B級の比企谷くん【ワートリ×俺ガイル】 作:あなたのハートにイオナズン!
「テニス部?」
「うん、比企谷くんが良ければ、入部してくれないかなぁ、って……」
「あー、すまんな。俺バイトやってるから、学校でそういう活動する気はないんだ」
ガハマさんに真顔でキモイ認定されたその翌日、女子に冗談抜きで蔑まれる心の痛みを女子は知らな過ぎてとバンドロッカーが涙目で歌う味わいたくも無い心情をしっかりと味わった俺は、その鬱憤を晴らそうと今日も壁を撃つ仕事が始まるわといそいそとラケットを先日の倍ほど確保して独り相撲に勤しもうとしていた。
その予定だったのだが、気づけばトツカさんと談笑していた俺。
壁さんに何の恨みがあるんだ、とニヤニヤする動画のコメント欄の如き電波な脳内一言に触発されたわけではないが、壁さんの寿命が延びる代わりに、俺の先行きは彼女の御膝下であるらしい。
振り返りほっぺぷにというリア充がするようなささやかないたずらで呼び止められてからはもう彼女の独壇場、誘われるがままにいつもの相方の子がいないと手を伸ばしてきたトツカさんはいたずらな天使のようでもあった。
さすが美少女、そつがない。……この欲しがりさんめ!
それはさておき、あははうふふと普段の殺伐とした世界観を払拭するトツカさんとのラリーは実に楽しかった。
心なしか体育の厚木先生もほんわかとした顔つきで口調も穏やか、何かいいことでもあったのかしら。
そして休憩に入り、誘われた結果が前述した会話である。
ボーダー自体に忌避意識を持っている人物は何故かこの三門市では異常に少ないのだが、相手が怪物的な脅威であり被害が思った以上に膨大であったとしても俺たちは『戦争をする組織』でしかない。
そういうところに所属している以上、意識操作か印象操作が現在行われていたとしても、『その先』を見据える必要性は持っていて不要なモノでもないはずだ。
結果として、俺個人がボーダーに所属しているという事実は、学校ではほんの一部を除いて大っぴらにするような事情には繋がらないと判断している。
……まあ、見てくれがこんな俺が市民を守る一角を担っている、と思われることは『他人を見てくれで評価する人々』にとってはどうしたって不快に繋がるであろうから、『個人的な事情』という理屈を押し出して3秒くらいで考えた以上の理由で秘匿権利をもぎ取ったわけだけど。
そんなわけで俺はバイト内容を明かさないのだが、それとはまた別の理由でトツカさんはしゅんとしている。
しかし何故女子テニスに俺を入れようと。
マネージャー役にはどうしたって役不足なのでは。
「ひょっとしてテニス部って男女混合なのか?」
「なんでそんなことになったの……?」
純粋に疑問に思っている眼差しを向けられる。
ぐぅわぁー、浄化されるぅー!
こんな目を向ける女子初めて! なんたって俺ボーダーでは油虫だからね!
「いや、トツカが俺に入部してくれって言ってるのって、テニス部だろ? だったら女子のトツカが男子の俺に言ってるのだからそういうことに……」
「……ぼく、男子だよぉ……」
――…………………………は?
☆ ★ ☆
「緊急事態だ綾辻! ちょっと生徒名簿見せてくれ!」
「へ、ちょ、はち、比企谷くん!? いつもは話しかけても来ないのになんでいきなり生徒会室に……!?」
「たのむ! お前だけが頼りだ! ボーダーで彼女にしたいランキングナンバーワンのお前なら、きっとこの問題に対処してくれる……!」
「な、そ、こ、こまるよ、こんな、誰もいないからいいけど、いきなりそんな……」
☆ ★ ☆
……戸塚の衝撃的なカミングアウトから一転、証拠を探しに見知った気配を感じた生徒会室にまで突貫噛まし、部活名簿と生徒名簿の簡略した一覧を確認し、間違いなく戸塚は男子として総武高に通っていることが判明した。
生徒会側からしたら簡略とはいえ生徒の個人情報の流出なので、尊い犠牲となってくれたボーダー所属でもある生徒会副会長綾辻何某には今度何か奢る約束をして別れることに。
そのとき彼女もまた何か云っていた気がするが、落胆した俺には内容があまり入ってこなかった。
お礼はマッカンでいいかしら……。
いや、まだ男装した美少女の可能性が……! と逢坂学園感を醸しつつ、昼休みなためにベストプレイスへと舞い戻る花盛りの俺。
ダメだー、うちの保健養護って男じゃねー……! 漫画と現実の境が見えていない、危険な兆候であると自己判断し、それでも諦めきれない感情の赴くままに俺はラケットを手にしていた。
「……まあ、テニス部へ入部までは無理だけど、練習に付き合うくらいなら出来る。戸塚さえ良ければ、相手しても良いけど」
「ほんと!? ありがとう! 体育の後いきなり何処か行っちゃったから心配してたんだー」
と、ややぶっきらぼうな口調に上から目線で云っちまった俺に、尚も変わらぬ笑顔を向ける大天使トツカエル。
守らなきゃ、この笑顔(確信。
☆ ★ ☆
さてそんな騒動から二日ほど経ったある日のこと。
湿気交じりであった空模様も久方ぶりにからりと晴れ、この調子なら今まで濡れて半面でしか練習も利かなかったテニスコートも問題なく全面扱えるのでは、と放課後に対戦する約束を充てて許可をもらいに職員室へ。
何故か上機嫌の厚木先生から快く使用許可を頂けて、やや困惑しつつもこれで本格的なテニスができるぞいっ、とコートへ先に行って居るはずの戸塚を追いかける俺がいた。
「あ、はちまーん!」
うん、名前呼びになりました。
もう結婚しちゃってもいいんじゃないかな(錯乱。
「おう、許可もらってきたぞ」
テニスコートで手を振る彼女もとい彼に、なるべくポーカーフェイスを維持したままニヒルに応える俺。
目さえ腐っていなければイケメンなのにね! ……こうして自傷しないと本気で惚れそうになるやろ(言い訳。
「うん、じゃあとりあえずワンセットマッチから――「あー、テニスしてんじゃんテニス! ……ひっ!?」
おう誰だ、俺の戸塚の科白を遮った野暮な野郎は。
思わずメンチを切ると、知らずに漏れた殺気に充てられたのか息を呑む金髪ロールが其処に居た。
「あれ、ヒキガヤくんじゃん。なに、テニスしてんの?」
そんな殺気を感じ取れなかったのか、最近体育の時間に何故かよく話すトベなんとかが金髪ロールの後ろから顔を出す。
というか、ぞろぞろといつものグループが連れ立ってやってきていた。
その中にはジョイフル本田改めお団子ピンクの姿は無い。なに、アイツはぶられてるの?
「おう、戸塚の練習を見てんだよ。俺の方が素人なんだけどな」
「っべー! 相変わらずヒキガヤくんパネェわー! じゃあ邪魔しちゃわりぃだろうし、いこーぜみんな!」
おう邪魔すんな。
意外にも話の分かるトベなんとかは、先立ってこちらを指さしていた金髪ロールを連れてコートより出ていこうとする。
というか、いつのまに入って来てるんだよ。
「……つーか、素人が練習見るってなにそれ」
ぼそ、と呟かれたのは金髪ロールの小声。
ん? 帰る空気になっていたと思ったのだけど……。
「……。おし。ねえ戸塚ー、なんならあーしが練習みてやろっかー?」
と、何故か金髪ロールは制服の袖を捲りつつ、こちらへと再度近寄ってくる。
おいおいヤメロよ、そんな恰好でテニスしたら見えちゃうだろ(止めない。
「あーしこう見えて中学の頃はけっこーテニスやってたからねー、たぶんそっちの腐り目より教えるの上手いよ?」
と、こちらを意味ありげに見やる金髪ロール。
どうしてか金髪ロールは、先ほどから俺に対して微妙な対抗意識を抱いているような気がする。
これまでのわずかな言動からの推測でしかないが、それは嫉妬というよりは何処か負けてられるか、という感じに近い意思表示にも思われる。
……さっき睨まれたことに思わず気圧されたのが許諾できないとか? ほんと推測だけど、彼女とは以前にも絡んだのでそこそこの確執が下火にある。
その辺りの意識は俺は特に持ってないが、ひょっとしたら彼女なりに意趣返しをしたくて絡んできているのでは、と想像して、
「へー、そうなのか。じゃあ手伝ってもらおうぜ。よかったな戸塚!」
「え、う、うん」
使える者は誰でも使う。
快く彼女の申し出を受諾して、戸塚は今まで付き合ってくれた俺に思う処がありそうだが今は頷いてもらう。
そうすると、肩透かしを食らった金髪ロールはきょとんとした顔をしていた。
おそらくだが、自分で云った手前覆すことは無いだろう。
そのことにしばらくしてから気づいたのか、ややジト目でこちらを見る彼女。なんすか?
「~~っ……なんでそんな簡単に……っ、あーもう! ちょっと腐り目! ジャージ貸して!」
「あ? 自分の持って来いよ」
「練習見てやんだからそんぐらい良いでしょ。制服でテニスできるわけないじゃん馬鹿なの?」
それは放課後なので制服テニスをしようとしていた俺に対する当てつけかね?
何か知らんが絶好調である。
何処かしら吹っ切れたような態度で、金髪ロールは今から教室に戻るのも億劫だと思ったのか、こちらへと要求を指定する。
少なくとも何かしらの対価回収をしようと計算を働かせた結果の行動かも知れない。
「それはともかく誰が腐り目だふぉらぁ」
「あんた以外に誰がいんのよ」
あ、そーっすね……。
ぐうの音も出せず意気消沈する俺がいた。
・大天使トツカエル
尊い
・原作でも誰も気にしないボーダーの記憶操作という不穏な設定
この八幡は知らない模様。たぶん組織に漬かってない所為ですね
・綾辻さんは生徒会
はいはい、テンプレテンプレ
・厚木先生の株を挙げて往くスタイル
厚木先生はいい先生。はい復唱
・奉仕部またもや出番なし
多分今頃はクッキーでも作ってるんじゃないかしら
・あーしさん
ちょっと負けず嫌いなところが描けてたのなら尚好