女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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お久しブリーフ。


比企谷八幡は我流を行こうとする。

 

 

朝起きてケータイの画面を見れば「12月24日」

テレビをつければ今日はクリスマスイブ。

メールが来たと思ったら妹からのクリスマスプレゼントの催促。

外に出てショッピングモールを見ればクリスマスセール。

 

 

世間はクリスマス一色で夜になれば光を灯すであろうイルミネーションの数々、道行くカップルや子連れの家族たち。そして、そんな人混みの中で1人、最愛の妹へのクリスマスプレゼントを物色する俺氏。例年のクリスマスではクリぼっちという俺だが、今年は仕事があるじゃあないか!と思っていた時期も私にはありました。そう、休みである。クリスマス前に5日も働いたので社会と会社が俺に休めと命じたのである。

 

 

なので、僕は今1人です。プロトタイプ版に向けて小物とかアイテム担当でモンスター関連のことは何もしてないです。昨日はやることだけやって、帰宅しました。

 

 

別にクリスマスの2日を1人で過ごすのは嫌いではない。むしろ、好きな方だ。1人でビームサーベルで水を温めるガンダムをチキンを食べながら見るのも良し、録り溜めた今期アニメを消化するのも良し。ぼっちにはぼっちの嗜みがあるのだ。

 

 

危機を察知してしゃがみこんで見ていた棚からスッと離れていく。俺の店員さん探知機が発動したからである。ホントにこんな日くらいは俺を1人にして欲しいものである。

 

 

イエス様はこんなことを望んだのだろうか。本日はイエス様の誕生日の前の日。でも、そんなことを気にする人はキリスト教徒くらいなのだろうか。だが、SNSでイエス様は「全部俺が背負うわ」と言ってるし…。

 

 

ゆらゆらとショッピングモールを探索していると、ポケットに入れたケータイが振動している。通行人の邪魔にならぬように端っこの方で立ち止まって、ケータイを耳元に当てる。

 

 

 

『もしもし?ヒッキー?』

 

 

「……どちら様?」

 

 

『私だよ!?由比ヶ浜結衣だよ!!』

 

 

あーそうかそうか。確か、高校時代に俺にヒッキーとかいう不名誉なあだ名をつけた奴がいたような気がする。

 

 

「……で、何?今、忙しいんだけど」

 

 

『嘘だ。小町ちゃんから今日お仕事無いって聞いたもん』

 

 

なるほど。どうやら身内から刺されたらしい。よし、小町にはこれから予定表に嘘も交えて送ろう。てか、別に嘘ついてもバレない気がする。

 

 

「いや、ほら、今あれじゃん?だから俺無理じゃん?」

 

 

 

『なにそれ全然意味わかんないんだけど』

 

 

 

あっちゃーやっぱりだめかー。とりあえず社会人は無理とか言っとけばなんとかなると思ったんだけどなー。

 

 

「で、マジでなんなの?」

 

 

『あ、うん。実はね』

 

 

なんとなくだが、ホントになんとなくだが。ものすごく嫌な予感がする。そう、例えばエロ本を買う所を親か同級生の女の子に見られるくらい恐ろしいことが起こる気がする。ゴクリと生唾を飲み込んで続きの言葉を待つ。

 

 

『ゆきのんと小町ちゃんとさいちゃんとでクリスマスパーティやるんだけど……どうする?』

 

 

 

何そのメンツ、プチ同窓会かよ。いや、別に行きたくない訳ではない。だが、ホントにとてつもなく嫌な予感がするのだ。戸塚と小町がいる時点でものすごく行きたい。しかし……

 

 

「それって、何するかとか決めてるのか?」

 

 

『うん、みんなでビュッフェに行くの!』

 

 

ビュッフェってあれか?オサレなバイキングっていうイメージで合ってるよな?間違ってないよね?チョコレートマウンテンが絶対あるんですよね?知らんけど。

 

 

『大丈夫?これそう?』

 

 

行けないことはないし、金もあるのだ。今月は自分へのプレゼントと小町へのプレゼントしか買う予定なかったから特に使ってねぇし。とりあえず、適当な事言ってバックれる手もあるが、戸塚に会いたい。というか、戸塚と2人きりのクリスマスを過ごしたいです。

 

 

「悪い、ちょっと仕事で立て込んでるんだ。また後で連絡するわ。えっと、何時くらいまでには言っといた方がいい?」

 

 

『うーん、夕方の5時くらいまでかなー』

 

 

 

「わかった。じゃ、また後でな」

 

 

 

 

そう言って電話を切ると、メールが届いていることに気付く。差出人は意外にも八神さん。パスコードを開いてメールを見ると、『プロトタイプ版の作業だいたい終わった記念で晩にご飯行くから予定開けといてねー。てか、空いてるでしょー』と。

 

 

舐めてんのかこのアマ。ついさっき、俺の予定を埋める電話が来たところですよ。作業が終わったのはいいことだと思いますが、早めの打ち上げってことか?よく分からんけど。

 

 

さて、これで俺のクリぼっちを邪魔しに二つの案件が飛び込んできたわけだ。ケータイをポケットにしまって歩き始めると雑貨屋さんに入って小町に似合いそうな小物を見繕う。

八神さん達のクリスマス打ち上げ会(仮称)に行けば…特に何もなさそうだな。いつものパターンだと八神さんと遠山さんとゆん先輩が酔っ払って俺と涼風が苦笑いしながら家に送らねばならない。

由比ヶ浜の方に行けば、今日のうちに小町にクリスマスプレゼントを渡すことが出来、戸塚に会うことができる。あれ?こっちの方が俺に得があるのでは?

 

 

だけど、行かないとうるさそうだし、ひふみ先輩にお酒を注ぐことも出来ない。あれ、なんか卑猥に見えるのは俺だけでしょうか。気のせいですね。まぁ、ひふみ先輩との飯はいつでも行けるだろうし、たまには昔の同級生達と会うのもいいだろう。

 

 

だが、雪ノ下と会うのはやはり気が引けるな。会っていきなり罵倒されるのは予想できるが、あの時のことで何かしら言われることがあるかもしれない。そう考えるとどちらも行かずに家でダラダラしてる方がいいかもしれない。

 

 

小町へのクリスマスプレゼントを買い、ショッピングモールを出ると空を仰ぐ。今日も飛行機が雲を描きながら飛んでいて、ところどころにある灰色の雲が太陽を見え隠れさせている。

 

 

家に帰って、寒さ対策に巻いていたマフラーを廊下に放置し、コートは椅子の背もたれにかけると手を洗ってどかっと人をダメにするクッションに倒れ込む。ケータイを取り出してどちらに行くべきか悩んでいると第3の勢力に材木座義輝というのが出てきたが『八幡、ゲームしようぜ!namco集合な!』という時間指定なし、どこの店舗かもわからないクソメールだったので無視した。

 

 

目を閉じて今後の予定を考える。明日も休みです。だから、別に今日は夜更かししても問題ありません。なので、録り溜めたアニメやら懐かしのアニメを見ようとしていました。そんな時に知り合いから『ご飯行こうぜ!お前財布な!』という電話とメールが来ました。片方は氷の女王と処女ビッチと天使と天使付き。もう片方はおそらく合法ロリ、せやかて工藤、特撮大好きさん、平塚先生2号機、世話焼きお姉さん、女神様付きです。さぁ、どちらに行くべきでしょうか。

 

 

悩んだ末に俺が出した結論とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

誰か、土下座してもお金を渡してもいい。何でもするからかなり本気で助けて欲しい。俺は両方行かないという究極の選択をした。マジでこれは俺にしてはかなり頑張った方だと思う。由比ヶ浜には大事な書類があるからと、八神さんには家族と過ごすからと断っておいた。材木座?誰だそいつは。

 

 

これで俺の平穏は守られたわけなのだが、昼時だしクリスマスなのにどこにも行かないというのはなんだかなーと思った。ショッピングモールに行った時に昼飯も買っておけば良かったと軽く後悔してから再びコートを着てマフラーを首に巻き付けてまた外に出たのだ。

 

 

それでラーメンを食べて、ザラスで自分へのプレゼントを物色して何も買わずにレンタルDVDショップで見たかった映画とアニメを借りて、晩飯であるチキンを買いに行こうとケンタに向かっている最中だ。背後に恐ろしいほどの霊圧を感じた。恐る恐る振り返ってみるとそこにはこの季節にピッタリな氷の微笑を浮かべた美少女が。

 

 

「あら、お仕事が忙しいと聞いていたのだけど?なぜここにいるのかしら?」

 

 

あまりの突然の出来事に瞬きを数回繰り返して、目の前の美少女が指さす方向を見ると俺が立ち止まったのは最近出来たという評判の良いバイキングのお店。それを見て真顔になって彼女の方を見ると後ろからぞろぞろと見知った顔もやってくる。

 

 

「あ、ヒッキーだ!」「あれ?八幡来ないんじゃなかったの?」「えーと、小町もちょっとわからないですね」「はぁぁぁちまぁぁぁぁんんん!!!!?」

 

 

ザッと後ろに後ずさり走って逃げようと身体の向きを180°変えた時、そこにも俺の道を塞ぐ者達が現れる。そこには薄く紫がかった長いツインテールのパッと見中学生にしか見えないスーツを来た同期の女の子。その顔は笑っているが明らかに目は笑っていない。

 

 

「……ねぇ、比企谷くん。家族はどうしたの?」

 

 

見た目とは裏腹に出されたどす黒い何かを感じる言葉と声音、普段の笑顔との雰囲気が違いすぎてまた後ずさってしまう。そして、その恐ろしい女の子の後ろには愉快な仲間たちが。

 

 

「あれ、八幡じゃん」「ほんまやな」「……」「あらあら」「これはどういうことか聞かないとね」

 

 

 

アスファルトの一本道の最近巷で大人気と呼ばれるビュッフェの店の前で退路を塞がれた俺は冷や汗を浮かべながら、両側で睨みつけてくる美少女2人に愛想笑いを浮かべながら心でこう叫んだ。

 

 

 

(ダ、ダレカタスケテーー!!)

 

 

 

 


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