女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている 作:通りすがりの魔術師
名前は「通りすがりの魔術師」
アイコンは魔術師です。あえて、IDは伏せます。
自力で見つけてください(辛辣)
楽しい楽しい社員旅行が終われば仕事だ。もう1度言う。仕事だ。英語で言うとwork!となるのだが、特に意味は変わらないし、現実からは逃れられない。
北海道から東京の自宅に帰る。なんで千葉住みじゃないのとか言われそうだから言っとくけど、イーグルジャンプは東京にあるのだ。旅行の疲れを取るため、1日の休暇を貰って体力フルスロットルになった状態で仕事に向かう。
よぉ、5年ぶりだな……。正確には5日ぶりなのだが。机に積まれているマッ缶が懐かしいぜ。
自分の椅子に座ると不思議と喜びを感じる。すっかりこの会社に染まってきたのかもしれない。いや、社畜適性が高いだけだな。社畜してやる……この机から1枚残らず…!
マッ缶をちびちび飲んでテンションをあげつつ、さっきもらった書類に目を通そうと手に取ると涼風に声をかけられる。
「比企谷君、とうとうキャラコンペだね!」
「あーそうだな」
あげる相手もいないのにお土産に買ったクッキーを食べていると社員旅行2日目に熱を出してお嫁さん(遠山さん)に看病してもらったおかげで夜には回復したのに、なにやらお酒に強いうみこさんに負けじと飲みすぎて二日酔いでダウンしていた八神さんがやって来る。
「葉月さん達、企画班が作ったその企画書を読んでからイメージを膨らませてね」
昨日の休みに風邪も二日酔いも完全に消え去ったのか、その顔には疲れや気だるさなどは見られない。そこにはじめさんが椅子のタイヤで移動してくる。
「私のアイデアも入れてもらってるんだ~」
ちょっとだけだけど、と頬を掻きながら付け足すと「すごい!」と涼風が反応する。それに対してゆん先輩の反応は消極的だ。
「え…じゃあ、企画班に…?」
「ううん、モーションも続けるよ。どっちもやるんだ!」
なにやら焦りを見せるゆん先輩に対してはじめさんは笑顔で答える。
「へ、へー。すごいなぁ……」
「私も応援してます!」
「へへへ、ありがとう」
照れながらはじめさんは鼻の下を擦ると俺の方に向き直る。
「八幡も応援してよね!」
「……まぁ、そりゃしますよ」
本気で頑張ろうとしてる人にせいぜい頑張れとか言う気は無いし、そもそも言えるような立場じゃない。だが、この気合いが空回りするなんてこともあるかもしれない。
そんな心配を抱えながら企画書をペラペラとめくって読んでいく。なになに…ダンジョンごとにステージをクリアして進行するアクションゲームか。しかし、どこを見ても世界観が書いていないため疑問に思って口にしてみると返してくれたのは八神さんだ。
「今回はこの仕様にそったバトルができるデザインなら自由みたいだよ」
「そ、それは、いわゆる丸投げってやつですか?」
涼風が神妙な顔で言うと八神さんの顔は少しばかり呆れた様子だ。
「私たちを信頼してるんだよ」
まぁ、そりゃ八神さんはフェアリーズストーリーのメインやってたし実績は充分、ひふみ先輩とゆん先輩は俺達よりも経験も実力があるし、涼風も後半のNPCの村人は1発OKになっていたし信頼に足るものはあるだろう。俺はどうかは知らんが。
「とりあえず第一回コンペは1週間後。参加希望者は描いてきてね」
「はい!」「うぃっす」
涼風は元気だなぁ……そう思いながら再び書類に目を向ける。えっと、ダンジョンクリア方法はダンジョン内にいるモンスターや動物を吸収することでそれぞれの特殊能力を発揮する……なんかピンク色の丸い食いしん坊といいやつに生まれ変われよ!またな!で消されたピンク色の魔人が出てきたんだが…。
まぁ、とりあえずそいつらに似ても似つかないキャラをメモっておこう。何かの参考になるかもしれない……多分。というか、別に無理に出る必要もないじゃないだろうか。
「ゆんさんは出るんですか?」
「え、私?」
聞かれたゆん先輩は自分を指差し首を傾げると苦笑いを浮かべる。
「私そんなうまくないし、落ちるの目に見えとるからやめとくわ」
やはり、無理に出る必要はないらしい。ひふみ先輩はどうなのだろうと思って椅子を回転させる。
「ひふみ先輩はコンペ参加するんですか?」
「私3Dに…専念したいから…だから2人のデザイン…たのしみにしてる…!」
何気なく聞いたのに、割とマジで返されたうえに応援されちゃってるよ俺。というか、可愛い女子の頑張れと応援する時に胸の前で手をグッとする仕草の破壊力は異常。
「比企谷君はやっぱり参加するんだ」
「一回くらいは出ておいた方がいいだろ」
それにやることなくて暇だしな。3DCGの練習ばかりしててもつまらないというか、息抜きにこういうことをしてもいいかもしれん。決してひふみ先輩に応援されたからとかそんなんじゃない。少しはあるかもしれないが。
実績がなければ査定が上がらないというのが一番の理由だ。まぁ、1年目だからそんなに高くはならないが、塵も積もればなんとやらだ。努力することに関しては否定はしないが、肯定もしない。努力して成功しなかったらいたたまれないからな。程々に自分ができる程度にが最もベストな選択だ。だから、俺は自分に出来る精一杯をやろうと思う。
さて、何をしようか。
想像するのは常に最強の自分。解き放て。誉ある自分。
そうやって自分の集中力を高めながら、俺はコンペに向けてパワーポイントを作り始めた。
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コンペ当日。なんだか字面にするとコミケ当日に見えるな不思議。とかそんな変な考えができるくらいには緊張はしていない。今はPowerPointを使って名前も知らない女性社員がプレゼンをしているのだが、動物やモンスターだけでなく野菜や植物吸収するのはどうかという案を出す。その意見は葉月さんにも好感を持たせたようで「いいね」と呟かせていた。
つぎは誰もが期待し待ち望んだであろう八神さんのターンだ。八神さんはスクリーンではなくホワイトボードに手書きで描いたイラストを貼っていくと1枚1枚丁寧にコンセプトやどんなキャラかを説明していく。
「……といった感じでファンタジーよりにしてみました」
「相変わらず素晴らしいね、八神さんの絵は。大好き」
説明を終えると八神さんは葉月さんを見つめ、感触はどうかという目線を送る。求められた葉月さんは笑顔を向ける。だが、「でもね」と先ほどの感想とはうって変わった意見を述べる。
「これだとフェアリーズと世界が同じだよ。八神にはもっと自分の世界を広げて欲しい」
「え…じゃあ全部ダメ……?」
「もったいないけど…自由に描いてもらってるからこそもっと遊んでほしいんだ。それに……」
あれでダメとは随分厳しいというか、それだけ八神さんに期待していた…ということでもあるのだろう。まぁ、どんなコンセプトになろうがおそらくあの人がメインをやりそうだが。
「つぎは涼風くん」
呼ばれた本人は緊張しているからか落ち着きのない様子で前に出ると「よ、よろしくおねがいしますっ!」とお辞儀した時に持っていた紙をばら撒くという余興を見せてくれる。それで顔を赤めながら解説する涼風氏。可愛いなおい。見てる限りだと八神さんの影響が強く出ていて、フェアリーズ寄りのイラストだ。一つを除いて。
葉月さんが見せたのは涼風の使っているくまの寝袋に包まれた人間が「ガオー」と遠吠えをあげている絵だ。それを見た涼風はまたもや恥ずかしそうな声を上げる。
「…?わあああ!すみません!それ私の寝袋を元に描いたものでラクガキというかでも面白いかなって」
「なるほどね、確かに面白い。というかこれじゃあキャラが吸収されてるよね……でも、うん。決めたこの方向で行こう」
「ですよね……うそ!?」
「もちろんこのままでは使えないから次のコンペまでにブラッシュアップしてくれるかな?それ次第」
「は……はい!」
そうして戻ってきた涼風はほっとしたん感じで帰ってくるとメンバーに歓迎され「やったじゃん!」「おめでとう」と激励の言葉をもらっていた。
「じゃ、最後に比企谷君だね」
呼ばれてファイルから自分の描いたキャラクター達をホワイトボードに磁石で貼り付け、前を向く。そういえば、こうやって大勢に前に立つのは教卓に立たされて謝罪をさせられた時以来だな。今でもトラウマだし、あいつらは絶対に許さない。
にしても、ここから見る景色というのは人の顔がよく見える。このコンペには出ていないが、俺が世話になってる先輩3人からの「どんなものを見せてくるんだ」という眼差し。
自分の絵が否定され自分を尊敬している後輩が褒められたのを見てどう声をかければいいかわからない複雑な表情。
ちょっとした気持ちで描いたものが選ばれて喜びを顕にする者。
「では、始めさせていただきます。まず、自分が描いたのは3枚だけです」
「……」
指を3本立てて右手に持ったクリアファイルでそれぞれ貼った紙を指す。
「まず最初にコンセプトを聞いた時に思い浮かんだ単純なやつです。ベースが対象を吸収してベースが対象のイメージを引き継ぐ……二つ目は先ほどの涼風に似たヤツです。ベースが対象に吸収されるケース。これはコンセプトを逆説的に考えた結果です」
そこまで言って聴いてる人たちの反応を窺うと、これまでに出た意見ということもあってパッとしない感じだ。まぁ、だいたい予想はできていたが。
興味を少しでも誘うため、間をゆっくり開ける。そして、誰かが「最後は?」と口を開こうとした瞬間だ。そこで俺が決めてやればいい。
「……最後に吸収したものとは別にストックというのを用意してみました」
「ふむ…どういうことかな?」
「多分、皆さんが出した意見って一つの対象しか吸収できないと思うんですよ。それだと途中で効果が切れたら危ういと思うんですよ。だから、危険に備えるために予備で小さくするか飴みたいなものを食べれば1度だけ特殊な能力が使えるみたいなものがあってもいいと思ったんです」
「なるほどね、それなら野菜や植物が活きてくるね…よし。次までにもう少し具体的にしてみて、涼風くんと一緒に」
「はい」
俺は頭を下げるとその場から離れて元居た端っこに移動する。すると、はじめさんやゆん先輩が近づいてして「おめでとう」と賛辞の言葉をくれる。俺もそれに会釈して答えると葉月さんがマイクをとって椅子から立ち上がる。
「それじゃあ、第一回コンペは終了。第二回は来週。私から指示があった者はそれを。新たに参加したくなった者も自由だからよろしく」
葉月さんが解散と言うと、それぞれ散り散りになっていき皆、それぞれのブースに帰っていく。
そして、俺もこれの調整及び飛躍をさせようと自分のデスクに向かおうとすると、ある2人の背中が目に映った。
「あ、八神さ……」
「……ん、なに?」
「あ、いやなんでも……」
努力と頑張りが実った涼風と期待されてそれに応えようとしたが上手くいかなかった八神さんのそんなやり取りを見て、俺は、呆然と立ち尽くしていた。
5日ぶり→社員旅行が3泊4日、その後1日休みなので5日ぶり。
原作だとコンペは八神さんスタートですがそこはいじってます。
八幡の最後の案は書く前全く出なかったけど、頑張った。それなりに説得力はあると思う。イメージソースは魔人ブウと世界1強い飴玉だったりする。
次回、まぁ、原作でもそれなりにギクシャクあった回を八幡が混ざってもっとギクシャクするかなという回。700文字書いたけどほとんど八幡の独自。明後日には出せるかと。では……