女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
勝ち取りたい!物もない!
無欲なバカにはなれない!
今更ですが、「僕はカルボナーラ」ネタで沢山の感想ありがとうございました。
モンハンの小説書きたい
睦月はもうすぐ終わり、来月には大学、高校受験生がいい加減に本気をだそうという頃。俺はというと、いつも通りパソコンの画面に目線を釘付けにして作業を行っている。自分の仕事をノルマ分終わらせてMAXコーヒーを飲もうと給湯室に行ったら、どういうわけか、うみこさんにバグの修正を委託されてしまった。
まぁイレギュラーな仕事には高校から慣れっこだし、今日は変なこと、変なネタを口走らないように頑張るぞい!
ちくしょう!早速、使いやがった!だいなしにしやがった!お前はいつもそうだ。
この脳内はお前の人生そのものだ。お前はいつも失敗ばかりだ。
お前はいろんなことに手を付けるが、ひとつだってやり遂げられない。誰もお前を愛さない。
「し…進捗どうですか!!」
そんなやり取りを脳内でしていると、3D作業の締切が翌日に迫ったキャラ班のブースでそんな声が響く。八神さんに変わってリーダーとなったひふみ先輩がゆん先輩に作業の進捗確認のために声をかけたのだが、思ったより声が大きく、声をかけられたゆん先輩も近くに座っている俺と涼風もビクッとなる。
「あ、あした〆切だと思うけど大丈夫…そう?」
「……はい、大丈夫ですよ」
遠慮がちに聞かれたゆん先輩は少しだけ動揺しつつも答える。
「わかった…がんばって...ね!」
「は、はぁ…」
ちょっとゆん先輩、その反応は失礼でしょ。ひふみ先輩ががんばってとか言ってくれたし、話すのが苦手なのに声をかけてくれたというのに。俺なら頑張るびぃとか言って返すくらいだ。あ、まただいなしにしやがった!
「あ、青葉…ちゃん!」
「はい」
「進捗……」
おそらく、この流れだと俺の方も聞かれるのだろう。なんて答えようかな。暇すぎて家でやったからもう終わっててプログラマー班の仕事をやってますとか、できるヤツすぎてやばい。もうこのまま会社に使い倒されて生涯を終えそうである。
ゆん先輩はまだ終わってなさそうだが〆切には間に合うだろうし、涼風の方はキャラデザの仕事があったから遅れてるらしい。俺はとりあえず、出来てるけど出来てないということにしておこう。
……で、俺には進捗聞かれなかったんだけど、そのへんどうなのよ。
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どんなに忙しい時でも昼休みがあるのは当たり前で、会社のビルの休憩室にはそこそこだが人がいる。ほとんど女性ばかりで男一人だと息苦しく感じる。いつも通り一番目立たない電気のついていない端っこの席に陣取ると、袋からここに来る時に買ってきたおにぎりやらマッ缶を取り出す。
「ちょっと隣ええかな?」
おにぎりのフィルムを剥がそうと手を伸ばすと珍しくゆん先輩が話しかけてきた。しかも、昼食時とはさらに珍しい。色違いのポケモンと遭遇するのと同じ確率じゃね?あ、そんなことないですか。
「構いませんが」
俺がそう言うと、ゆん先輩は机にランチボックスを置き椅子に腰掛ける。
「そういえば、八幡とご飯食べるの久しぶりやね」
夏休みのラーメン以来ですかねぇ。あの時は女子の体重に対する観念が聞けてよかったです。そんなことは言わない。多分、何か俺に用があってきたことは明白だ。もし、そうでないとしたらありがたい。人の悩み話を聞いても、俺自身に解決はできない。当人の悩みの解決は当人とそれに関わってる人物にしかできないのだ。あれ?もしかして、俺知らない間に関わってたりする?そんなことない?
「八幡はひふみ先輩がリーダーってどう思う?」
「えぇ…どうって……」
「八神さんの時と比べてやりやすいとかそういうの」
ヤリやすい……?いや、やったことないから分からんけど……。
うん?なんだか、変な誤解をしてる気がします。つまりはあれか?八神さんとひふみ先輩。どちらがリーダーの時がモチベーション上がるとかそういう話だろうか。
だとしたら、あんまり変わらないなぁ。やることは変わらないし、怒られるようなことはしていない。せいぜい、遅刻が数える程度くらいだ。まだひふみ先輩がリーダーになってからはしてないのでわからんが、八神さんは「またか」と平塚先生みたいな小言くらいしか言わないし別になぁ。というか、最近八神さんが第2の平塚先生に近づいてて不安です。遠山さん早く籍入れてよ!
「八神さんと違って無茶な注文はないんじゃないですかね。」
「せやなぁ。怒ってくれなさそうやし」
まさかとおもうがこの人、進捗そんなに進んでないのでは?
八神さんの時なら間に合わなかったら怒られて終わりだが、ひふみ先輩ならどうなるか分からない。てか、あの人なら「一緒に頑張ろう」とか言って待ってくれそうだが。
「怒ってほしいんですか?」
「そんなことはないけど……」
「怒る方も怒られる方も疲れますから、怒られない、怒らせないが一番ですよ」
「そんなん……わかっとるわ……」
俯いたゆん先輩は落ち込んだような表情で箸を置く。
俺は滅多に怒らないが、怒られることは多い。怒られると逆恨みするやつが多いが怒られるのは自分が悪いことをしたからだ。そうと分かっていてもイライラするのは相手の言い方がわるいか、お前が言うなやら色々と理由はある。
しかし、怒るのはいけないからとかそうではないのだ。
正しい道を歩んで欲しいからだ。愛があるからだ。
どうでもいいやつが失敗したところで怒る必要はない。呆れるか、嘲笑うか、切り捨てるかだ。でも、ひふみ先輩も八神さんもゆん先輩を必要としているからそんなことはしないだろう。
この人もそれは分かってるはずだ。ひふみ先輩はおそらくだが怒りはしない。八神さんのように厳しく言って見逃すということはない。多分、手伝ってその失敗を成功に変えようとしてくれるだろう。
「……もし、叱ってほしいなら叱ってくれって言えば叱ってくれると思いますよ」
「ええ?」
「じゃ、俺もまだ仕事あるんで」
袋にゴミを詰めて包むと俺は席から立ち上がりその場を立ち去る。
コスプレイヤーだし、夏コミの時あれだけ演技出来てたんだから借り物の怒る演技くらいひふみ先輩なら余裕だろ。
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「私を叱ってください!」
ふむ、おかしいな。エレベーターから出た瞬間にゆん先輩の口から唐突なドM発言が聞こえてきたんだが。てか、昨日言ったな。叱られたいなら叱ってと言えばいいって。
どれどれとこっそり覗こうとすると目に入ってきたのは髪を払いのけ、表情をガラリと変えたひふみ先輩。クスリと冷淡な微笑を浮かべると目を細める。
「…嘘つくなんて悪い子ね。ダメでしょ?」
「へ……?」
いつものオドオドした雰囲気と打って変わった声音、目つき、仕草にゆん先輩は間抜けな声を上げる。紅潮させた頬を舐めるように手をすべらせると、その手をゆん先輩の顎に置いてひふみ先輩側に引き寄せる。
「ごめんなさいは?」
艶やかな唇を動かし発せられたその声はゆん先輩の心を優しく握りつぶすようで、恥ずかしげも無く顎クイをするひふみ先輩に対してトマトのような顔色になったゆん先輩は舌足らずになる。
「ご、ごめんなひゃい……」
そんな非常に百合としての完成度1000%な状況に空気を読めないバカがやってくる。
「おはようございまー…………」
KYの涼風は目の前のひふみ先輩がゆん先輩を顎クイをポカーンとして見るやいなや、かなり衝撃的なところを後輩2人に見られたひふみ先輩は顔を一瞬でいつも通りに戻したというか、なってしまいその場に顔を隠すようにしゃがみこむ。
「調子乗りすぎたーー!ううう〜〜〜!!!」
「あーもう!結局泣くんかい!」
その状況をどういうことか分からず終始「???」となっていた涼風。泣きわめくひふみ先輩を宥めるゆん先輩。そして、頭痛に襲われたようにこめかみを抑える俺。
今日もイーグルジャンプは平和らしい。
次回、死のバレンタイン!