女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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タイトルがよくわからないことになってるけど読めばある程度は納得してくれると信じてます。


想いは交錯し、種は実る。

第一回コンペ終了後、昼休みを挟んですぐに仕事だ。仕事と言ったら仕事だ。ここではじめさんがマスターアップ前に帰りたいと嘆いた時にひふみ先輩の名言を言っておこう。

 

 

「仕事が終わるまで帰れないよ」

 

 

そうなのだ。仕事が終わるまでは帰れないのだ。しかも、今日の仕事が終わっても明日が、それが終わっても明後日が。そして、それが終わっても……明日があるー明日があるさー。ということである。

 

 

「うーん…難しいよ〜どうやったらよくなるんだろう…」

 

 

先程から俺の前で白い紙に何かしら書こうとしているのだが、イマイチ進んでいない。葉月さんから指示があった俺と涼風は夏にデバッグブースが使っていた空きスペースを使って2人でブラッシュアップもとい情報量の向上に向けて仕事をしていた。

 

 

「比企谷くんは結構進んでるね…」

 

 

「まぁ、俺のは形の問題だからな」

 

 

第3のプランとして出した携帯式特殊能力。まぁ、世界1強い飴玉とか舐めたら世界1強くなれるんじゃね?と考えた結果である。あとは気合だな。ここで松岡修造論を出すあたり俺は太陽神の素質があるかもしれん。

俺の仕事ぶりに何か感じることがあったのか涼風は肘をついて一言呟く。

 

 

「八神さんならなにかアドバイスくれるかな……」

 

 

 

ただの独り言なのか、あるいは俺に対する質問なのか。どちらか考えてはみたが答えを出すよりも早く涼風は立ち上がり、紙を何枚か手に持つ。

 

 

「ううん、気のせいだよ!八神さん優しい人だし!」

 

 

涼風はそう言うと、急ぎ足で俺を残して八神さんのところに行く。

大丈夫かなぁ……心配だなぁ……って何考えてんだ。あれだよな。女の仲に男は不要だよね。そう思って自分の事に集中しようとペンを握るが、その手が不意に止まる。

 

 

「……はぁ」

 

 

……それはこっちのセリフというか俺が取りたい行為だな。ったく、何があったか知らねぇけどそんな泣きそうな顔して戻ってくるなよ。ほんとに知り合いの女子が泣きそうになってるの見るとこっちもギクシャクして腹が痛くなるんだよ。

 

 

 

「……なぁ」

 

 

「…………あ、えっと、どうしたの?」

 

 

声をかけると反応が遅かった。涼風なりに平然を装ってるつもりなんだろうが、目尻に少し涙が溜まってるし目が赤い。こういうのは他人が見ないと気づかないところなんだろうな。……そんなことどうでもいいか。

 

 

「今日定時で帰れるか?」

 

 

「え、いや……でも」

 

 

 

遠慮がちに見るその先にあるのは積まれた白い紙の束。

 

 

「そのままじゃ進めようにも進まないだろ」

 

 

「そうだけど…」

 

 

ああじれったいな。普段前向きなくせにこういう時だけ後ろ向きというか消極的、いやちゃんと仕事しようとしてるあたり前向きなのか。向くべき時と方向を間違ってる気もするが。

 

 

「確かにお前の仕事は進んでいない。が、お前はその心境でこのまま残業して終わらせられるのか?」

 

 

「……それは」

 

 

俯くとその表情は窺えない。だが、肩を震わせてることから何かを堪えてるのはわかった。それが俺に対する怒りなのか、八神さんと一悶着あったからなのかはわからないし、もしかしたら両方なのかもしれない。

 

 

人間生きていれば誰かと対立したり、意見の相違などで揉めることはよくあることだ。極力、人と関わらないようにしていても、避けても逃げても必ず通る道だ。

 

 

学校や会社やご近所付き合いなどの現実でも、ネットやSNSなどの虚構にも、今やどこにでも多くの人がいる。それこそ人と関わらないようにする方法が死ぬしかないくらいだ。

 

 

だが、人と関わるのが嫌だからという理由で死ぬ人間はそうそういないだろう。でも、今まで仲良く接してきた人でも関わりのない人でもよくよく考えたらどうでもいいことで言い争うことは誰にでも1度はあるだろう。

 

 

それで関係が悪化するなり険悪な仲になるということは俺の経験からすると当たり前で、そういう人間ばかりを見てきた。

 

 

涼風と八神さんが対立、何かしらあったとするなら涼風が何か言ったかだろう。八神さんもそこまで器用な人でもおおらかでも偉大でもない。天才だとかキャラ班の期待の星だとか言われていても、ぺちゃぱいで色々とサバサバしてて会社に泊まる時はズボンを脱いで寝るくせに俺が出社する頃にはズボンを履いている人だ。それでいて乙女だ。

そして、打たれ弱い。

 

 

コンペには自信があったのだろう。朝みた時はそんな表情をしていた。だけど、昼休みにはそんな顔をなりを潜め思いつめたような顔で昼食をとっていた。自信があった自分の作品が全否定されればそうなるのは当たり前だ。俺でも流石に会社では平静を保つが家に帰って枕を濡らす自信はある。

 

 

きっと涼風も期待してしまったのだろう。あの八神さんなら全否定された後だからこそ、もっとすごいのを作ってるし、私にアドバイスをくれるだろうと。そんな期待が裏返った時、あいつは何を思ったのか。多分、なんだ八神さんも何もかけてないんだ。とかそんな感じだろう。

 

 

それを口に出したのかは知らんがおそらくは何かしら言われたのであろう。それは俺じゃなくてもわかる。ここに帰ってきてからずっと上の空だし、俺の一言で完全に仕事から意識が途切れてる。

 

 

「疲れた時とか悩んでる時は休憩と糖分が一番だ。ほれ、マッ缶」

 

 

頭にコツンとマッ缶を当てると嗚咽を殺して泣いていたのか、上げられた顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。ポケットからハンカチとティッシュを渡してやると、涼風はさらに涙を流す。しかし、それでも喋る声は上擦ってはいるが表情は自嘲気味なのに綺麗だと思った。

 

 

「私ね……嬉しかったんだ…決定じゃないけどデザインが通って…でも、そしたら八神さんが……そう思ったらなんか…なんか…」

 

目をこすって、鼻をかんで、小さな声で涼風は言うのだ。

 

 

「私が描いてた夢ってこういうことだったのかな………」

 

 

 

涼風の夢は知らんが、夢があるってのはいいことだ。夢があってそれを叶えたい実現させたいと思った人間は努力する。でも、夢が叶うとは限らない。だが、夢のために努力したという経験と結果は残る。それだけでも大きな財産になるはずだ。俺は椅子から立ち上がって涼風の頭を軽く撫でてやると足を進める。向かう場所は決まっている。

 

 

 

 

 

八神さんの様子を遠目から覗いてみるとうわぁ、こっちも涼風と同じ顔だよ。何言ったか知んないけどあれかな?誰彼かまわず、八つ当たりでもしちゃったのかな?まぁ、いいか。とりあえずはこっちにも働きかけて……と思ったが背後から軽く肩を叩かれる。振り向けばいたのは遠山さんだ。

 

 

「ね、比企谷くん。ここは私に任せてくれないかしら」

 

 

「遠山さんが…?」

 

 

「うん、だから比企谷くんは青葉ちゃんのことお願い」

 

 

確かに俺が言うよりは同期の遠山さんが話を聞いてあげる方がいいか。頷くと「ありがとう」と笑顔を向けた遠山さんはどこかに向かって歩いていった八神さんの背中を追いかけていった。

 

 

 

どんなに仲が良くても、喧嘩することや八つ当たりをしてしまうことはあるだろう。それでも、お互いに反省することがあったり、本音をぶつけ合うことで今までよりも良好な関係になった人達も見たことがある。

 

 

だから、問い続けるのだ。正解が出るまで。何度でも。

俺達にはそれができる。そうすることが許されている。

何をどうしたらいいのかなんて関係ない。正しいことなんて人それぞれだ。

 

 

 

いつだってその選択が正しいと思っていても、それは俺だけで、他の人からしたら欺瞞でただの自己満足かもしれないのだ。でも、俺は違うと思う。リスクを侵さずに手に入れられる正解なんておかしい。

 

 

例えば、数学や学校のテストには答えがある。それだけを聞くと素晴らしい。しかし、その正解を導くまでには先人達が自らの時間を割いてまで得ることが出来たように、俺達もまた学ばなければならない。そこに辿り着くまでの過程を説明しなければならない。たった2文字の言葉に秘められた出来事を語らねばならない。そう、勉学に置いても知識を得るというメリットの代わりに時間が奪われているのだ。

 

 

つまり、何かを手に入れるためには何かを奪われる覚悟、捨て去る覚悟が必要なのだ。それで正解が得られるとは限らない。だが、意味が無いということはない。だから、思考したこと試したことは無駄ではないのだ。

 

 

「よっ、元気でたか?」

 

 

 

 

そして、もう1度問い直そう。

 

 

 

「うん…少しは」

 

 

「そうか。だったら、少しは進めるか?」

 

 

「……うん」

 

 

「よし」

 

 

本物を手に入れるために……

 

 

###

 

 

数日後、第二回コンペで涼風が八神さんに意見をもらいながら、どうしてもバランスが取れないところは描いてもらったりしたものがプロト版として採用された。

 

 

 

(おまけ)

 

 

「まんがタイムきららキャラット〜!」

 

 

 

青葉「あ、比企谷くん!コンペ通ったよ!」

 

 

八幡「知ってるよ……おめっとさん」

 

 

コウ「八幡もアドバイスくれたし助かったよ」

 

 

八幡「いや、別にそんなこと……」

 

 

青葉「あるよ!……ところで比企谷くん定時に帰ってどうしようとしてたの?」

 

 

コウ「え?そうなの?それは興味あるな〜」

 

 

八幡「……」

 

 

青葉&コウ「あ!逃げた!」

 

 

りん「まんがタイムきららキャラットは毎月28日発売!芳文社♪」

 

 

ひふみ『私…出番なかった…(ू˃̣̣̣̣̣̣︿˂̣̣̣̣̣̣ ू)』




そんなに重い話にならなくて良かった。あれだね、ほとんど八幡の独自だったね!ほんとは八神さんに胸ぐら掴まれるはずだったのにね!遠山さん流石だね!そこにシビれる憧れるゥ!


とりあえず、八幡が同僚達をどうおもってるかサクッと紹介するぜ!


涼風青葉→同期。席も隣で年齢も同じなので一番話す回数が多い。時々見せる仕草にドキッとする。たまにモノに話しかけてるのを見て引くが、最近は見慣れた様子でスルー。異性としての意識はないことはないが、後輩の面倒を見るのに近い。


篠田はじめ→でかい。揺れる揺れる。アニメの話で盛り上がれる人。ボーイッシュでサバサバした性格故か普段の薄着に視線を困らせることはない。


飯島ゆん→姐御肌の先輩。体重やらを気にしてるのを見て見守っている。スイーツが美味しい店を知ってることからそういう話では意外と盛り上がる。ゴスロリ衣装や森ガールのようなファッションに萌えそうになっている。


滝本ひふみ→可愛い。社外での交流は一番多い。コミュ障だが女神という新ジャンルをもたらした。恋人がいないのはペットがいるからだなと思ってアタックはしてないし、ペットがいなくてもするつもりは無い。

八神コウ→主に本編で述べたとおり。平塚先生以来のギャップ萌えを体験してからたまに平塚先生と性格が被ることがある。仕事が恋人で遠山さんの気持ちに気付いてない鈍感と思っている。あとは良き先輩として尊敬している。


遠山りん→八神さんの嫁。おかん。可愛くてファッションセンスもあり、女子力の塊と思っている。仕事以外で八神さんと話していると大体の確率で話に入ってくる他、昨日は何を話したのか聞かれるのでヤンデレの線があると睨んでいる。


阿波根うみこ→サバゲー仲間。キレさせると怖いし、しつこい。でも、そんなところが可愛い。エピソードで書いてはいないが夏休み中にガルパンについて熱く語り合っている。


葉月しずく→ミステリアス。たまに写真を撮ってくるので消すようにお願いしている。


桜ねね→調子者でトラブルメーカーだが素直なところは評価している。同い年でアニメやゲームの話もできることからメールのやり取りやゲーム買いに行くのに付き添うくらいには仲がいい。



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