女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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今日はこの時間に投稿
理由は特にない


意外にも八神コウは恥じらいがある。

 

清々しい朝だ。ンッン~♪実にスガスガしい気分だ。歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ。

 

カーテンを開くと朝の柔らかい日差しが部屋に入り込んでくる。

眩しすぎて思わず目を閉じて後退してしまうあたり吸血鬼に近いものを感じるが粉にならないのでまだ大丈夫ということだろう。

 

顔を洗い、タオルを手に取る。顔をゴシゴシと拭いても痛いだけで、この目と顔は何も変わらない。別に不細工でもイケメンでも…いや、少しは整ってる方だな。でも、セクシーさが足りない。俺にセクシー増強剤持ってこい!……ジャス!ティス!!!

 

テレビをつけると昨日のコミケになんちゃら姉妹が来てたらしく、その特集が朝のニュースになってる。思い出してみると、昨日は良かったような良くなかったようなそんな日だった。あの時の温もりを思い出そうにも俺の俺がコンニチハしちゃうだけだ。ってこれは朝のいつものことですね。もはや、習慣、いや習性だな。男ならわかるはず。

 

ボサボサになった髪はそのままに歯だけ磨いて、ニトリで買ったクローゼットを開ける。うん、高校の制服とシュウカツ!で着たスーツと『働きたくないでござる』シャツ、千葉loveシャツ、小町からの贈り物とこの前葉山と買いに行った冬服(トレンチコート、ジージャン、パーカー)くらいしかない。まぁ、家から送られてきた服は未だにダンボールの中というのもあるのだが。

 

健康診断でわかったことだが、卒業してから身長が少し伸びているらしく千葉loveTシャツも小さく感じてきた。さてと今日はどうしようかな。なんか今日は涼しいらしいからな…うーん。

適当にダンボールを漁っていると短パンと青のチェックの上着が出てきた。……これでいいか。

 

サッサと服に着替えて家を出て鍵を占める。うちは管理人さんという名のSECOMがいるから泥棒は来ない。ただし、妹が来る。可愛い。

 

2週間ぶりの会社への道はいつも通りの人混みかと思いきや、思ったより少なくサクサク進む。人生もこれくらい楽に進めばいいと思ったことはこれが初めてではなかったりする。

 

出社してもあまり人はいないとわかる。理由『有給消化という名の夏休み』というわけだ。わけがわからないよ、というやつはまともな企業に就けばわかる話。

 

「あ、比企谷君、おはよー」

 

駐輪場から出て社内に入ったところでエレベーター待ちの涼風に会った。何故かいつものスーツ(笑)ではなくオシャンティな格好をしている。まぁ、俺の懸念していた昨日のアレは気付かれてないようだ。

 

「おう、久しぶり」

 

一応、あいつからすれば2週間ぶりの再会となるわけだからこの挨拶は普通。なんにも違和感のない話し方。エレベーターに入ると涼風が俺をまじまじと見る。

 

「気になってるんだけど、珍しいねその服装」

 

はい、出ましたよ特大貫通ブーメラン。

 

「いや、お前こそなんだよその帽子にロングスカートは」

 

「これはスーツがクリーニング中だから!」

 

「……そんなに怒ること?」

 

俺の真顔がよほど嫌だったのか真っ赤な顔してカバンで殴られた。ご褒美として受け取っておこう。まじで最近の俺様、超ポジティブ。というか、怒りの沸点低すぎない?カルシウムを取った方がいいぞ。

 

エレベーターを出るとこの時間はキーボードを叩く音やら聞こえるものだがそんなものはなかった。ここだけ別次元のようだ。……そうか、俺が神だったのか。

 

「ちょっと2人とも休み明けだからって気合入りすぎじゃない?」

 

ニヤニヤと俺達の背後から来た八神さんはコーヒーカップを手におはよと軽く手をあげる。

 

「おはようございます。あ、これはスーツがクリーニング中で」

 

「俺はちょうどいいのがこれしかなかったんで」

 

それぞれの理由を聞くと八神さんは「あ…そう」となんだか残念そうな表情だ。大方、俺と涼風の服がペアルックだとか言いたかったんだろうがチェック柄といえど短パンとロングスカートという大きな違いがあるから無理もない。

 

「ところで今日は何のお仕事をすればいいんですか?」

「あ、そうだった」

 

八神さんは奥のブースに行くと厚めの本を持ってきてそれを開く。

 

「これ前作の攻略本なんだけど、ここにキャラとかモンスターの3Dモデルの画像が載ってるでしょ?これこっちで用意して出版社に送るんだけどそのスクリーンショット撮っておいて」

 

「……まさかと思いますが全部ですか?」

 

「そうだね!みんないないし。がんば!」

 

俺の予想が的中するあたりやっぱり俺って神なんじゃないだろうか。でも、こんなの嫌だ。俺が絶望していると八神さんが思い出したように閉じた本を開く。

 

「あと巻末の方に設定画もちゃんと載るんだけど、二人のやつはそのままで大丈夫?」

 

「へ?どういうことですか?」

 

「設定画集ってそれ用に描き下ろしたりするんだよ。加筆修正もする人はいるし」

 

私はあまりしないけど、と付け加えると目でどうするか問いかけてくる。

 

「だから、ゲーム作ってる時になかった三面図なんかも載ってたりするの」

 

「それって設定画集じゃなくて、もはや設定っぽい画集なんじゃ…」

 

俺が思ったことを口にすると苦いを顔された。

 

「まぁ……うん、そうだよ」

 

苦笑いする八神さんと真顔の俺の横で涼風は真剣な眼差しで言う。

 

「私は……あれは全力で描いたものなので、そのまま載せてください!」

 

八神さんはそれをちゃんと聞くと「OK」と涼風に見本として攻略本を渡すと今度は俺に向き直る。

 

「八幡はどうする?」

 

「俺は作ってる時にはじめさんと描いたポーズ集とか載せれたら載せたいです」

 

「あーいけるんじゃない?まぁ、そんなには無理だけど」

 

んな、適当な…だいたいどれ位か言ってもらわないと困るんですよね。選ぶのは俺だし…まぁ、これははじめさんと考えるか。2人の共同作業ですね!とか変な方向に考えておこう。

 

「2人ともなんだか嬉しそうね」

 

そう言ってブースに来たのはいつも通り綺麗というか上品なOLさんを思わせる服装の遠山さんだ。

 

「今日はオシャレしてるのね。2人もインタビュー?」

 

そんなわけないない。ライビュもないのにインビュがあるわけない。

おい誰だよ、人が料理しようとする前に花澤さん俺椅子になろうか?とか言ったヤツ。

2人で顔を合わせて「インタビュー?」って顔をしてると遠山がくすりと笑う。

 

「今日は攻略本の記事用に出版社から取材が来るのよ」

 

なるほど、だから遠山さんはいつも以上に気合いを入れているんですね。そういえばきあいだめって急所に当たるようになるんだっけ?あれ?

 

「コウちゃんも服持ってきたからね〜」

 

「!」

 

あ、そうか。八神さんはメイン担当だからインタビューは必須なのか。まぁ、あんなボサボサで可愛いとはいえノーメイクで写真を撮られるのは遠山さんにとっては嫌なことだろう。

 

「えぇ……いいよ。私は、面倒くさいし」

 

かなり乗り気ではない夫に対して嫁はかなりおこのようだ。

 

「面倒くさい!?しっかり選んできたのに!だいたい毎日毎日同じ服着て、たまには女の子らしくしたら!?」

 

「「そうですよ!服を選ぶのって大変なんですよ!」」

 

3人がかりの攻撃に怖気づいたと思いきや、八神さんは不思議そうに俺と涼風を見つめて数回瞬きをする。

 

「なんで2人もムキになってるの…」

 

それは朝に色々あったからですよ。多分!

 

とりあえず、男の俺は八神さんの劇的ビフォーアフターには参加出来ないらしく1人でスクショ作業である。あーあー、暇だ。てか、なんで俺って男なんだろ?でも、男なのに女だらけのブースで勃たない逃げない、ラブコメが発生しないのはなぜなんでしょうか。まぁ、俺だからですね。

 

……やっぱり気になるなぁ。だけど、覗きに行ってラッキースケベに遭遇したら逃げる前に追放されるからなぁ。覗くは恥だがためになる(意味深)とかいうドラマ作ってくれないかなぁ。

しかし、八神さんって可愛いのになんでファッションに疎いんだ?まぁ、確かに胸はなさそうだが。涼風よりはあるのか?いや、なんでそんなことを考えるんだよ。比べるのは良くない。

 

とりあえず、八神さんに言えるのは女の子らしくしてなかったらどっかの公務員みたいに三十路になっても結婚できませんよ!……平塚先生の場合は男運の無さと本人の残念さがありすぎるからなんだろうなぁ…誰かもらってあげてよ!

 

俺がもう少しというか結構早めに生まれてればよかったとか思っていたら、部屋の扉が開かれる。振り向いてみればそこにいたのはモジモジとした見知らぬ女性。

 

「……変、でしょ…?」

 

「…………」

 

え、誰この人。こんな綺麗な人この会社にいたっけ?なんかすげぇ妖精っぽい。フェアリーズストーリーからとびだしてきたレベル。綺麗な白い肌に艷めく金髪、貧相な胸だが逆にそれが愛くるしさを出している。

 

「な、何か言ってよ!」

 

俺があまりの綺麗さに言葉を失っているとその少女に怒鳴られる。が、それであることに気付く。そういえば、平塚先生もウェディングドレスを着た時は恐ろしく綺麗に1人の女性に見えた。つまり、この人は…。

 

「……八神さん?」

 

「気づいてなかったのかよ!」

 

「え、いや、あの…」

 

言えねぇよ……普段とのギャップに全然気づいてなかったとか…。って気付かれてますね。

 

「全然普通でしょ……」

 

「いや、そんなことないです!可愛いですよ!ほら、モナリザってあるじゃないですか!あれみたいなもんですよ!」

 

「え………最後の方、ちょっと何言ってるか分からない」

 

おかしいな。モナリザを見て勃起した男の子とかいるのに。それが殺人鬼になるのだから驚きである。いや、これも驚きである。まさに隕石級の大ショック!ドーハの悲劇なんて目じゃないぜ。

 

「てか、どうしてここに?」

 

「んー、りんと青葉がずっと可愛い!可愛い!ってうるさくて……トイレ行くって言って逃げてきた」

 

あぁ、それは大変でございますね。逃げることの大切さ厳しさは昨日に身に染みてわかったのでよく共感できる。

 

「にしても、ほんとこういうのあんまり好きじゃないんだよね…。オシャレって恥ずかしいし、私さ胸もないし色気もないから男っぽいほうが合うっていうか……」

 

誰しもコンプレックスやら自分に何かしらの不自由は抱えているものだが、八神さんの弱い部分は初めて見た気がする。天才と謳われ、キャラデザイナー界では魅惑の存在。それが今はとても弱そうに今にも崩れそうな表情をしている。

 

「まぁ、いいんじゃないですか。たまには」

 

「だけど……」

 

「別に胸がなくても、色気がなくても八神さんのことが好きな人は現れますし、その八神コウが好きって人が必ずいますよ」

 

誰かに認められたい、好きになって欲しい、崇め奉られたい。その欲求は人間どこかにいつかはあるはずだ。でも、それが叶わない人もいる。しかし、世界は広くて人は多い。その中に必ず自分を許容して好きになってくれる人はいるはずだ。なぜならこの世界は残酷で美しいのだから。

俺が言うと八神さんは呆気に取られた感じだったが、顔に笑顔がうつる。

 

「……そうやってみんなを丸め込んじゃうんだね」

 

その言葉の意味がよくわからず、首を傾げていると出版社のカメラマンが来てテキパキと準備に取り掛かっている。

 

「ありがと、なんか元気でたよ」

 

彼女はそう言うと先ほどの恥じらいの乙女ではなく、いつものキリリとした八神コウとしてインタビューを受けていた。

 

 

 

 

 

……まぁ、撮影の時はとても照れてカメラマンさんにとっても可愛いとか言われてたりしていた。

その時の八神さんの表情と言ったらマジで乙女。普段からああしてればいいのにとか思ってしまうくらい。

やはりギャップ萌って最強だな。

 





やっとの八神さん回

あとはゆん先輩と遠山さん、葉月さんだね!まぁ、葉月さんは出てないけど。
てか、あと2回しかないんですよね。
長かったような短かったような……勝った!第3部!完!

ちくわ大明神


誰だ今の

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