女の子だらけの職場で俺が働くのはまちがっている   作:通りすがりの魔術師

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阪神淡路大震災の日に突然の番外編


感想欄や友人Kに番外編などもやってみたら?と言われて
『もしも、八幡がNEW GAME!ヒロインと学園生活を送ったら!?』
という発想から生まれました。

ちなみに作者は風邪を引いていたので今まで執筆できなかったのだ。だからストックはない。ついでに言うとダンまちにハマってる。原作買ったからそれの二次小説書きたい。



とりあえずはっじまるよー!(八幡は高校1年生状態です)



【番外編】
比企谷八幡は動けないでいる。


 

 

青い空、白い雲、桜は散り草木が生い茂る季節。

それは春と夏にある季節。名付けるなら…中春中夏という安直なネーミングだろう。

 

 

春は別れと出会いの季節、夏は遊びと運動の季節。それならば桜が散った後の季節は新たなる出会いをさらに広げる季節といえる。

 

 

それは普通の高校生達の話。この俺、比企谷八幡は違う。

 

 

始まりというのものは、希望に満ちていて素晴らしいものであると俺は思っていた。だが、現実は非情だ。

 

 

学校にしても恋にしても、何事も始まりが肝心。人間というのは顔とか雰囲気でその人をランク付けする。顔も雰囲気もあまり宜しくない俺は挨拶や世間話やらで自分の印象を変えてみることにした。そのために買ったばかりの携帯にアラームを設定し、鏡の前でおはよう!おはよう!と連呼する様はまさに甘い蜂蜜系音楽の主人公そのものだっただろう。入学式の1時間前に家を出て、俺は新しい高校生活に胸を馳せた。

 

 

 

のだが。

 

 

 

もし、仏様や神様がいるのだとしたら。多分、俺は恐ろしい程に嫌われている。そう思ってしまった。

 

 

合格発表を受けてから道に迷わないように春休みに4回も往復した道を進む中、会社に向かう人、俺と同じく学校に向かう人、ジョギング中の人、犬の散歩をしている人。

 

 

そんな人達とすれ違ったりしながら、前を進んでいくと女の子が大きな声で誰かの名前を呼んだ。その方向を見れば向かい側の歩道から犬が飛び出していた。それを見た時、俺の目はもう一つある物を捉えていた。アニメや漫画でよく金持ちが乗り回している送迎車、黒い車体に長いボディ、リムジンだ。それが飛び出した犬に反応できずに耳をつんざくようなクラクションを鳴らした。

 

 

そして、その後だ。体は自然に動いていた。自転車を乗り捨てて、ガードレールを乗り越えると一気に走り込む。犬を抱き抱えてリムジンの来ていない車道に出た時に俺は安堵を覚えた。しかし、ここで体をローリングでもさせておけばよかったのだろうか、飛び込んで宙に浮いた足はリムジンに大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

その一撃で俺の意識は刈り取られたが、朦朧とした意識の中見えたのはキャンキャンとまるで俺を心配してくれるかのような声を上げていた怪我一つない犬の姿だけだった。

 

 

目が覚めた時には知らない天井の下にいた。俺が目を開けて周りを見ればそこにはスーツ姿の両親と学生服の妹が目に涙を浮かべていた。そこからあとのことは多く語ることでもないが、おそらく二度と体験しないであろうことであった。

 

 

弁護士の先生は来るわ、俺を轢いたリムジンを運転した運転士やそれに乗っていた娘の母親もペコペコと頭を下げていた。どうやら、入院費やらその他もろもろのお金ももらったらしく、松葉杖をついて歩けるくらいに回復して家に帰れば風呂が広くなっていた。

 

 

それから1週間。俺は何事もなかったかのように学校生活を送っている……わけがない。俺の友達を作ろう!大作戦は見事に撃沈。むしろ、逆に入学ぼっち確定ゾーンに入っていた。

 

 

新しい仲間と友情を育むオリエンテーションなどはとっくに終わっていて、クラス内にはいくつかのグループが出来ていた。その中に俺のような怪我人が入れるわけもなく、教師達から渡されたプリントやらの提出に追われていてそれどころでもなくなっていた。

 

 

この一連の出来事から学んだことがある。

 

 

 

この世界には神も仏もいない。

 

 

 

それが俺の出した結論である。

 

 

 

 

高校デビューに見事に失敗どころかチャレンジすらできなかった俺は今日も1人で松葉杖をついて階段を上って、廊下を渡って自分の教室へと向かう。

 

 

教室の扉は開いていてホームルーム前に来れば朝練がある者以外はたいてい揃っている。入学ぼっち確定コースの俺だが、まだ部活に入って友達をゲットするという手段もあるが、運動部に入ったとしてもこの足ではしばらく何も出来ないし、文化部に入ったとしても長続きしない。というか、人と上手く付き合えないのに部活に入っても爆死するだけだ。

 

 

自分の席につくと松葉杖をロッカーに寄りかからせる。幸い俺の席は一番後ろでロッカーの前と荷物が非常に取りやすい。椅子を少し動かせばロッカーから荷物を取れるのだからこれほど楽なことは無い。それに最後尾というのは俺のような者にはベストプレイスでしかない。これで端っことかなら大助かりなんだがな。

 

 

しかし、それもホームルーム教室での授業だけ。英語や数学の授業は少人数制であり、それぞれ別の教室に移動しなければならない。朝のホームルームが終わり委員長が挨拶をすると教室は騒がしくなる。次の授業ダルいだの、提出課題が終わってないだの。

 

 

あの程度の低い会話をするのが友達なのだろうか?あれくらいなら電柱や鏡とでもできるだろうに。俺なら自分で聞いて自分で答えたりしてるぞ。こういうのを自問自答という。

 

 

松葉杖を手に取って席から立ち上がる。あ、やべ。松葉杖を両手で持っちゃったら英語の用意持てないじゃん。小生一生の不覚でござる。やっぱり、完治してから来るべきだったかなと軽く後悔したが別に松葉杖一本でも大丈夫か。ほら、一本の矢でも二本なら……あれ?使い方違うくない?違うな。これが自問自答である。

 

 

よくよく考えればこういう時は誰かが助けてくれるもんだろう。まぁ、俺は親しくなきゃ助けないし、下心でもないと助けない。俺が助けるくらいだから、他の人でも助けるだろう。そんな考えで生きていたのにどうしてあの時犬を助けたのだろうか。周りに俺以外いなかったからか、それとも俺なら無傷で助けれると思い上がってしまったからか。

 

 

思い出したら恥ずかしくなってきた。チャイムが鳴る前にさっさと移動してしまおう。今の俺は早さが圧倒的に足りないのだから。そう思って英語の用意を手に持とうとした時は「あの」と声をかけられる。

 

 

ゆっくり振り向いてみればそこにいたのは薄く紫がかったツインテールに中学生に見える可愛らしい童顔とそれに見合った華奢で小さな女の子がいた。

 

 

「それ、持とうか?」

 

 

 

それ、とはこれのことであろうか。俺は僅かに触れているノートに一瞬、視線を落とすとすぐに目の前にいる女子に戻す。

 

 

「…いいのか?」

 

 

遠慮がちに尋ねるとその女子は明るい声音で返す。

 

 

「うん、足、怪我してるんでしょ?だから持つよ」

 

 

相手がそう言ってくれるのなら遠慮なくそうさせてもらおう。ほら、人の善意はありがたく受け取っておけというし、ありがたくお願いしよう。

 

 

「悪いな……え、えっと」

 

 

名前を呼ぼうと思ったが全く出てこない。そりゃそうだ。俺だけクラス表見てないし、プリントで配られたけど課題で目を通す暇もなかった。覚えたとしても顔と名前が一致するとも限らないし。御託を並べて自分を誤魔化していると、女子が「あ」と声を上げる。すると、胸元のリボンを直して笑顔を向ける。

 

 

「涼風青葉。よろしくね、ヒキタニくん!」

 

 

訂正する気も起きず、俺は「お、おう」と引きつった顔で言うと、両手に松葉杖を持って英語教室へと向かった。

もちろん、それが俺の新しい高校生活の二度目のトラウマとなったのは言うまでもなかった。

 

 

 

###

 

 

 

あれからしばらく、英語の移動教室の時は涼風に荷物を持ってもらって移動していたが、ゴールデンウィークが明ければ包帯も松葉杖も取れて何の不自由もなく日常生活を送れるようになっていた。

 

 

これであとは失われた体力の回復と体育のスポーツテストをすれば本当にいつも通りである。

 

 

そう思っている俺もいました。

 

 

 

「ヒキタニくん、ご飯食べよ!」

 

 

 

4限目の授業が終わって昼休みになり、足が自由になった俺はこの学校で安心して平穏に昼食をとれる場所を探しに行こうとしていたのだが、突然、涼風にランチのお誘いを受けた。答えはNO!と言いたいところなのだが、こいつには今まで荷物を持ってもらった恩義がある。それを裏切るほど人間までは腐っていない。目は腐ってるけど。

 

 

俺が席につくとそれを承諾の意図と取ってくれたのか涼風は他のクラスか食堂か知らないが席主のいない、俺の前の椅子を引っ張り出すとそこに座る。

 

 

「いやー今日いつも一緒に食べてる友達が休みでさ、1人で昼ごはんって寂しいから。ヒキタニくんがいて助かったよ」

 

 

別に聞いてもいないのに、説明してくれてありがとう。おかげで「こいつ、まさか俺のことが好きで一緒にご飯を……!?」とか思わなくて済んだ。ありがとう。でも、泣いていいかな?

 

 

「まぁ、そりゃよかった」

 

 

俺が適当に返すと涼風は笑顔でタコさんウインナーを口に運ぶ。どうでも良くない話、涼風は可愛い。おそらく、クラス女子の中でもトップFIVEに入る可愛さではある。だが、ジャンルが少し特殊でダントツで幼い可愛さなのだ。いわゆる、合法ロリというヤツである。たまに聞く男子の会話では、女子達について話している者達が幼すぎて涼風の話になると自分が犯罪を犯そうとしているのではないかという錯覚を起こすくらいである。

 

 

無論、本人はそんなこと気付いているはずもなく、俺の前で美味しそうに家族か自分で作ったお弁当を頬張っていた。もしかしたら、これはチャンスなのではないだろうか。高校デビューに失敗した俺への救済なのではないだろうか。ここで女の子と仲良くなることでラブコメイベント発生率を高めるという…。

 

 

そんなわけがない。そんな期待は身を滅ぼすだけだと中学時代に学んだばかりじゃないか。もし、涼風に告白してそれがクラス連中に知られれば俺はもう家から一歩も出れなくなってしまう。

 

 

 

「そういえばさ、ヒキタニくんはいつもご飯どうしてるの?」

 

 

軽くトラウマスイッチを押しにかかっていたところで涼風が止めるように俺に尋ねてきた。

 

 

「いちいち動くのも面倒だからここで食ってた」

 

 

「あ、そうなんだ。じゃあ、一緒に食べる人とかは?」

 

 

「いない」

 

 

「……ごめん」

 

 

 

謝るなら聞かないでくれませんかね。でも、別に1人で食べる方が気が楽でいい。誰かと一緒に食べてると先に食い終わったりしてると何したらいいかわかんねぇし。逆に待ってもらうのも嫌だしな。そういうことからやっぱり孤独のグルメって最高ですよね。

 

 

「あ、じゃあさ!これから私と今日休んでる友達と食べない?ほら、いっぱいいた方が楽しいし」

 

 

確かに涼風は楽しいかもしれないが、その今日休んでる友達というのは困惑しないだろうか。1日ぶりに学校に来たら知らない人と一緒にご飯を食べることになってるとか、なんなんだそれ。俺がその友達ならもちろん嫌だね。しかも、異性なら尚更だ。それでイチャイチャされたら椅子を投げつける自信があるくらいにな。

 

 

「いや、それは遠慮しとくわ」

 

 

「え?なんで?」

 

 

「あー、まぁ、ほら、その友達は涼風と2人で食べたいかもしれないだろ?なのに知らないやつが来ても困るしいい気分はしないだろ?」

 

 

俺が言うと涼風は首を傾げて「…うーん、ねねっちってそういうの気にするかなぁ…?」とブツブツ何か言っていた。

 

 

「それに俺は1人で食べる方が楽だしな。だから、気持ちだけ受け取っとく」

 

 

「あ、そうなんだ。……じゃあ、私と食べるのも迷惑だった…?」

 

 

うぐっ、その申し訳なさそうな顔を向けられるとなんか何にも悪いことしてないのに罪悪感やらが芽生えてしまう。これが合法ロリの実力か……。

 

 

 

「いや、そんなことない。何回も荷物持ってもらったしな」

 

 

「そっかあ…よかった」

 

 

涼風が安堵したように肩を撫で下ろすと、携帯を取り出してそれを机に置く。

 

 

 

「あのさ、LINE交換しよ!」

 

 

LINE……?ナンデスカソレハ?あれか?線のことか?線を交換するって何?俺が持ってる線って前立腺しか知らないんだけど?大量にハテナを浮かべているとそれが顔に出ていたのか涼風が「えっ」という顔をする。

 

 

 

「もしかして、知らない?」

 

 

Yes, I am!と言わんばかりに頷くと涼風が1からレクチャーしてくれた。どうやら、簡単なメッセージ送信アプリのことらしく、文字による意思伝達の他、スタンプという表情や文字を簡単に伝える機能やタイムラインと呼ばれる今日の出来事を友達に開示するということもできるらしい。

 

 

「なるほど、だいたいわかった」

 

 

俺はそう言うと携帯を取り出して開くと涼風に渡したが、渡された方はかなり戸惑っていた。

 

 

「あ、やり方とか色々わかんねぇからやってもらえると助かるんだが」

 

 

 

「あ、了解!」

 

 

そう言うと目にも留まらぬ速さで作業を済ませる。あれだな、あれくらいタイピング早ければ箱の中の魔術師とかになれるんだろうな。とか思っているとアプリのダウンロードが済んだらしい。電話番号と名前とIDの入力は俺がやらなければいけないらしく、それだけ済ませて携帯を返すと残りの設定を終わらせて再び俺の手元に携帯が戻ってくる。

 

 

 

「これで友達登録も完了だよ」

 

 

「おう、サンキュな」

 

 

お礼の言葉を述べると昼休み終了のチャイムが鳴る。手元に目を落とすと携帯の画面には友達(1人)、【青葉♣️】と表示されていた。

 

 

「またLINEするね、ヒキタニくん」

 

 

もし、こいつと、涼風青葉と友達になるのなら。ここではっきりさせておかねばならないことがある。

 

 

 

「なぁ、涼風」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

この純粋な子にこの真実は伝えづらい。でも、言っておかねば。もしかしたらこれから通る道なのかもしれない。だけど、早めに教えておかないと。後悔するのはお互い様なのだから。

 

 

「俺の名前……」

 

 

 

「……うん」

 

 

 

「ヒキタニじゃなくて比企谷(ひきがや)なんだ」

 

 

頬を掻きながら少し目を逸らしながら言って、チラリと顔を見れば辱めを受けたかのようにその顔はりんごのように真っ赤に染まっていた。

 

 

 

真実がいつも残酷だというのなら、嘘は優しいのだろう。俺は心からそう思った。半月ほどの付き合いだったが俺は涼風に何度も間違った苗字で呼ばれた。しかし、始めに訂正しなかったからそれは変わらず。どうせ足が治れば終わる関係だと思っていた。だが、友達になった。ならば、本当の苗字の呼び方を伝えるのは当然だろう。

 

 

 

その後とその日の夜、俺がひたすら謝られたのはどうでもいい話だ。

 

 




青葉は八幡に「俺の名前……」と言われた時、「呼んでくれないか?」と言われると思ったがまさかの苗字間違いというダブルアタックを受けて悶絶したいくらいに恥ずかしくなってました。


【ホントのあとがき】

ほんとはひふみ先輩と同学年で同じ学校だったら……というのを書くつもりだったんだ。嘘じゃあないんだ……。

まぁ、NEW GAME!のメインキャラだし!本編では八幡と同い年だし!いいよね!
一応、5話構成です。どちらを先にやるかは特に決めてませんが書けたら出します。(今のところストック0)



なので適当にポチポチ書いて出します。
もしかしたらダンまちのやつにシフトチェンジしちゃうかもしれませんが番外編は完結させます。多分、そのうち、気が向いたら……

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