れてた!」

 

 

八幡の一言でお腹の減りを思い出した青葉は急いで台所に向かおうとするが、右手を八幡に掴まれる。

 

 

「な、な、何!?」

 

 

意中の人間に触れられて下がっていた熱が別の原因で高騰する。顔を真っ赤にして聞くと八幡は呆れたようにジト目で返す。

 

 

「病人だから寝てろよ。飯くらい用意してやるから」

 

 

「え、でも...」

 

 

「いいから」

 

 

「う、うん...」

 

 

そう力強く言われてしまえば青葉も引き下がるしかしない。

大人しく自分は部屋に戻り、布団に入って八幡がご飯を持ってくるのを待つ。

 

 

 

だが。

 

 

(落ち着かない...!)

 

 

気になる人物が自分の家に来てるのにこうして布団の中で大人しくしているというのはとてもじゃないが落ち着かない。

ソワソワとスマホを何回も見たり消したり、床に落ちてるものを片付けたりして時間を潰す。

 

 

「あ!汗くさくないかな...!?寝てる時ちょっと暑かったし...」

 

 

 

 

 

 

 

一方、台所では。

 

 

「涼風の母ちゃん優しいんだな」

 

 

初めてきた同期の家、それも女子の家で八幡は台所に入り、見舞いの品で要冷蔵のものを冷蔵庫に入れると、カウンターに置かれていた青葉の母親が作っていったのであろう玉子とじおかゆを見て呟いた。

自分の母親はこんなことしてくれない。でも、羨ましいとは思わない。だって、自分には小町がいるから!と平常運転でモノローグを綴り、おかゆを温める。

 

 

温めている間に猫のキャットフードを探し出す。実家だとここだったよな、という棚を開けると予想通り探し物は見つかった。

それを実家の猫に与えていたくらいの量が入る皿に入れて青葉の猫の前に差し出す。

すると、よほどお腹が減っていたのかむしゃむしゃと勢いよくかぶりつく。

 

 

美味しそうに食べる猫の姿を眺めているうちにおかゆが温まり、お盆の上に匙と水を注いだコップと共に乗せて台所を離れる。

 

 

「入るぞー」

 

 

「え!?ちょっ、ちょっと待っ」

 

 

ノブを回してドアを開ける。その際に中から何か青葉が言った気がするが八幡は無視して中に入る。

言ったことを守っていれば青葉はベッドの上で寝ているはずなのだ。

片付いた部屋で本棚と大きなパソコン、壁にはフェアリーズストーリーのポスターがかけられており、女の子の部屋というよりは男子中学生の部屋のそれに近い。部屋の一角を占める木製の大きなベッドにはきのこの掛け布団と部屋の主の少し偏った趣向を感じさせられた。

そうして部屋を見渡した八幡の目はピタリとある人影を見てから止まる。

 

 

「あ...あ...」

 

 

半身になって八幡に顔を向ける青葉。

八幡が来るのが遅いので、汗をかいた服を着替えようとパジャマを脱ぎ、下着を外したところで扉が開かれたのだ。

その身を隠しているのは余程慌ててたのか、半分ずり落ちた下着だけだった。

両手で危ない部分だけ隠した青葉の姿を見た八幡はすぐさま扉を占める。

 

 

「悪い」

 

 

ドア越しで目を逸らしながらそう言った八幡だが内心はかなり混乱していた。

 

 

(なんで寝とけって言ったのに着替えてたんだよ!しかも来客中だぞ!?馬鹿じゃねぇの!?)

 

 

不慮の事故とはいえ嫁入り前の娘の裸を覗いてしまった自分を正当化しようと青葉を悪者にするが、司法が出てくると確実に自分が悪いことになると確信した八幡は素直に諦めて青葉の声を待つ。

 

 

「......どうぞ」

 

 

許可が出たので八幡は入った瞬間に土下座をする覚悟で再び扉を開く。

部屋の中には来た時は違うパジャマを着た青葉がベッドの上に座っており、八幡と目を合わせないように電源の入っていないパソコンの画面を注視していた。

 

 

「そ、その悪かったな…ノックもせず入って」

 

 

入ってすぐに罵倒される覚悟でいた八幡だったが、青葉が何も言ってこなかったので先に謝罪を入れる。すると、青葉は手で顔を覆い消え入りそうな上擦った声で呟く。

 

 

「...うん、私もごめん。寝とけって言われたけど落ち着かなくて」

 

 

「お、おう...」

 

 

なんだこのぎこちない空気と2人は同時に思う。

いつも会社で話すような雰囲気はなく、お互い目を逸らす。

先程のことがあって未だ硬直して入口の前に立ったまま動かない八幡に青葉は紅潮した顔を見せないように手で覆ったまま顔を動かす。

 

 

「とりあえず、お腹減ったから...それ...こっち持ってきて」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

そう言われてやっと動いた八幡は青葉の側まで近づきお盆を手渡そうとするが、青葉は手を出さずにジロっと八幡を見上げる。

 

 

「...どした」

 

 

やっぱり怒ってんのかと八幡は後ろめたい気持ちになる。

別に興奮してない。下着なんてただの布だし。となるべく心を清らかに、理性の化け物として顕現しようとしていた八幡だが、流石に被害者に睨まられたらそんな気も失せて申し訳なさが先行してしまう。

 

 

 

「あーん」

 

 

「は?」

 

 

そんな八幡だったが、唐突に青葉が大きく口を開いてそう言ったのを聞いて思わず威圧的な声が出る。

 

 

「え、病人だから食べさせてくれるんじゃないの...?」

 

 

「いや、そこまでは言ってないんだが」

 

 

言ったかな?と八幡は思い出してみるが用意はするとしか言ってない気がする。それに自分はそんなこと言う人間ではないから違うと確信を持って言える。

 

 

「えーいいじゃん。それくらい」

 

 

「それくらいって...元気そうだし自分で食えよ」

 

 

「さっきので結構熱上がっちゃって...」

 

 

苦笑混じりに言う青葉に八幡はそれを言われては仕方ないとため息をつく。

 

 

「ん、ほれ」

 

 

過去に何度か妹にこうして食べさせたことを思い出しながら八幡は匙を青葉の口の前まで持っていく。

青葉は口を大きく広げて匙にのったお粥を中に含むと幸せそうな顔をして咀嚼する。

 

 

「ん〜美味しい...でも、味薄いかな…」

 

 

それだったらと八幡はおかゆを青葉の机に置いて部屋を出て、台所から醤油を取って戻ってくる。

玉子とじ粥に醤油を適量かけてまた青葉の口元に持っていき食べさせる。

 

 

 

「あ、いい感じ」

 

 

「そりゃよかった」

 

 

食べ終わり蓋をして、八幡は台所にそれを置く。

戻ってくる際にちゃんとノックして部屋に入ると青葉は布団の中で目を開いて八幡を待っていた。

 

 

「今日はありがとね。助かったよ」

 

 

「礼なら遠山さんにいってくれ」

 

 

本心でそう言う八幡に青葉は首を振った。

 

 

「ううん、来てくれたのは八幡だし。それに多分、ひふみ先輩とか歳上だったりももちゃんみたいに後輩だったら気遣っちゃうし」

 

 

「...確かに」

 

 

言われて八幡も遠山さんが来た時、めちゃくちゃ気がかりだったなと思って頷いた。

 

 

「あー寝れるかな。昨日の夜からずっと寝てるしな...眠れるかな」

 

 

「目閉じて何も考えずにいたら寝れるだろ」

 

 

「そうだけどさ」

 

 

布団の中でもじもじしながら青葉は言うか言うまいか思案する。

口に出すのは難しく、出した後も相手が嫌がるかもしれない。そんなお願いだ。

瞬きして目を開けるたびに八幡と目が合う。

言って後悔するか、言わなくて後悔するか。

青葉は最近になってその答えを知った。

 

 

「八幡」

 

 

「ん?」

 

 

言って後悔するより、言わなくて後悔することの方がずっと苦しく嫌な気持ちが残るかもしれない。そう考えたら言って悶えて気持ちを切り替えてしまう方がよっぽどマシかもしれない。

それに裸を見られたのだ。今更恥ずかしい思いをする必要があるものかと青葉は意を決して口を開いた。

 

 

「私が寝れるまで手、握っててくれない?」

 

 

頑張って青葉は願いを口にしたが、唐突な青葉の申し出に八幡は苦い顔をする。

それを見越していたように青葉は先程の言葉に少し付け加える。

 

 

「私、寝れない時お父さんかお母さんに手繋いで貰ってたから...お願い」

 

 

握れるように布団から右手を出して八幡の答えを待つ青葉。じっと見つめられた八幡は観念したようにため息をつくとその右手を優しく握った。

 

 

「寝れるまでだからな」

 

 

「...うん」

 

 

そう言って口元を綻ばせて目を閉じた青葉。

八幡は青葉が寝付いたら家を出ようとしていたが、昨日の疲れからかベッドに身を預けて瞼を閉じてしまった。

 

 

 

「あらあらまぁまぁ」

 

 

しばらくしてそれを発見したお出かけ帰りの青葉母は写真を撮って、どちらかが起きるまでにこりと2人を見守っていた。

 

 

 




いかがだったでしょうか。
青葉がメインヒロインなんだよ!!って感じの話を書こうと思ったら、ラッキースケベしてました。これでキュンキュン来る人いんのかなぁ...いや、いないだろうなぁ...。


さてさて、関西にお住まいの皆様地震大丈夫だったでしょうか。
自分は家を出たところで強風に見舞われ
「駐輪場の屋根ガタガタ言ってる〜w 強風警報はよ」とか思ってたら、風じゃなくて地震で揺れてました(風は吹いてました)。
駐車場がビービー!いってる時点で察するべきだった。
地震のせいでエレベーターは止まり10階より上にある我が家へ階段で駆け上がりました。
そしたらマイルームが大惨事に。コレクションを置くスペースは倒壊し、フィギュアの台座はなくなり、お気に入りのコップは割れてました。
でも、お宝(18禁アイテム)は散らかることなく親の目に晒されることは無かったので良かったです!!ではでは!




おま○け


ピンポーンの音で目を覚ますと部屋の電気は消えていて、目をこすって上半身だけ身を起こす。何時間くらい寝てたんだろうと時計を目にしようと思ったところで下腹部辺りに妙な重さを感じたので先にそちらを見る。


「ひょええぇぇぇぇ!?」


そこにはなんと私のお腹を枕にして寝る八幡が!
看病しに来たのになんで寝てんの!?



「...それにしても」


寝ていても私の手をちゃんと離さず握ってくれてるのは嬉しいけども...。自分の中の八幡の株が上がるのを感じていると部屋の明かりがつく。


「青葉〜元気になった〜?」


「お、お母さん!?」


いつの間に帰ってきていたのか。その事に驚き、さらにニヤニヤしているお母さんの顔を見て色々と察して頭を爆発させる。


「ねねちゃんとほたるちゃんが来てるけど〜どうする〜?」


「え!?なんで!!?」


「そりゃお見舞いに決まってるでしょ。...でも、今日は帰ってもらう〜?」


「あ、いや大丈夫!会う!治った!...ほら、は...比企谷くん起きて!」


もう少し握っていてほしいがこんなところをあの二人に見られるとどんな誤解をされるかわからないのて握られていた手を離して、八幡の背中を揺する。


「んん...ん...?」


「八幡!ねねっちとほたるんがきたから起きて!」


そう言うと八幡は半開きだった目を覚醒させて私のベッドからばっと離れると、鞄から本を出して今まで本を読んでいたかのように読み始める。


「あおっち〜元気ー?...ってなんでハッチーが?」


「あ、ほんとだハッチーだ」


「よ、よぉ...」


引きつった笑みを浮かべながら挨拶する八幡。なんでいるのかとねねっちに聞かれて八幡は目を右往左往させながら答える。



「遠山さんに頼まれたんだよ。お前らは?」


「私達は大学にいってたんだよ」


「...そういえば、お前大学生か」


「そういえばってなんだー!」


すっかり会社に溶け込んでいたねねっちのことを八幡はまだ大学生だということを忘れていたらしい。よかった、ねねっちのおかげでいつもの空気だ。


「もう、あおっち滅多に風邪ひかないからちょっとびっくりしたよー」


「へへへ、ごめん」


あせあせと謝る私にねねっちはジト目を向けてくる。それから目をそらしてほたるんの方を見る。


「これ、果物買ってきたんだ元気がない時は栄養付けなきゃ」


「ありがとう」


ほたるんからみかんを受け取り皮を剥いて食べようとすると八幡が温かい目で私を見ていた。


「どしたの変な目して」


「いや...ただお前明日大きめの袋持ってきた方がいいぞ」


「どゆこと?」


意味がわからず首を傾げていると、ほたるんとねねっちの間でどうして風邪をひいたのだろうかという話になった。


「どうせ北海道のお風呂で調子乗ったからでしょ〜」


「お風呂?」


「ち、違うよ!お風呂はぜんぜん関係ないし!!」


「しょっちゅう出たり入ったりね。もう子供なんだから」


「えーそんなことしてたの?」


「ねねっち〜!...は、八幡もなんとか言ってよ!」


さりげなく帰る用意をしていた八幡の背中にそういうと、八幡は振り向いて「自業自得だろ」と小声で言った。


「だよねー!」


「だいたい夜にあんな長湯してたらそりゃ風邪ひくわ」


「そ、そうかもしれないけど...ん?なんで八幡が私がお風呂に入ってたの夜だってわかるの?」


「俺もその時間入ってたからに決まってんだろ。なんならその時なんて言ってたかも聞こえてたぞ」


え、嘘!?と八幡を凝視するが表情から察するに本当に聞こえていたらしい。あわわわと恥ずかしさで固まっているとほたるんが八幡に尋ねた。


「なんて言ってたの?」


「ダメダメ!言わないで!」


「いいじゃん聞きたーい!」


「もうねねっち!」


「確かなー」


「あーもうやめて!八幡のいじわる!」


そんなこんなで騒がしい夕方のひと時を過ごして、3人が帰った頃には私の熱は完全に下がっていた。ありがとう、ねねっち、ほたるん。
ついでに...八幡も。本当にありがとう。

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