女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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お久しぶりです


叶えるのが夢だけど
叶わなくても夢は夢さ

Happy Birthday……俺。


比企谷八幡はついボヤいてしまう。

 

 

「うわ、すげぇ雨だな」

 

 

カッパを畳みながら、ドアの外を眺めてそう呟いた。さっきまで自分がいた時は小雨程度だったが今ではドアを打ち付けるように風が揺らしている。

 

 

エレベーターから降りて自分のデスクに向かう。2日ぶりのデスク周りは何故か綺麗に片付けられており、ゴミ箱を見れば俺の積み上げたマッ缶が捨てられていた。誰かは知らんが余計なお節介サンキュー。マスターアップ前なのに休んでいいのかと思っていた俺だが、どうやら会社は俺がいなくても廻ってるらしい。

周りを見れば、ほとんど誰もおらず、どうやら皆会議やら打ち合わせやらで忙しいらしい。

 

 

 

それに比べて俺はというと。

 

 

「平和だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は顔や目つきは父親に髪型は母親に似てしまったらしく、それでこのような死んだ魚のような目やら、まるでゾンビとか言われてるわけだ。

それに対して、親愛なる絶対護るべき絶世の妹というと、顔も髪型も母親よりになっている。父親と似ているところといえば少し勘が鋭いということくらいでそれ以外は全くないと言っても良い。親父が小町を溺愛するのは母ちゃんに似てるからなのか、それとも単純に可愛すぎるからなのか。多分だが、どちらもそうなのだろう。

 

 

 

最近、俺は周りが女性ばかりの職場に放り込まれて、たまにだが、こんなことを考えてしまう。

もし、俺が女子だったなら少しは青春ライフを謳歌出来ていたのだろうかと。

 

 

女子なら体つきは華奢になり、目も多少はキラキラするだろうし、肌も綺麗になり、今よりはかなりマシに見えるはずだ。それに学生時代の物静かな性格でもクール系とやらが好きな男子は多いのでモテる可能性はある。

 

 

女子なら恋人がいるからといって青春は輝くとは限らないが、雪ノ下と由比ヶ浜、涼風と桜のように親友という関係とやらには出逢えたのではないだろうか。

 

 

 

「でも……女の子って……結構、めんどくさい……よ?」

 

 

 

あー、そーらしいな。小町も言ってたわ。女の子同士が喧嘩するとめんどくさいって。なんか陰湿になるらしいな。あからさまに無視したり、お菓子のゴミ入れられたり、掃除の後自分の椅子だけひっくり返されたままだったりとか。で、それっていつの俺の話?

 

 

 

「ご、ごめん……わからない……かな」

 

 

 

いやいや、謝ることは無いですよ。これは俺の単なる独り言というか妄言ですし。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「どうしたの……?」

 

 

誰かに受け答えされていて気になったのだが。もしかして、声に出てたか?てか、さっきから女の子がめんどくさいとか、謝ってるのって誰?

 

 

「私……だけど?」

 

 

 

まさかのひふみ先輩でした。

 

 

 

「……いつから声に出してました?」

 

 

 

 

「比企谷くんの目がお父さんより……ってとこから」

 

 

 

全部じゃないですか。恥ずかしい、穴があったら沈みたい。

それで綺麗な比企谷八幡になりたい。

 

 

「すんません……」

 

 

「え……いや……こっちも、ごめんね……」

 

 

 

なんだこの微妙な空気。

誰もいないからといって気を抜いてひとり言を言ってしまった俺が悪いのか、たまたま隣にいたひふみ先輩が悪いのか。俺くらいになると集中力を上げるために変なことを考えながら作業して、つい口に出すことはある。それを偶然誰かに聞かれても特に気にしないが、相手が相手だったりするのでそうもいかない。とりあえず、この空気を何とかしよう。

 

 

 

「ところでひふみ先輩はどうしてこちらに?」

 

 

思えば、なんでひふみ先輩が隣に座っているのか疑問でしかない。隣は涼風とはじめ先輩でひふみ先輩のデスクからは少し離れている。今日は涼風は会議出てるし、はじめさんも葉月さんのところに行ってるし。ゆん先輩は弟妹がどうとかで確か午後からだったはずだ。なので、このブースには俺とひふみ先輩のみ。奥には八神さんと遠山さんがいるわけだが、あの2人もどうやら葉月さんのところに行ってるらしい。つまり、俺以外は会議かな?

 

 

「あ、私は……リーダーだから……やることやらないと……」

 

 

リーダーなら会議に出なきゃいけないんじゃないんですかねぇ。

しかし、ひふみ先輩がここにいるということは会議ということではないらしい。おおよそ、打ち合わせとか仕様書の確認といったところだろう。

 

 

「やることやるにしても、机そこじゃないんじゃ……」

 

 

「……だめ……かな……?」

 

 

ダメではないと思うんですが、むしろありがたいけど緊張して変な汗でるのでちょっと離れて欲しいというかごめんなさいありがとうございますというか。何考えてんだ俺。

 

 

「青葉ちゃん、少し遅れてるから……お手伝い……してるの」

 

 

「あぁ、なるほど」

 

 

優しいな、ひふみ先輩。俺も遅れたらお願いしたいぜ。そしたら、俺の椅子にひふみ先輩が座るわけでしょ?考えただけでもなんだかね。

 

 

 

どうでもいい話、俺が会社からいただいた休みの間に色々と変わっていた。いつの間にかひふみ先輩がキャラ班リーダーになっていたし、葉月さんの額にはガーゼが貼られていた。

 

 

あと、ひふみ先輩手作りのおせちを食べたらしい。ずるい。みんないなくなればいいのにな。

 

 

 

「比企谷くんは……遅れてるとことか……ない?」

 

 

 

「今のところはないっすねー」

 

 

休みの日、暇すぎて家でも仕事してたからね。アニメ観ながらだけど。何かしら作業する時には音楽(アニソン)やらテレビ(アニメ)つけたりすると意外に捗るものだ。逆も然りだけど。

 

 

 

「あのさ……」

 

 

「はい?」

 

 

「私が……リーダーで不安とか不満ない……?」

 

 

 

ひふみ先輩がリーダーになった経緯はだいたいは把握してる。前リーダーの八神さんがADをやるので、これからの事も考えて実力のあるひふみ先輩がリーダーに抜擢されたらしい。それに対して俺は不満はないが、不安はないと言えば嘘になる。

 

 

 

「そうですね…」

 

 

 

ひふみ先輩はとても優しい。それでもって可愛い。ひふみ先輩の抱き枕とかあったから欲しいし、毎日話しかけられたい。めぐり先輩のような人の心をリザレクション効果がある。だが、この人は恐ろしく不器用だ。手先は器用だが、言葉や感情があやふやだ。思ってることを口に出さないこともあるし、自分ではダメだとネガティブに考えている。そういうところが不安要素だ。何がダメで、どこを直せばいいかをこの人はちゃんと言ってくれるのだろうか。ご機嫌を窺って、人の顔色を見て話さないかが不安だ。ゆん先輩はそういうのは嫌うだろうし、涼風も気にしてしまうだろう。

 

 

そんなのは偽善だ。自分の感情や言葉を押し殺してまで得る信頼や友情に何の意味がある。

 

 

 

「何か困ったことがあったら俺を頼ってください」

 

 

 

俺に出来ることは精一杯やろう。

ダメと言われたら、いいと言われるまで直そう。

もし、お願いされたら自分に出来る範囲で助力しよう。

いや、出来なくてもできるように共に努力しよう。

そういうのはあまり得意じゃないが、嫌いじゃない。

 

 

 

「……うん……わかった……」

 

 

 

 

その時向けられた笑顔は先ほどまでの不安に押し潰されそうな顔とは一変して、美しく守り続けたいと思わせるそんな笑顔だった。しかし、それもすぐに変わり一気に肌を紅潮させ可愛らしくハリのある唇が開く。

 

 

 

「じゃ……八幡……って呼んでもいい……かな?……ほ、ほら、も、もう……1年経つし……」

 

 

 

 

まぁ、それくらいなら。全然俺に出来る範囲だ。

だけど、やっぱり慣れないことは言うもんではないな。

 

 

そう思った俺は居心地悪そうに頬を掻きながら頷いた。

 

 

 

 




これで3巻収録話終了。(無理矢理)やったぜ。

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