女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

43 / 111
一度やってみたかったネタを仕込みました。
忘年会って年明けにもやってるとこはやってるよね!!!!


葉月しずくは自由奔放である。

 

 

 

正月というのは日本人にとっては約束された勝利の休みみたいなイメージがあるが、そんなことは無い。休めば休んだ倍以上の仕事が待ってるわけで休めば休めるのは学生だけなのだ。大学生の夏休み、冬休みはとことん長いが小中高生の冬休みは2週間程度と短い。しかし、社会人の冬休みはもっと短い。

 

 

 

「お前14日も休めるの?俺2日だよ。俺の冬休み2日だけ」

 

 

そんな話を初詣を終えて久しぶりに実家に帰った時に小町に愚痴ったものだ。そういえば、涼風は今朝桜に羽根突きに誘われたらしいが断ったらしい。まぁ、仕事だもんな。はじめさんに呼ばれて身体を向けると白い紙をテーブルに置く。

 

 

 

「さてと、疎かにしてた忘年会の場所決めちゃおうか」

 

 

忘年会とは年末から年明けの2周目あたりに催される宴会の事である。一般的には、その年や前の年の苦労を忘れるために執り行われる宴会であり、特に宗教的意味付けや特定行事様式は無いのだが、一発芸やらビンゴ大会が用意されていたりとぶっちゃければ社会人の打ち上げのようなものである。

 

 

イーグルジャンプはベータ版の提出やらで忙しかったので年をまたいで今年の1月中にすることになった。別にしなくてもいいと思うんだけどね。親父のところは年末にちゃんと済ませたらしく、親父は出し物でモノマネをしたらしい。何のモノマネかを聞いたらムスッとしていたが母曰く、ピングのモノマネらしい。ペンギンなら今旬のコウテイペンギンちゃんにしろよ。そんなことを思ったが口にはしなかった。

 

 

「てか、なんで俺らが……」

 

 

そんな本音をこぼすとゆん先輩は苦笑いを浮かべる。

 

 

「まぁ、若手の宿命やな」

 

 

そうか若手か……あの人もう三十路だから若手じゃないんだろうなぁ……。いや、新しい先生が入ってこない限りは最年少キープ出来てるのかもなー。あはは、可哀想だからまた今度飲みに付き合ってあげよう。そうしよう。

はじめさんは腕を組むと真剣な表情で話を切り出す。

 

 

 

「忘年会兼納会…その幹事の責任はとても重く、上手くこなせたかどうかで来年の評価も変わってくるからね」

 

 

 

はじめさんの言葉に涼風はゴクリと喉を鳴らすと口を開く。

 

 

「も、もし失敗したら……」

 

 

「これからずっと空気読めない子扱いだよ。それに成功しすぎてもダメなんだ」

 

 

「え、なんでですか」

 

 

 

「今後ずっと幹事をやらされることになる」

 

 

「ひぃぃ!」

 

 

幹事のなにがめんどくさいかと言うと日程調整から予算配分、お店の下調べから予約まで全て一任されるため、自分のことで手一杯なのにそんなことを任される立場といったらたまったものではない。

 

 

「成功し過ぎず、失敗し過ぎず……難しいですねどんな感じなんだろ」

 

 

 

「まぁ適当に無難な店でパァーとやれればいいんじゃね?どうせ酒飲んで忘れるんだし」

 

 

我ながら的確だと思う。親父のモノマネとやらも忘年会中は高評価だったらしいが次の日には二日酔いでほとんどの人に忘れ去られていたという。ならば、酒が飲めてつまみが美味い店に連れてけばある程度は満足するし不満があったとしても酒が忘れさせてくれるだろう。ほんと、酒、飲まずにはいられない。

 

 

「でも、それじゃあ来年の私達は記憶に残らない社員になってしまうのでは」

 

 

「は?」

 

 

「記憶に残らない社員より、空気の読めない社員の方がいいのでは」

 

 

 

「確かに記憶に残らなくて来年も任されるより、空気読めなくて来年からやらなくていいと考えると……」

 

 

涼風の意見に納得しそうになっている所をゆん先輩に止められる。

 

 

「夫婦漫才か!!だいたい幹事ゆうてもたまにあるくらいやろ?いいお店選んだ方がみんな喜んでくれるしええねん。それにここで上手く立ち回れば仕事が出来るイメージもつくやろし、頑張って損なんてない」

 

 

ゆん先輩の言葉に固まる俺たちを見てゆん先輩が動揺したのか「な、なんや?」と交互に顔を見やると俺はまたもや思ったことを口にする。

 

 

「なんかヤフー知恵袋のベストアンサーみたいっすね」

 

 

「どういう意味!?」

 

 

うむ、どうやら上手く伝わらなかったようだ。

とりあえず、パソコンを使って近場で納会ができそうなお店を調べていく。

 

 

「あ、このイタリアンレストランなんて楽しそうやない?」

 

 

「えーかたっ苦しい…」

 

 

「せやかてうちのチームは女の人ばかりやしおしゃれなとこの方がええやろ!」

 

 

「でもお行儀よくしてたら楽しく話せないじゃん!」

 

 

 

ゆん先輩もはじめさんも記憶に残らない社員にならないために選んでいるようだが、堅苦しくなくて美味しいイタリアンレストランの存在を忘れているようだ。それは何かって?それはね魔法の言葉『サ☆イ☆ゼ』だよ。

 

 

「うー青葉ちゃんは?」

 

 

「ぇ、私は……ハンバー……お酒が美味しいとこならどこでも」

 

 

 

「青葉ちゃん未成年やろ?」

 

 

 

いや、こいつさっきハンバーグの美味しいお店って言いかけてたぞ。多分、20歳越えが多いからこいつなりに気をつかったのだろう。でも、今までの意見を統合するとイタリアンレストランで堅苦しくなくてハンバーグがあって、お酒が美味しいとかサイゼ一択じゃないですかね。

 

 

流れ的に次は俺に質問が来るのかと思ったがそんなことは無く無言の時が過ぎていく。そんな時にぶらりと葉月さんがやって来る。

 

 

「やぁ、納会の幹事をしてるんだって?お店選びは順調かい?」

 

 

「なかなか難しくて……」

 

 

涼風が顔をしかめるとはじめさんがまさかの俺ではなく葉月さんに尋ねる。

 

 

「どこかいいお店知りませんか?」

 

 

「そうだね……メイド喫茶」

 

 

「「「え?」」」

 

 

 

「メイド喫茶がいいと言ったんだよ」

 

 

 

あ、だめだこの人。キリッとしてなんてこと言ってんだ。え?イタリアンで堅苦しくなくてハンバーグとお酒が美味しいメイド喫茶?あるわけねぇだろ。いや、あるのか?材木座あたりなら知ってそうだが。

 

 

「でも、メイド喫茶なんて行ったことないから……比企谷くんは行ったことあるの?」

 

 

「ん?あぁ、1回だけな」

 

 

千葉市内にあるエンジェルと名のつく店が二つあってどちらかに川……川サキサキがバイトしてる可能性があったからな。それっきり行ってない。

 

 

「そうなんだ……」

 

 

「私も行ったことないなぁ」

 

 

 

「うちもないなぁ」

 

 

 

3人が俺を見る目が一瞬だけいつもと違ったんだけど気のせいですかね。あれですか?うわーやっぱりみたいな?でも、由比ヶ浜と雪ノ下のメイド姿は可愛いといえば可愛いが、やっぱり文化祭ではしゃぐ奴にしか見えないんだよなぁ…。それに最近はメイドラゴンが流行ってるわけで人間のメイドの時代は終わったと見た。

 

 

「ふふ、仕方ないね。じゃあここで少し実演してみようか。私と比企谷くんがお客役で君達はそのメモのセリフを読み上げておくれ」

 

 

「え、いや、あの……」

 

 

 

何だか完璧におかしな方向に行ってると思うのは俺だけではないのだろうが、意外にも3人とも渡されたメモを暗記しようとしてるので乗り気なんじゃないかな。俺も促されるまま椅子から立ち上がって葉月さんの横に立つこと数秒。

 

 

「はやく扉を開けてよ!」

 

 

「そこから!?」

 

 

 

そう突っ込んだ涼風は椅子を離れドアノブを捻るようなジェスチャーをすると葉月さんが「ガチャ」と手動音声をつける。そこはあんたがやるのね。てか、自動ドアじゃないのかよ。

 

 

「お、おかえりなさいませ!お嬢様、ご主人様!さ、寂しかったニャン!」

 

 

ま、まさかの猫キャラ!?いや、様になってるけどね!でも、涼風がやると犯罪臭がすごいというか……あ、それは俺がいるからですねはい。にしても、ちゃんと手をニャンニャンさせてるのを見るとこいつマジでメイド喫茶行ったことない発言が嘘に聞こえるな。

 

 

「ごめんよ、仕事が忙しくてね。今日のオススメは何かな?」

 

 

「は?自分で選べへん……ないの?仕方ないわね。私が選んであげる!」

 

 

 

「はははお願いするよ」

 

 

なるほど、ゆん先輩はツンデレメイドさんか。確かに普段の言動に近いから似合ってるといえば似合ってる。

 

 

「はい、レモンティー」

 

 

おかしいなー僕の分がないんですけどー?ご主人様なのに俺のがないんですけどー?

 

 

「あんたはこれ」

 

 

「……」

 

 

ガムシロだけですか……。

まさかのレズビアンなの?それともこういうプレイなの?そんなので興奮する俺じゃないぜ。だから、静まれ……もう1人の僕!

 

 

「あ、待ってにゃ」

 

 

葉月さんがカップを取ろうと手を伸ばしたのを涼風が止めるとカップに向けて手を振る。

 

 

 

「おいしくなーれ。おいしくなーれ。はいどうぞ」

 

 

「ちがうだろ」

 

 

「え?」

 

 

「そこに書いてるだろ」

 

 

 

「え、ほんとに言うんですか、これ」

 

 

「そうだよ」

 

 

どうしてだろうやった葉月さんがタチの悪いお嬢様になってる。あれだな執事やメイドを困らせるわがままハイスペックかな?

涼風はちらりと俺を見ると顔を赤めてぷるぷるしながら両手でハートを作るとそれを前に突き出す。

 

 

「も、萌え萌え キューーーーーーーン!」

 

 

「……お、おう」

 

 

ガムシロに萌え萌えキューンされてもなぁ……。てか、マジでこれだけなの?それともお嬢様に渡しなさいとかそういう事なの?出された品物の対処に困っていると今まで黙りとお盆で胸を押し上げて立っていたはじめさんが手を上げる。

 

 

「あのー……私はこれといってキャラ付けとかないんですか?お盆持って立ってればいいって……」

 

 

「篠田くんはね、だまってるだけで可愛いし、せっかく胸もあるんだからそれを生かすべきだよ」

 

 

「へ……?……ふっ」

 

 

やめたげてよぉ!そんな勝ち誇ったような顔で涼風とゆん先輩を見るのやめたげてよぉ!

 

 

「うん…美味しい…」

 

 

美味しそうな顔でレモンティーを飲まれるお嬢様、どうかこのガムシロもお使いくださいませ。そんな思いが届いたのかと思いきや微笑んだ顔で仕事中のひふみ先輩を見つめる。

 

 

「そこのお嬢さんもこっちにこないかい?」

 

 

「……!!」

 

 

その目はまるでゴミを見るような目で今までひふみ先輩がした事がない目だった。うん、めちゃくちゃゾクゾクした。

 

 

「ふふ、ゾクゾクするねその視線」

 

 

 

それはどうやら葉月さんも同じだったらしい。しかし、何か思いついたのかメモに何か書き出すと俺に渡してくる。どうやら、ひふみ先輩に向かってこのセリフを読めということらしい。なんだよこのセンス…しかもイケボって……はぁ。

 

 

「僕はカルボナーラ……ひふみ先輩は半熟卵……ずっと絡み合っていよう……」

 

 

「……!?」

 

 

やばい、めちゃくちゃ引かれてる。葉月さんは殴りたいくらいに笑ってるし、ほかの3人に関しては他人のフリして納会の話を進めていた。

 

 

 

「比企谷くん……」

 

 

「ひ、ひゃい?」

 

 

「私、カルボナーラより……ペペロンチーノの方が……好き」

 

 

 

あ、そうですか。俺も好きです。さっき好きになりました。いいっすよね具なしペペロンチーノ!

 

 

そして、俺がひふみ先輩の闇オーラに気圧されてる間に納会は結局八神さんの適当な神さまの言うとおりでハンバーグのお店に決まったらしい。なんでサイゼじゃないんだ解せぬ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。