女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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オリジナルストーリーです。そういえばディスティニィーランドのペアチケット貰ってるのに使ってないなと思ったので。
それに今の青葉と八幡には丁度いいかと。


長くなったから二つに分けました。ついでに言うと原作準拠だと八幡が完全にクズ男になるので、話の順番を変えます。
詳しくは後書きで。


俺は明日、明日の涼風とデートする。(前)

屋上。

そこは俺にとって思い出深い場所だ。中学の時は立ち入り禁止だったから入ったことはない。高校もそうだったが、鍵が壊れていたため、少し知恵を働かせれば簡単に入れるようになっていた。

 

 

初めて訪れたそこは、とても落ち着く場所だった。風当たりもよく、誰1人居ない。

放課後の生徒は大体が部活に勤しんでいる。そのため、入ってくるのは俺のようなすることも無く、居場所もない人間くらいだ。

 

 

黒のレースを見るのを引換に俺の職場見学調査を見られたり、文化祭の日は学校一の嫌われ者になった。

それ以降はあそこには近づかなかった。トラウマになったというわけではないが、あまり行く意味もなかった。

 

 

イーグルジャンプのビルの屋上は高校の屋上とよく似ていた。違う点も喫煙者用に置かれた灰皿くらいだ。

ベンチもあるわけではないが休憩するには丁度いい空間だ。あまり人が来るわけでもないから落ち着けるし、個人的にはとても好きな場所だ。一番好きなのは、自宅なんですけどね!小町に会いたいとは切実な思いだ。

 

 

「よっ」

 

 

「……」

 

 

ガチャりと屋上に通じる唯一の扉が開かれる音がし、振り向いてみると俺と同じく片手にマッ缶を持つ涼風がいた。扉を閉めてこちらに来る涼風に軽く挨拶をしてみたが反応はない。すごく悲しい。

そんな思いはいざ知らずと涼風は俺の隣に来ると、マッ缶のタブを開けて口に近づける。

 

 

そういえばこいつとは最近、当たりが強くてこちらからあまり話しかけることがない。というか元からなかったですね。つまり、より一層なくなったというのが表現としては適切かもしれない。

ぷはぁとマッ缶から口を離して大きく息を吸うと涼風は俺の方を向いて、こう言った。

 

 

 

「明日、デートしよっか」

 

 

 

「……はい?」

 

 

###

 

 

翌日、俺は珍しく早起きをした。理由は最近様子のおかしい同僚に突然デートしよとか言われたからなのだが。

てか、付き合ってないもないのに男女が遊ぶことをデートというのは間違ってる気がする。違うと言ってよ、バーニィー。

 

 

電車に揺られながら昨日のことを振り返る。

 

 

『デートって……どこ行くんだよ』

 

 

『ほら、比企谷くん去年の冬にディスティニィーランドのペアチケット貰ってたじゃん』

 

 

『あーそういえば』

 

 

興味がなかったのと、行く相手がいなかったからすっかり忘れていた。有効期限とかあった気がするが大丈夫なのだろうか。そこのところを確認すると涼風はにっこりと笑う。

 

『遠山さんに聞いたら1年以内って言ってたから大丈夫だよ』

 

 

 

ということで行く運びになったのだが、仕事のために住居が変わってるから行くのに少し時間を要していた。なんで東京ディスティニィーランドなのに東京にないんだよ。いや、俺が千葉から離れたのが悪いんですけどね。

 

 

目的地の舞浜駅に着くとガラス越しに見える白亜の城などの景色が飛び込んでくる。

高2の時も平塚先生が結婚式の二次会で2回も当てて、それを貰って取材とか言って来たがほとんど遊んでたな。

 

 

まぁ、俺は妹へのクリスマスプレゼント選びとか分断されて強がり負けず嫌いの冷血少女とジェットコースターに乗ったり、振られて砕けた後輩を元気づけたりしたわけだが。

 

 

純粋にここで遊ぶのは久しぶりな気がする。駅の中からもうディスティニィー感が凄いのだが改札を出ればもっと凄かったりする。

キョロキョロと涼風を探すとまだ来ていないらしく、暇なので隠れパンさんを見つけようと壁を見つめていた。

全然パンさんいないじゃねぇか……この壁……不快!

 

 

「比企谷くんー、おまたせー!」

 

 

怒りのみずうみに溺れそうになっていると、やっと待ち人が来たらしい。そちらを見ると、その姿に目が止まる。

クリーム色のカーディガンに、白と青のギンガムチェックのワンピース、黒のパンプスに襟付きソックス、そしてクマさんポーチと、普段のスーツ姿とは打って変わって真面目さから可愛さにステータスを全振りしたコーディネートだ。

 

 

「ごめん、待った?」

 

 

「いや、少し前に来たところだ」

 

 

今の季節感からすれば涼風の服装は体温調節が容易だし、見てるこちらも涼しく感じる。あれか、涼風だから涼しい風でも吹かせようという魂胆なのだろうか。

 

 

「よし、じゃ行こっか」

 

 

そう言って歩き出した涼風に並ぶように俺も足を進める。

平日の開演よりも少し前に来たおかげで思ったよりすぐに入ることが出来た。

ビンゴゲームで当てたペアチケットを見せてエントランスゲートから広場へと移動する。

 

 

最後に来たのは冬の季節だったが、春に来たのは初めてだったりする。夏はウォーターイベント、秋はハロウィン、冬はクリスマスとかやってるけど春はこれといったイベントが少ない。強いて言うならイースターという卵の祭りくらいだろうか。

 

 

しかし、それでも人は多く、休日ほどの喧騒ではないがやはり人混みには苦手意識がある。涼風はどうなのだろうかと思うと「ほぇー」とアラレちゃんみたいな声を出していた。

 

 

「なんだ、来るの初めてなのか?」

 

 

「うん!テレビでは見たことあるんだけどね」

 

 

涼風の事だから桜とかとよく来るのかと思ったがそうではないらしい。俺の意外そうな顔に涼風はこちらを覗き込むような体制になる。

 

 

「こういうテーマパークはあんまり来る機会無くて。バイトとかしてなかったから」

 

 

親にでも言えば金くらい出してくれるだろうに。一人娘とならば、甘えれば父親がサクッと札束をくれると思うんだが。

 

 

「それにお小遣いはゲーム買ったり、洋服に使ってたりしたから」

 

 

「なるほど」

 

 

確かにゲームとか、趣味があるとこういう場所には滅多に来ないだろう。涼風からしたらせいぜい、電車で通り過ぎたり、行けたら行きたいレベルの場所だったのだろう。

 

 

「さてと、まずはなに乗ろっか?」

 

 

目を輝かせながら園内のマップを広げる涼風。

 

 

「……あれとか?」

 

 

俺は振り返って、駅から出てきた京葉線の電車を指差す。

 

 

「まだ何も乗ってないのに!?」

 

 

いや、乗ったじゃん。電車に。

 

 

「もう……じゃ、これ乗ろ。これ」

 

 

そう言って涼風はずかずかと足早に進む。子供かよ……そう思ってる間に結構先に行ってしまった。あれだな、気持ちと足の速さが追いついてるな。普段は逆なのに。そう思って歩きだそうとするとギュッと手が握られる。

 

 

「もう遅いよ、ほら行こっ?」

 

 

あまりに遅かったのか急速に戻ってきた涼風に手を握られ、引っ張られる。それに少しの恥ずかしさを感じたが俺は何も言わずただ純粋で楽しげな顔をする涼風に身を任せた。

 

 

 

###

 

 

「はー楽しいね!」

 

 

「そ、そりゃよかった……」

 

 

ジェットコースター系のアトラクションを3つほど乗ったところでやっとベンチに座れた俺は背もたれに全体重を預ける。

遊園地に来るのは初めてだとか言ってたわりには涼風は絶叫マシーンに乗っても平気どころか、逆にパワーアップして手を挙げたり大声を出したりしていた。それに比べて俺はというと……年老いたじいさんのようにかなり疲弊していた。

もう高速でグルングルン、上り坂と下り坂をピュンピュンしてたらそりゃ気分も悪くなる。

 

 

「……お前ジェットコースターとか乗ったことないんじゃねぇの?」

 

 

「え?そうだけど?」

 

 

「そのわりにはピンピンしてるな…」

 

 

「うん、思ったより怖くなかった!」

 

 

こういう頼もしさを仕事でも発揮してくれるといいんだけどな。

 

 

「よし、じゃ、次いこー!」

 

 

「おー…」

 

 

もう少し休ませて欲しいが、元気りんりんな涼風は次のアトラクションへとスキップ混じりに歩いていく。

なんだか、中学生の娘と遊園地に来たお父さんの気分だ。次の父の日に親父になにか贈ってやろう。

 

 

###

 

 

涼風に振り回されてるうちに空は点々と僅かだが星が見える頃合になってきた。

春でも夜に吹く風によって少し肌寒く感じてしまう。

昼食を摂った後も涼風の興奮は収まることを知らず、いくつかアトラクションを回り、美味しそうなフードがあれば食べて、家族や会社へのお土産を買ったりと休む暇もなく時間は過ぎていった。

 

 

途中、休憩は取ったのだがそれも数分程度で「次あれ乗ろうよ!」と涼風が目に入ったアトラクションを片っ端から乗っていったため、かなり疲れが溜まっている。しかし、意外にアトラクションに乗ってる時が一番休めていたりする。

 

 

「時間もそろそろあれだし最後になんか乗ろうか」

 

 

「まだ乗んのかよ…」

 

 

「え?嫌…だったりする?」

 

 

「いや、次で最後だと思うと気が楽になった。さっさと行こうぜ」

 

 

早く帰りたい。その一心である。

 

 

「でも、乗るって言ってももう乗ってないのほとんどねぇだろ」

 

 

「あるよ。ほら、夜に乗った方が綺麗だってネットに書いてたから……あ、あれ!」

 

 

誰だよそんな迷惑な口コミした奴はと涼風の指差す方向を見ると、思わず息を呑む。

 

 

『いつか、私を助けてね』

 

 

ささやき声で言われたその言葉は今でも鮮明に覚えている。なぜなら、あれは初めて雪ノ下雪乃が口にした願いだったから。俺は助けることが出来たのだろうか。そんな不安に駆られていると、涼風に手を掴まれる。

 

 

「ほら、行くよ」

 

 

「あ、あぁ」

 

 

スプライドマウンテン。コースター系の乗り物であるが、最初はファンタジーの世界をゆっくりと回り、最後に湖へと急降下するアトラクションだ。

待ち時間は15分とかなり短く、ファストパスを取っていたからすぐに乗ることが出来た。

 

 

俺より先に涼風が乗り、その隣に俺が座る。今更だが、ケーキを食べたことはあったがこいつと2人でこうやって遊ぶのは初めてじゃないだろうか。

ライドがゆっくりと動き出し、ファンシーな音楽が流れてくる。冬仕様とは違うのか全体的に暖かい雰囲気の物語だ。

今回も涼風は子供のような目でそれらを楽しんでるのかと思えばそうでもなかった。

視線は俯いていて、表情は窺えない。もしかしたら、ここにきて疲れが出たのかもしれない。声をかけようとすると涼風が小さな声で話し始めた。

 

 

「ごめんね、比企谷くん」

 

 

唐突な謝罪に俺は押し黙る。なにか謝られるようなことをされただろうか。考えれば思い当たることはいくつもある。それも些細なことだ。

 

 

「なにがだ」

 

 

カエルたちが水場ではしゃぎまわり、水しぶきを立てるのを見ながら聞き返す。ゆったりと進むライドのように、涼風もゆっくりと話す。

 

 

「最近、勝手に機嫌悪くして比企谷くんに八つ当たりとか…怒ったりしたこと。ほんとにごめんね」

 

 

「……まぁ、慣れてるから別にいい」

 

 

事実、昔から理不尽なことで言いがかりを付けられたりするのはよくあったことだ。それの対処法も対応も熟知している。今回で言えば、ほとぼりが冷めるまで待っているだったが、当たりだったらしい。

 

 

「そっか…よかった……」

 

 

胸を撫で下ろし、安心したように息を吐く涼風。どういうわけで機嫌が悪かったのか、俺がそれを尋ねると涼風は急に固まる。周りが暗くて表情は見えても顔色がよく見えない。

 

 

「それは…その…比企谷くんが…」

 

 

え?俺?なんにもしてなくない?あれですか、顔見てたらイラつくみたいな?それ、バイトしてる時よく言われたわー。でも、生理とか便秘じゃなかったんだな。八幡大安心。

 

 

「他のみんなと…なんていうか…」

 

 

ボソボソと口ごもる涼風に首を傾げているとアトラクションは佳境に入り、前方から水面に反射した光が見えてくる。

それを見て涼風が落ちる前に何か言おうと思ったのか、ばっと顔を上げる。

 

 

「八幡!」

 

 

涼風が俺の名前を呼んだ時、ライドは外へと出た。そのまま一気に急降下するのではなく水平に止まる。そして、見えたのは夜空の月に照らされたディスティニィーランドのアトラクションを象徴する火山、ジェットコースター、巨大なパンさん像。

それと同時に頬を赤くした涼風の顔がはっきりと俺の目に映る。

 

 

「私ね」

 

 

目の前に映るのはこの世には二つもないだろうこの季節に合わせた電飾でライトアップされた美しい桜色の城。それと相揃って、顔を赤らめる涼風が可愛らしく見えて息が詰まる。涼風は右手を俺の手の上に乗せる。小さく見た目相応の白い肌の手はまるで今日見た白雪姫のようで、心臓が高鳴る。

 

 

「絶対、手に入れるから。待っててね」

 

 

今日一番の笑顔で放たれたその言葉に「何を」と聞き返すこともできず、俺達は湖の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 




多分、いいところで終わってると思います(計画通り)
屋上の話で「焼いてかない?」とか入れたかったのは別の話。

このまま続けると恐らく1万文字いくので切りました。後編はそんなに書いてませんがそれでも1500くらいだったので……。
いつもが2900~4000文字くらいなので少し長いかなーと。


本来はゆんデート、はじめデートの予定でしたが、流石に3回連続デートはシャレにならないと思ったので変更。
原作では2人の過去編的な感じの話で1話なのですが、それだとつまらないかなーと分割してデートさせることに。

もともと、今回は原作の「キービジュアル」の話を入れるはずでしたが、その前に青葉と八幡の話を書いておきたかった。


そのため

後編→キービジュアル→ゆんorはじめデート→サプライズ面接→ゆんorはじめデート となります。自分で話を長くしてるあたり俺はドMなのかもしれない。一応、3つ目のデート回で原作4巻までの話は終わりになります。おそらく、アニメに先を越されると思いますが気長にお待ちください。


だって、待ってますって……言われたし……。




次回は所用で2日後に出ます。ゴメンネ!ではでは~( ˇωˇ )

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