女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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どうでもいい話、出だしはレッドブルに囲まれた材木座から始まる予定だった。まぁ、途中に入ってるけどなぜそうなった。


比企谷八幡は動じない

マッ缶の空き缶が積まれた机を見て、人は何を思うのか。マッ缶は意外にも知られておらず、最近では販売範囲を拡大しているらしいがそれでも日本の最北端、最南端までには届いておらず。つまりのところ、まだまだ知名度が低い飲み物なのだ。

 

コーヒーの苦味の中に砂糖と練乳をいれることでこの絶妙な甘さと何度でも飲みたくなる中毒性を生み出しているのだが、驚くことに関東住みの人間にもあまり知られていない。この会社の人間も知っていたのは八神さんくらいだが、飲んだことは無いらしく試しに一口と俺のヤツを飲むと「甘ったるい」と言いつつ顔は苦にがしいものだった。それを横で見ていた遠山さんの顔は今でも覚えている。私にもちょうだいと言い、八神さんと関節キスが出来て嬉しいのか飲む前はすがすがしい顔をしていたのに、口に含んだ時には八神さんと同じ顔になっていた。

 

だが、お子様の涼風と桜には飲みやすいらしく、最近は俺に金を渡してまで買ってきてもらうくらいになっている。桜はもういないから渡せていないが、大量買いして安い店を教えてやったのでおそらく愛飲していることだろう。

 

しかし、飲みすぎは禁物だ。酒やビールに急性アルコール中毒があるようにマッ缶は飲みすぎると糖尿病になる可能性がある。なので、1日1杯が限度なのだがそれでもダメだと周りからは言われているのだが、健康診断でオールAだったから別にいいんじゃないかと思う。

 

 

俺の身体の心配をしてくれるのはありがたいのだが、やはり他人より自分のことを心配した方がいいのではないかと思う。ほら、単位とかね?とりあえず材木座は何があったか聞きたい写真を送るのをやめろ。なんでレッドブルに囲まれてレポート書いてんだよ…

 

まぁ、俺もこいつの心配してる場合じゃねぇな。

 

「比企谷くん次やでー」

 

会議室から出てきたゆん先輩に呼ばれ、席から立ち上がる。さぁてと、そんなこんなで今日も仕事だ。

 

仕事と言っても簡単なアンケートのようなものらしく、そこまで気張らなくてもいいと言われている。なんでも次回作に活かすための調査らしい。ノックして返事を待つと「どうぞ」と返ってきたのでドアを開ける。俺は設けられた椅子に座ると目の前の女性2人に目を向ける。今回、ディレクターを務めた葉月さん。そして、ADをやり遂げて次はプロデューサーに就く遠山さん。この状況をわかりやすくするなら逆三者面談である。

 

「前作の開発で何か感想はあるかしら?」

 

そう、今日はこんな紙に打ち込んで一斉に聞いた方が早いことを口頭で各々別に聞くのだが、こうした方が効率という概念を抜けばいいとは思える。

 

文字に起こしにくくても言葉にならしやすいものもある。例えば、今日は月が綺麗ですねとか。

 

「そうですね…」

 

土日休みが良かったのに平日に休みがあったりとか、定時に帰りたいのに帰れなかったりとか、会社に泊まるとかブラックなんじゃないですかね。とか言っちゃダメだよなぁ……。いや、ある程度は予想していたんだけどね?

 

クリエイター…何かを創るという仕事には錯綜、迷走がつきものだし、少しでも良いものを創ろうという精神からできるだけ時間をかけようというのがあるのだろう。だから、仕方ないと割り切るしかない。

 

「いいと思ったところや反省。これからの目標でもいいのよ。何かない?」

 

俺の無言を何を聞くべきか悩んでいると解釈したのか、遠山さんは優しい口調で尋ねてくる。

 

「…チームでの連携は取れてるし、良いチームだと思いました。作業遅れも八神さんや先輩方に取り戻してもらえて助かりましたし」

 

言うと遠山さんはサラサラとノートに俺の言ったことを書き込んでいき、隣にコーヒーを飲みながら座っている葉月さんは「他には?」と目で聞いてくる。目は口ほどに物を言うとはこのことか。

 

「反省としては切り替えが遅いことですかね」

 

まぁ、俺は出来ていたという確固たる自信があるがね。

 

「目標は…今のところ特にはありませんが自分の責務は今以上にやり通したいと思っています」

 

こんなところか。無難な回答だ。カレーのナンの写真に「これはナンですか?」と聞かれて「はいそうです」と答えるくらいに無難だ。特に当たり障りもない言い方をしたが葉月さんはまだ何かあるんだろう?とゲンドウポーズをとって微笑んでいる。

 

「……あ、質問いいですか?」

 

「? 構わないよ」

 

「なんで俺以外女の人ばっかりなんですか?」

 

葉月さんはその場からガクッと崩れるとズレたメガネの位置を正しながら頑張って笑顔を作っている。それに対して遠山さんは落ち着いて俺の疑問に答える。

 

「実力と相性を見て選んでるわよ。女性ばかりなのはたまたま…」

 

おかしいな最後の方声小さくなって聞き取れなかったんだけど。今のうちに聞きたかったことは聞いておこう。

 

「えっと、俺以外にここで働きたいって人は…?」

 

「…いても花ちゃんが持ってちゃうんだよ」

 

「はなちゃん?」

 

「あ、あぁ、こちらの話だ。まぁ、今回は君だけだったからね。君と涼風君が来る前に2人ほど結婚したり、他社にもっていかれたりしてか退社してね」

 

なるほど、つまり俺と涼風はその穴埋めになったというわけか。……ちゃんと埋めれてるか心配だな。いや、やることはやってるし…と思ったが思考が一旦停止する。やることだけやるのは誰でも出来るのでは?やること以上のことをやらねばいけないんじゃないのだろうか?……よし、次の目標はそれでいくか。誰にも迷惑をかけず、前回以上に働く。やっぱり俺の社畜適性MAXなんじゃないかな。

 

「ところで比企谷くん」

 

「はい?」

 

「来週は社員旅行だね」

 

「あぁ、そうですね」

 

「北海道だね」

 

「雪国ですね」

 

「楽しもうね、お互いに」

 

「は、はぁ」

 

なんだろうこの変な会話は。それを隣で聞いていた遠山さんはというと今まで取った議事録らしき紙束をトントンと整えると無機質にいう。

 

「でも、企画書がまだならお留守番ですね」

 

「うそ!?」

 

現実とは非情である…おのれポルナレフ…。俺は一礼してから部屋を出ると給湯室に向かってマッ缶をコップにうつしてレンジで温める。

給湯室の窓から外を見れば夏ではまだ明るかった空もすっかり紅蓮色に染まっている。

 

来週から社員旅行か。スノボはウインタースポーツ体験会的なのでしたことあるが北海道は行くの初めてだしスキーはしたことねぇな。……ん?待てよ?俺のチームで男って俺1人だよね?温泉も着替えも寝るのも1人か?何その地獄。




次回は修学旅行!?ではなく社員旅行!八幡は孤独に打ち勝つことが出来るのか!?スキー、スノボーをうまく乗りこなすことが出来るのか!?

……To be continued

新作予告(詐欺の可能性しかない)

この素晴らしい世界に漫画家を!

「どうやら転生したってのは本当らしいな…。実にイイ!すごい体験だ!」

「悪いが、僕にとって魔王なんてのはどうでもいいんだ。ぼくは『読んでもらうため』にマンガを描く!今はそれしか考えていないね」

「他人を負かすってのはそんなむずかしい事じゃあないんだ…。いいかい! カズマ! もっとも『むずかしい事』は!」

……続く?



えぇ、これと同時刻に「この素晴らしい世界に平穏を!」(ジョジョの奇妙な冒険から吉良吉影とこのすばの短編クロス小説)を投稿したのでジョジョ好き、このすばファン、もしくは両方、はたまた興味がある人は是非ご覧ください。

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